07/01/27 13:16:40
子供の頃、離婚した父が月に1回だけ会いに来た。
その日は母が朝から出かけて、祖母と待ってると父がやって来る。
1日中父にまとわりつき、一方的に喋る俺を、父は満面の笑みで見つめてくれた。
夕方になると父は帰るので、通りのバス停まで祖母と二人で父を送っていった。
バス停が近くなると俺は無口になり、父の言葉にただ頷くだけだった。
バス停に着くと、バスの来る方角を見ながら、ずっとバスが来ないで欲しいと思っていた。
やがてバスが来ると、父は短く「またね」と言って、祖母に一礼して乗っていった。
顔を上げると、父はやはり満面の笑みで手を振ってくれた。
ずっと、バスが角を曲がるまで、その笑顔がだんだん小さくなっていくのが悲しかった。
やがて母は再婚し、父は来なくなった。
母の再婚相手に俺はなじめず、とうとう「父」とは呼べなかったが、俺と母をきちんと養ってくれた。
少し大きくなった俺は、父のことを口にしないのが礼儀なんじゃないかと思うようになった。
俺は社会人となり、結婚して息子が生まれた。7歳になった息子は俺にすごく懐いている。
単身赴任中の俺は、週末だけ家に帰る。
日曜の夜には赴任先に戻るので、妻が駅まで車で送ってくれる。
去ってゆく車の中から俺に手を振る息子に、俺も見えなくなるまで満面の笑みで手を振っている。
笑顔の人間が心の中まで笑ってるわけじゃないんだなぁと、この歳になってやっと実感できた。