06/11/19 00:18:57 tc9NLznv
>>476の続き
そんなやり取りを見て彼女がお茶を煎れてくれた。
「これ美味しいんだよ食べてみなよ」
彼女も俺に和菓子をすすめてくれた。
今日初めて見せてくれた優しさだった。
彼女は疲れた顔をしていたが
いつもの穏やかな顔が戻ってきていた。
478:1
06/11/19 00:19:35 tc9NLznv
なんだよこれ、、、改行が入らない・・・
479:1
06/11/19 00:24:24 tc9NLznv
>>477の続き
手に取った和菓子をかじると
中に果物やクルミや・・・
何か良く分からないけど色々入ってて
それが堅めの餅でつつまれている
洋菓子の様な味で・・・
食べたことのない食感で・・・
美味しくて・・・
彼女の煎れてくれたお茶も温かくて・・・
三人とも黙って和菓子を味わっていた。
彼女が冷静さを取り戻したことで
俺は安心しきっていた。
480:1
06/11/19 00:26:25 tc9NLznv
こんなに文字が詰まってたら読む気しないよ
ブログの方早めに準備してそっちに移ろうか
481:1
06/11/19 09:45:26 tc9NLznv
てすと
てすと
482:1
06/11/19 09:46:38 tc9NLznv
・・・?
483:1
06/11/19 15:06:04 tc9NLznv
てすと
てすと
てすと
484:1
06/11/19 15:06:47 tc9NLznv
>>479の続き
「おいしい・・・」
彼女が小さく言った。
初めて食べる和菓子の名前を聞こうとして
俺は顔を上げた。
(・・・・!!!)
体の力が抜けて
無防備なところをフルスイングで殴られたような衝撃を受けた。
彼女の目から大粒の涙がポロポロと流れていたのだ。
485:1
06/11/19 15:07:33 tc9NLznv
>>484の続き
「どうして・・・・どうして・・・・」
(えっ!?ええっ!?)
「・・・こんな美味しい物があるのに
・・・・私だって近くに居るのに
・・・・どうして・・・」
(な、泣かないで・・・)
「うっ、うううっ・・・・」
とうとう声を出して泣き出してしまった。
(な、泣かないでよ、もうお願いだから・・・泣かないで・・・)
486:1
06/11/19 15:08:30 tc9NLznv
>>485の続き
彼女の目から溢れる涙を
手で押さえたい衝動に駆られた。
俺の心の叫びも虚しく、
もうほとんど子供の様に泣きじゃくっている彼女。
一番恐れていた彼女の姿が目の前にあった。
(ごめん、ほんとうにごめん・・・・)
彼女の涙に打ちのめされて半ベソの俺は
助けを求め先生を見た。
(俺どうしたら良いですか!?こんな時はどうすれば良いんですか!?)
487:1
06/11/19 15:09:56 tc9NLznv
>>486の続き
「大丈夫だから」
落ち着いた笑顔で言った。
先生は二度うなずいて、俺の肩に手を置いて
座るように促した。
その時初めて自分が立ち上がっていることに気付いた。
先生はそのまま俺を慰めるように肩に手を置いていたが、
そんな事より泣きじゃくってる彼女をなんとかして欲しかった。
488:1
06/11/19 15:10:52 tc9NLznv
>>487の続き
俺は途方に暮れて何も出来ず
そのまま泣いている彼女を見ていた。
先生は2本目のタバコに火をつけ
美味しそうに吸っている。
助けを求め先生の方を見るが
その度にうなずいて見せるだけだった。
489:1
06/11/19 15:13:57 tc9NLznv
>>488の続き
「クライアントの前では絶対に泣くなって何度も言ってるだろ」
タバコの煙を吐き出しながらかすれた声で言う。
何を言っているんだよこの人・・・
「ヒーラーが泣いたらクライアントが動揺するだろ」
もう止めてよ
今そんな事を言わなくても良いじゃないか・・・
「ううっ、ぐすっ、・・・
さとる君はお客さんじゃないもん・・・友達だもん」
子供の様に泣いている彼女が痛々しくて・・・
「そうか、今回はぎりぎりセーフってことにしておくか?」
もう、なんなんだよこの人・・・
一番悪いのは俺なのに腹が立って仕方がない。
そして、彼女の泣きながらの逆襲が始まった。
490:1
06/11/19 15:21:57 tc9NLznv
>>489の続き
「先生!どうしてそんなに汚い格好しているんですか?う、ううっ、、、」
「汚くないだろ。ちゃんと洗濯してあるんだよ。
結構良い服なんだけどな・・・・」
「そんなにシワくちゃで・・・
この前買ってあげたアイロン使ってくれてますか」
「使わせてもらってるよ」
「だったらどうしてそんなしわくちゃのシャツ着てるんですか?うううっ、うう、、、えぐっ、、」
「アイロン使うと余計にシワが増えるんだよ」
「片手で伸ばして掛ければちゃんと使えるのに・・・うううっ
使い方教えたじゃないですか、、、う、ううっ
さとる君に初めて会わせたのに
私が恥ずかしいじゃない!う~う~えぐっ、、、」
491:1
06/11/19 15:23:50 tc9NLznv
>>490の続き
な、なんかよく分からないけど・・・
(そ、そうだ!もっと言ってやれ!)
俺は心の中で彼女を応援していた。
「せっかく買ってあげたのに・・・うううっ
白衣だってあんまりシワだらけだと患者さんの信用無くしますよ、、、ううっ」
「白衣は難しいからクリーニングに出すよ」
「アイロン使わなくても、洗濯物干す時に伸ばしてから干せば
そんなにシワだらけにならないのに・・・・ううっ、えぐ、、、」
492:1
06/11/24 02:42:53 D6UPk+mw
>>491の続き
彼女が泣き疲れておとなしくなると
先生が俺に話し始めた。
服薬自殺は成功率が低く
失敗して一生後遺症に苦しんでいる人達が居ることを
事例を挙げて話した。
さりげない話し方だったが、どの話もリアルで
俺を震え上がらせるのに充分だった。
493:1
06/11/24 02:43:55 D6UPk+mw
>>492の続き
「じゃあ、私はこれで帰るよ
さとるさん家まで送るよ」
俺も彼女も”えっ!?”という顔をした。
「まだ話したいことがあるの」
「もう解放してやりなよ
さとるさんもまいっているじゃないか」
「僕は大丈夫ですから・・・」
このまま彼女を一人にするのが心配だった。
494:1
06/11/24 02:45:02 D6UPk+mw
>>493の続き
「いいから行くよ」
先生の中では俺を連れて帰るのが決定事項のようだった。
「先生にお願いがあるんです」
彼女が慌てて言う。
「先生にさとる君の断薬の指導をしてもらいたくて」
「んっ?どうして?
自分でやれば良いだろ」
「断薬の指導だけで良いの
他は私がやるから」
495:1
06/11/24 02:46:04 D6UPk+mw
>>494の続き
「さとるさんとよく相談しなさい。
二人とも納得したら私のクリニックに通えばいい」
先生は釈然としない顔をしながらも
俺に名刺を渡した。
名刺の裏にクリニックの地図が書いてあった。
彼女のアパートからそう遠くなかった。
明日も彼女と会う約束をして別れた。
496:1
06/11/24 02:47:11 D6UPk+mw
>>495の続き
先生の車は俺にでも高級車だと分かった。
このさえないおじさんと高級車が
合っていないと思った。
たくさんショックな事があっても
こうやってどうでも良いことを思う自分が意外だった。
「彼女一人にして大丈夫ですか・・・?」
車の中は程よくクーラーの利いてる。
「あ~、平気平気」
この呑気な言い方がなんとなくおもしろくない。
いつの間にか俺は自分の立場を忘れている。
497:1
06/11/24 02:48:14 D6UPk+mw
>>496の続き
「随分彼女に厳しいんですね」
特に期待していたわけではないが
この人が彼女の師匠である事実が不満だ。
「ヒーラーは人の命を扱う仕事だからね
常に冷静でなければいけない
あの子はいつもクライアントに感情移入しすぎるんだよ
それは危険な事だと何度も言っているんだけどね」
498:1
06/11/24 02:49:15 D6UPk+mw
>>497の続き
俺は先生の話を理解しようとするより
彼女の悪口を聞いている気になり
腹立たしさが先にたってしまう。
先生が俺の顔をチラッと見て微笑んだ。
(何を笑っているんだよ)
むかつきが止まらない。
「さとるさん。あの子のこと頼むよ」
「・・・・あ、はい」
「はい」と返事はしたものの
何を頼まれたのか分からない。
心配を掛けるなと言う意味だと解釈した。
499:1
06/11/24 02:51:28 D6UPk+mw
>>498の続き
家に着くとホッとしたのか
急に吐き気がしてトイレに駆け込んだ。
(やっぱり限界だったんだ・・・)
体も鉛のように重かった。
今日、俺を先生に会わせたのは
断薬の指導以外に彼女には目的があった。
もうすぐ訪れる別れの後
俺を坂野先生に託すためだった。
別れが近づいていることを
俺はこの時まったく気付いていない。
500:優しい名無しさん
06/11/24 09:07:52 OXGXIpuW
どうなっちゃうのー?!
501:43
06/11/27 01:44:08 kANA9pa6
(・∀・)保守
502:1
06/11/27 03:43:32 EjIpL54s
あ~っ!久しぶり43さん
飽きられて居なくなっちゃったのかと思ってました。
レイキからだいぶ脱線してるけどヨロピク
503:1
06/11/27 03:45:07 EjIpL54s
>>499の続き
その夜、布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
彼女の顔が次々と浮かんできて・・・
怒っている顔・・・
怒鳴っている顔・・・
泣いている顔・・・
ごめん、ごめん、ごめん・・・・傷つけてしまって・・・
浮かんでくる彼女に何度も何度も謝っていた・・・
彼女が今まで見せてくれた笑顔や笑い声
ぬくもりやイタズラっぽい瞳・・・
そしてどこか壊れてしまいそうな背中も・・・
その何もかもを裏切ってしまったようで・・・
504:1
06/11/27 03:46:13 EjIpL54s
>>503の続き
痛みとともに何か温かいものが体に流れてくるようで・・・
自分の気持ちを誤魔化せないところまできていた。
(ねえ、俺に何が出来る?)
心配かけて、傷つけて・・・
そんなことばかりだ。
今までたくさん良くしてもらったのに
俺は何一つ彼女のためにしてあげられない。
あまりにも無力で・・・・
自分には何もなくて・・・・
気がつくと涙が止まらなくなっていた。
505:1
06/11/27 03:48:08 EjIpL54s
>>504の続き
次の日
アパートに向かう電車の中で
彼女に会える嬉しさを噛みしめていた。
断薬の吐き気や、昨日の痛みや罪悪感、恥ずかしさ・・・
そのなによりも彼女に会えることが嬉しかった。
でも・・・・
玄関の前まで来るとインターホンを押すことが出来なかった。
(もう、俺なんかに会いたくないんじゃないか・・・)
5分・・・10分・・・・
そのまま立ちつくしていた・・・
(・・・・帰ろうか)
そんなことを思った時、玄関のドアが開いた。
506:1
06/11/27 03:49:27 EjIpL54s
>>505の続き
「なにやってるの?」
少し目の周りが腫れていて
疲れた顔をしているけど
いつもと変わらない彼女が居て
「あっ・・・・」
「入りなよ」
「お、俺が来てるの分かってたの?」
「そっから見えるもん」
そう言ってキッチンの窓を指さした。
そういえば廊下に面している窓から人影が見えるのだ。
なんか恥ずかしかった・・・
507:1
06/11/27 03:51:00 EjIpL54s
>>506の続き
”バシッ!!!”
中に入るといきなり力任せに頭を叩かれた。
の、脳が揺れる・・・
(・・・・な、なに???)
「昨日叩くの忘れちゃったから
一発で我慢してあげる」
唖然としている俺に彼女が笑いながら言った。
(あ、相変わらずだね・・・この人・・・)
でも、俺の気持ちは少し楽になった。
彼女らしい励まし方だった。
今までと何も変わっていないんだ。
俺はそう思った。
508:1
06/11/27 03:54:50 EjIpL54s
>>507の続き
いつも通りのヒーリングと指導を受けた。
その後、彼女の作った料理を食べた。
雑炊だった。
彼女は何も言わなかったが俺は気付いていた。
毎回出してくれる食事も俺の状態を考えて作ってくれていた事を。
509:1
06/11/27 03:56:01 EjIpL54s
>>508の続き
最近は家に帰ってから
彼女の使った食材をインターネットで調べていた。
俺が風邪気味の時は、風邪に効く食材を
腹の調子が悪い時は下痢に利く物を・・・
時々やたらと待たされるのも
体の状態を見てから、適当な食材を買いに行っていたのだ。
今回雑炊にしたのも
食欲が無いのを分かった上でだろう。
510:1
06/11/27 03:56:48 EjIpL54s
>>509の続き
(ねえ、俺に何が出来る?)
一緒に食事を食べながら
俺は心の中で彼女に話しかけている。
これだけしてくれているのに
俺は彼女に何もしてあげられない
まったくの役立たずだ・・・
511:1
06/11/27 03:57:50 EjIpL54s
>>510の続き
「昨日ごめんね・・・・
俺・・・クスリ貯めてたけど・・・
最近はあまりそういうの考えて無くて・・・
なりゆきでたまっていったって言うか・・・・」
言い訳にしては苦しくて、
説得力も無くて
でも、安心してもらいたくて・・・
512:1
06/11/27 03:58:29 EjIpL54s
>>511の続き
「うん、分かってる
先生に聞いたよ」
「・・・・??(先生とは昨日初対面だが・・・)」
「でも、今はそうでも
以前は考えていたんでしょ。
前科一犯だね!」
そう言って俺をからかうが
そんな事より先生に聞いたって・・・??
513:1
06/11/27 03:59:50 EjIpL54s
>>512の続き
「先生はそういうの見えちゃう人なの。
一度しか話してくれたことなくて
詳しくは私も知らないんだけどね
先生はいつも結論しか言わないし
そういう能力を隠しているようなところあるし
病院のスタッフも知らない人の方が多いの
さとる君だから大丈夫だと思って話しているんだから内緒だよ」
「・・・・????」
514:1
06/11/27 04:00:50 EjIpL54s
>>513の続き
「そんな驚くことじゃないよ。
そういう人は結構居るんだよ。
ほとんどの人は隠しているから知られないだけでね」
「なんでも見えちゃうの?
人の私生活まで?」
「どこまで見えているか私にも分からないけど
映像で見えるらしいよ
先生の言うことはいつも当たっている
先生のやったことは正しかったと
後になって気付くの」
515:1
06/11/27 04:02:47 EjIpL54s
>>514の続き
「昨日のアレも?」
あのやる気のないだらしない態度も正しいのだろうか・・・?
「うん、上手いな~と思ったよ
さとる君の気持を最優先にしたのが分かったから
私は少し面白くなかったけどね
最初から最後までさとる君の味方だったよね」
ア、アレが・・・???
516:1
06/11/27 04:03:27 EjIpL54s
>>515の続き
「人の心も分かっちゃうの?」
「心を読むのが一番得意なんじゃないかな
でも、必要な時以外は見ないようにしているらしいから
そんなに怖がらなくてもだいじょぶだよ」
「怖いとは思わないけど・・・・」
心を読まれるのは彼女で慣れている
それより・・・
517:優しい名無しさん
06/11/28 16:59:42 nqPev/Bj
hoshu
518:43
06/12/02 12:48:03 72Pwwpgv
>>502
(・∀・)これはお久しぶりです。楽しく読んでおります。これからもヨロピク
519:1
06/12/04 23:56:05 ObP0rr1c
>>516の続き
「うらやましいな・・・」
彼女の事をもっと知りたい
彼女の心をもっと分かりたいと思う俺の
正直な気持ちだった。
「うらやましい?」
彼女が少し不機嫌な顔をした。
あれっ?俺変な事を言ったかな・・・
「そういう能力を持った人はみんな苦労しているんだよ
先生はそれで離婚もしてるの」
「そ、そうなんだ・・・」
夫婦が分かり合えなくて離婚は理解できるが
人の心が分かるのに離婚って・・・?
でも、それ以上は聞けなかった。
520:1
06/12/04 23:57:09 ObP0rr1c
>>519の続き
「先生とはいつから?」
「知り合ってもう9年くらいになるかな
もともと私の主治医だったの
今は私の父親がわり」
そう言って左腕の長袖のシャツをたくし上げた。
(・・・・・・・・!!!)
真夏でも彼女は長袖を着ていたので
腕全体を見るのはこれが初めてだった。
521:1
06/12/05 00:00:50 Pmh5LjdH
>>520の続き
彼女の手首にリストカットの後らしき傷があることは
初めて会った時から知っていた。
(・・・・な、なんでこんな・・・)
リストカットの画像は何度かインターネットで見たことがある。
それはどれも真横に綺麗に付いた傷だった。
でも彼女の腕は肘のあたりまで
大小の傷が無茶苦茶に付いていた。
リストカットとは思えない斜めについた傷まで無数にあって
どうやったらこんな傷が付くのか・・・・
太陽の光にあたらない肌は透き通るように白くて
それが余計に痛々しかった。
522:1
06/12/05 00:03:01 Pmh5LjdH
>>521の続き
「・・・・・・」
体が震えた。
「昔やらかした傷跡
リストカットって知ってる?」
俺は声が出なくて、何度もうなずいて答えた。
「私子供の頃、親から虐待を受けてて・・・」
彼女がゆっくりと、そして淡々と話し始めた。
523:優しい名無しさん
06/12/05 09:22:09 Dy+ZxIw7
それで?orz
524:優しい名無しさん
06/12/10 01:13:00 PUMOLhjo
ホシュ
やば、おちちゃうよ
525:優しい名無しさん
06/12/11 00:10:17 7Up28MD4
仕事が忙しくて覗いていなかったので、半分位一気に読んだ。
レイキから離れて、かなり生々しい話になってきたね。
続きも楽しみにしています。
526:優しい名無しさん
06/12/13 01:59:04 CbURQNkf
ほす
527:優しい名無しさん
06/12/16 08:25:41 riZQ6bOL
ほす
528:1
06/12/17 12:23:28 spks0HGx
この先あまり書きたくなくて2週間経ってしまいました。
今夜書きます。
529:優しい名無しさん
06/12/17 17:52:48 GHrlhg2m
久々だ!!
今夜楽しみだけど、えぇ~?!
530:優しい名無しさん
06/12/17 18:49:48 D0WFIZtD
あげ
531:1
06/12/17 23:03:22 spks0HGx
>>522の続き
「私子供の頃、親から虐待を受けてて・・・」
彼女がゆっくりと、そして淡々と話し始めた。
彼女は九州の港町で生まれた。
町のほとんどの住人は漁師だったが
父親は普通のサラリーマン、母親は専業主婦をしていた。
生まれて初めての記憶は、4方を柵に囲まれたベビーベッドの中を
満面の笑みで覗き込む両親の顔だった。
532:1
06/12/17 23:04:24 spks0HGx
>>531の続き
両親の笑顔を見ながら彼女は二人に会えた喜びと
これからの未来を不安に感じていた。
”これからの未来に起こる全てを知っている”
そんな感覚を抱いていた。
しかし思うように未来を思い出せなかった。
「”未来を思い出す”って変な表現でしょ
でもその時の私はそう感じたの」
彼女は言った。
533:1
06/12/17 23:05:05 spks0HGx
>>532の続き
幼稚園の記憶はあまり無いと彼女は言った。
いつもボーっとして現実感に乏しく
無口で友達は出来なかった。
”どうして自分はココに居るのか?” ”ココに馴染めない”
そんな違和感をいつも感じていた。
彼女自身は覚えていないが
泣いてばかりいたと後に母親に言われたそうだ。
534:1
06/12/17 23:06:40 spks0HGx
>>533の続き
彼女が5歳の時に産まれた弟をよく可愛がった。
「可愛がると言う表現は適当じゃないかも。
私は不安になると弟をお守りの様に抱きしめて、
弟が見せてくれる笑顔に安心したの」
漠然とした不安をいつも抱えながらも
いつも優しい両親に守られて
それなりに穏やかな毎日だった。
しかしそんな日々は長く続かなかった。
535:1
06/12/17 23:07:38 spks0HGx
>>534の続き
彼女が小学校に上がる頃になると
両親は度々口論するようになった。
両親の喧嘩が絶えないと子供は自分を責めるようになる。
彼女もその例外ではなかった。
喧嘩が始まるといつもすがるように弟を抱きしめた。
弟だけが自分を不安から救ってくれる存在になっていた。
しかし、別れは直ぐに訪れた。
536:1
06/12/17 23:08:27 spks0HGx
>>535の続き
小学2年の時、両親が離婚した。
彼女は母親に、弟は父親に引き取られその後一度も会うことはなかった。
母親と二人、新しいアパートに移ると
母親は彼女を抱きしめて言った。
「これからは二人で仲良くやっていこうね
お母さんなんでも頑張るから」
自分のせいで両親が離婚したのではないかと
不安を抱えていた彼女は
柔らかい母親の笑顔にホッとした。
537:1
06/12/17 23:10:47 spks0HGx
>>536の続き
新しい生活が始まり1年を過ぎた頃から
母親はため息ばかり付くようになっていた。
母親が経済的な理由で悩んでいたこと
腰を痛めて仕事にも支障をきたしていたこと
プライドが高くて誰にも援助を求めなかったことなど
子供だった彼女は知らなかった。
今まで子供には優しかった母親が
次第に彼女にあたるようになった。
それは彼女には耐え難いものだった。
父親、弟と別れ、学校にも馴染めず
母親にすら愛されなかったら自分は独りぼっちになってしまう。
538:1
06/12/17 23:11:42 spks0HGx
>>537の続き
”愛されたい”
彼女は母親に喜んで欲しくて
正月に祖父母や叔父夫婦にもらったお年玉を
母親の誕生日のプレゼントに使った。
どんなプレゼントなら喜んでもらえるか
一生懸命選んだ。
しかし喜んでくれたことはなかった。
539:1
06/12/17 23:12:44 spks0HGx
>>538の続き
「なんでこんな物を買ってくるの!」
血走った目でいつにも増して激しく怒り
そして泣き出す母親に彼女は震えた。
父親とケンカの時も涙を見せなかった母親が泣いている。
泣き続ける母親の背中を
黙って見ているしかなかった。
540:1
06/12/17 23:13:33 spks0HGx
>>539の続き
お年玉も取り上げられるようになり
プレゼントも出来なくなった。
母親がどうしたら喜んでくれるのか
どうしたら自分を愛してくれるのか
いつもそればかり考えていた。
541:優しい名無しさん
06/12/19 20:02:27 hoIMgQpD
ホシュ
542:1
06/12/20 07:53:42 +t1S1cpc
>>540の続き
小学校4年生になると料理を覚え
仕事で疲れて帰ってくる母親のために料理を作った。
「・・・不味い」
母親はいつも吐き捨てるように言った。
「ごめんなさい。今度はもっと上手く作ります・・・」
スーパーに買い物に行く時はいつも
母親の好きな料理
母親の好きな味付け
そればかりを考えた。
543:1
06/12/20 07:55:44 +t1S1cpc
>>542の続き
ある日、母親とそっくりの味付けで作ることが出来た。
(これなら絶対に美味しいって言ってもらえる
絶対に喜んでもらえる)
ワクワクしながら母親の帰りを待った。
帰宅した母親は珍しく機嫌が良かった。
しかし、料理を一口食べて泣きながら怒り出した。
「もういい加減にして!なんでこんなことばかりするの!」
母親は泣きながら狂ったように彼女を叩いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
震えながら同じ言葉を何度も繰り返した。
544:1
06/12/20 07:58:56 +t1S1cpc
>>543の続き
喜ばせようと努力すればするほど
何故か母親は彼女に厳しくあたった。
(これなら喜んでくれるはず)
何故か自信が有る時ほど
母親は彼女に剥き出しの感情をぶつけた。
肉体的な暴力だけではなく、冬の夜に下着姿で外に閉め出されたこともあった。
当時の彼女はそれが虐待だとは思わなかった。
自分の存在が母親を苦しめている。
漠然と感じていた思いは
いつしか確信へと変わっていった。
545:1
06/12/20 08:00:51 +t1S1cpc
>>544の続き
愛されたい想いは
諦めから絶望に変わった。
自分が大人になれば今よりもっと周りの人を苦しめる。
大人になるのが怖かった。
毎年学校で行われる身体測定で
確実に成長していく自分の体に怯えた。
死ななければという想いに囚われていく。
546:1
06/12/20 08:02:43 +t1S1cpc
>>545の続き
どうやったら死ねるのかを考えるようになり
テレビの2時間ドラマで主人公が自殺するシーンを参考にした。
小学6年の冬休みの最終日。
母親が買い物に出掛けた後、彼女は浴槽に水を溜め始めた。
少しずつ上がってくる水面を無表情で見ている。
窓の外は雨が降っていた。
少し開いた窓の隙間から雨の日の匂いがした。
547:1
06/12/20 08:07:40 +t1S1cpc
>>546の続き
浴槽に水が一杯になると
化粧用のカミソリを右手に持った。
恐怖は無かった。
静けさの中、雨の音だけが響いている。
カミソリで手首を一気に引いた。
痛みは感じなかった。
(これで終わり・・・
お母さん・・・もう大丈夫だよ・・・)
血が滲む手首を水に浸けて
浴槽の縁に頭を付けて命が終わるのを待った。
548:優しい名無しさん
06/12/24 08:10:43 gWZ0j1fN
ほす