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2007年10月25日 毎日新聞夕刊3版6面
せとぎわ釣り師 うつ病と秋の岸壁
数年前のちょうど今ごろポクは、うつ病で入院していた。医学
的な定義はともあれ、ボクにとって、うつ病とはナンにも面白く
ない、面白がれないということだった。釣りが面白くない、山も
音楽も、落語ですらてんで面白くないのだ。
夏前に発症したボクの病気は、盛夏とともにどうにも身動きが
取れなくなり、そのまま海辺の病院に入院した。治療には静かな
環境と薬、それに十分な睡眠と規則正しい生活がすべて。ほぼ一
カ月、ぼんやりと天井を見上げてウツラウツラしていた。
すっかり秋めいたころ少し回復して外出許可がおりだボクは、
ふと釣りに行ってみようと思い立った。近所の釣具屋でノベ竿と
簡単な仕掛けを買い、近くの岸壁まで歩いた。秋ののどかが固ま
ったような午後だった。
2時間ほど竿を出し、釣れたのは、小さなカサゴが一匹だけ。
それでも、釣れたときに「オオッ、やった」と素直に喜んでいる
自分に驚いた。
その後、天気のいい外出可能日は、ずっと岸壁に通った。浅く
て、てんで釣れない岸壁だったが、釣りは面白がることを思い出
させてくれた。
後にも先にも、この時だけは釣りに感謝した。 (土成謹造)