太宰治「走れメロス」のメロスってどうよ?at BOOK
太宰治「走れメロス」のメロスってどうよ? - 暇つぶし2ch22:吾輩は名無しである
06/11/05 14:49:38
 鈴木義彦は激怒した。かならず、かの邪智暴虐の社長を除かねばならぬと決意した。
鈴木義彦には経営がわからぬ。鈴木義彦は、開発室の技術者である。
図面を引き、製品の強度試験をおこなって暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍敏感であった。
きょう未明鈴木義彦は五反田の工場を出発し、野を越え山を越え十里はなれたこの本社ビルにやってきた。
鈴木義彦には父も、母もいない。女房もない。十六の、内気な妹と二人暮しだ。
この娘は、工場のある律儀な一工員を、近近、花婿として迎えることになっていた。
結婚式も間近なのである。鈴木義彦は、それゆえ、こまごまとした挨拶回りやら式場が決まったことなどを、
仲人を頼んでおいた昔の上司に報告するために、はるばる本社にやってきたのだ。
まず、挨拶回りを済ませ、それから社内をぶらぶら歩いた。鈴木義彦には竹馬の友があった。
山本達也である。今はこの本社で、営業の仕事をしている。その友をこれから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねていくのが楽しみである。歩いていくうちに鈴木義彦は、社内の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
もうすでに定時は過ぎて、人が少なくなってくるのは当たり前だが、けれども、なんだか、時間のせいばかりではなく、会社全体が、やけに寂しい。
のんきな鈴木義彦も、だんだん不安になってきた。
廊下であった若い社員をつかまえて、なにがあったのか、二年前にこの本社に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、社内は賑やかだったはずだが、と質問した。
若い社員は首を振って答えなかった。
しばらく歩いて清掃の老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。
鈴木義彦は両手で老爺のからだをゆさぶって質問を重ねた。
老爺はあたりをはばかる低声で、わずか答えた。 「社長は社員を首にします」


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