09/10/06 22:43:27 VCNiQiyW
雨が降る音は種類が多すぎて擬音にしづらい、と私は思う。
言葉のボキャブラリーが少ないだけかもしれないけれど。
そうだな……。 今降っているこの雨を擬音にするならば……どうだろうか。
サアサア……いや、違うな。 シャ……いや、これは止めた。 なんだか別の音になりそうな気がする。
考えてみれば、自分にとってこの作業は難しい。
とまあ、雨の降る平日、昼休みの途中に、誰と話すわけでもなく一人でボーっとしている。
さっき配られた本日の課題へ取り組む意欲も湧かないし、その他に何かをする気も起きない。
他の人たちはそれぞれグループを作って楽しそうに話をしている。
この学校では男子が多く、女子が少ないこともあって、女子はほとんど全クラスの仲が好い。
中には生真面目な人や、奇人変人の類に入る人もいるけれど、そんな人もこの学校の女子の間では愛されるべきキャラクターである。
そしてもちろん私もその仲間に入れてもらっている。
しかし雨というのは休日に降ってほしいものだ。
濡れて学校へ来るよりも、部屋でごろごろしながら雨の音に耳を傾ける方が趣深い。
ああ平和だなって思えるのが何よりもありがたい。
今でも十分忙しいのだが、これから近い将来にはもっと忙しくなることは間違いないだろう。
だからたまにはこんな時間を作らないと、煮詰まってしまって精神的によろしくない。
もっとも、中学生の、特に三年生あたりの頃のような楽しい忙しさなら大歓迎なのだが。
高校生になってそんな事があるわけでもなく─それは何となく察しがついていたが─ただ忙しいだけの毎日が過ぎている。
言ってしまえば、退屈極まりない日々だ。
なぜだろう。 理由が分かればおのずと答えに辿りつける気がしたのだが、その理由というのは自分には受け入れがたいというか、負けた気がしてならないものだった。
なぜなら、それは以前に、私自身が自信満々に否定したものだったからだ。
まだ言葉に出したくはない。 私は結構危ない所に立っていて、今にも落ちてしまいそうなほどにその心は揺らいでいる。
「佐々木ちゃんどうしたの?」
なにやら心配そうな声がした。
「え? ああ、なんでもないよ」
思考の海からわが身を引き上げて前を見ると、二人の女の子が私の顔を覗き込んでいた。
「ホント? なーんか難しそうな顔してたからさ」
「そうだよ。 向こうの男子なんか『あんな顔をする佐々木さんもいいなあ……』って言ってたよ」
思わず赤面。 皆にそんな顔を見られていたなんて。
「……大丈夫。 ちょっと考え事してただけなの」
「考え事…? ねえねえどんな考え事?」
気づくと教室に静寂が満ちている。 私の発言に皆が耳を傾けているのだろうか。
とりあえず聞かれたことには答えないといけないだろう。
「雨、についてちょっと……」
教室が凍りついた。 しまった……頭がかわいそうな人だと思われてしまっただろうか。
と思った次の瞬間、
「……かっ、かわっ」
「かわいーっ! その顔で『雨について……』とか反則だよ佐々木ちゃん!」
目の前の二人が可愛いと言い出した。
「なんで……?」
少々呆れ気味で尋ねる。
「まあ、佐々木ちゃんの実力ってもんじゃない?」
ますます意味が分からない。 しかし、これ以上追及する気もしないのでお礼だけは言っておこう。
「う、うん……。 ありがとう」
ぐはっ、とでも言うように目の前の二人のうち一人がもう一方へ体を傾け、そして悶えている。
「大丈夫……?」
とりあえず聞いてあげるとしよう。
「それ以上はダメだよ佐々木ちゃん! この娘が失神しちゃう」
彼女らはおそらくこの学園─「学校」の方が正しいかな─で一番テンションが高い子たちだから、こんなことは日常茶飯事である。
とどめを刺してあげようかと口を開こうとした時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。