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【投稿サイト】小説家になろう【ネット・携帯OK】 - 暇つぶし2ch400:この名無しがすごい!
07/09/06 00:23:01 3Itp7TqE
9が来ないね…
鴉と案山子の話、結構良かったから期待してるんだが…

401:この名無しがすごい!
07/09/06 00:47:18 45v48wKb
こないわね。
9さまだけじゃなしに。
みんなこのスレの存在を忘れてたりして。

402:この名無しがすごい!
07/09/06 00:56:03 dFwXLSyD
フェイトを書こうと思うのだが、良案が思いつかん

403:この名無しがすごい!
07/09/06 01:14:51 45v48wKb
頑張って!

404:( ーДー)<今日は疲れました……
07/09/06 16:57:18 V3n0+gws
>>399
ありがと。感情とか落ち着いてないって、読んでみて思った。建前と本音の区別は、もっとはっきりさせた方がよかったね。よく分からない話になっちゃった感じがする。

>>402
頑張れ。それっぽくなれば大丈夫さ!

405:( ゚Д゚)<平日お題は金曜日、二十四時までです。
07/09/07 02:25:08 8RsGey8a
今日、主人が飼っていた犬が飼い犬が死にました。
日々衰弱していった身体。弱々しい鳴き声。
最後は主人の腕の中で死んでいきました。

犬が死んだのは、夜が深くなった、寒い寒い秋の一夜のことでした。
死ぬ前日、犬はなぜか昔のように元気になりました。室内を無邪気に走り回り、毎日飽きもせずにくわえて遊んでいた綱を主人の下ヘと運んでいくのです。
尻尾を振って見上げる瞳。主人は、その眼にいっぱいの涙を溜めながら、笑いながら犬と遊びました。
たった数分の過去へのタイムトリップ。遊び疲れたのか、主人に寄り添い小さく丸まった犬の表情は、とても幸せそうでした。
犬の身体を撫で続ける主人の姿は、まるで一枚の絵画のようでした。

そんな犬が俄かに死の淵に面し始めたのは昨晩の九時ごろでした。
急に荒くなった呼吸。痙攣する手足。主人は興奮しながら私に何かを命じました。
しかし、呂律の回らない主人の悲痛な叫びは、命令として理解することは出来ませんでした。
死に際の犬に必死に抱きつく主人。どんなに声をかけてももう届くことは難しいだろうに……。
三時。犬はとても頑張りました。でも、やはり駄目でした。
力なく横になった犬と、傍らに寄り添う主人。じっと犬を見つめていました。私はただ遠巻きに、ふたりを見ていることしか出来ませんでした。
そして、その時が来たのです。
犬が激しく痙攣し始めました。
主人は身体を懸命に摩りながら語りかけていました。
「頑張れ。頑張れ。死ぬんじゃないぞ」
空っぽの笑顔で囁いていました。
私は思わずふたりに背を向けていました。きつく目を閉じました。暗闇の中に、不規則なあえぎと主人の声だけが飛込んできました。
それがしばらく続いて、背後で一度大きな鳴き声がしました。力強く、凛々しく、逞しく、犬が吠えたのです。
暗闇の中が静かになりました。
私は目を開けて、ゆっくり振り返りました。だらしなく舌を床に投げ出した犬に主人が抱きついていました。
ありがとう。
もう二度と自らを見つめることのないガラスのような瞳に向かって、主人は呟いていました。
何度も何度も繰り返し呟いていました。

一度だけ元気になったあの姿が、一度だけ吠えた最後の声が、主人が繰り返した「ありがとう」という涙の言葉が、私の中で渦を巻いて荒れ狂っています。
主人は犬を火葬しました。そしてあの海に、初めて出会ったあの海に還してあげました。
無言で立ち去る主人の背中。私はひとり海を眺めています。
身体の一部が抜けて、ぽっかり穴が空いてしまったような、満たされない、何かが足りない気分でした。
今はそれがとても愛おしいのです。
運命と名付けられた私の電子脳。
私に“こころ”はあるのでしょうか。
運命は変わっていくのでしょうか。
早朝の海風はどこか冷たく―。

406:この名無しがすごい!
07/09/08 00:03:52 aDdTZVly
( ゚Д゚)<台風、大丈夫でしたか?週末お題

【ダンシングチェーンソー】
【台風一家】

( ゚Д゚)<自然災害には十分気をつけて

407:この名無しがすごい!
07/09/08 05:34:39 YXdnYvNF
ダンシングチェーンソーを書きかけたんだけど、挫折。
あたしにコメディは無理だわ。書いててつまんない。

408:( ゚Д゚)<イヤー、出しといてあれだけど、書きにくいね
07/09/08 19:05:26 aDdTZVly
>>407
ダンシングチェーンソーでコメディでありますか……
自分思いついたのは猟奇系の長くなりそうなのやつだ。長くなったら投稿したらいいんだども、書くのがね。短くするには違うネタを仕込まねば。

しかしみんなあんまり書かないよなぁ。前はあんな風に書いたけど、寂しいもんです。

409:ダディ
07/09/08 19:45:06 bmyzQVO0
ダンシングチェンソー、今夜にあげるですよノシ
しばしお待ちを

410:( ゚Д゚)<台風一家①
07/09/08 22:37:57 aDdTZVly
ロビンソンとパパとママは、その日近所にあるスーパーへ買い物に出かけていました。
店内を満たす軽快な音楽と客の話声。カートをママの歩調に合わせるパパは、楽しそうに食品を選ぶママと、二人の周りではしゃぐロビンソンを優しく見つめています。
どこにでもいる、普通の家族のように見えました。
その時までは。
それは一通り食材を品定した後。ちょうど惣菜コーナーに差し掛かった時のことでした。
「ママ、僕唐揚げ食べたい」
ロビンソンがそう言って唐揚げを一つ摘み上げてしまったのです。
「ロォビンソォン!」
パパの鉄拳がロビンソンの顔面を強打しました。周りにいた客たちは突然のことに言葉を失います。直後に惣菜の海に沈んでいくロビンソン。ようやく悲鳴が沸き起こりました。
「ロビンソン、なんて汚いことをするんだ。素手で食べ物をさわっちゃいけないって、一日二十回は復唱させているだろうに」
パパの声は至って落ち着いていて、倒れたままのロビンソンに突き刺さります。
「パパ、ごめんよパパ」
ロビンソンは小さな声で返事をしました。
「ちょっとちょっと、お客さん。なにしてくれてるんですか。ああ、ああ、ああ。こんなにしちゃってぇ。ホント、どうしてくれるんですか」
従業員の知らせを受けてか、やって来た店長が青筋を立てて巻くし立てました。パパに詰め寄ります。パパは困ったように笑いながらひたすら謝っていました。
だからでしょうか、誰もがその声を聞き逃していました。震える声。怒りに包まれた声。小さな小さな、しかし破壊力抜群の爆弾が炸裂しようとしていたのです。
「あのですね、すいませんホント。ちょっとカッときてしまってですね。その、家では拳で伝える教育というものを―」
「そんなことを言ってるんじゃないんだよ。どうしてくれるのさ、この惣菜の山。全部残飯行きだよ」
「ああ、それは災難でしたね」
「災難でしたね、じゃないよ! あんた、あんただよ原因は。どう責任とってくれるんだね」
「いやぁ、責任ったって、私にも悪気があった訳ではありませんし……」
いや、それでもお前の責任だろ。周りの客たちは心からそう思いました。
「パパ……」
不意にママがパパの服の袖を引っ張りました。

411:( ゚Д゚)<台風一家②
07/09/08 22:38:57 aDdTZVly
「あ、ママ。ママからも何とか言っておくれよ。店長さん、話が全く通じないんだ」
振り返ったパパ。その顔面に大根が投げつけられました。まっぷたつにへし折れる大根。パパはそのまま倒れます。店長が驚いて声を荒げました。
「ちょっ、あなた、なんてこ―」
「うるさいのでございます!」
店長の顔面に、見た目はひ弱なママの強肩から放たれた超スピードの南瓜が命中しました。後に店長がこの時鼻を折ったことが判明します。
「パパ! あなたは何でいつもこうすぐに暴力に訴えるのですか」
倒れこんだパパに跨り、ママは襟を掴んで叫びます。
「これじゃあロビンソンは不良になっちゃうって何度も言ったでしょう」
お前が言うな。客たちは心の中でつっこみました。
「しかしだがね、ママ」
驚いたことにパパが返事をし始めました。気を失っていなかったのです。超人です。
「男には時に拳で語り合うことも必要なんだよ、マイハニー」
そういってパパは右手の親指を真っ直ぐ立てて、白い歯を眩し過ぎるくらいに輝かせました。
「そんな男の事情は……」
ママが左手で買い物籠をあさります。
「知りません!」
一尾九十八円の見事な秋刀魚がパパの顔の上で踊りました。
「あの子には、優しくて思いやりのある子に育ってほしいの」
ママの声が細くなります。
「んふ~、それには僕も賛成だよ。でもね、でも……聴いてくれるかい、マイスウィートエンジェル」
「いや。聴きたくない」
「耳を塞がないでおくれベイビー。涙は君には似合わないよ」
パパが優しくママの頬を撫でました。
「喧嘩はしないで!」
ここになってようやく登場。ロビンソンが大声で訴えました。客たちにはもうなにがなんだか。
「僕いやなんだ。僕のことでパパとママが喧嘩するの。お願いだよ。仲直りしてよ!」
「ロビンソン……」
ママが潤んだ瞳でロビンソンを見つめます。
「帰ろう、お家に。今日はシチューなんでしょ」
笑顔でロビンソンが手を差し出しました。
「ロォビンソォン!」
天を貫かんばかりのアッパーが、ロビンソンの顎を強襲しました。商品棚を軽々飛び越え、隣のレトルト商品コーナーに落下するロビンソン。壮大な音が響きます。
「あれほど食品は大切にしなさいと言ったのに……」
ゆらり立ち上がるパパはまるで鬼のようで。
「カキフライを踏むとはどんな根性しとるんじゃい!」
いや、それは不可抗力だろ。客たちはそろって右手の甲で隣の人の胸を叩きました。
パパが棚を迂回してロビンソンの下へ向かいます。
「パパ……」
一人残されたママ。地鳴りのような怒りの呟きをもらしました。

この後、客たちは全員避難。従業員も逃げ出しました。スーパーの中では嵐が吹き荒れていたという話です。

412:ダディ
07/09/08 22:46:16 FIhJEuhW
>>409
ええと…君はだれ?
自分は今、イラスト仕上げてるので、お題には参加してないんだけど…

トリつけたほうがいいのかなあ…

413:この名無しがすごい!
07/09/09 22:31:27 OHQTjvfJ
【ダンシングチェーンソー】

 今日はジェシカの家でホームパーティ。ジョンはとっておきのおめかしをして耕耘機に乗り込んだ。
「今日こそはキャサリンをゲットだぜ!」
 ハンドルを握る手に自然と力がこもる。ジョンの耕耘機はあぜ道を耕しながらジェシカの家に向かって出発した。
 どこまでも広がる大地を進む耕耘機からタイヤが一つ取れた頃、ジョンはジェシカの家に到着した。ジェシカの家の庭では、すでに大勢の人が鍬を片手に地面を穿り返している。もうすでにパーティは始まっていた。
 タイヤの取れた耕耘機で蛇行運転しながらジェシカの家の敷地を耕していたジョンの元に、パーティの主催者であるジェシカが走って近づいてきた。
「ハーイ、ジョン。今日は来てくれてありがぶぢゅび」
 ジェシカはジョンの耕耘機に巻き込まれてミンチになった。肥沃な大地にジェシカの血と肉が吸い込まれていく。パーティはいきなりクライマックスだ。
 テキーラを静脈注射したようなデタラメ走行の挙句、横倒しになった耕耘機から放り出されたジョンは、キャサリンの前に頭から着地した。
「ハイ、キャサリン。機嫌はどうだい?」
「ジョン、今日は最高よ!」
 キャサリンは倒れているジョンの頭に鍬を振り下ろしながら、恍惚とした表情で答えた。
 ミンチが追加されて盛り上がるパーティ。いよいよダンシングチェーンソーのコーナーだ。
「さあみんな! チェーンソーをたくさん準備してきたよ! レッツ、ダンシン!」
 ジェシカの関係者と思われる人物が、ダンプの荷台にチェーンソーを満載したままパーティ会場に突入してきた。ダンプは3人轢いて5人潰した後、転がっていたジョンの耕耘機にぶつかって横転、そのまま派手に炎上した。
 パーティの客たちは歓声を上げながら炎に包まれたダンプに群がり、チェーンソーを手にとった。そこかしこからチェーンソーのエンジンが目を覚ます音がする。
 炎に包まれたパーティの客が、魂の振動で唸りを上げるチェーンソーを振り上げた時、燃え盛る炎がガソリンタンクに引火してダンプ大爆発。チェーンソーと人間は部品と手足を撒き散らしながら宙に舞った。
「とっても……きれい」
 ダンプに胴体を潰されたキャサリンが、迫り来る炎を前に血の塊と共に声を吐き出す。
 血と肉を大地は飽く事無く取り込みつづけた。炎は全てを灰にして、さらに大地は肥沃になる。
 来年も豊作だ。

414:この名無しがすごい!
07/09/10 02:01:46 q2SbMzeV
>>413
ちょっ……なにこの滅茶苦茶な感じ。良い。良いよ。スプラッタなのにコミカルな内容に少し笑った。

415:この名無しがすごい!
07/09/10 03:35:36 OwT0BjCy
>>413
あたしもそういうふうに書けたらいいなぁ。
でもないものねだりをしても仕方ないから、いつもの感じで。
長いわよーw

416:この名無しがすごい!
07/09/10 03:36:46 OwT0BjCy
   「ダンシングチェーンソー」byジル
「親父ーっ! かあさーんっ! 孝太ーっ!」
 まだ傷跡の痛々しい山肌に、男の悲痛な叫びがこだました。

 その年、日本列島を直撃した大型台風は、各地に爪あとを残して去っていった。
 この寂れた山村も被害を受けた。崩れた山肌は土石流となって民家を遅い、川を埋め、道路を遮断した。
 最も奥まった場所に住むその一家も例外ではなかった。夫婦と息子が一人、林業を生業とする彼らが住んでいた家も。
 嵐が過ぎ去り、彼らを心配して駆けつけた村人たちが見たものは、土石流の下にわずかに覗く、家の残骸だけだった。

 それから一週間後、ようやく町とを結ぶ県道がつながり、復興の槌音が響き始める。
 しかし、今はじめて現実を突きつけられた男の耳に、そんな音は届いてはいない。
「陽一。泣いていても始まらん。しっかりしろ」
「お前になにがわかるっ!」
 陽一は肩に乗せられた幼馴染の手を振り払った。
 林業の傍ら、ログハウスビルダーとしても全国的に名を知られる陽一は、その日雑誌の企画のため村にいなかった。もし俺が残って入れば。
 しかし、激情に任せてにらみつけた幼馴染の目は、赤くはれていた。
「わかるさ。俺も家族を流されたからな」
 消防団の一員だった彼は、危険を承知で嵐の中を走り回り、そのおかげで、ただ一人難を逃れた。
 一番守らなければならなかった家族を守れなかった。すぐ近くにいたのに……
 その悔恨は、陽一のそれすら超えるだろう。
「賢治、何人死んだ?」
 一瞬の激情が過ぎ去り、陽一は幼馴染にぼそりと尋ねた。
「二十七人だ」
 賢治は、一人ひとりの名を上げてゆく。狭い山村だ。名を聞くだけで、日に焼け、額に汗を浮かべた彼らの笑顔を思い浮かべることができる。
「お堂も流されたのか?」
「ああ、羅漢様も一切合財な」
「そうか。なあ、チェーンソーを貸してくれないか」
 唐突な陽一の頼みに、賢治は聞き返す。
「なにをするつもりだ?」
「お堂の百羅漢は、この村の唯一の誇りだったからな。俺みたいな奴が彫ったものでも、ないよりましだろう」
 賢治は、陽一に会ったときに伝えようと思っていた決意を飲み込んだ。
 材木の集積場も流され、植林したばかりの苗木もみな流された。この村はもう終わりだ。家族もいない。だったら、村を捨てよう。
 しかし、ログハウスビルダーとして、村を捨てても生きてゆくことのできる陽一ですら、村のために何かをしようとしている。
「お前のチェーンソーアートは最高だからな。出来上がればみんな喜ぶさ」
 賢治は、復興の手の届いていない道をここまでつれてきてくれたジムニーの荷台からチェーンソーを取り出すと、燃料タンクと一緒に陽一の足元に置いた。
「ここでやるのか?」
「ああ」
「そうか。後で飯を持ってきてやるよ」
「いらない。二十七の羅漢像を彫り上げるまでは」
「そうか……」
 陽一の節くれだった腕がチェーンソーをつかむのを横目に、賢治はジムニーに乗り込んだ。
 復興までの道のりは、まだ遠い。


 その夜、月に照らされた山間の村に、一晩中チェーンソーのエンジン音が響き続けた。
 それはまるで、山々が泣いているかのようだった……

(つづく)

417:この名無しがすごい!
07/09/10 03:37:24 OwT0BjCy
 翌朝、わずかな、しかし泥のような眠りから目覚めた賢治は、その音が途絶えていることに気づいて、急いで陽一のもとへと向かった。
 あちこちを落石と土砂にふさがれ、はかのゆかぬ道のりに舌打ちをしながら、ジムニーを操る。
 そしてようやくその場所にたどり着いた賢治が見たものは、ずらりと並ぶ、高さ一メートルほどの羅漢像たちだった。
 車から降りた彼は、それらを一体一体見つめながら歩く。
 細谷さん……幸田のばあさん……川西んちのたあ坊……
 見覚えのある、だけど今は思い出の中にしか残っていない表情。仕草。
 お、おふくろ……宏子っ!
 賢治は、その二体の前に跪いた。老婆と女の像は、まるで嵐なんかなかったように、少しおどけた様子で笑っていた。
 そのとき彼の耳を、エンジン音がつんざいた。二つの像に両手を伸ばしたまま、賢治は振り返る。
 そこには、三本の丸太を前に疲れ果て、消耗しきった様子の陽一が、チェーンソーを抱えて立っていた。
 しかし、それでも重いチェーンソーが動き出す。回転する刃が丸太に当たって、木屑を飛ばす。
 飛び散った木屑は朝日に照らされて、きらきらと舞い落ちる。そして陽一はその中で、何の迷いもなく丸太を削り続けていた。
 少しずつ、丸い頭が、肩が、伸ばされた腕が現れてくる。
 三つの丸太から、同時に三体の羅漢像が姿を現し始める。
 踊っているようだ。
 舞い散る光の中、チェーンソーは歌いながら、上へ、下へ。そしてくるりと回って。
 賢治は両手に愛する家族を抱いたまま、時間を忘れてチェーンソーのダンスに見とれていた。そして―

 踊りつかれたチェーンソーが、歌をやめたとき。

 へたり込んだ陽一を、懐かしい家族の笑顔が取り囲んでいた。

(fin)

418:この名無しがすごい!
07/09/10 16:04:02 q2SbMzeV
>>416-417
前半の最後

 その夜、月に照らされた山間の村に、一晩中チェーンソーのエンジン音が響き続けた。
 それはまるで、山々が泣いているかのようだった……

が、かなり好き。とっても雰囲気出てる。ダンシングチェーンソーなんていうお題を、こんなにも綺麗な物語にするとは。
やるな。

419:俺女<天気の知識は皆無です
07/09/10 22:57:10 cAvWU0Ll
【台風一家】

「あらお久しぶりね、あなた」
「おお、マリアじゃないか。こんなところで出会うとはな」
「それがね、今はマリアじゃないのよ。ロンワンとかいう名前が付けられたわ」
「ほう、中国あたりにでも行ってたのかい」
「そうよ、えらく仰々しい名前が付けられたものだわ」
「はは、俺だって今はジョージではなくドリアンさ」
「また不味そうな名前を貰ったわね」
「そういうな愛する妻よ。そうだ、これから一緒に新しい国へ行かないかい?」
「たまには良いわね。その後新しい子でも作りたいけど、どんな子がいいかしらね」
「もう15人目の子になるな。そろそろ、地球半分を掃除できるような強い子がいいかな?どの辺で産み落とそうか」
「最近下でうるさそうな中東のどこかで落としましょう。そろそろ静かにしないとね」
「君は恐ろしい女性だ」
「あなたこそ」

そうして、台風2号と3号は巨大な一つの新たな台風となり中東へと向かった。
そして彼らは「イーウィニャ」(嵐の神)と名付けられることになる。

420:( ーДー)<不審者騒ぎで眠れません
07/09/11 02:16:18 ZwRa8rTy
>>419
会話がうまく効いてるね。描写をしないところに味がある感じ。神さまの見た世界ってこんなのかもって思った。

421:( ゚Д゚)<今年で六年目。
07/09/11 18:57:14 ZwRa8rTy
深夜、コアなバラエティ番組の画面が、青い空のアメリカを映し出した。もくもくと煙る貿易センタービル。まもなく追突した第二機。
感慨深く、そして終わらない戦争に痛みを覚える今日。雨が降ってます!

平日お題
【あの青空に祈りを】
【サングラッチェ】

422:この名無しがすごい!
07/09/11 18:58:31 ZwRa8rTy
あ、サングラッチェは造語なので、語感から想像を膨らませてみてください

423:この名無しがすごい!
07/09/11 23:06:00 iyjbwoAz
【サングラッチェ】

「サングラッチェ……だと?」
 放課後の部室で城南高校ミステリー研究会の会長である林賢二は、手元の写真を眉間に皺を寄せて眺めていた。
「どうしたんですか? 林君」
 城南高校超常現象研究会の会長である佐々木三郎が、眼鏡の位置を右手の中指で直しながら歩いてきた。
「サン……何?」
 城南高校地球は平たい協会の会長である田村奈津美が、「NASAは間違っている」と書かれたビラを片手に林の方へ近づいてくる。
 林は写真を机の上に置き、顔を上げて他の二人へ視線を向けた。
「あのさ、いい機会だから言うけど、部の名前ミステリー研究会でいいじゃないか」
「それだとMMRじゃないですか。ここは超常現象研究会のようなきちんとした名前にすべきです」
「地球の下でナチスの残党がUFOを使って暗躍してるのに何言ってるの」
 バカ三人の意見は本題とは関係ないところで割れてしまった。
「それで、サングラッチェとは何ですか?」
 不毛な議論になりそうな気配を察知した佐々木がすばやく話題を元に戻した。
「いやいや、MMRはこの分野のパイオニアだよ? それにちなんだ名前をつけるのは自然じゃないか」
 空気を全く読まない林がグダグダの泥沼へと議論を押し戻す。
「そうよ、月には空気があって動物も住んでるのよ」
 初手からターボ全開の田村はどこかに旅立ちっぱなしだ。
「いや、部の名前はどうでもいいですから、そのサングラッチェ……」
「MMRがどうでもいいってどういう事だ!」
「金星人を馬鹿にしないで!」
 全く意味がわからないまま二対一で佐々木が押されはじめた。妙な圧力に少し後ずさりしながら眼鏡の位置を指で直してしまう。負けられない佐々木はプレッシャーを押し返すように声を上げた。
「だからサングラッチェ!」
「なんだよそれは!」
「あんたの持ってた写真よ!」
 突然現実世界に帰還してきた田村に二人は驚いて声を失った。先ほどまで騒がしかった部室を静寂が包む。
 静かな部室の隅のほうで小さく、何か紙のような物が破れる音がする。林がその音に気付いて周りを見回した。
「何の音だ?」
 林の言葉に三人が部室のあちこちに視線をとばす。「それ」に最初に気づいたのは田村だった。
「あっ、あれ!」
 田村の指差す先を見ると、御札のような物があちこちに貼られたロッカーの扉が少しづつ開こうとしていた。
「あれは開かずのロッカー。一体、何が……」
 佐々木の言葉が終わると同時に、ロッカーの扉が開ききった。薄暗い部屋の隅に置かれたロッカーの奥から人影が姿をあらわした。暑苦しいマントにうざったい長髪、病的な青白い肌に不釣合いなピンクの唇。
 その顔を見た林が驚きの声を上げた。
「あなたは……少し不思議研究会初代会長!」
 初代会長と呼ばれた男は、にやりと笑って長い犬歯を見せつけた。
「ふっふふ、サングラッチェ……謎の暗号……私のパープルの脳細胞に血の滾りが戻ってきたようだ」
 その姿をじっと見ていた田村が口を開いた。
「パープリン?」
「ふっふふ、誰がパーやねん」
 マントを翻した初代会長は、三人に向き直って、机の上の写真を指差した。
「私がこの暗号を解いてやろう。まずサングラはサングラスの事だ。ッチェは舌打ちだな」
 林が頷いている。佐々木は顎に手を当てている。田村はこっそり初代会長の周りで円を描くように十字架を何個も床に描いている。
「つまりサングラスのサイズが合わないという可能性があるわけだ」
 初代会長の身体のあちこちからシュウシュウと音を立てて煙のようなものが昇り始めた。
「この可能性を追求していく事で……あちっ!」
 突然炒った豆のように窓に向かって跳ねた初代会長は、差し込む夕日を浴びて灰になった。
 しばらく固まったままだった三人は、ほうきとちりとりで灰を集めるとロッカーに入れて扉を閉じた。
「それじゃ僕は予備校があるので」
「私はビラを撒かないといけないから」
「ああ、お疲れ」
 林を残して二人は部室から去った。林は部室を片付けた後、鞄を持って出て行った。
 後に残されたのは写真と……謎の言葉【サングラッチェ】

424:前半
07/09/12 01:41:36 +BFSP7mF
あの青空に祈りを+サングラッチェ

「こんばんは、猫さん」
「よぉ、ポンコツ」
塀の上でのんびりと体を休めていた黒猫に話しかけたのは、一体のロボット。いつものように軽口を叩きながら、猫はいぶかしげに顔をしかめた。今はまだ朝のはずなんだが。
「猫さん、お別れを言いに来ました。私はこれから機能を停止します」
機械らしい感情のこもらない口調で告げられる事実に、猫はあっけにとられた。
「おいおい、そりゃ唐突だな」
「あなたにとってはそうかもしれませんが、15年と210日前の四月三日に私が造られたときから、私には自分の寿命がわかっていました。ですので、私にとっては別段唐突でもありません」
ふうん、と猫は鼻を鳴らした。やはりこいつはロボットなのだ。猫とは感覚が全然違う。
「ところで猫さん、サングラッチェとはどういう意味なのでしょうか。私にはいまだにそれがわかりません」
「そのくらい自分で調べな」
「ありとあらゆる言語を調べました。しかし、それでもまだわからないのです」
サングラッチェという言葉は、猫が適当に言った言葉だった。このとおり、ロボットはとても真面目だ。非常にからかい甲斐がある。猫は今までにも「この世界を真に統べるのは猫なのだ」等、生真面目なロボットに嘘を教え込んで楽しんでいた。
猫はにやにやとロボットが困っている様子を見ていると、ぽて、といきなりロボットが仰向けに道路に倒れこんだ。
「どうした、足腰がもう立たないのか」
「どうやらそのようです。段々神経回路が鈍くなってきました。信号が適切な速さで送られません。停止するのももうすぐでしょう」
倒れるというよりは寝転んでいるような姿勢のまま、ロボットはうーうーと唸りながら、サングラッチェの意味を考えている。
「……猫さん」
「なんだ鉄人形」
「私は、猫さんが羨ましかったです」
「ほう?」


425:後編 長くなってスマソ
07/09/12 01:56:59 +BFSP7mF
その日は曇一つない快晴だった。青一色に澄み渡る大空を、ロボットの感情のない視覚センサーが見つめている。
「私は猫になりたかった。こんな冷たい体とは違う、暖かい肉体。こんな固い体とは違う、柔らかい身のこなし……。ねえ猫さん、もし私がこの青空に祈りを捧げたら、神様は願いを聞き届けて下さるでしょうか?」
「さあな。神様なんてのはもう爺さんだ。とっくに耳だって遠くなってるだろうよ」
「ねえ猫さん、サン―ッチェという―意味―は」
ロボットの声は、それきりふつりと途絶える。かろうじてまだ人工頭脳は生きているようだったが、もう声を出すことが出来ないのだ。
「もう声が出せないのか?仕方がない。サングラッチェっていうのはな―」
猫はしぶしぶと口を開く。

「お前の名前だよ、鉄人」

まだ聴覚センサーが生きているかどうかはわからない。けれど猫はロボットに語りかけた。
「俺様が考えてやった名だ。世界で一番いい名前だぞ。向こうに行ったら神様にでも自慢してやれ」
ロボットの頭についているライトが点滅する。ちか、と微かに数秒間。
そうして。
その後ぴくりとも、ロボットが動くことはなかった。
「逝ったかサングラッチェ。……お前のこと、そんなに嫌いじゃなかったぜ」
塀から道路へ飛び降りた猫は、ぺろり、とロボットの顔を舐めた。金属のロボットは冷たくて、少ししょっぱい。まるで、涙のような味だ。
「じゃあな」
視覚センサーが内蔵された「目」の部分に灯っていた光は既にない。
けれど猫にはそのとき、無表情なロボットが笑っているように見えた。

426:東夷人
07/09/12 10:18:43 0E+Dvi7n
>>349
筆者としては「ディシプリンもの」として読んでほしい。

427:( ゚Д゚)
07/09/12 16:46:18 7vcQ5ltN
>>423
初めてかな。お題にてミステリーっぽいような、でもコメディ色全開の作品は。
サングラッチェという文字で悩んでいた林が突然話題を変えたり、それに部員たちがのってしまうという、一見するとグダグダで読みにくい文章なんだけど、逆にそれが良い。
気楽に読めて楽しめる作品だと思った。

>>424ー425
ロボットと猫の優しいお話やった。淡々と進む二人の会話と、最後のしょっぱい金属の体っていう描写が好き。
ただ、後半の出だし、『その日は~』が合ってない気がした。物語の始まりならいいんだけど。
何だか惜しいと思う。


しかしながらお二人さん、お疲れ様でした!



428:この名無しがすごい!
07/09/13 04:00:55 czXzfjRB
あの~。一応書いたんだけど……
でも、長いの。
今まで以上に長いの。
お題も微妙なの。
それでもいい?
いいわよねっ!


429:この名無しがすごい!
07/09/13 04:02:57 czXzfjRB
   「あの青空に祈りを」by ジル

 日本初の往還型シャトル「おおぞら」のコックピットを、突然の衝撃が襲った。
「なっ!」
 パイロットの大沢は食べかけの宇宙食を放り出すと、懸命にシートにしがみついた。
 コンソールに赤い灯が、いっせいに灯る。
―こちら、種子島コントロール。なにがあった。
「大沢、なにが起きた!?」
 無線の声と同時に後部ドアが開き、もう一人の乗員である、谷口がよたつきながら入ってきた。
 フロントシールドの向こうを、星星が、そして夜の面を向けた地球が、シャトルの周りをぐるぐると回っている。
 大沢はそれに答えぬまま、姿勢制御ユニットをアクティブ。噴射剤である窒素の残量を確認して、ラン。
 数秒のかすかな噴出音の後、シャトルは安定を取り戻した。
「おい、大沢」
「わからんっ。だが、何かにぶつかったとしか……」
 二人の脳裏を、最悪の予想がよぎる。スペースデブリ。軌道上に捨てられた、性急な宇宙開発のつけである、ごみくず。
―こちら、種子島コントロール。おおぞら、応答しろ。なにがあった。
「今調査中だ! 黙っててくれっ。……あ、いや、そちらでは何か分かるか?」
「見てみよう」
―そちらからの信号がすべて途絶えた。なにが起きた―
 谷口がコ・パイロット席に着き、ロボットアームの操作パネルを開く。モニターに、アームの先端に付けられたカメラの映像が映る。
 二人はそれを食い入るように見つめた。
 カーゴルーム。異常なし。翼上面。異常なし。翼下面―
「あ……」
「なんて、ことだ」
 翼の付け根に張られた耐熱タイルが大きく割れ、はらわたのように断熱材がはみ出していた。
―おおぞら。応答しろ。どうした。
「こちら、おおぞら。……再突入は、不可能だ」
 大気圏に突入する際、シャトルの底面は、1600度を超える高温に包まれる。
 もちろん、コロンビアの事故を教訓に、大空には補修財が積まれているし、二人もそのための訓練を十分に受けている。
 しかし、断熱材までが見えているということは……
 損傷はタイルの下、構造体にまで及んでいるはず。補修は、不可能だ。
 状況を種子島に伝えると、二人は口を閉ざしたままシートに埋もれた。
 日本初の国産有人シャトルの搭乗員に選ばれたときから、覚悟はしていた。
 そして、どのような状況に陥っても対処ができるよう、厳しい訓練を重ねてきた。
 それなのに……
 宙に浮かぶ塵屑ひとつで、このざまだ。
―こちら種子島コントロール。おおぞら。聞こえるか。
「ああ、聞こえる」
―NASAと連絡を取った。軌道を修正してISS(国際宇宙ステーション)へ向かえるか。
 種子島と更新していた大沢は、思わず谷口を振り向いた。そうだ、その手があった!
「谷口、プロペラント(推進剤)の残量は」
「月にだって行けるぜ!」
 しかし、盛り上がりかけた二人を、新たな警報が邪魔をする。
「くそっ! 今度はなんだ?」
「大沢……」
「だからなんだっ!」
「酸素が……」
<Pressure decrease>
 酸素タンクの、圧力減少。酸素が漏れている。
「種子島コントロール! ISSとのランデブーまで、どれくらいかかる!」
―ちょっと待ってくれ、すぐ出る……軌道を完全に合わせるには、おおぞらの推力と現在の軌道から―
「何分だよ!」
―二十……八時間だ。
 大沢はコックピットの天井を見上げた。谷口がシートを殴りつける音が響く。
 間に合わない。修理に向かおうにも、破損部分の気密は当然失われているだろう。EMU(船外活動服)を着用したとしても、それまでにタンクは空になる。
 大沢は、はっと顔を上げ、そしてすぐに肩を落とした。確かにEMUには酸素がある。しかし、すでに通信衛星の設置と修理というミッションを終えたシャトルには、予備のタンクしか残されていない。
 ミッション二回分。一人当たり、わずか七時間の酸素しか。
 大沢は、そっと谷口を伺った。二人なら七時間だが、一人なら十四時間持つ。後は、このコックピットの空気でどれくらい生きていられるか……
 

430:この名無しがすごい!
07/09/13 04:03:15 tklcOqRr
短くまとめたら?

431:この名無しがすごい!
07/09/13 04:07:04 czXzfjRB
 そこまで考えて、大沢はため息をついた。こいつを殺して自分だけが生き残るくらいなら、いっそのこと大気圏に突入して燃え尽きたほうがましだ。
 しかし、突然谷口が立ち上がった。そのままの勢いで天井にぶつかりかけ、すんでのところでそれを避けると、大沢に向かって飛びかかる。
「何を!?」
「大沢、マイクをかせっ! 種子島、聞こえるか、応答しろっ!」
 思わず構えた大沢からマイクを奪い取り、谷口は声を張り上げる。
―聞こえている。どうした。
「俺たちの軌道は捉えているな? ISSに次に再接近する時間と距離、相対速度を出してくれ!」
「どうする気だ?」
「黙ってろ。種子島、どうだ」
―待ってくれ……今からおよそ四十八分後、船内時間で二〇二二時。距離十三万二千メートル。相対速度142.3m/sだ。
「わかった。大沢。EMUを着用しろ」
「何をする気だ?」
「飛ぶぞ」
「なんだって!」
 しかし大沢は、一瞬の驚愕から立ち直ると、すぐに動き始めた。キーボードを叩き、シミュレートをはじめる。
 プロペラントは使い果たしてもいい。少しでも近く、そして相対速度を小さく。
「距離、九万一千。相対速度、2.4m/s」
「上出来だ」
 二人の両手が打ち合わされる音が、コックピットに響いた。


―こちら、種子島コントロール。きこえるか。
「ああ、感度良好だ」
 おおぞらの通信装置を経由した雑音交じりの声が、大沢のヘッドセットから聞こえる。
 漆黒の空に浮かぶ星星が、瞬きもせずに二人を取り囲んでいる。
 音のない、死の世界。宇宙。
 子供のころから夜空を見上げ、ずっと夢見ていた世界に、二人は立っていた。
―星が見えるか。
「もちろん見えるさ。あんたが見たことのないような星空がな」
 谷口も、落ち着いた声でそう答えた。星になるなら本望だ。それが彼の口癖だった。
―アンタレスは?
「よく見えるぜ」
―その方向にISSがある。合図をしたら、飛べ。
「了ー解」
―六十秒前……五十……四十……
「大沢」
「……なんだ?」
「宇宙はいいな」
「……そうだな」
「だけど、やっぱり―」
『地球に戻りたいな』
―三、二、一。飛べっ!
 二人の足が、おおぞらを蹴った。
「帰るぞ!」
「ああ、絶対に!」


432:この名無しがすごい!
07/09/13 04:08:04 czXzfjRB


 どれくらい時間が経っただろうか。自由落下状態に身をゆだねていた大沢は、うたた寝から目覚めるとバイザーに投影されている時計を見た。
 もう、六時間以上経過している。もう、おおぞらはまったく見えない。周回軌道を外れたシャトルは、地球を何周かした後大気圏に突入し、そのまま燃え尽きるだろう。
 ヘルメットの中で首だけを動かし、あたりを見回す。
「おい、谷口、谷口!」
「……なんだ?」
 眠そうな声で、谷口が応えた。酸素の消費を抑えるには、眠るのが一番いい。彼もそれを実践していたのだろう。
「見ろよ。太陽が」
 足元には、黒い地球が横たわっていた。その端が、少しずつ輝きを増す。
「日の出だ」
 谷口の笑いを含んだ声に、ぽんぽんという音が重なる。見れば、谷口は拍手を打っていた。その音をマイクが拾ったのだろう。
「きれいだな」
 太陽の光が、地球のふちに沿って輝く。宇宙から見れば薄皮のような大気が、光を反射し輝いている。
「なあ、大沢」
「なんだ?」
「地球に帰ったら、ピクニックしようぜ」
「なんだ、そりゃ」
 大沢は思わず吹き出した。
「緑の芝生にねっころがってさ。青い空を見上げてさ」
「なんだよ。星空に飽きたのか?」
「そうじゃないけどよ。たまには違う女に抱かれてみたいっつうか」
「何言ってんだ。ま、分からんでもないけどな」
 大沢は再び目を閉じた。星空ばかりを見上げていたはずなのに、まぶたの裏に映るのは、まぶしい太陽と白い雲。
 そして、青い空。
 もう一度、あの空の下を走り回りたい。
 大沢は、その青空に祈った。
―u…ma……a…o…no……w……
「谷口!」
「ああ!」
 ずっと沈黙していた無線が、途切れ途切れの音を発した。
 二人はそろって頭上を見上げた。そこには、点滅するライトと、星空をさえぎる小さな影。
 二人を出迎えるために出てきてくれた宇宙飛行士たちのバイザーに、輝く太陽と、ナイフのようにとがった、青い地球が映っていた。

(fin)


433:この名無しがすごい!
07/09/13 04:09:03 czXzfjRB
>>430
やんっ!

434:この名無しがすごい!
07/09/13 15:47:24 YfbVuZ+1
>>348>>349
筆者としては猟奇もののつもりはないんだけどね。ディシプリンものとして
読んでもらいたい。海外のサイトではメジャーな題材なんだけど、日本語の場合
僕ともう一人しか検索にかからない。

435:この名無しがすごい!
07/09/13 17:47:32 pxHc3z1u
>>429ー432
後半部分が好きだなぁ。宇宙が広がった。漂う二人と地球、日の出の描写が素敵。ナイスでした。


436:( ゚Д゚)<あの青空に祈りを
07/09/13 18:17:59 pxHc3z1u
「はっぴばーすでーとぅーゆー。はっぴばーすでーとぅーゆー」
先を歩く健太のころころとした、舌足らずの可愛らしい声が歌っている。昨夜の雨が作り出した水溜まりをひょい、ひょいっと飛び越えながら、覚えたばかりの歌を口ずさんでいる。
楽しそうに、目に見える世界全てが輝いて見えているかのように健太は今日も生きている。
「ママ、早くしてよ」
いつの間にか、我が子の姿に見とれていた内に、足が止まってしまっていたようだ。健太がごねるように私を呼ぶ。
「ごめんごめん」
言って両手を顔の前で合わせた。おや、まだ頬が膨れている。そうか、そうだよね。
私はゆっくりと歩み出す。道の向こう側。遠く広くあの空が広がっている。
「ごめんね、健ちゃん」
追い付き、再び謝った。あらら、まだ健太は不機嫌だ。どうしようか。
不意に吹いた風は、もう涼しくなり始めていて。
「ごめんなさい」
私は思い切って頭を下げてみた。うーん、これが駄目なら、帰りにアイスを買ってあげよう。
おずおずと健太を見上げる。まだ固い表情。やっぱり駄目かな。そう思った。
満開の花が咲いた。
「いいよ。許す!」
その微笑みには、いつかの笑顔が重なっていて。
私も釣られて笑顔になる。
「ありがと。よし、じゃあ行こっか」
大きな手と小さな手。互いに取り合って、しっかり握って、離れないように、離さないように。
涙はこんなな素敵な空には似合わないから。
Happy birthday to you.
見てますか? 見えてますか?
健太はこんなに大きくなりました。あなたに似た瞳が毎日笑ってくれるので、私はとっても幸せです。
あなたがいなくなって三年。いろんな事がありました。何度も折れそうになって、何度もこの世界を憎みに憎んで。人を嫌って、自分を呪って、絶望は黒よりももっとこい色だということを知りました。
でも、そんな私も、ようやく踏み出すことが出来そうです。もう過去にすがることを辞められそうです。
だから。
だからどうか私たちを見守って下さい。
そこから、あなたが何よりも好きだったその空から。
私たちのことを見守っていて下さい。

日射しはまだ夏の名残を残していて。

437:この名無しがすごい!
07/09/13 22:30:58 czNVDJWB
何も持っていなかった僕に、ひとつの約束をくれたあの人は、今はもうお墓になった。
真新しい白いその石には命日と名前が一つずつ彫ってある。あの人の名前だ。この世でただあの人だけのもの。
『僕が死ぬときは君が死ぬときだ』
ふいに、あの人の言葉が脳裏に蘇った。
『そして君が死んだとき、君は僕になり、僕は再び命を得る』
あのときあの人は、何も持っていないと、そう親の愛情でさえも、持っていないと泣く僕にそう笑いかけた。
たった今からこれを約束としてあげるから、もうそんなに嘆く必要はないのだと。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの僕を優しく撫でてくれた。パパとママがするように、汚ならしいと殴ってくれたって構わなかったのに。
「あなたは死んでしまったよ」
僕は墓石の名前を指先でなぞった。彫らなくて良いと言ったのに、お節介な埋葬屋の店主は勝手に彫ってしまったものだ。
「もうひと月になるけど、僕はまだ信じられない。あなたがいない現実なんて現実じゃないみたいだよ」
あの約束をくれた一週間後のことだった。
流行り病にかかって、あっという間に。何も出来なった。
「あなたの口癖だってもう聞けない」
ことあるごとにあの人が口にしていたあの言葉の意味は、ついに知ることはなかった。
ただ、あの言葉を言うあの人はいつもすごく楽しそうで、嬉しそうで。
僕も一緒に嬉しくなって、その嬉しい気持ちにもまた嬉しくなって、思わず涙が出てきそうになったこともある。
…僕は決心して、勢いよく足を振り上げた。
足は墓石の名前を蹴りつける。でももちろんそれじゃ足りなくて、僕は何度も何度も蹴りつけた。
そうして蹴って蹴って蹴って。
高かった太陽が暮れ始めたころになって、僕はようやく足を止めた。
白い墓石はもうぼろぼろで、名前を部分は崩れ落ち、何が書いてあったのかさえ分からない状態になっていた。
代わりに、僕はポケットからコインを取り出して、崩れた石のところにがりがりと違う名前を掘り込む。僕の名前だ。
『そして君が死んだとき、君は僕になり、僕は再び命を得る』
僕は足元に転がしていたリュックを背負った。時計を見ると、汽車の時間まであと少ししかない。
多分、この街に戻ってくることは無いと思う。
最後に一度だけ墓石を見つめて、僕は心からの笑顔であなたの口癖を叫んだ。
「サングラッチェ!」
僕はあなたとして生きていくよ。


438:この名無しがすごい!
07/09/14 16:16:18 vOIfE4lQ
>>437
何だか不思議な感じ。でも旅立ち特有の晴々しさ、清々しさが心地いい。
サングラッチェも元気が出るような明るい響きで聞こえてきた。

439:この名無しがすごい!
07/09/15 00:06:26 C/ufJyaq
( ゚Д゚)<わーい。三連休!皆さんはいかがお過ごすの?
( ゚Д゚)<この前のお題は何人かやってもらった方々も増えて、とっても嬉しいです。わほい。
( ゚Д゚)<そんな三連休のお題発表!

【目が死んでる】
【水底の華】

( ゚Д゚)<よい週末を!

440:この名無しがすごい!
07/09/15 00:55:13 7Df+PhS3
休みはないわよ。
そんなあたしの目が死んでるわ。

(end)

441:( ゚Д゚)<水底の華
07/09/17 22:44:57 aMDa1vG6
山はいつの間にかその燃えるように紅かった色を失い、先々がとがった枝を必死に伸ばしている木々がぽつぽつと寂しそうに立っているだけだった。
吐く息が白く立ち昇り、限りなく白に近い灰色の空へと溶けていく。風が止まったままのこのダムの畔には、もの音ひとつしない。赤く染まっているのであろう頬を突き刺すのは、何も冬の訪れを告げる北風だけではないだろう。
静寂が、存在を圧し潰すかのような重い静寂が辺りを覆っていた。
何もできなかった。私は私は、本当に何もできなかったんだ。
波打つことも、流れていくことさえも知らない水面に写る己の姿を見ると、そんな想いが、遠い過去の出来事への悔恨が記憶という繋がりを伝って時間を越え蘇ってくる。
結局私は無力で、ただの能無しで、ちっぽけな一人の馬鹿にしか過ぎなかったんだ。
煙草を内ポケットから取り出す。あの日々から数年後に呑み始めた少々きつめの煙草だ。一本取り出し、口にくわえる。ライターを忘れていたことを思い出した。
「どうか、どうかあの木だけは。あの木は、あの桜は村の誇りなんじゃ」
「何とかねぇ、あの木だけでも残ってくれるならねぇ。ここに村があったんだって、私たちのふるさとがあったんだって。ねぇ。まあ、無理でしょうけど」
あの時、あの日々、蝉が何故かおとなしかったあの夏、私は村民たちに約束をした。絶対に大丈夫です。必ず桜は移植させてみせます。大丈夫ですから。僕たちを信じてください。
必死に桜を守ろうとしていた老人に、諦めきった笑顔を見せていた女性に、たくさんの故郷を捨てなければならない村民たちに、私は胸を張って約束したのだ。
できないことなどないと思っていた。得た知識が、養った人との付き合い方が誰かのためになると信じていたのだ。
社会のことなど何も知らなかったガキだったくせに。
風が吹き始めた。煙草は元に戻すことにした。車は少し離れた場所に停めてある。
桜はどうなったのであろう。水底に沈んだ巨木に想いをはせる。あれから三十年。権力に屈し、逃げるようにして関わることを辞めてしまった桜は死んでしまったに違いない。
しかし、例えそうだとしても、ずっとずっと、この冷たい水底で咲いていて欲しいと願うことはおこがましいことなのだろうか。
私は空を仰いだ。白い空の所々に、鈍い灰色の雲が織り混ざり始めていた。
降り始めた雪は冷たく。まるであの桜の花びらのようだった。

442:( ゚Д゚)
07/09/21 00:11:48 Zf2QHoWg
こんばわー。秋の気配がひしひし伝わってくる夜であります。
今年は大きなトンボとクモがやけに多い気がしますが、どうでしょう。蝉は少なかった感じがします。

お題
【大好きな空模様の下で起きる小さな物語】
【此岸花・彼岸花】


443:この名無しがすごい!
07/09/22 02:36:47 M0c/x8u+
ハンナングループ浅田会長の逮捕に北朝鮮・旧朝銀信用組合と関係の深い杞●岳史!!

公安の強制捜査で必ずマスコミ関係者様・2ちゃんねら~の皆様の御期待にそえます。

杞●岳史は家やマンションビルの中の様子を建物の外から盗撮しています!!
建物の中の様子を外から盗撮するプライバシー丸裸のとんでもない盗撮機械を自宅に所持!!

名前は杞● 岳史(キヤマ タケシ)ユ タケシ

経歴は北朝鮮とつながりの深い旧朝銀信用組合と関わりが深く旧朝銀信用組合の青年会に所属。

東大阪市柏●東10の9から転居後の自宅に所持!!
※杞●岳史の自宅からすごいものがでてきます!!
家やビル、建物の中の様子を外から盗撮するプライバシー丸裸の盗撮機械は杞●岳史の自宅にあります!!

あと一歩で杞●岳史逮捕なのでみんなで公安に連絡しましょう!!
公安の強制捜査・杞●岳史の逮捕で必ずマスコミ関係者様・2ちゃんねら~の御期待にそえます!
※法務省 公安調査庁 0335925711 東京都千代田区霞が関1丁目1の1
※近畿公安調査室局(代) 0669437771 大阪市中央区谷町2丁目1の17

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444:この名無しがすごい!
07/09/22 17:12:04 Y+6926Tq
【此岸花・彼岸花】

 音もなく流れる清流の周りに花が咲いている。
 川の周囲を覆うような一面の赤色。流れる命の色。
「ほら、こっちにこい」
「いーやーだ」
 赤い花をかきわけて二つの人影が川に近づいてきた。
「往生際が悪いぞ」
 背の高い、白い服を着た長い髪の男が、同じく白い服を着た少年の手を引っ張っている。
「やだやだやだ」
 少年は少し癖のある髪を振り乱しながら、連れて行かれまいと足を踏ん張っている。
「まったく……しょうがないな」
 背の高い男は少年の手を離すと、腕を組んでため息をついた。
「いいか? これは前から決まっていた事なんだ。昨日もちゃんと説明しただろう」
「……うー」
 少年はしゃがんだまま下唇をかんで背の高い男を見上げる。
「大体だ、一年前にお前が私の所に来た時にも説明したはずだが」
「……忘れた」
 ボソッと呟いてうつむいた少年の頭を見ながら、背の高い男はさらに深いため息をつく。
「何が嫌なんだ?」
「怖い」
 少年の言葉に、背の高い男は膝に手を当ててかがんだ。
「別に怖くはないだろう。あの川を越えて向こうに行くだけだ」
「泳げない」
「泳ぐ必要はないぞ。浅いし」
「……」
 少年はうつむいたまま黙ってしまった。
 背の高い男はしゃがんで少年の顔を見る。いっぱいに開いた瞳にこぼれそうになった涙。
「……ぃ」
「ん?」
「……帰りたい」
「んー」
 背の高い男はしゃがみこんだまま困ったような表情を見せる。
「ね、帰ろ、ね?」
 少年は背の高い男の袖を掴むと、元来た方へ引っ張った。男は少年の肩に手を置いて、正面から顔を見た。
「昨日約束しただろ? ちゃんと向こうに行くって」
「……」
 少年はうつむいたまま涙をぽろぽろとこぼしている。背の高い男は少年の頭に手を置いた。
「じゃあ、そろそろ」
「……向こうにいっても、また、ここに来れる?」
「え、う、まあ、そうだな」
 意表をつかれてうろたえる男の言葉に、少年の顔が見る見る暗くなっていく。
「あー、うん! その時は私が迎えに行くから大丈夫だ」
「本当?」
 背の高い男は立ち上がって胸をはった。
「本当だ」
 少年も立ち上がって男を見上げた。
「約束だよ」
「約束だ」


445:この名無しがすごい!
07/09/22 17:13:36 Y+6926Tq
 二人は手を繋ぎ、赤い花をかきわけ川の側に来た。音もなく水のような何かが流れている。
「ここでお別れだ」
「うん」
 手を離した少年は、背の高い男の方を向くと両手を伸ばした。
「何だ?」
「しゃがんで」
「こうか?」
 背の高い男がしゃがむと、少年は男の首に手を回して抱きついてきた。
「……どうした?」
「絶対に、迎えに来てね」
「ああ、約束だ」
 男は少し震えている少年の背中に手を回し、軽く叩いた。
 少年は背の高い男から離れると、川に向かって歩き出した。
 かかとの辺りまで水のような何かに浸かる。少年は渡る途中、何度も男の方に向かって手を振った。
 背の高い男はぎこちない動きで手を振り返す。
 少年が川を渡り終えると、向こうに咲いている花が一斉に少年の方を向いた。それと同時に少年の身体の輪郭がぼやけ始める。
「おーい!」
 背の高い男が川向こうの少年に向かって叫ぶ。
「なーにー!」
 きらきらと輝くように溶けていく少年が叫ぶ。
「昨日教えたこと憶えているかー!」
「憶えてるよー!」
「言ってみろー!」
 霞んでいく少年が口を大きく開けて叫ぶ。
「まずー! 息をいっぱい吸うー!」
「そしてー、大声を上げるー!」
 背の高い男は笑顔で親指を立てた。
「完璧だー!」
 向こうの景色が透けて見えるようになった少年も親指を立てる。
「ねー!」
 きらきらと光る砂を振りまくように消えていく少年が声を上げた。
「何だー!」
「約束だよー!」
 少年はかき消すように見えなくなった。
「ああ……約束だ」
 背の高い男が呟く。どこかから産声が聞こえる。


「それまではどうか、幸せな生を」

446:( ゚Д゚)<自分は青空が好きなので青空で
07/09/23 00:02:01 mmZ/u8a1
良太は暑い熱い真夏のアスファルトの上に寝転んでいた。
仰向けに空を眺める良太の視界には、澄みきった青空が広がっている。雲など一つも浮かんでいない、どこまでもどこまでも青いだけの空。
空は悩みとか怒りとか、心の中をぐるぐる回り、意味もなく自信の周りを変えてしまう感情をすぅーっと吸い込んでいく。穏やかな、何も考えないでいいような、そんな気分にさせてくれる。
良太はそんな空をただただ眺めているのだ。
すぐ隣でずっと遠くまで延びる線路の上を、電車が盛大な音と共に走り去っていった。舞い上がったトンボがフェンスに停まった。
良太はこんな空が、晴れ渡った一日というものが大嫌いだった。
よくないことが起きる時、決って空は伸びやかに晴れていたのだ。
汗っかきだった良太は、よく晴れた日、決って同級生にからかわれた。たった一人、好きになった女の子にこっぴどく振られたのも晴れた日のことだった。そのことを同級生にいじり倒された数日間も晴れていた。
受験に失敗した日も、足の骨を折ってしまった日も、風邪をこじらせて入院した日も晴れ。
父親が人を撥ねてしまった日も、母親が静かに息を止めてしまった日も、いつだって太陽は青い青い空の中で、さんさんと良太を照らしつけていたのだ。
まるで嘲笑うかのように。
いつしか良太は、不幸な時頭上に輝く特大のスポットライトが嫌いになっていた。
そして今も。
良太はアスファルトの上に倒れたまま、絶え間なく湧き出す腹部の出血を両手で押さえていた。血は薄く広く伸び、抜いた包丁の下にも染みている。赤い血溜りを音もなく作っていた。良太には不思議と痛みはなかった。
良太はしみじみと、先程すれ違いざまに突然自分の右脇腹を刺した少年のことを思った。良太が倒れた後、狂気じみた笑みで良太の鞄を奪っていった少年。ニット帽を深く被った気の弱そうな少年だった。
彼は今、何を思い、何をしているのだろう。僕の鞄から財布を見つけだし、その中身の少なさに驚いているだろうか。もしくは獲たものに、にやついているのだろうか。
たった二千円ぽっちが入った財布。会社関係の書類ばかりの鞄。彼は僕を刺したことを思い、いるかも分からない追跡者の陰に脅え始めているのであろうか。
良太は押さえていた左手を顔まで持ってきた。真っ赤に染まった左手は、まるで絵の具を手一杯に塗ったようで、どこか滑稽だった。
僕は死ぬんだろうな。
だんだんと寒くなる外気を感じながら、良太は思う。僕にはもう訪れる明日はない。なぜか悔しくも悲しくもなかった。穏やかな流れが良太を満たしているようだった。
空を、あの抜けるような青空をもう一度眺める。太陽はやっぱりぎらぎら輝いている。
あーあ。やっぱり綺麗じゃないか。
霞ゆく視界の中で、良太は小さく微笑んだ。


447:( ゚Д゚)<今度は太陽が沈んだ空で
07/09/24 02:44:20 JIfBmZjz
 川沿いの小道を二人は歩いていた。ポケットに手を突っ込み、大きな歩幅でゆっくり歩く彼と、後ろ手に手を組み、彼の少し前を幾分か小さく細やかな歩調で進む彼女。異なる二つの歩調は、お互いがお互いを気遣いながら、優しく静かなリズムを秋の風に運ばせている。
 太陽がすっかり山の向こうに沈んでしまった茜空は、その燃えるような朱色を山際に残しながら、次第に闇へと溶けていく。帰路を急いでいた鳥たちの姿は、もうどこにもない。虫の音色が二人の靴が生み出すリズムに合わせて、小さなメロディを紡いでいるかのようだった。
 夕方と夜の狭間を二人は静かに歩いている。包み込んでくる秋の気配を、そして何よりも二人で歩いているこの瞬間を噛み締めながら歩いている。
 側にいるだけで、一緒に歩くことだけで、ぽっと心に火が灯ったような柔らかな温もりを感じる。身体を内から温めてくれる素敵な感情の存在を感じる。
 二人は一緒に歩くだけで十分だった。目を閉じてささやかなオーケストラに耳を傾けながら、隣にいる大切な人を感じることが出来るから。言葉など無くたって、きっと想いを伝えることは、感じることは出来るはずだから。
 しかしながら、不意に彼女の足音が止まった時、彼は彼女との間に小さなズレを感じた。それは彼がそうやって彼女のことを感じていた時だったからだ。彼は少し戸惑いながらも目を開く。直ぐに追い越してしまった彼女の方を振り向いた。
 急に立ち止まった彼女は、いたずらを企んでいる子どものような笑みを浮かべ、そこに立っていた。瞳に好奇の色が満ちている。彼は少し眉をひそめた。
 一体、君は何をするつもりなんだろう。何を考えて、そんな表情をしているのかな。彼の脳裏を様々な言葉が流れていく。そのどれもが彼女に対する純粋な疑問と、少しの猜疑心が混じったものだった。
 彼が見つめる彼女。彼女はそんな彼の想いを知ってか、まるで試すかのように組んでいた手をゆっくりと彼に差し出した。
 空は深く。濃紺が濃さを増し始めている。二人を、遠く輝きだした月が見つめていた。
 彼はしばしの間、その行為の意図するところが分からなかった。突然手を出して、君は何がしたいのだよ。時間だけが流れていく。
 何もしない彼にしびれを切らして、彼女は手をさらに突き出してきた。その表情には少々の苛立ちが見て取れた。ったくもう、さっさと手握ってよね。
 ああ、そういうことか。
 吊り上がったその瞳に、彼は差し出されたその掌を優しく受け入れた。暗闇が刻々と深くなる中、彼女は季節外れの向日葵のように綺麗に笑った。
 初秋の帰路を二人はゆっくりと進んでいく。夜風は随分と寒くなり始めていた。
 でも、例えどれ程風が寒くなったとしても、繋いだ二人の掌は、変わらぬ暖かさを保ち続けるのであろう。
 虫たちがささやかな演奏を捧げていた。

448:( ゚Д゚)
07/09/24 02:45:31 JIfBmZjz
むう。ここで書いたのも多くなったなぁ。自分のまとめて、なろうに投稿しようかな。

449:この名無しがすごい!
07/09/24 18:50:07 MyNx4uQi
2ちゃんで投稿した文章の著作権て、2ちゃんに渡るんでしたっけ?

450:( ゚Д゚)
07/09/24 20:59:52 JIfBmZjz
>>449
多分著作権とかは発生しないと思うから、大丈夫じゃないかな。
よく知らないんだけれど…。
でももしそうだとしたら、う~ん、どうしようかなぁ…。折角やったんだからなぁ…。
悩みます。

451:この名無しがすごい!
07/09/24 23:45:23 MyNx4uQi
2ちゃんの投稿規約に、投稿物について著作権ほか生じた権利をすべて掲示板管理者に譲渡すると書いてあるんだけど、
この場合、ここに投稿した作品はひろゆきに譲渡されたことになっちゃうのかなあ?
そうすると、なろうに自作品として投稿できなくなるんだろうか…分からない…誰か、詳しい人、教えて

452:この名無しがすごい!
07/09/25 02:32:16 NslhCLZJ
去年のコピペブログ騒動の時に変更された規約ですね。

犬が眠った日 : 2ちゃんねるの書き込み規約変更
URLリンク(wanwan99.exblog.jp)

知らぬい - 2006-06-01
URLリンク(d.hatena.ne.jp)

この辺りが参考になる可能性があったりなかったりするかもしれません。
正直、読んでも良く分かりませんが、投稿者本人が転載するなら大丈夫じゃないですか。多分。おそらく。

453:( ゚Д゚)
07/09/25 18:58:01 Z0BKg959
>>452
ありがと。見た感じ、大丈夫みたいだね。これで心置きなく投稿できる。

454:久々挑戦
07/09/26 02:30:43 lKtqG2NF
   「此岸花・彼岸花」byジル


 その日、雄介があたしの部屋で初めて一夜を明かした朝、彼がカーテンを開ける音であたしは目を覚ました。
 もう二年近く開いたことのないそのカーテンの間から、まぶしい光が差し込む。その光が、彼の引き締まった、裸の上半身を照らし出す。
 だけど、あたしの心臓が大きくわなないたのは、そのせいなんかじゃない。
「やめて! カーテンを閉じてよ」
「どうして?」
 不思議そうな顔をして、彼が振り向いた。
「ああ、そうか。大丈夫だって。窓のそとは川じゃないか。裸を見られる心配は―」
「そうじゃない……あ、あの、あたし庭いじりとか好きじゃないから、雑草だらけの庭をあなたに見られたくないの。だってみっともないじゃない」
 あわててシーツを身体にまきつけながら、あたしはそう答えた。
 あたしの部屋は、このマンションの一階にある。この階の各部屋には、小さな庭がついていて、他の部屋の住人は、家庭菜園をしたり、ガーデニングを楽しんだりしていた。
 あたしもここに越してきた当初は、花を植えてみたりしたのだけれど、今は……
「そんなことないぜ。とてもきれいじゃないか」
 そんなはずはない。いったい何が。
 シーツを引きずりながら、あたしも窓際へ行く。雄介の腕が、肩をそっと抱えてくれる。
 薄く汚れた窓の向こうに見えるのは、雲ひとつない秋空と、対岸のビルから半分顔を出した太陽。そして。
 庭に咲く、赤く燃えるような、花の群れ。
「やだ、これって」
「なんだよ。自分ちの庭なのに知らなかったのか」
 笑い交じりの彼の声が、耳をくすぐる。
「彼岸花って陰気なイメージがあって好きじゃなかったけど、こうやって見るときれいだな」 
 あたしはさらに不安になって、彼の顔を見上げた。彼はあたしを振り返りもせずに、すこし淋しげな表情で花を見ていた。
「カナもさ、この花が好きだって言ってた。正直変なやつだと思ってたけど、やっと分かったよ。本当に、きれいだ」
「やめてよ」
 あたしは乱暴にカーテンを閉めた。部屋の中が再び薄闇に包まれる。
「あんなやつのことなんか。何も言わずにあなたを捨てて消えてしまったカナのことなんか、いまさら言わないで」
 やっと、彼があたしを見てくれた。優しいまなざし。それを手に入れるまで、二年かかった。
「お前は、カナと親友だったじゃないか。なのにどうして」
「親友だから赦せないのよ! あなたを、あなたを……悲しませるなんて」
―あなたをあたしから奪うなんて!
 あたしは胸元でつかんでいたシーツを離した。あたしを見つめる彼の瞳が、すこし、開いた。
「ねえ、あんな気味の悪い花じゃなくて、あたしを見てよ。あたしはあなたのためにきれいになる。あたしはあなたのために咲く。だから、あんな花なんか、見ないで」
「……そうだ、な。うん。お前は、とてもきれいだよ。あんな花なんかよりもよっぽど」
 雄介はそう言って、あたしを抱きしめた。お互いの肌の温度が交じり合うのを待って、そしてキスをした。
 そうよ。あいつのことなんか忘れて。死んだ花じゃなく、生きているあたしを見て。

 閉じたカーテンの外では、彼岸花が咲いている。この人が帰ったら、全部焼き払ってやる。
 彼岸花。死人花。この人はあたしのもの。
 お前はあいつの死体を抱いて、せいぜい咲いているがいいわ。


(fin)


455:ジル
07/09/26 02:41:15 lKtqG2NF
>>453
もしなろうに投稿するのなら、みんなのお題小説をまとめて、新しくIDを取って、
2ちゃん企画みたいな形で出せたらいいなあって思うんだけど。
そうしたら、ななしさんの作品もなろうで発表できるし。
どうかしら。


456:( ゚Д゚)
07/09/26 03:28:10 xpW2X5ee
>>454
最後の一文が怖い。

>>ジルさん
あ、いいですねそれ。面白そうです。少しはそんなことを考えてたりもしてました。
ただ問題が数点ありまして……

一つ目は、現在ここにある文章をそのまま載せるかどうかって問題です。直したい、加筆したい箇所があるんで難しいところです。ありませんか?
対処として、これはまとめて投稿する人に直した文を送れば大丈夫です。直さないという選択肢もあるので、なんとかなる気がします。
あ、まとめ役は自分が立候補します。

二つ目の問題は評価感想が来た時です。感想はそれぞれ別々に来る可能性があるから、まとめ役の人の独断で返信は厳しい。出来たら感想対象となった文章の作者さんにしてもらいたいんです。
これの対処法としては返信をしないと言うのと、まとめ役の人が対象となった作者さんから返信を受け取る方法があると思います。後者の場合、互いに連絡が必要となりますので、少なくともまとめ役はPNを明らかにする必要があります(この点、自分は抵抗ないので大丈夫です)。

三つ目は、実はすでに短編で投稿を行っていらっしゃる方がいることです。
名無しさん、どのようにお考えでしょうか。お返事待ってます。

また、投稿する形式も考えたいです。連載がいいと思うのだけれど。
とこんな感じです。意見待ってます。

457:ジル
07/09/26 04:29:46 lKtqG2NF
>へぼたん
賛成してくれてありがと(*'-^)-☆
あたしの意見なんだけど。

一つ目は、あくまでここのまとめってことで、
最小限の誤字脱字等の直しくらいにしておきたいなって思うのよ。
まあ、それは作者さんしだいだけど。
どっちみち新しく作者登録をするんだから、それのメッセ機能で
完成稿を送ってもらってもいいわよね。

二つ目はやっぱりメッセに返信を送ってもらえばいいと思うわ。
ただメッセだと一方通行になっちゃうから、
連絡用に適当な掲示板を借りてもいいかも。

三つ目は、どっちにしろここに投下した作品は強制的に投稿! 
ってわけにはいかないんだから、その作品ごとに
まとめに投稿するかどうか選んでもらえばいいと思う。

あと、連載にすると、悪目立ちしそうでちょっと怖いかな。
でも、アクセス数とかを考えると連載も捨てがたい。
みんなの意見も聞いてみたいわ。

458:この名無しがすごい!
07/09/27 00:07:12 x42Ed1tq
素朴な疑問なんだが……

なぜここの人たちは、ここで自分の作品を発表してしまうんだ?
自分の作品が大切じゃないのか?

誰かにコピペされて、さも自分で作ったように発表されても
自分があの作品を投稿したって証拠がないからどうにも出来なくなるのに


作品発表は、なろうのサイトか自分達でサイトを作ってやった方がいいと思う

459:この名無しがすごい!
07/09/27 00:21:18 gGFqe5Ko
最もな意見です。
そう思うのもよく理解できます。

ただ、自分に限って言えば、ここで発表した自分の作品が仮にコピペされても構わないと思っている。
それは作品を大切と思ってないからではなく、どこに見せても恥ずかしくないと思っているから。だから、2ちゃんと言う場所に投下できるのです。
それと、これはお題を出してくれたへぼ氏と、それを元に書いた自分の共同作品でもあるわけで。自分の作品として、なろうに投稿するのは、なんだか気がひけたのです。

それに、誰の手に渡ろうとも、自分らが産み出した作品であるという「真実」は変わらないわけだし。
まあ、こんなことを言えるのも、自分が趣味で書いているからなのかも知れない。
真剣に小説家を目指している人には、愚かな考えだと思われるかなあ。

460:この名無しがすごい!
07/09/27 00:27:34 x42Ed1tq
自分の作品は大切にして欲しい
例え、それがプロ志望でも趣味で書いていたとしても

461:この名無しがすごい!
07/09/27 00:56:55 gGFqe5Ko
君が言う大切にすると言うのは、著作権の所在をハッキリすると言うことなのかい?

462:( ゚Д゚)
07/09/27 01:21:42 3YGPtg1z
なんだろう、ここだと書きやすいって言うのかな、肩肘張らなくてもいいような感じがするんだ。
作品を大事に思ってないわけではないけれど、ここの気軽さ、他の人の作品がすぐ読めること、沢山の人に見られているかもしれないっていうのがいいと感じてる。
気楽な企画みたいな感じだからね。まとめて投稿することで「完成」するかもしれない。

あぁ、うまくまとめられない……。


463:ジル
07/09/27 02:20:23 ihGlULwq
あたしはね、お題とかを出されると無性に書きたくなるのよ。
なぜかは分からないし、むらっけがある人間だからいつもってわけでもないけど。
ここに投下するのは、書きたいって気持ちにさせてくれたのがこの場所だから。
もちろんこの子達は大切だし、このまま倉庫入りさせるのもかわいそうだから、
まとめてなろうに置いておきたいんだけどね。


464:この名無しがすごい!
07/09/27 02:42:17 c2wUO0A0
>>454
解りやすくまとまってていいと思う。
疑問がわかず、すんなり入れて余韻がある。

465:この名無しがすごい!
07/09/27 17:30:07 ZVfCfmAs
>>458
作品は大切だが、
それが自分の物であることは大切じゃない、ということじゃないか?

466:( ゚Д゚)
07/09/28 00:16:33 3e9FTitY
どもー。テンションがちょいとおかしいのですが、努めて普通になるようにしてます。
バイクうっさい!!
今回のお題は募集したなかからひとつ、自分がひとつ出す形です。お題はこれに決めました。

【うさぎと兎と卯】
【グッドバイ・セレナーデ】

寝不足はいけませんね。

467:この名無しがすごい!
07/09/28 18:22:34 uSCPe2uS
ここに投下した物をなろうに投稿しちゃった者です。
先走ってごめんなさい。

ここの作品をまとめてなろうに投稿するというのは面白いと思います。
その際、2ちゃんの名前を前に出すのはやめた方が無難かな、と私は思います。
偏見はまだまだ根強いのではないかという私の偏見がそう言っています。
これから実現に向けて頑張っていただきたく候。
その場合、すでに投稿した物はどうしたらいいでしょうか。
入れないのが無難でしょうか。やはり。

468:ついでに投下
07/09/28 18:24:01 uSCPe2uS
【グッドバイ・セレナーデ】

 都会の片隅にある小さなバー。
 薄暗い店内、どこか遠くから聞こえてくるようなピアノの調べ。
 白いシャツの上に黒いベストと黒い蝶ネクタイを締めた、白髪をオールバックにして白まゆ毛が異様に長いバーテンダーが、全身カタカタ震えながらシェイカーを雑巾で拭いている。
 その前にあるカウンター席では、男と女がグラスを傾けていた。
 スーツ姿がその人生に染み付いたような40半ばの男は、スコッチをコーラで割った代物を茶碗で飲みながら、隣の女の方を見ないよう独り言のように口を開いた。
「君が、そうしたいのなら……私から何も言う事はない」
 何かに疲れたような、けだるい表情を見せる女は、やはり男の方を見る事無くドライマティーニ梅酒割りをストローで喉に流し込んだ。
「……引き止めないのね」
「私にはその資格はない。そうだろう?」
 はじめて女は男の横顔を見た。バーテンダーは棒立ちの状態から突然滑って転んだ。
「じゃあ、私達はここで終わり……ね」
「ああ」
 二人の視線がはじめて交錯する。男の目が優しく微笑んだようにみえた。
「君の門出に送りたい歌があるんだ……マスター、マイクを」
 男が伸ばした手に、ようやく起き上がったバーテンダーがすりこぎを渡した。
「マスター、例の曲を」
 バーテンダーがよぼよぼとプレイヤーへ歩いて行きレコードを替えた。一瞬の静寂の後、店内に佐渡おけさボサノババージョンが鳴り響く。
「シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ」
 男はとろんとした目で立ち上がると、流れる音楽に逆らうように持っているすりこぎに向かって声を張り上げた。
「ふふ」
 男の様子を見ていた女は、表情に笑いを閃かせると、バーテンダーに向かって口を開いた。
「私も歌いたくなったわ……マイクをちょうらい」
 女の言葉にバーテンダーはラベルに「鬼ごろし」と書かれた一升瓶を手渡した。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ」
 女は手渡された一升瓶に口をつけると喉を鳴らして豪快に飲んだ。
「ぷはあー」
 女は据わった目で息を吐き出すと口の周りの酒を手で拭う。
「うるあー、一番サード義美いきまーす」
 女は椅子から立ち上がり一升瓶をバットに見立てて逆さに持った。中身がどぼどぼと床に流れ落ちる。
「かきーん!」
「しゃぼん玉飛んぶぐおっ!」
 女のフルスイングが男の臀部にクリーンヒット。男の意識は場外に飛んでいった。
「きゃはははは。マスター、マイクおかわりー」
 そこまで言うと、女はゆっくりと崩れ落ちるように床に横たわり、何かが途中で壊れているようないびきをかきはじめた。
 その様子を静かに眺めていたバーテンダーは、大リーグ養成ギブスを何個もつけたような動作で引出しからマイクを取り出し、細かく振動しながら口元へマイクを近づける。バーテンダーがうちあげられた鯉のように口を開いた瞬間、ヒューズが切れて店内は闇に包まれた。

 都会の片隅にある小さなバー。
 闇に包まれた店内からは、南無阿弥陀仏という囁きが止む事無く聞こえつづけたという。

469:むりやりw
07/09/29 03:47:39 FnHUtEt4
  「うさぎと兎と卯」byジル

 一日の仕事が終わり、今日は何を食べようかなぁっていろんな料理を思い浮かべながら、ボロ事務所から出たそのときだった。
「よう、ミキ。飯食いにいかね?」
 そんな男の声を聞いたのは。
 よっしゃあっ! きたあ!
 わたしは、心の中でガッツポーズを決める。
 ほら、わたしってスタイルがいいわりによく食べるから。ギャル○根っているじゃん。あれをちょっと可愛くした感じ。見た目も、食べる量も。
 だから、わたしに言い寄ってくる男たちは、みんな食べ物で釣ってくる。毎月食費が助かってます。
 心の中でお礼なんぞを言いながら振り向いたわたしは、笑みを頬に貼り付けたまま凍りついた。
 幸彦かよ。ダメ。こいつだけは無い。
 そんなわたしの心中も知らず、こいつは肉まんを二つくっつけたようなほっぺたを震わせながら、グフグフ笑っている。
 大体、デブってわたし嫌いなの。食べただけ脂肪になるって、なんて貧乏性。食べたら出す。こうじゃなくっちゃ。
 ギャル○根より可愛いぶん、わたし味と男の好みはうるさいのよね。いや、あの子の男の好みは知らないけどさ。
「そうねぇ。今日は兎料理を食べたい気分かなぁ。それだったら付き合ってあげてもいいよ」
 わたしって優しいわぁ。むげに断ったら、かわいそうだもん。いくらデブでも。ここから半径二百キロ以内に、兎料理を出すお店が無いのはリサーチ済み。名づけてかぐや姫作戦。
 自分で晩御飯を調達しないといけないのはちょっと痛いけど、こいつと食べるよりはまし。でも。
「いいよ。いい店知ってるから」
 ちょっと困った顔をしたあとで、なにやら気色の悪い笑みを脂肪の上に浮かべた幸彦の答えに、わたしの心は大きく揺れた。
 あるの? 兎料理を出すお店。
 鶏肉のように淡白で癖が無く、それなのにしっかりとうまみがつまった柔らかな食感、というもっぱらの噂。実はまだ食べたことないの。
 食したいっ! 心行くまで頬張りたい。そうよ。こいつの財布を軽くして、ダイエットに協力してあげるのも立派なボランティア。
「行こうっ!」
 そしてわたしは、妙に運転席側に傾いた軽自動車の助手席に乗り込んだのだった。

 結構きれいなお店じゃない。幸彦がこんな店を知ってるなんて、ちょっと意外。ていうか、こいつだけ浮いてる。
……ってことは、こいつの連れのわたしも浮いてる? やだなぁ。でも兎料理のためだ。がまんがまん。
 注文は任せてくれっていうから、どんな料理が出てくるのか分からないけど。でも、周りのテーブルを見ると期待できそう。早く出てこい兎料理。
「お待たせいたしました」
 よっしゃあっ! きたあ!
 って……ハンバーグじゃん。てっきりシチューか何かだと思ってたのに。しかも小さい。
 私は幸彦の顔をちらりと見る。相変わらずグフグフ笑ってる。う、食欲が失せた。この量でちょうどいいかも。
 まあいいわ。兎料理には違いないんでしょ。気を取り直して、早速ハンバーグにナイフを入れる。柔らかい!
 切り口にソースを絡めて、口に運ぶ。いい香り。ゆっくりと歯を立てる。やっぱり柔らかい……あれ?
 わたしはちょっと眉をひそめた。確かに淡白は淡白なんだけど。淡白すぎない? 兎肉って、こんなもの? そりゃ、確かに牛や豚とは違うけど。
 もう一切れ。なんかこの味、覚えがある。もう一度幸彦を見る。もう、笑ってんだか潰れてんだか分からない。
「ねえ、これって……豆腐ハンバーグじゃない?」
「そうだよ?」
 うわ、さらりと認めやがった。ミンチにされたいのか。
「あんた、兎料理を食べさせてくれるって言ったじゃん」
「だから、豆腐ハンバーグっておからを使うだろ」
 そう言うと、デブはテーブルの上に字を書いた。脂ぎってるから、何もつけてないのにちゃんと字が読める。
“卯の花”
「卯って、十二支で兎じゃん。嘘は言ってないよ」
 なんだそりゃあああ!
「うううう、さぎだぁ」

 そのあとメニューの上から下までを注文して、ささやかな復讐心とお腹を満たしたのは、言うまでもない。
 泣いてやんの。ザマァ。

(fin)

470:ジル
07/09/29 03:56:28 FnHUtEt4
>>467
PNはそれと分からないようなのにして、キーワードに2ちゃんって入れるのはどう?
俺女さんやシロナガスさんもそうしてるけど、それだったら大丈夫そう。

471:467
07/09/29 18:14:06 t/R8eeoQ
>>470
それはいいかもしれませんね。
タイトルはどんな感じなのを予定しているのでしょうか。


472:この名無しがすごい!
07/09/29 21:44:14 Hx2hbng4
>>471
タイトルって、連載にしたときのかしらね。
あたしはタイトルのセンスがないのが自慢だからw
それはやっぱりへぼたん?
それか、いいアイデアがあれば、出して~。

>へぼたん
もし忙しいようなら、勝手にID取っちゃうよ?
どうする?

473:( ゚Д゚)<うさぎと兎と卯
07/09/29 22:40:42 15zCMnk4
 満月が照らす縁側に、うさぎはちょこんと座っていました。
街頭の少ない田舎の月夜には、鳴る虫の音がよく響いています。うさぎはじっと月を見ていました。
「月には卯がいるんだよ」
 うさぎはそう口にしました。青白い庭で、黒い兎がもしゃもしゃと葉っぱを食べています。
「どっかの誰かは月には蟹がいるなんて言ってるらしいけどね」
 うさぎは団子をひとつ食べました。お月見用として準備した団子をぱくぱく食べていきます。
「卯はね、いつも月の裏側で激しい戦いを繰り広げているの。敵はどこからともなく湧き出てくる大きな蛆虫。
蛆は月を覆いつくさんと日夜月の裏側から表側を狙っているの。
 もし月の表面が大きな蛆で多い尽くされちゃったとしたら、毎日が新月みたいになっちゃう。気持ち悪い蛆虫で月は見えなくなる。あたしはそのことが怖い。こう背筋にぞくぞくっとくるの。
本能的な恐怖だと思うんだ。だからあたしは月に消えてほしくない。もちろんその輝きがってことだけどね。あたしは絶対にそんなことは認めない。
 卯たちはね、そんな月の輝きを守るために毎日戦ってるの。月の裏側と表側との境界線で蛆虫を駆逐してる。
 卯たちはね、すっごい武器を持ってるんだ。ライトセーバーって言ったっけ? あれのすっごい大きなやつとか、一度撃つと弾が幾千幾万にも分かれて敵を強襲する銃とか、そういったものに変形する武器。
それらは蛆虫を滅茶苦茶いっぱい倒せるの。巨大ライトセーバーは一振りで千の蛆虫を焼き切るし、銃は、あ、言ってなかったけどその銃って追尾機能も付いててね、最終的に弾は一ミリに満たないくらいになっちゃうんだけど、当たるとすごいの。
だからね、銃一個で、使い方しだいでは五千匹ぐらい倒せる。
 ここまでだと、卯の方が圧倒的に有利に思えるでしょう。でもね、敵はそんなにやわじゃない。一匹が五メートルぐらいある蛆たちは、ほんとに一体どこから来るのか、殺しても殺してもきりがないの。
刃を一振り、銃を一度ぶっ放して目先の数を減らしても、全然。いつか倒した場所でまた現れて、より機敏に動き、より身体を丈夫にして現れるの。
 奴ら蛆虫のクセして十メートルくらい飛び上がるんだ。速い時は卯たちよりも素早く動く。まあトラックの大群が一斉に押し寄せてくる感じかな。その外見は酷いもんだけどね。
 だからね、卯と蛆虫との戦いは今も続いているの。月の裏側。いつこっちに現れても仕方のない場所で卯は戦い続けているの。終わりなどどこにも見えないのに」
 うさぎはそう言うと少し顔を曇らせました。その面影には、重ねた月日の分だけの重みがありました。
そんなうさぎが伸ばした手。団子を掴むことはありませんでした。うさぎは驚いて団子があったはずの盆を見ます。
黒い兎がもしゃもしゃと口を動かしていました。その瞳はじっと一点を見つめているようで、遠く遠く、虚構の先を見つめているみたいでした。きっと今うさぎの心は悲しさでいっぱいなはずです。
 盆の上でもしゃもしゃしていた黒い兎の耳が、突然ぴくっと強張ります。動いていた口が止まり、ひげがぴんと張ります。そうして機敏な動きで月を見上げました。
 月の境界線がざわめきだしていました。
『どうする?』
 響く重低音がうさぎに尋ねます。うさぎの拳は震えていました。
『別にお前が行かなくても卯の者には代わりが何人もいる。奴らはじきにいなくなるだろう。だが、お前はそれでいいのか?』
 黒い兎は淡々と語りかけます。
『お前が守りたかったものは何だったんだ?』
 直後、うさぎを中心にして淡い銀色の光が辺りを包みました。かつて、卯の者たちに銀の破壊神と呼ばれていた由来がこれでした。前を向くその瞳に、決意は固く。
『どうする? 行くのか?』
 少々楽しそうに黒い兎が聞きました。その足元はすでに霞み始めていて、声がかかれば今にもモードを変えられる状態でした。
「うっさい、ボケーーーー!!」
 うさぎは強く答えました。同時に黒い兎に向かって鉄拳が飛びました。
 吹っ飛ぶ軌跡は、まるで月面宙返り。
「あたしの団子返せやゴラーーーーー!!」
 月夜のリンチは、少々えげつないものになりました。
 そして僕はそんな光景をほのぼのと眺めているのでした。


474:( ゚Д゚)
07/09/29 22:47:46 15zCMnk4
意味不明、つながりがグダグダになってしまいました。しまったなぁ。
>>467
先に出してしまった短編は、不都合でなければまとめにも乗せたいと思います。
その場合名無しとして掲載することになってしまいますが…

>>471
ID取っちゃって取っちゃって。

どうします?一番は連載かなと思いますけど。その方がすっきりしますし。
確認ですが、投稿した際に表記する名前はここでの名前ってことですよね?
決まってないのならそうしませんか?2ちゃんねるからのって事で。
タイトルですか…考えていませんでしたねえ。どうしようかな。ちょっくら考えてみます。
あと決めなければならないのは、なんかありますか?

475:この名無しがすごい!
07/09/29 23:28:41 Hx2hbng4
>>474
一応取ったけど……
匿名掲示板だと連絡取りづらいわよねぇ。
ダディさんとか467さんはまあ分かるとしても……
とりあえず掲示板も借りたから、へぼたん覗いてみて。
URLリンク(o.z-z.jp)

476:( ゚Д゚)
07/09/29 23:53:27 ciToobrY
お題考えましたので……
微妙かも……

・きまぐれストーリーテラー
・ラブリーチルドレン
・スターダスターズ
・ショートショートシネマ
・劇場『すぽっと』
・そらたかく
・はな咲く小道
・わたくしごと
・ワタクシゴト

自分は“劇場『すぽっと』”か、“はな咲く小道”のどちらかがいいかなと思っております

477:ジル
07/09/30 00:19:23 ezNnmO7F
>>476
あたしは“劇場『すぽっと』”がいい。

478:467
07/09/30 19:55:38 PnbMeeGY
>>474
私の方は特に不都合はありません。
名前はやっぱり「名無し」でしょうか。

>>476
多っ
お題候補だったりするのでしょうか。
その中から選ぶというのなら“劇場『すぽっと』”で。

479:( ゚Д゚)
07/09/30 23:21:58 w4wLn8R3
>>478
ひゃあ!ま、間違えました……お題ちゃいます。タイトルでした。

名前の方ですが、ご自分で好きなハンドルを考えていただけたら、そのハンドルを使うことも出来ますよ。

480:この名無しがすごい!
07/09/30 23:41:26 4RIxwS+2
>>479
メッセ送れそうな人に、タイトル候補のこととか、大体の概要を今のうちに伝えたら?

481:( ゚Д゚)
07/09/30 23:49:03 w4wLn8R3
>>480
そうですねぇ。動きはありますよ。分からない人はどうしようもないんであれですが……。

482:ジル
07/10/01 00:05:31 r+u0rMdx
とりあえず劇場『すぽっと』でいくつか投稿しちゃうからね。
変えるんだったら後で変えましょ。

483:ジル
07/10/01 02:10:23 r+u0rMdx
今日の作業は終わり。眠いの。

よかったら覗いてね。
とりあえずコテの作品を4篇ほど載せといたから。
しばらく様子を見て許可をいただけた名無しさんたちの作品も
順次掲載していきます。
「お題」by名無し
ってサブタイトルにするつもりだから、ここだけコテ付けたいって人は教えて。
後は作者用の掲示板に連絡事項は書くから……ZZzzz

忘れてた。
名無しで書いた人で、まとめに投稿してもいいよって人は
この作品はおkっていうのを教えてください。
ジルちゃんからのお願いφ(_ _)。oO

484:この名無しがすごい!
07/10/01 19:49:44 1Tfv5OWZ
ここに名無しで投稿したけど、劇場スポットに載せていいって人はメッセで修正したやつを送ればいいんですか?

485:( ゚Д゚)
07/10/01 23:14:33 NoJ0HZN1
>>484
うい。それで大丈夫です。
多分

486:ジル
07/10/01 23:36:49 /AYyCphr
たっだいま。

>>484
ありがとね。それでいいわよ。
お名前欄に、byの後に書き込みたい名前を書いておいてね。
名無しがよければ、「名無し」でかまわないから。


487:( ゚Д゚)
07/10/01 23:52:29 NoJ0HZN1
見たよ、劇場『すぽっと』。リンクとかナイス!

さて、劇場『すぽっと』も晴れてなろうに投稿となったけど、これからもお題をここで発表して、文章も貼るという形でやっていっていいのかな?
お題だけを発表して、文章は証明係にメッセで送るという形もあるけど……

とにかく、これからもお題は毎週金曜日になった瞬間に発表していきたいと思う。
で、ルーズだったけど、大まかな輪郭をなぞってみた。

・発表したお題に対する文章の創作期間は一週間。お題はふたつ(参加者が増えたら増えるかも)とする。
・参加者はそこから自由きままに書いていく。多くてもふたつまで。もちろん書かなくたっていい。同じお題を違った見方で書いたり、また、ふたつのお題を同時に使った作品(この場合お題をいくつ合わせても可能)もオッケー。
・枚数の規定は特になし。でも、四千字ないし五千字を超えてくるのはあまり貼らない。

どうかな?
あと、劇場『すぽっと』投稿する人の紹介を、楽屋でやっるってのはどうだろ?

488:ジル
07/10/02 00:35:06 VgcorTqb
>>487
とりあえずあんなもんでよかったかしらね。

お題小説の投下は今までどおりここでいいわよ。
もしこのスレが埋まるまで続いたら、専用のスレを立ててもいいと思うけど。
でも、ここに書かずにメッセに直接送ってくれても、ちゃんと掲載するから。
書く人に任せるわ。あたしは書けたらここに投下するけどね。

作者の紹介は、名無しのままでいたい人もいるでしょうし。
名無しさん次第だと思う。

489:( ゚Д゚)
07/10/02 01:03:19 O76xBhAO
>>488
そうですな。はい。了解しました。
楽屋にここの概略を貼っときますね。

490:ジル
07/10/04 00:20:39 IuHYv4ll
467さんの「ダンシングチェーンソー」、投稿したわよ。
本来のPNで投稿済みの作品だから、問題があるようだったら言ってね。
484さん、待ってるわよ~。

491:( ゚Д゚)
07/10/05 00:12:42 e+4cLesg
そういえば、この前だした『サングラッチェ』ってお題、語感がよかったから選んだけど、イタリア語で“ありがとう”と言う時、『グラッツェ』と言うらしいんです(確証は出来ない……)。
音ってどこかで繋がってるんですかねぇ。なんだか不思議な気分でした。

さて今週のお題です。
【スチューピットは嗤う】
【涙色ドロップス】

カタカナ率高いです。

492:( ゚Д゚)<スチューピットは嗤う ※注グロ
07/10/07 15:17:16 Zk0OMxtN
 深夜。輝く月が雲に隠れ、深い深い闇が訪れる。路地を歩く人影はない。住宅地は心細くなるような静寂に包まれている。家々は眠りの中に沈んでいた。
 そんな中、その家は、濃密な臭いで溢れかえっていた。足元から絡み付いてくるかのような、肌まで染み込む血の臭い。明かりが一つも点いていない家は、不快な生暖かさを有していた。
 誰もが寝静まっているはずのこの時間帯に、何か動くものがあった。それは、絶え間ない上下運動を繰り返している。下にそれが動く度に、勢いよく粘着質な物体を握り潰した時のような、くぐもった水気を含んだ音が辺りに響く。振り上げては、響く。振り上げては、響く……。
 厚い雲に覆われていた月が、その輝きを取り戻す。開いたカーテンの隙間を縫うようにして、青白い光が射し込んで来る。瞬間、狂気の笑みが浮かび上がった。
 三日月形した双眸。そして、限界まで引き攣り硬直したかのうよな口。真っ赤に染まった少年の顔には、相応のあどけなさなどもうどこにもない。振り上げては、響く。肉が潰れていく。
「ねえ、ママ。ぼく良い子でしょ」
 疲れたのか突然手を止めた少年は、荒い呼吸を整えることもせず、跨る母へと問いかけた。もう何も映していない母の瞳。虚ろを望むばかりの瞳に、少年は問いかける。
「ねえ、ママ。ぼく良い子でしょ。ママを苦しめてた奴を倒したんだよ。ちょっと待ってて。こいつがママを苦しめてたんだ」
 そう言うと、少年は母の腹部へ、準備した包丁の刃がぼろぼろになるまで繰り返し突き刺した腹部へ手を突っ込んだ。
 血の海に手が潜っていく。細切れになった肝臓を掻き分け、昨晩食べたものが溢れ出した胃を退かし、消化液の黄色や黄土色に染まった小腸に手を浸して、それを探す。やがて純粋な笑顔が輝いた。宝物を見つけた子どものような顔で、目的のものの一部を取り出す。

493:( ゚Д゚)<続き
07/10/07 15:18:25 Zk0OMxtN
「ほら、これがあいつの手だよ」
 それは、最早出産を待つばかりにまで大きく成長した胎児の掌だった。胎児は少年の手によって原型を留めないまでに切り刻まれていたのだ。母の胎内に守られていたはずなのに。
「ねえ、ママ。こいつがママを苦しめてたんだよ。ぼくのママを、ぼくだけのママをずっと苦しめてたんだよ。……ぼくだけのママだったのに―」
 ―こいつが横取りしたんだ!
 少年の顔は見る見る憎悪に染まっていく。怒りが、悲しみが、少年の身体を震わせている。ついには手にした掌を握り潰してしまった。鮮血が母の体内へと滴り落ちる。そこで二人は混ざり合っている。
「ね、ママ。ぼく、ママのことを思って、ママを助けたよ。もうきっと、苦しまなくても大丈夫だよ。ね、ぼく、良い子でしょ」
 そう言って、少年は母の顔を両手で掴む。真っ赤に染まった両の手で己の母の顔を掴む。
「だからね、ママ。笑って。あの頃みたいに、良い子だねって笑って撫でてよ」
 語りかける瞳はただ虚空を見つめるばかりで。
 少年は母の口の端に包丁で切り込みを入れ始めた。小さな口が、徐々に裂けていく。欠けた包丁は、すんなりと刃を進めてはくれないようだ。少年は苦心して母の口の裂いていく。やがて作業が終わると、満足そうに微笑んだ。限界まで引き攣った笑顔が、さらに嗤う。
 少年は母の腹に立ち、奇声を上げながら跳躍を始めた。何度も何度も高く舞い上がり、力の限り踏みつける。肉片が辺りに散らばっていく。血が飛沫を上げる。あの音が、先程にも増して大きく響き渡る。
 真っ赤に染まった少年は、奇声を上げながらも嗤っていた。見上げる母の大きな口は、見事な三日月形をしていた。


494:パンストマン
07/10/09 02:21:37 yZzHJTe0
【涙色ドロップス】

 暇さえあればノスタルジーだのセンチメンタルだの、虚ろな目をしたメルヘン共がのさばる季節。それが秋だ。
 別にその事に対して文句はない。実際僕だって、風呂屋の壁にでかでかと描かれた富士山なんかを見て、『ああ、古き良き銭湯伝統の~』うんぬん思う時はあるのさ。
 ただ、秋は人が恋しくなるとか言いながら、あちらこちらの大学の文化祭をはしごして、血眼になって娘子を探すあいつには我慢ならない。
 だいたいあいつはいつでも恋の季節だの愛への旅立ちだのと喚きやがるのだ。
 一番我慢ならないのは、季節が変わる度にセンズリみたいな格言を残すことだ。気取った台詞をしこしこ考えたのかもしれないが、聞かされるこっちとしては、焼いたサンマもひっくり返したい気分だ。

495:パンストマン
07/10/09 02:25:53 yZzHJTe0
 夏には『打ち上げ花火ではなく、線香花火みたいな恋をしたい』などと突然言い出して、蒸し暑い夜にもかかわらず鳥肌が立った。
 冬には『俺のハートに粉雪が落ちた』と、それって失恋じゃねえかと言わざるを得ない台詞を残し、春にいたっては『もうすぐ春だから恋をしてみるか』と、キャンディーズ並の直球だった。
 そして、今回の秋。嫌々耳を向ける僕に、あいつが言った台詞は、『空色ドロップス』だった。 耳にした瞬間、時が止まった。
 意味がわからん。ふと見ると、道ばたのガードレールに連なって止まっていた赤トンボが、一匹残らず飛び去っていった。
 おおい、置いてかないでくれよ。

496:ジル
07/10/09 03:11:18 9ZWuOJwi
パンストマンさん、へぼたんお題に参加してくれてありがと(*'-^)-☆
あの、上の作品、劇場「すぽっと」に投稿しても大丈夫かしら。
最初だから、勝手に投稿しちゃいけない気がするから、よかったらお返事ちょうだい。

497:スチューピットは嗤う
07/10/10 13:58:55 YtvhOFD8
立ち上る白い煙を見ても、結局何も感じなかった。
黒縁入りの写真を片手にぶら下げて、少年は後ろの壁に寄りかかる。拍子に写真の額の角も壁にぶつかる音がしたが、別段気にはならなかった。
ただ、黒い学生服の背中越しに伝わってくる冷たさが予想以上にひどくて、気が付くと少年は、自分がたった今まで立っていたその場所に、座りこんでしまっていた。
まるで全身の力を吸い取られたかのよう感覚に、どうしたんだよ、と小さな呟きがこぼれる。
うつむいた少年の視界は、上と左右を己の黒い髪に遮ぎられ、暗く狭い。
唯一見える靴には泥がこびりついて、足を動かすと乾いた土がいくつかはがれ落ちた。ほどけかけの靴紐がさらに緩む。
瞳から流れ込む映像はあまりに明瞭だった。
「少しも滲まないんだよなぁ…」
少年は写真を腕の中に引き寄せて、もう一度煙を見上げた。白い線は揺らめきながら青い空を左右に分け、最後には段々薄くなって消えていっている。よく見れば少し灰色がかってもいる。
ふいに、どこからか泣き声が聞こえてきた。ような気がした。
幾人もの人達の喉から漏れる嗚咽がおり重なって、辺りには息吐く暇なく叫びにも似た誰かのひきつった声が響いている。
しかし少年は、その全てが気のせいであることは分かっていた。
ここに来る直前まですぐ間近で聞いてそれが耳の奥にへばりついているだけで、あの泣き声たちがここまで届いてるわけではないのだ。…自分を見る、責めるような目だって、届くわけがない。
理由は、別段大したことはなかった。母親が死んだというのに、泣くのはもとより表情一つ変えられないのは多分普通じゃないからだ。
「だってさ、馬鹿だし、僕」
少年はふっと溜め息を吐く。
あの人々の中の誰が、あの母親が自分のことを、毎日のように馬鹿だ馬鹿だと罵っていたことを知ってるだろうか。そう、まるでそれが生き甲斐であるかのような笑顔で。
でも別に、あれは、きっと虐待ではなかった。だから自分は悲しまなかった。けれどそれを愛だとも思わなかった。
泣くとは、そんな心情を持ち合わせてたら、出来ることではないはずだ。だから自分は出来ないし、やらない。
「バイバイ、ママ」
少年は掌を煙に向けた。
ねぇ、愚か者の見送られるのって、どんな気分?
「バイバイ、バイバイ、またいつか」
頬に力を込めて、少年は口の端を持ち上げた。
冗談でもいいのなら、最後に一度くらい愛してるとでも言ってあげようか。

498:( ゚ー゚)
07/10/12 00:19:10 Mpvt3gwt
こんばわ。めっきり冷え込むようになりました。最低気温が一桁のところも多いと思います。紅葉、始まりましたか? ヘボの地区は始まりました。体調管理に気を付けてくださいませませ。

今日はお題発表前にお知らせを。
ここに発表されるお題小説についてですが、劇場『すぽっと』に投稿していいかどうか、現時点ではぱっと分かりません。そのため、確認の連絡が必要となっています。しかし何分面倒です。ですので、これからは変更します。
具体的には、発表したお題のあとに★マークを付けるだけのシンプルなものです。劇場『すぽっと』に投稿していいなら、★マークを付ける。駄目なら付けない。これだけです。
多少面倒ではありますが、これからお願いしますね。

加えて、パンストマンさん、>>497さん。作品について投稿していいのかどうかの連絡をお送り下さい。お願いします。


お待たせしました。それではお題発表です。

【例えば毎朝のコーヒーのような】
【月夜の下でラッタッタ】
ご参加お待ちしてまーす。


499:ひねもす(前半)
07/10/13 02:06:52 uV2WOIas
「例えば毎朝のコーヒーのような」★


「結局……あんたはあたしのことどう思ってるわけ? 言っとくけど、あたしはあんたのお手伝いさんでも何でもないんだからね」
私は思い切ってタカマサにそう言った。幼馴染みのよしみでタカマサのワガママに付き合ってきたけど、もう我慢できない。やれ、生徒会の仕事の手伝いだの、購買行くから付いてこいだの。青春執行妨害で訴えてやろうか。
「そうだなあ……」
タカマサは首を傾げて考えこむような仕草をした。
「毎朝飲むコーヒーみたいだな、忍は」
「は?」
「たった一口だっていい。朝コーヒーを飲むと俺はその日の間ずっと……」
タカマサはそこでいったん言葉を切って、じっと私の方を見た。
「気分が悪くなる」
私はにっこりと笑った。
「……いっぺん、死んでミル?」
「地獄少女!?」
地獄に流してやろうか。
「まあ待て、人の話は最後まで。俺は甘党で苦いものが好きじゃないんだ。コーヒーなんざたとえ砂糖を7杯入れても飲む気はしない。だから俺は毎朝牛乳を飲む」
「そりゃ飲む気しないでしょうよ。7杯も入れたら甘すぎの上にコップの底ジャリジャリじゃない」
「しかしだ忍、聞いてくれ」

500:ひねもす(後半)
07/10/13 02:20:35 uV2WOIas
タカマサは目を伏せて、しみじみと呟いた。
「I have a dream……」
「キング牧師に謝れぇぇぇぇ」
私の声を無視して、タカマサはふっとため息をつく。
「いつか無糖でコーヒーを飲んでみたいんだ。それも毎朝」
「なんでよ」
「なんとなくカッコいーじゃん?」
一生牛乳飲んでろ。
「まああれだ。憧れってやつだな。毎朝飲むコーヒーは。俺にとっての忍もそんな感じ」
「……」
ハッ。いかんいかん。こういう甘い言葉で惑わしてくるのがタカマサの手口だ。
「無糖コーヒーなんて百万年早くてよっ」
しまった、口調が変になった。動揺するな自分。
「いや、俺は日々進化をとげている。無糖コーヒーが飲める日もそう遠くはないだろう」
「進化って、例えばどんな?」
「うん、牛乳は無糖で飲めるようになった」
牛乳に砂糖……えっ?

501:この名無しがすごい!
07/10/13 02:25:22 uV2WOIas
すいません前半下げ忘れましたー。

502:497
07/10/13 20:57:18 Q4gPt/cH
>497です
あれは作品としては稚拙すぎるので、出来れば投稿して欲しくないかなと。
というわけで流しちゃってくれたら嬉しいです。
次からは★つけしますね。

503:ジル
07/10/14 22:11:40 maNI1Ju2
>>502
いいと思うんだけどなぁ。
でも了解。次期待してるわね。

504:( ゚Д゚)<月夜の下でラッタッタ☆
07/10/17 21:29:45 h3QcOkhh
 街の灯りはどうしてこんなに寂しくなるんだろう。十月の夜風はどうしてこんなにも冷たいんだろう。
 暗い暗い街外れの高台で、ひとり手摺にもたれかかりながら、私はそんなことを考えていた。答えなど、もうとっくに出ているのに。思考は同じ軌道をぐるぐる回る。広がる夜景はとても綺麗だった。
 夜風がスカートから覗いた足を撫でていく。首筋をなぞっていく。寒さに思わず首を竦めた。マフラーを持って来れば良かった。こんな場所、来なければよかった。少し後悔した。
 空には三日月が懸っていた。
 さっきまで一人でフルコースを食べていた私。出てきたフランス料理は片っ端から平らげていった。ワインは二本空けた。
 素敵な記念日になるはずだった一日は、別れを告げられた不幸な一日となってしまっていた。朗らかに微笑んで、共に晩餐をするはずだったあいつの向かい側の席には、温もりさえ宿らなかった。
 予約したレストランで、一人料理を貪っていた私。不思議と悲しみは込み上げてこなかった。黙々と料理を口に運んでいた。
 一体いくらしたのだろう。払った料金は覚えていない。支払いはカードで済ませた。最中、背中に他の客たちの好奇な視線を感じた。振り向いたが、誰も私を見てはいなかった。声をかけられる。作業を終えた従業員は笑顔でカードを返してくれた。何だか腹が立った。
 見世物じゃないんだ。馬鹿にすんな。
 奪うようにしてカードを従業員から受け取り、店の出口へと向かう。真っ黒なガラスに私が映った。少し気合いを入れてしまった服やアクセサリーが、馬鹿馬鹿しかった。
 その後、どうやってここまで来たのかは分からない。気がつけば、私はこの高台にいた。かつて二人愛を誓ったこの高台に。
 私は今、あの時の景色を見ている。ひとりぼっちで眺めている。
 あいつは、何をしているのだろう。光の街を見ながらふと考える。テレビを見ているのだろうか。友人の所へ行っているのだろうか。もしかしたら、もういる新しい女の所に身を寄せているのかもしれない。
 よく分からない。
 でも、何となくだけれど、それらは違う気がする。そんなこと、あいつはしない。出来るわけがない。そう思う。
 あいつは今、ビールを飲んでいるんだろう。暗い寒いアパートで、一人壁にもたれかかってビールを飲んでいるのだ。多分、それが一番正しい。別れた私に想いをはせては、ちびちびと缶ビールを傾けているのだ。
 もし本当にそうだとしたら、あいつがそんなことをしているのだとしたら。
 私は堪らず手摺の上に組んだ腕に顔を埋めた。
 あいつ、笑ってる。寒さに震える私を想像して笑ってる。
 噴き出しそうになった。何だか無償に可笑しいのだ。
 今日まで、どうしようもない人間同士が馬鹿みたいに愛を語らっていたことが。いつだって自分が傷つくことを恐れて、欺き付き合っていた二人が別れたことが。そしてようやく、別れた今更になって本心で向き合っていることが。
 この上なく、くだらなくて馬鹿馬鹿しい。
 自虐的な笑いが次第に音となって溢れ出していく。月だけが淡く青く照らす広場に笑い声が響いてしまう。
 ああ、何てくだらない! 何てつまらない毎日だったんだろう!
 私は手摺から崩れ落ちるようにして蹲ってしまった。膝に力が入らなくなってしまったのだ。腹を抱えて笑い続ける声は、広場に虚しくこだましていた。
 誰もいない、光もほとんどない広場。望む夜景が美しい広場。私はひとりここにいる。
 笑い疲れた。手は自然と目尻を拭っていた。指先に付いた涙は、寒さをより一層身に染みさせた。
 息を整え立ち上がる。輝く街を見下ろす。もう笑うことはない。
 眠らないこの街のどこかにあいつがいる。私と同じ、くだらない人間がいる。
 二人共に過ごしてきた街は、こんなに大きく、明るく、綺麗だったのに。この景色を二人で見ることは、もう二度とない。
 風が吹く。随分と数の減った虫の鳴き声が細々と聞こえてくる。季節は絶えず巡っている。小さな出来事も、大きな出来事も、全部全部包み込んで巡っているのだ。
 何だか無性に回りたくなってきた。誰もいないこの広場。今夜ぐらい主役を演じてもいいんじゃないだろうか。きっといいよね。
 くるくるくるくる回りながら私は広場の中心へと移動していく。小さく歌を口ずさみながら。手にした荷物を遠心力に任せて放り捨てて、回り始めた。

 ラッタッタラッタッタ お馬鹿な私
 ラッタッタラッタッタ 今宵はひとり
 ラッタリララッタリラ 月夜の下で
 ラッタリララッタリラ くるくる回る



505:柄じゃないってばっ!
07/10/18 00:29:05 WLb3nUxx
   「例えば毎朝のコーヒーのような」byジル★

 僕の目の前で、彼女はテーブルについた薄い傷を見つめていた。
(どうしてあなたは私を見てくれないの。私がまるで月が雲に隠されたように消えたとしても、あなたはきっと気づかないでしょう)
 そう言った彼女の瞳は、やはり僕を見ることもなく、机の上に据えられたままだった。
(何を言っている。初めて僕らが出会ったころのことを忘れたのか。君は僕にとっての太陽だ。君が消えてしまえば、僕は闇に包まれるさ)
 そんな言葉を吐き出しながら、僕の目は彼女の背後に張られた、カレンダーを見つめていた。
 初めて彼女と出会ったのは、二人がまだ中学に通っていたころだ。それから僕たちは、何時も同じ道を歩いてきた。
 出会ってすぐに、僕たちは惹かれあい、同じ高校に進み、同じ大学に学んだ。
 初めてキスをしたのは、中学二年、夏祭りの夜。それからもう、14年が過ぎた。
 そして、初めて肌を交わしてから、十年が経った。大学を卒業し、別々に就職を決めたときは、僕たちはひとつのベッドを共有していた。
 それからもう、六年が過ぎた。同じベッドで眠ることがなくなったとき、僕たちは同じ苗字を共有していた。それから二年が経った。
 二人の間から、一人の新しい命が芽生え、今、隣の部屋で安らかな寝息を立てている。
 もし彼女が太陽だとしても、たとえ絶え間なく僕の目の前にあったとしても。それはまるで極北の白夜のように熱を持たない。
 それは、いけないことなのだろうか……
 だけど彼女は小さく首を振った。
(僕と出会ったことを後悔しているのか。僕と共にいることを悔やんでいるのか)
(そうじゃない。私は今まであなたとずっと一緒にいた。後悔する暇はなかった。これからもきっと悔やむことはない。でも)
 彼女は初めて顔を上げた。そして、すこしだけずれた僕の視線にまるで気づかないように、僕の目を睨みつけた。
(だけど……)
 ずれたままの僕の視線の先には、目尻にたまった涙が、そっと、あった。それはわずかに揺らぎながら、しかし彼女の長いまつげにしがみつき、頬を伝おうとはしなかった。
 そのとき、夜が壁を通して忍び込んでいるこの部屋に、太陽のように明るい泣き声が響く。
「たいへん」
 彼女はそそくさと顔をそらし、隣の部屋に向かう。泣き声に惹かれるように、僕も彼女に続いた。
 薄暗いその部屋に置かれたベビーベッドの中で、僕たちの子供が、まるで園児の描く太陽のように顔を赤く染めて泣いていた。
 どうしたの。そう声をかけながら、彼女が涙に濡れた赤子の頬をぬぐう。小さな手が、彼女の小指をつかむ。
 柔らかな赤子の頬を、この子のものではない涙が落ちて、再び濡らす。それが無性に悔しくて、僕は彼女の肩を抱き、そっと頬を寄せた。
 僕の頬も、彼女の涙で濡れる。それはまるで氷のように冷たい。
「僕たちは、出会ったころの僕たちではないのかもしれない。だけどそれはいけないことなのだろうか。出逢ったころの僕たちには、この子はいなかった。だけど、僕たちの未来に、この子はいる」
 僕は彼女の頬をなで、こちらを向かせ、そしてキスをした。初めてのキスをしたときとは違い、視線を合わせないまま。
 何時しか泣きやんだ子が、つぶらな瞳に涙をたたえたまま、僕たちを見ていた。
「あなたにとって、私はもう毎朝のコーヒーのようなものなのね。無ければさみしい、ただそれだけの存在」
「そうじゃない」
 何時以来だろうか、僕は彼女の瞳の中心を見つめた。そこには、初めて逢ったころの僕とは似つかない僕が映っていた。
「例えば毎朝のコーヒーのように、君がいるから明日が始まるんだ。これからこの子は育ち、僕たちが出会ったように誰かと出会い、僕たちが愛し合ったように誰かを愛し、僕たちがそうであるように、誰かと未来を築くだろう。
 僕たちは変わったかも知れない。僕たちはこれからも変わるかもしれない。だけど、絶対に変わらないものがある。あの花火の下での約束を、覚えているか」
 それは、僕たちが始めてキスをした、二人の未来がひとつに重なった夜。彼女は僕の方に額を預け、そしてうなずいた。
(ずっと一緒だよ)(ずっと?)(そう、ずっと)
 夜が明けると、きっと彼女は僕のためにコーヒーを入れてくれる。それを飲んで、僕は出かける。変わらない毎日は、それでも少しずつ変わってゆく。だけど僕の隣には、いつも彼女がいるだろう。
 
―そう、ずっと―


(fin)



506:へぼ
07/10/19 00:09:47 weJQndM8
ども。鼻水が素晴らしいことになっているへぼです。止まりません。鼻が通りません。誰か助けてください。

はい、そんなわけで、お題発表。例えばシリーズ大二段です。

【例えば猛進する猪のように】
【靴ばこの中の戦争】

自分が言い出しっぺのくせに、早速★を間違えたのは秘密です。

507:( ゚Д゚)
07/10/19 00:12:31 weJQndM8
ども。鼻水が素晴らしいことになっているへぼです。止まりません。鼻が通りません。誰か助けてください。
はい、そんなわけで、お題発表~。シリーズ例えばの第二段。三段は今のところありません。

【例えば猛進する猪のように】
【靴ばこの中の戦争】

自分、言い出しっぺのくせに、早速★を間違えたのは秘密です。

508:∑(;゚Д゚)
07/10/19 21:22:46 weJQndM8
来てみたら恐ろしいことに……
ミスりました。スイマセン……

509:この名無しがすごい!
07/10/25 10:33:00 5PBCVT3S
すいません質問です。文中に歌の歌詞を書くのはアリですか?勝手に書いたら著作権とか触れたりしないかな。

510:この名無しがすごい!
07/10/25 18:47:03 M5GAXhhd
>>509
心配なら、出典名を記しておけばいいと思うよ。

511:この名無しがすごい!
07/10/25 21:55:24 odgAYeUr
歌の歌詞は JASRAC に許諾を取らないとやばくなかったけ?


512:この名無しがすごい!
07/10/25 22:49:53 5PBCVT3S
やはりまずいですか、英語の歌を和訳したのをちょろっと載せてもだめですよね。

513:( ゚Д゚)
07/10/26 00:26:43 5t0BAaBe
>>512
難しいところですね。分からない以上、やらない方がいいのかもしれません。


……あー、出ませんでした。ネタが。ウヒョ。前のはできませんでした……くそぅ……

しかし、それでもどんどん出ていくのがお題です。今回も無論出しますよ。
あ、勿論、過去のお題をやってもらって、発表してもらっても構いません。寧ろ嬉しいです。でも新しいお題は出します。オッパッピーです。

さて。寒くなると鼻が詰まりませんか?自分詰まって辛いんです。
そんな十月。終りが差し掛かってきました。でも、ハロウィンがありますね。日本には何でも定着します。グローバルって恐ろしい!
ってなわけで発表。

【ジャックの贈り物】
【喫茶『葛の葉』】

偉人の産まれに伝説あり。考えられませんが。



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