07/10/15 18:59:30 WIvagAEO
「とりあえず私も夕菜も魔法があるから、いざとなったら武器が無くても何とかなるけどね」
元気にそういうミルクの言葉にオーフェンは思わずうめく。
「君も魔術師だったのか……?」
ふと、それで何かを思い出したのか、カリーニンが口を開いた。
「そういえば支給品といえばこれなのだが」
そういいながらカリーニンはザックに手を入れ、素早く取り出した。
(……あ?)
刹那―オーフェンが何かを思うよりも早く彼の体は全力で後方に跳んでいた。
近くに居たミルクを脇に抱えながらの跳躍だったが、それでもぎりぎりで間に合った。
火薬の爆ぜる音と共に数瞬前に頭があった空間を何かが掠めていく。
「―っ!!」
絶叫が上がる―視界の端の夕菜の頭が赤く、染まった。
(……染まる? なんでだ?)
その色を見ながらオーフェンは時間が引き伸ばされたような感覚を覚えた。
凝縮された時間の中でゆっくりと、本当にゆっくりと夕菜の体が地面に向かって倒れていく。
それをただ見ているしかなかった。
ほんの数秒が永遠にも等しいほどの長さを感じながら
オーフェンはただ地面に広がる赤を、紛れもない流れる血を見ていた。
視線を正面に向けるとカリーニンが僅かに眉をひそめながらザックから出した黒い何かをこちらに向けるのが見える。
その瞬間になってようやく思考が体に追いついた。
すべてを理解した瞬間、永遠とも感じた刹那の思考からオーフェンは抜け出した。
「……てめえ!」
着地と同時に単純で、だがそれだけに強大な威力の魔術を放とうとして、やめる。
直感の導きに従いミルクを右に突き飛ばし自分は僅か数歩分だけ左に跳躍する。
瞬間、カリーニンが構える黒い何かから数発の弾丸がオーフェンに放たれた。
そう、弾丸。連射速度も大きさもオーフェンの知ってるそれとは違うが
カリーニンが構えているあれは恐らく銃なのだろう。
先ほどの抜き打ちとは違い狙いをつけられている上、通常の拳銃などとは
比較にならないほどの連射速度を持つ銃による銃弾の雨を完全に避けきることは出来ず、
オーフェンの腕に肩にと銃弾が食い込む。
「ぐっ!」
激痛が走るが今はそんな事はどうでもいい。
転がるように木の陰に潜り込むが、何故か腕の震えが止まらなかった。
視界の端に血の海に沈んだ夕菜の姿が映る。
もはやピクリとも動かない。
オーフェンは強く、血が滲むほど強く拳を握ると腕を木に打ち付ける。
ガンッ!
皮膚が破れ腕から血が流れる。しかしそれで震えは収まった。オーフェンは唾を吐き、言った。
「つまりだ。てめえはゲームに乗ってるって事か」
「……」
答えは鋭い殺気だけだった。
しかもその殺気はオーフェンではなく尻餅をついているミルクに向けられていた。
「い、嫌! こんなところで殺されるわけにはいかな……」
倒れる夕菜をぼけっと見ていたミルクだが直接の殺気を浴びて正気付いたのか
反射的に叫ぶと、空中に魔力を展開するが……僅かに間に合いそうに無い。
(くそっ、間に合え!)
オーフェンは内心舌打ちするとすでに編み終わっていた構成を展開し、一息で呪文を叫ぶ。
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
ミルクを包むように発生した光の障壁が辛うじて銃弾の雨を弾く。
それを見ながらオーフェンはミルクに叫ぶ。
「逃げろ! とにかくここから離れるんだ!」
「え、だ、駄目だよ! し、死ぬのは嫌だけど仲間を見捨てるのはもっと嫌!」
一瞬オーフェンは言葉に詰まる。
見捨てるも何も、頭を撃ち抜かれて生きている筈がない―とは言えなかった。
そしてふと銃撃が止まった事に気付く。
カリーニンは夕菜の近くで何かごそごそとしていた。
(なんだ?)