09/09/24 01:10:57 nf6VVBaT
あれはシルバーウィークとやらいう連休のド真ん中のことだった。
大型連休に浮かれたハルヒの奴が連日SOS団の皆を連れまわし、
ヘトヘトになって帰宅する途中で久しぶりに佐々木と出会ったのだ。
帰り道を疲れた足取りでたどりながら、それぞれの近況や、SOS団の愚痴など、
他愛もない会話を俺は佐々木と交わしていた。
「黄金週間がゴールデンウィークなら、白銀週間はシルバリィウィークになるかと思うのだけれど、
シルバーウィークで本決まりのようだね。
日本人は形容詞と名詞の区別をあまりしないというのも、思えばおかしな話だね、キョン」
そう言ってくっくっと笑う佐々木に、ふと何の気なく、
「そういや今日って何の祝日だっけ?」とたずねてみた。
佐々木は俺の顔のあたりに目をやって、小首を傾げてみせる。
それが普通の人で言えば、「ん?」と相槌をうつようなしぐさだということは、
中学時代から知っている。
「やれやれ、キョン。君は今日が何の日かもわからずに、でも祝日だけは満喫したというわけだね。
典型的な大衆の行動様式、と言われて反論できるかい?」
そんな風に切り返してみて、けれどすぐに視線をやわらかくして微笑む。
「なんてね。今日は敬老の日だよ。
以前は9月15日が敬老の日だったけれど、「ハッピーマンデー」なる珍妙な仕組みのおかげで、
9月の第3月曜日に移ったのだよ。
つまりキョン、君はこの連休中にでも、御祖父母に電話のひとつもかけるべきだということさ」
ああ、それで今日が何の日か、やけに印象が薄いんだな。
そう納得して頷く俺に、佐々木は弾んだ声で続けた。
「ついでに言えば、9月21日というのは、SF小説の祖H・G・ウェルズや、
ホラー小説の大家S・キングの誕生日でもあるね。
後は有名どころといえば、「惑星」で有名な作曲家のホルストや、
少々古いけれど、宗教改革で名を後世に残した、ジロラモ・サヴォナローラの誕生日も今日だったかな。
忌日で言えば、宮沢賢治の亡くなった日ということが一番有名じゃないかな?」
佐々木は頭の中を整理するように、人差し指をしなやかに振りながら、諳んじるように語る。
いや、佐々木、そこまで聞きたかったわけでもないんだが。
しかし何故そんなことまで知っているんだお前さんは。
「こんなもの、グーグルトップページなり、wikipediaなりをざっと眺めれば3分でわかることだよ?」
いやいや。普通そこまで調べないから。
俺が顔の前で手を振ると、内心の呟きまでも聞き取ったかのように、佐々木はくっくっと笑う。
その笑みの途中で、佐々木は何かを思い出したように笑みを止め、瞳をきらめかせた。
まーた何か思い出したらしい。
「そう言えばキョン、君は確か、
『サンタクロースなんて、ものごころついた頃から信じていなかった』と言っていたね?」
あれ、そんなこと佐々木に言ったっけ?
「うん。中学時代に何度かご高説を拝聴した記憶があるよ」
よく覚えてるもんだな、そんなつまらん話。
「君との会話で、つまらないものはなかったよ、キョン」
すごいな。俺なんかお前に教わった雑談、半分くらいは忘れてる気がするよ。
やっぱり頭の出来が違うんだろうな。
そう言うと、なぜか佐々木はやけに不機嫌そうに眉をしかめた。不肖の聞き手ですまんな。
「それで、話の続きだけどね。
1897年のニューヨーク・サンという新聞に『サンタクロースは実在するのか』という社説が
掲載された日としても、9月21日は有名なんだよ」
うわ、うさんくせえ。電波系の新聞かソレ。
「まあ、タブロイド誌らしいけど、そこまで言わなくてもいいだろうに」
佐々木はちょっと眉をしかめて俺を軽くにらみながら、それでも大して気にした様子もなく続ける。
「当時8歳のヴァージニアという女の子が、友人に『サンタクロースなんていない』と言われて、
サン新聞にサンタクロースはいないのか? という投書をしたんだ」
小学校2年か。えらい素直というか、まあウチの妹もそれぐらいの頃だったらやりそうな気はするが。
「それに応える形で、論説委員のフランシス・チャーチが掲載したのが、
『サンタクロースは実在するのか』という記事なんだよ。
僕はね、キョン。アメリカという国の善なるものが全て、この記事に詰まっているようで、たいそう好んでいるんだよ」
今日一番の大きな笑みを浮かべると、佐々木はその記事をかいつまんで話してくれた。