08/05/21 16:50:00
私もそのころの太宰氏と同年配になった今、決して私自身の青年の客気を悔いはせぬが、そのとき、氏が初対面の青年から、
「あなたの文学はきらいです」
と面と向かって言われた心持は察しがつく。私自身も、何度かそういう目に会うようになったからである。
…こういう文学上の刺客に会うのは、文学者の宿命のようなものだ。
もちろん私はこんな青年を愛さない。こんな青臭さの全部をゆるさない。
私は大人っぽく笑ってすりぬけるか、きこえないふりをするだろう。
ただ、私と太宰氏のちがいは、ひいては二人の文学のちがいは、私は金輪際、
「こうして来てるんだから、好きなんだ」などとは言わないだろうことである。
三島由紀夫
「私の遍歴時代」より