09/09/04 16:57:35
シンポジウム「いま『言語力』が危ない 読書はことばを救えるか」(朝日新聞社・(財)
文字・活字文化推進機構共催)パネル討論における作家・平野啓一郎の発言
価値観の違う人たちがいて当たり前の世の中を生き抜くには、言葉を使ってお互い
の考え方を調整しないと。フランスで1年暮らして痛感したのですが、とにかく言葉が
できないのは圧倒的に不利。自分の考えをうまく伝えられず、相手のことも理解でき
ず、ストレスもたまる。豊かな言語を持っていれば、その分生きていきやすい。
今は膨大な情報を急いで処理しなければならない時代。だからこそ一方でじっく
り味わって本を読み、情報を的確に解釈できる力をつける必要があると思います。
いまやネットで検索すると、ドストエフスキーの作品の標準的な解釈まで載っている。
「標準」にとらわれると、ものの考え方が平板になってしまう恐れがあります。誤読する
ことで、読者の読む力、考える力は発展してゆくものなのに。そうした現実も踏まえて
おきたい。
小学生のころ、学校で紹介される本が面白くなくて、読書が好きじゃなかった。当時
周りには、両親が離婚したり、施設に預けられたり、過酷な現実を生きている子がい
くらでもいたのに、薦められる本は「いい話」ばかりで。ただ、今の若い人たちには、
「読みたい気持ちはあっても、あまりに本が多すぎて、今の自分が読むべき本が
わからない」という現実もあると思います。
僕たちは一方的によい、悪いが通じない時代に生きている。相手が何を考えてい
るのか、まず理解しなければならない。その上での賛成、反対ですから。
そのためにも、言葉の力を鍛えることは大事だと思います。