メンヘル板でレイキを語って何が悪い!?at MENTAL
メンヘル板でレイキを語って何が悪い!? - 暇つぶし2ch2:1
06/07/14 23:59:07 cb+T0bsf
削除依頼なんか出すなよ
これから愛と感動の物語が始まるんだから

3:1
06/07/15 00:01:13 WceqcTo9
あれは今から3年前・・・

あっ、ちょっと待って

4:優しい名無しさん
06/07/15 00:02:39 wi6/y/tB
>>1
クルクルなんだけど、レイキって何?

5:1
06/07/15 00:21:23 WceqcTo9
時間が無いので大ざっぱに書くと

あれは今から3年前の午後
小雨の中を傘を指さずに駅に向かう商店街を歩いていた

突然雨足が強くなり
仕方なく一件だけシャッターの降りている商店の店先で
雨宿りをすることにした

そこに50代くらいのサラリーマンと
人形の様な顔立ちの顔の真っ白な中学生か高校生くらいの女の子が
自分の横に並んだ

この女の子が後に俺の師匠になる人である
若く見えたが年齢は当時25才、可愛らしい顔をしているが
とてつもない地獄を経験してきた女性である。
俺を抗うつ剤から解放した
レイキティーチャーである。


もう眠いから今日は寝る
続きはまた明日
じゃあね!

6:優しい名無しさん
06/07/15 00:38:17 DuWxf0gh
面白くないよ。
要するにハンドパワーですか?

7:優しい名無しさん
06/07/15 05:36:36 ou2IwDQV
URLリンク(www.asaka-ind.co.jp)

8:優しい名無しさん
06/07/15 19:37:09 3qwEcZ/V
どうでもいい

>>1
死ね

9:1
06/07/15 20:30:11 WceqcTo9
>>5の続き

幅5メートルほどの狭い店先で
左から俺、サラリーマン風の男性、彼女の順に並んで立っていた。

なんとなく気まずい沈黙の中で、
雨粒が道路を叩きつける音と、
彼女の「コホッ!コホッコホッ!」と苦しそうな咳だけが聞こえていた。

雨は一向に弱まる様子はなく20分、30分と時間は過ぎていった。
先ほどから時計を気にしていたサラリーマン風の男性が
豪雨の中に飛び出していき、そのまま走り去っていった。

視界を遮っていた男性が居なくなったことで
彼女の様子がよく見えた。

10:1
06/07/15 20:32:51 WceqcTo9
>>9の続き

雨宿りしていると思っていた彼女は傘を持っていた。
傘の柄を両手で持ち、少しうつむき、傘を杖代わりに体を支えているようだった。

相変わらず咳が続いている

小柄で華奢な体。小さくて白い顔。少し色素の薄い髪はポニーテールにしてあった。
とても繊細で美しく、さわったら壊れてしまいそうなガラス細工。
声は聞こえなかったが口元は何かをささやいている様に動いていた。

傘を持っている手元に目をやったとき、あることに気付いた。
白くて細い手首には無数の傷跡があった。
昨日今日ついた傷ではなくかなり古いもののようだ。
リストカットの後だろう。

彼女もメンヘラーか・・・

何故か俺まで咳が出始めた

11:1
06/07/15 21:26:42 WceqcTo9
>>10の続き

「コホッ、コホッコホッ!」「ゴホッ!ゲホッ!」
雨の中二人して咳が止まらない。

俺は咳が出過ぎて吐き気までしてきた。
カバンの中に飴が入っているのを思い出し
取り出して口に放り込んだ。

(やはりこの場合彼女にもあげるべきなのだろうか?)
当時、対人恐怖、視線恐怖だった俺には些細なことでも
大きな勇気がいる。

「もし良かったら飴どうぞ」少し声が震えていたかもしれない。
彼女が顔を上げ、俺と視線があった。

12:1
06/07/15 21:31:54 WceqcTo9
>>11の続き

不思議な目をしていた。
苦しそうだが穏やかで静かな目だった。
吸い込まれるようでずっとこの目を見ていたいと思ったが
彼女は「ありがとう」と小さく礼を言って
受け取った飴を口に入れてまたすぐに下を向いてしまった。

これが一目惚れって言うのだろうか
今流行の「萌え」ってヤツだろうか。

俺はメンヘラーとの恋愛は避けたいと思ってきた。
心に余裕の無い物同士が付き合うことに不安がある。
でも彼女となら・・・

そんな妄想をふくらましていたが
彼女はまた下を向いてブツブツと何かをささやき始めた。

(やっぱ、この子なんか変だ・・・)




13:1
06/07/15 21:58:17 WceqcTo9
>>12の続き

やがて二人とも咳が止まり、彼女の顔にも赤みが戻ってきた。
恋愛妄想は急速にしぼんでいったがどうも彼女が気になる。

元気を取り戻した彼女が俺の方を向いた。
「ごめんね。私の咳、君にもうつっちゃった。ずっと君を見てたけど、君、私と同じだね」

中高生くらいの子供(その時は彼女が俺より4才年上だとは知らなかった)
に成人の俺が「君」呼ばわりされることにも抵抗があったが
そんなことより、彼女が何を言っているのかさっぱり解らない。

どんな言葉を発すれば適当なのか頭をフル回転させて出てきた言葉が
「あっ、いえ」それだけで精一杯だった。(この子、変だ・・・変すぎる)

「どこに行くの?駅までだったら送ってあげるよ。相合い傘になっちゃうけど」
白い顔をしてうつむいていた先ほどまでの彼女とは別人の様に、
人なつこい笑顔で言ってきた。

混乱していた俺はどぎまぎしながら
「あっ、じゃあ○○駅まで」と答え彼女と一緒に駅まで歩くことになった。

14:1
06/07/15 22:25:27 WceqcTo9
>>13の続き

一緒に歩きながら俺は緊張していたが
彼女はとてもリラックスしているようで少し寂しそうに話し始めた。
俺に話しているのだろうが、どこか独り言の様な話し方だった。

「今日ね、末期癌の患者さんと会っていたの。
そこで失敗しちゃった。邪気をもらって具合が悪くなったの。
同情しちゃいけないんだよね。
同情するともらっちゃうんだよ。
でも、もう助からないの分かっているから・・・・
私がしてあげられるのは死の恐怖や苦痛を和らげてあげることだけ。
それもどれだけ役に立てているか自信が持てないの・・・」

・・・そんな訳の解らない話を聞かされている俺は苦痛だった。

15:1
06/07/15 22:40:46 WceqcTo9
>>14の続き

どうして良いか分からず。
俺は黙って彼女の話を聞いていた。

「君には私の話が分かるはずだよ。私と同じだから」

「うん、なんとなくね」俺は嘘を付いた。
彼女は重度のメンヘラーの様だ。
後数分で駅に着く、それまで適当に調子を合わせていれば良い。
もう二度と会うことも無いのだから。

10分ほど歩いてやっと駅に着いた。時間がとても長く感じた。
最後に彼女に「ありがとう、助かったよ」と言って行こうとした。

「ちょっと待って」
やっと解放されるとホッとしているところを呼び止められた。

16:1
06/07/15 22:43:35 WceqcTo9
>>15

「君、何かクスリ飲んでる?いつも死にたいと思っているでしょ。
それにいつも一人で居るね。
私力になってあげられるかもしれないよ。」

怖くなって、鳥肌が立った。気持ち悪い。
俺は何も自分の事を話していない。彼女の話を聞いていただけだ。
(なんだよ!なんなんだ、こいつ)

俺は苛ついていた、不安を怒りで打ち消そうと思ったけど上手くいかなかった。
怖かった。

バックから取り出した名刺を俺に渡した。
肩書きも何も書いていない名前と連絡先が書いてある手作りの名刺だった。

「電話して。メールでも良いよ。飴有難う!バイバイ!」と言ってそのまま歩いていってしまった。

(冗談じゃない!二度と関わりたくない)

これが二人の出会いだった。



17:1
06/07/16 15:41:38 oCGXH+Pb
>>16の続き

あれから数週間、彼女の事が頭から離れなかった。
考えすぎて寝付けない夜もあった。

何故俺のことを知っているのだろう。
あの日が初対面じゃなかったのか。
自殺願望があることは家族すら知らない。
誰も知らないはずだ。

そういえば彼女は「ずっと君を見ていた」と言っていた。
いつから見ていたのだろう。
どこまで、何を知っているのだろう。

18:1
06/07/16 15:42:26 oCGXH+Pb
>>17の続き

自分の知らない間に見知らぬ他人に見られているというのは
想像以上に酷く不安になる。

誰だって見られたくないこと、隠したいことはあるはずだ。
特に俺の様に自分に自信の無い人間はその感情が強い。

ずっと観察していて
あの日俺に近づいてきたのか?
何のために・・・

誰かに俺のことを話して笑いものにしているのではないか。

19:1
06/07/16 15:44:25 oCGXH+Pb
>>18の続き

考えれば考えるほど悪い想像はふくらみ
手に負えない状態になっていく。

こんなにも俺を苦しめる彼女に憎しみを感じ始めていた。
いつの間にか俺の中で、可憐な少女は
自分を追いつめる黒い影に変わっていった。

とにかく楽になりたい
楽になるためには・・・
事実、現実を知らなければ。

彼女に全てを聞くしかない。
たとえ力ずくでも。
一言二言罵ってやりたい気持もあった。

彼女に電話しよう。

20:1
06/07/16 16:55:39 oCGXH+Pb
>>19の続き

友達の居ない俺は携帯電話を持っていなかった。
家に備え付けの電話を使った。

自分を怒らせようと努力していた
怒りのエネルギーが無いと
不安と緊張に負けてしまいそうだった。

受話器を持つ手が震える。
番号を押してから震えを抑えるように両手で受話器を持った。

21:1
06/07/16 16:56:28 oCGXH+Pb
>>20の続き

数回コールして電話が繋がった。
「はい、○○です。」
「○○と申しますが、○○さんご在宅でしょうか」声が震える。
「私です」
「この前の雨の・・・」言葉が上手く出ない。
「あっ、こんにちは。分かりますよ。電話待ってたんだよ。」落ち着いた優しい声だ。

すぐに俺が誰だか分かったようだ。

「ごめんなさい今お客さんが来てるの。後でこちらから電話するから番号教えて」

戦闘態勢で電話を掛けたが、彼女の声を聞いて調子が狂った。
言われるままに名前と電話番号を教えた。
俺は何をやっているんだ・・・Orz。

・・・彼女は俺の名前も電話番号も知らなかったのか?

22:1
06/07/16 16:57:57 oCGXH+Pb
>>21の続き

電話を待っている間、色々なやりとりをシミュレーションしていた。
俺の質問に彼女が返してくるだろう言葉を想像し、
どうやって切り返すかを考えていた。

もっと怒らなければ、もっともっと。
はぐらかされないように、負けないように。
(当時の俺は弱さをカバーするために、自分を怒らせる癖がついていた)


23:1
06/07/16 17:01:16 oCGXH+Pb
>>22の続き

電話が鳴る。受話器を取る。
「はい○○です」落ち着いた低い声が出て少し満足した。
「さとる君?(仮名)」
(小娘が俺に君付けかよ!)
「はい、そうです」何故か俺は敬語で応える。

「今紅茶飲んでるの。さっき来ていたお客さんにもらったの。
ちょっと変わった味がするけど結構おいしいよ。
なんて紅茶なのか聞くの忘れちゃった。
缶に書いてあるんだけど、う~ん読めないな・・・これは何語?」

そんなことを言いながら無邪気に笑っている。
明るい声だった。

「さとる君は紅茶とコーヒーどちらが好き?」

調子が狂う・・・Orz


24:1
06/07/16 17:16:40 oCGXH+Pb
>>23の続き

「あ、あの・・・」俺は準備したとおりに会話を進めなければと焦っていた。
「俺のことをいつから知っていたんだ?いつから俺を見ていた?俺の何を知っているんだ?お前誰なんだ?」
緊張しすぎて無茶苦茶である。怯えた声しか出なかった。

「・・・どうしたの?」戸惑っているようだが、優しい声だった。

「どうしたのじゃないだろ!」怒鳴りつけてしまった。

準備していた、何度もシミュレーションしたやりとりとは
まったく違う状況になってしまった。
自分を怒らせようとはしていたが、会話は冷静にするつもりだった。
上手く話せない自分に焦って心の余裕が無くなっていた。

しばらく沈黙が流れた。
怒鳴られて彼女も怒っているのだろう。

25:1
06/07/16 17:20:16 oCGXH+Pb
>>24の続き

「電話切らないでね。そのまま受話器を持ってて」以外にも優しい声が返ってきた。
「良いって言うまでそのままだよ」念を押してきた。

訳の分からないまま言われたとおり黙って受話器を握っていた。
沈黙が続く。受話器越しに彼女の気配が感じられた。

10分か15分か、長い沈黙だったが苦痛は感じなかった。
この状況に疑問を持ちつつも俺は冷静さを取り戻し、落ち着いていた。
不安も怒りも無くなっていた。

26:1
06/07/16 17:22:23 oCGXH+Pb
>>25

「ねえ、今度会おうよ」不意に沈黙を破り彼女の声が聞こえた。
「うん」俺は応えた。会うのが自然なような気がした。
日時の約束をして電話を切った。

不思議な電話だった。
何をどう考えて良いのか分からず
しばらく天井を見上げていた。

その夜は久しぶりによく眠れた。

次の土曜日に彼女と会う。

27:優しい名無しさん
06/07/16 18:03:03 Sff7Rm2r
削除以来はいつ出せばいいですか?

28:1
06/07/17 00:34:31 PNxGvEUo
>>26の続き

約束の日までの数日間
やっぱり俺は彼女の事を考えていた。

あの不思議な電話
受話器を置く時に電話機の液晶を見たら25分以上経っていた。

会話を交わしたのは最初の2,3分と約束の日時を取り付けた
最後の5、6分位だろう。合わせても10分にも満たない。

計算すると15分以上は、二人黙ったまま
受話器を握っていたことになる。

その間何が起こったのか俺には分からない。
一つ言えることは彼女への不信感が弱まり、
安心感を覚えたことだ。

29:1
06/07/17 00:35:52 PNxGvEUo
>>28の続き

しかしやがて考えすぎの妄想が始まる。
優しい声をしていた彼女を、
思考は自分を脅かす魔女やモンスターのイメージに換え始める。

不思議なことが多すぎた。
人は、自分の理解を超えた現象が起こると
その対象が有害無害に関わらず不安を覚える。

約束の日が近づくにつれ徐々に憂鬱になってきた。

30:1
06/07/17 00:37:01 PNxGvEUo
>>29の続き

約束の朝、予定より2時間以上早く目が覚めてしまった。
昨夜寝付きが悪かったこともあり完全な寝不足である。

キャンセルしようかとずっと考えていたが
また悶々とした日々が続いてしまうことは目に見えていた。
色々と聞かなければ。
なんとなく諦めの心境で出かけることにした。

別にデートって訳でもないし、
そこら辺の服を適当に着て家を出た。
(1,2時間話をして帰ってこよう)

31:1
06/07/17 00:37:54 PNxGvEUo
>>30の続き

プライベートで人に会うのは何年ぶりだろう。
しかも相手は訳の分からない女だ。
約束の場所に向かう電車の中で
不安と緊張で鼓動が止まらない。

約束していた駅の改札口に着いた。
人混みの中に彼女が立っているのが見えた。
(こんなに小さかったっけ)

彼女を見るのは今日で2度目のはずだ。
でも、自分を不安にさせていた女性が
こんなにも壊れそうなほど小さく見えることに驚いていた。

32:1
06/07/17 00:39:37 PNxGvEUo
>>31の続き

俺に気付くと彼女は微笑みながら軽く会釈をした。
真っ白なブラウスが清潔感を感じさせた。

「近くに紅茶の美味しい店があるの」
それだけ言って彼女は黙って歩き始めた。

並んで歩くと彼女の頭は俺の肩に届かなかった。
傍から見ると少し年の離れた兄妹って感じだろう。
甘いシャンプーの香りがした。

33:1
06/07/17 00:43:16 PNxGvEUo
>>32の続き

彼女は何もしゃべらず黙々と歩いている。
何故何も言わないのだろう。

やはり俺から話しかけるべきなのだろうか。
不安になって彼女を顔を見た。
すっきりとしたやわらかい表情をしている。

話は喫茶店に着いてからでいいか。
そんな事を思いながら俺も黙って歩いた。

34:1
06/07/17 00:45:04 PNxGvEUo
>>33の続き

路地裏の小さな喫茶店だった。
客は少なく、俺たちは窓際の席に向かい合って座った。

彼女は紅茶を、俺はコーヒーを注文した。
俺がコーヒーを注文した時に彼女が
「あっ!」と小さな声を出した。
何か言いたげだったが気にしなかった。

注文が済むと彼女は窓の方に顔を向けてしまった。
表情は穏やかだが会話を拒否しているようにも感じた。

何か言わなければ・・・
緊張して頭の中が真っ白になっていく、

対人恐怖、視線恐怖だから緊張すればなおさら
彼女の顔も見ることが出来なくなってくる。
そこに紅茶とコーヒーが運ばれてきた。

35:1
06/07/17 00:48:40 PNxGvEUo
>>34の続き

俺はミルクだけ入れコーヒーカップに口を付けた。
視線を感じて顔を上げると
彼女は俺を観察するようにじっと見ていた。

一瞬視線が合った。
楽しげな悪戯っぽい目をしていた。

なんだろうこの味と香り。何かが焦げたような味だ。
とても飲めたもんじゃない。
これが美味しい店か?

彼女の方を見ると笑いを堪えるような顔をしている。

(なんて女だ)

36:1
06/07/17 01:09:05 PNxGvEUo
>>35の続き

「ねえ、私の目を見て」
今まで黙っていた彼女が不意に話しかけてきた。

(俺にはとても苦痛な事なのだが・・・)
それでも言われたとおり彼女と視線を合わせ
数秒でまた目をそらした。

「そうじゃなくて、もっとちゃんと見て。
そうしたら分かるから。その方が早いから」
そっと静かな声だったが、
彼女から穏やかな表情は消え、真剣な顔をしている。

37:1
06/07/17 01:10:34 PNxGvEUo
>>36の続き

なんか俺、しかられている気分になってきた・・・Orz
(相変わらずトンチンカンで訳の分からない女だ)
俺はイライラしてきたが逆らえない雰囲気が漂っている。

諦めて彼女の方を見た。
ソファーに深く腰を掛けて、リラックスしているようだった。

視線が合う。
彼女が何か話し始めるのかと思っていたが
黙ったままだった。

俺はガチガチに緊張していた。
彼女の雰囲気に完全に呑まれていた。

38:1
06/07/17 01:14:23 PNxGvEUo
>>37の続き

顔を向けてはいたが始めは緊張しすぎて何も見えていなかった。
それが次第に彼女の顔が見えてきた。

雨の日に見たあの不思議な目だった。
緊張が解け、少しずつ肩の力が抜けていく。

裸の瞳だった。
”何も隠していない、何も飾っていない、
等身大の、これが私だよ。”
そんな声が聞こえてきそうだった。

俺がそう感じ取ったとき
「そうだよ、大丈夫なんだよ」彼女がささやくように言った。

(そうか大丈夫なのか。今まで色々考えていたことは杞憂に過ぎなかった)
その時の俺は訳の分からないまま納得している。
そんな感じだった。

39:1
06/07/17 14:16:53 PNxGvEUo
>>38の続き

そのまましばらく二人黙ったまま向かい合っていた。

もう緊張はしていなかった。
懐かしい感じがしていた。

誰かと一緒にいてこんなにも安らいでいる。
もうずっと忘れていた感覚だった。


40:1
06/07/17 14:18:40 PNxGvEUo
>>39の続き

子供の頃を思い出していた。
家族と一緒にいて、一緒にいることが嬉しくて
守られているのを感じて、どこまでも満たされている。

友達と近所の池に釣りに行って
まったく魚は釣れないけど、
空は青くて、風が気持ちよくて、のどかで・・・

ずっと忘れていた記憶だった。

41:1
06/07/17 14:20:37 PNxGvEUo
>>40の続き

何時の頃からか、家族の顔をまっすぐ見ることもなくなって
友達付き合いも止めてしまった。
(いつからこんなになってしまったんだろう・・・)

そう考え始めたとき
「これ飲んでみて」沈黙を破り
彼女は飲んでいた紅茶を俺に渡した。

少し香りを嗅いでから一口含んだ。
砂糖を入れていないのにとても甘い。
味は濃いけど嫌味がない。
(お、美味しい!)

42:1
06/07/17 14:23:08 PNxGvEUo
>>41の続き

彼女は俺を見てニコニコしている。

周りを確認してから顔を近づけてきて小さな声で言った。
「この店でコーヒー頼んじゃいけないの。
紅茶は美味しいけど、コーヒーは最悪でしょ。」

彼女はコーヒーに手を伸ばし、一口飲んで
大げさに渋い顔をした。

もう一度周りを確認して、さらに小さな声で
「人間の飲み物じゃないよ」

そう言ってコロコロと無邪気に笑っている。
俺も声を出して笑った。
声を出して笑うのも久しぶりだった。

43:優しい名無しさん
06/07/17 21:04:40 5ixDDsO2
俺も実はレイキプラクティショナーなのでつ。
>>1 さん、よろしく。

44:1
06/07/18 02:09:37 kUpHvh90
>>43
あっ!こんにちは。
ヨロピクです。


45:1
06/07/18 02:10:50 kUpHvh90
>>42の続き

彼女はこの店に良く来るらしい

この恐ろしく不味いコーヒーも
なんとかって言う銘柄のマニアには好まれているもので
この店でもコーヒー目当てで来る常連も居るらしいが、
そのごく一部の常連以外にはまったくの不評らしい。

「マスターは、『なんでお客さんはこの味を
分かってくれないかな~』なんて言ってるけど、なんか間違ってるよね。」

46:1
06/07/18 02:12:35 kUpHvh90
>>45の続き

「ねえ、さとる君」
また顔を近づけてくる。

悪戯をする子供の様な目をしている。
体温を感じる。彼女の口からは甘い紅茶の香がする。

「マスターに、『このコーヒーなんか間違ってますよ』って言ってあげて」
「むっ、無理だよ~!」

俺の困った顔を見て、彼女はまた笑っている。

47:1
06/07/18 02:15:17 kUpHvh90
>>46の続き

それからも彼女は饒舌だった。

ロイヤルミルクティーはどうやって煎れたら美味しく出来るか。

紅茶の缶蓋が固くて、
無理矢理開けたら部屋中に葉っぱをばらまいてしまった話とか。

俺にとってはどうでもいい話だったが、
彼女のコロコロと変わる表情や、
無邪気な笑い声を楽しんでいた。

48:1
06/07/18 02:16:46 kUpHvh90
>>47の続き

彼女にそんな話を聞くために会いに来たのでは無かったが、
もう不信感は消えていたし、
彼女と一緒に笑って話をしているだけで満足していた。

それに、俺の方から色々質問して、この楽しい雰囲気が壊れてしまうのも怖かった。

しかし彼女の方から話し始めた。

49:1
06/07/18 02:18:33 kUpHvh90
>>48の続き

「この前の電話」

それを言われただけで俺は気まずい気分になった。
勝手に妄想を膨らまして怒鳴りつけてしまったからだ。

「ごめんね」彼女の方から謝ってきた。

「気を付けてるつもりなんだけど、時々やっちゃうの。
余計なこと言ってお客さんを怖がらせちゃうこともあって・・・」

俺は黙って聞いていた。



50:1
06/07/18 02:20:53 kUpHvh90
>>49の続き

「さとる君と会ったのはあの雨の日が初めて、
私を見ているのずっと分かっていたの。
その時にさとる君と同調して感じたの。」

「感じた?」不安になってきた。

「うん、さとる君が苦しんでいるのを」

俺は何を言えばいいのか迷っていた。
彼女も言葉を選ぶのに苦労しているようだった。

「俺が薬を飲んでいるのなんで分かったの?見えるの?」
少し非難するような言い方になってしまった。


51:1
06/07/18 02:22:07 kUpHvh90
>>50の続き

「映像で見えることはほとんど無いの、
私の場合は相手が感じていることをそのまま自分の事のように感じてしまうの。
精神薬飲んでいる人には独特の感じって言うのがあって・・・。
さとる君も咳が出始めたのは私と同調したからだよ。」

話しづらそうだった。
自分の話を受け入れてもらえるのか不安を感じているようだった。

俺はどうして良いか分からなくなっていた。
彼女が嘘を付いているようには見えなかったが、
とてもまともな話ではない。

「いわゆる超能力ってヤツ?」
なるべく優しい声を出したつもりだ。

52:優しい名無しさん
06/07/18 02:22:15 YSc7p/2I
レイクのスレですか?

53:1
06/07/18 02:24:29 kUpHvh90
>>51の続き

「私は超能力だとは思っていないよ。
ただ人より少し感受性が強いかなとは思うけど。

感受性の強弱はあるけど
誰でもみんな感じていることなの。

けど、頭が・・・理屈で納得できないから
みんな無かったことにしちゃっているだけで。

たとえば、イライラした人の側に居ると
自分までイライラしてくるとか

人混みで人酔いするとか
会議で発言する予定が無いのに
出席しているだけでどっと疲れてしまうとか

それって、人や場の空気を感じている事で・・・

『空気を読む』って言葉があるでしょ
それと同じで私は人より多めに情報を受け取るだけだよ」

54:1
06/07/18 02:25:58 kUpHvh90
>>53の続き

彼女は寂しそうな顔をしていた。
孤独を感じているようだった。
今まで同じ様な話をして誰かに馬鹿にされたことでも有るのだろうか。

彼女の言葉をなんとか理解しようと努めたが、
分かったような分からないような・・・
ただ、辛そうに話す彼女を傷つけちゃいけないと思った。

俺は言葉を探していたが、彼女が話を続けた。

55:優しい名無しさん
06/07/18 02:27:00 YSc7p/2I
何のスレだよ

56:1
06/07/18 02:27:42 kUpHvh90
>>54の続き

「いちいち人や場所の影響受けてたら参っちゃうから
普段は影響を受けないようにしているんだけど、
相手に感情移入したときとか、体調が悪いと受けてしまうの。
さとる君も・・・」

そこで言葉が止まった。
言って良いかどうか迷っているようだった。

「何?良いよ言って。」

「私と同じだよ」

「・・・・」


57:優しい名無しさん
06/07/18 02:28:43 YSc7p/2I
説明もないし板違いのスレなのかな

58:1
06/07/18 02:32:48 kUpHvh90
>>57

>>1-16まで読んで下さい

59:1
06/07/18 02:33:46 kUpHvh90
>>56の続き

「私と同じで感受性が強いの。
私はある程度コントロールしてるけど、
さとる君はそれが出来なくて振り回されちゃってる。」

俺の事を分かったような言われ方は
あまり気持の良いものではないが、
彼女の言葉には俺に対する
優越感や侮蔑は含まれていなかった。

60:1
06/07/18 02:34:43 kUpHvh90
>>59の続き

もうあまり話を聞きたくなかった。
俺には理解出来る話ではないし、
あまり興味も無かった。

誰がどんな信仰を持っていようが自由だが
理解を求められても困る。

俺は言葉を探した。
「俺には理解するのにもう少し時間が掛かるかも」
こんなセリフで良かったのか分からない。

61:優しい名無しさん
06/07/18 02:35:01 YSc7p/2I
ああ、よくある詐欺か。
手力とか手かざしとか言葉はいろいろあるけど基本は思い込みを利用した詐欺のアレね。

62:1
06/07/18 02:39:01 kUpHvh90
>>60の続き

「うん」
彼女はそれだけ言って口を閉じ、
しばらく下を向いて何かを考えている様子だった。

顔を上げた彼女が、気まずい雰囲気を振り払うように
「ねぇ、ちょっと早いけど飲みに行こうか。
時間有る?お酒飲める?」

そういえば彼女の年齢を知らない。
見た目は中高生だが、話し方や雰囲気は充分大人だ。

63:優しい名無しさん
06/07/18 02:39:49 YSc7p/2I
詐欺じゃないって反論あるだろうけど、詐欺師は自分のことを詐欺師とは言わないもんだからねぇ。

別にそうやって生きててもいいけど詐欺師ってのは人の良心にたかって生きる乞食だってことを忘れちゃダメだな。

64:1
06/07/18 02:40:24 kUpHvh90
>>61
はい、実際詐欺まがいのレイキセミナー商法もあるそうなので
否定はしません。

65:1
06/07/18 02:41:28 kUpHvh90
>>62の続き

「お酒飲める年齢?」

「ははっ、もう25だよ」

(俺より4つも年上じゃないか・・・)
「中高生くらいかと思っていました」

「いきなり敬語はおかしいよ。
今まで通りでいいから」
そう言ってまた笑った。

無邪気な笑顔が戻っていた。

66:優しい名無しさん
06/07/18 09:33:01 TOojWtn6
>>63
レイキというのは元々神道の概念で、それぞれの氏神様に祈祷して
個々の潜在能力である気を上げるというもの。
伊勢神宮系から出た臼井氏が一大治療法として広めた。
その後分派が乱立し、やがてアメリカやロシアの神秘学派に飛び火。
やがて「レイキヒーリング」という名前で逆輸入されてきた。
学術的にはポストサイエンスと見せかけた疑似科学とされている。
神道という枷が外れると同時に詐欺の温床となったのは当然と言えるかもしれない。

67:優しい名無しさん
06/07/18 20:31:52 dk5Yi0+Q
んでこの先生?にはどこで会えるの?

68:優しい名無しさん
06/07/19 08:18:09 kpWBxUSf
>>67
臼井先生のこと?
明治時代に亡くなられているが・・・

69:優しい名無しさん
06/07/19 23:44:35 3k0wfg4L
終わり?

70:優しい名無しさん
06/07/20 00:22:58 B5XTUfU6
晒しage

71:1
06/07/20 07:24:07 D2P+W0aT
>>65の続き

途中デパートや書店に寄ったので
居酒屋に入ったのは8時を回っていた。

店内は混んでいた。
夜景の見える窓に向かう席で、 俺が左、彼女が右に並んで座った。

二人ともサワーを注文した。
かなり狭いので彼女の柔らかい肩が、時折俺の腕に触れる。

あまりアルコールは強くないようだ。
一杯目が飲み終わらないうちに
色白の頬が赤く染まっている。


72:1
06/07/20 07:26:07 D2P+W0aT
>>71の続き

「わたし酔うと人格変わっちゃうかも。大丈夫?」
酔ってくるとゆっくりと眠そうな話し方になる。
「うん、別に良いよ」俺は軽く答えた。

次に何を飲もうかとメニューを見ていると、
「今度これ飲んでみて」耳元で囁くように言う
「美味いの?」
「飲んだこと無いけど。名前が美味しそう」

注文の酒が届くと、俺より先に口を付けて
「なんか、変な味」と言って俺に渡す。



73:1
06/07/20 07:27:26 D2P+W0aT
>>72の続き

また飲み終わってメニューを見ていると
「今度はこれ。これ美味しいから」
「ほんとう?」
無言でうなずく。悪戯っぽい目になってる。
まったく信用できないが彼女の遊びに乗ることにした。

今度こそ俺が先に飲もうとしたら
彼女に取り上げられてまた先に飲まれた。
「う~ん、いまいち。やっぱりこれが一番」と言って自分のグラスを飲み始める。
俺の呆れた顔を見て笑っている。

俺は彼女から「変な味。いまいち。」と評価された酒を飲むことになる。
(なんて女だ)



74:1
06/07/20 07:28:53 D2P+W0aT
>>73の続き

彼女は酔うとかなり我が儘になるようだ。
我が儘に振る舞うことを楽しんでいるようにも見えた。

俺が注文した酒は必ず口を付けるし、
食べ飽きた料理を俺に食わせる。

俺の困った顔や呆れた顔を見て笑っている。
甘えているのかもしれないと思った。



75:1
06/07/20 07:30:35 D2P+W0aT
>>74の続き

かなり好き嫌いがあるようだ。
肉類はまったく駄目で、生野菜も少ししか食べない。
火を通した野菜と魚は好きなようだった。

俺が大好きなアスパラベーコンを頼んだら、
「このアスパラベーコン美味しいね~」と言いながら
ベーコンを剥がしてアスパラだけをもくもくと食べる。

(それじゃアスパラベーコンじゃないだろ!)

「ベーコンはさとる君が食べて」
と言って残骸の様になったベーコンをかき集めて俺に寄越す。

「アスパラベーコンは、アスパラとベーコンを一緒に食べるから美味いんだよ」
少しムッとして言ったら。

「私がアスパラ!さとる君がベーコン!
二人合わせてアスパラベーコン!何か間違ってる?」
首を左右に振りながら歌うように言う。

かなり間違いだらけだが・・・
仕方なく残飯ベーコンを食べた。

彼女は俺のムッとした顔を見て無邪気に笑っている。
こんな姿は本当に少女のようだ。



76:優しい名無しさん
06/07/20 09:16:18 3oKSfE+i
>>1
ライトノベルの恋愛小説みたいだな…
勿論、褒めているのだが。

77:1
06/07/22 07:14:41 VYARX4xj
>>75の続き

彼女は酔って眠そうな顔をしてきた。
次第に口数が少なくなり今にも眠ってしまいそうだった。

「ここで寝ないでよ」
決して非難するような言い方じゃなかったはずだ。

「あ~!お姉様に向かって『寝るなよ』って言った?」
怒っているような泣いているような言い方だった。

(そんな言い方してないし・・・お姉様ならお姉様らしく振る舞いなさいよ)

もっとずっと一緒に居たかったけど、
彼女が寝てしまいそうだったのでタクシーで送った。

78:1
06/07/22 07:17:33 VYARX4xj
>>77の続き

居酒屋ではずっとたわいもない話をしていた 。
映画や小説の話。
犬と猫どちらが好きか。
血液型占いは本当に当たるのか。

そう言えば家族の事を聞いたとき はぐらかされたような気がした。

長袖のブラウスから時折見える手首の傷が気になったが
なるべく見ないようにした。
無邪気な笑顔と手首の傷がアンバランスに感じた。


79:1
06/07/22 07:19:27 VYARX4xj
>>78の続き

彼女と知り合った後も
俺は相変わらずの毎日を送っていた。

人生に絶望してたし、なにより自分自身に絶望していた。
人とまともにコミュニケーションも取れず。
誰でもが当たり前にしていることが俺には難しかった。
まったくの灰色人生である。

勇気が無く、いつも不安で怯えていた。
些細な事でも緊張して、心身共にクタクタに疲れている。

80:1
06/07/22 07:21:27 VYARX4xj
>>79の続き

俺は定職に就かず工場でアルバイトをしていた。
流れてきた部品をもくもくと組み立てる。

灰色の建物の中で、
灰色の作業着を着た
灰色の俺がもくもくと働く
灰色づくしの笑えない冗談だ。

仕事中は誰とも会話せずに済むのがせめてもの救いだった。

81:1
06/07/22 07:23:57 VYARX4xj
>>80の続き

俺は誰にもあまり自分の事を話さない。
だから両親も俺の苦悩を知らない。

そんな両親は無駄にフラフラしていると言って
早く定職に就けと言う。

確かに無駄に毎日を送っていることは間違ってないけど、
今の生活を維持するだけで精一杯だった。

いっそのこと今の会社を辞めて
3ヶ月でも半年でも ゆっくり休みたいと思うけど、
一度引き篭もったら もう二度と社会に出て行く勇気が
持てなくなるんじゃないかと不安になる。

両親の説教を黙って聞いて、
やりきれない思いで自分の部屋に籠もる。

82:1
06/07/22 07:30:48 VYARX4xj
>>81の続き

彼女とはあの後も何度か会っていた。
彼女は交友関係も広く忙しい人のようだったが、
それでも月に1、2度は会っていた。

いつも誘いは彼女からだった。
俺からは遠慮して電話すら出来なかった。

彼女にもをあまり自分のこと話さなかった。
もともと自分の事を話す習慣がないし、
彼女に対して心を開いていないのかもしれない。
心を開くという言葉の意味すら俺にはよく分からなかった。

それなのに彼女は俺の気持ちをよく察した。
図星の事を言われて気恥ずかしさはあったが不安はなかった。
どんな俺でも、彼女だけは俺を馬鹿にしない。
それだけはなんとなく分かっていた。

83:1
06/07/22 07:41:47 VYARX4xj
>>82の続き

彼女は いつも優しかったが、一つだけどうしても好きになれないところがあった。
彼女は俺を使ってよく遊んだ。

「その髪型結構似合ってるね」

俺は床屋が苦手で、伸びた髪を後ろで縛っていた。
椅子に固定された状態で他人と一緒にいるのが耐えられなかったし、
人に体の一部を触られるのも苦痛だった。

「別にお洒落でしている訳じゃないよ。変ではないでしょ?」
このセリフが失敗だった。この髪型が気に入っていると言うべきだった。

俺の失言から不幸が始まる。

84:43
06/07/22 17:16:20 7fbOdtiI
では今日から欠かさずセルフヒーリングを実行します。

85:1
06/07/22 22:56:02 VYARX4xj
>>83の続き

「変じゃないよ。それなりに似合ってるけど・・・」
そう言ってから怪訝な顔をして俺の目をじっと見ている。

「んっ!?もしかして美容院とか嫌い?」

「・・・」(まずいパターンになってきた)

「わたし良い美容院知ってるよ。もっとカッコよくなるから。ねっ!行こうよ。」

柔らかく明るい表情だが目は真剣である。
威圧感とは少し違う独特の迫力がある。

俺が床屋が苦手なのを分かった上で、
苦手だからこそ連れて行こうとしている。

(なんて女だ)


86:1
06/07/22 22:57:31 VYARX4xj
>>85の続き

俺もそれなりに無駄な抵抗をするが、こうなったらもう手遅れである。
彼女の静かな迫力にどうしも勝てない。

いつもは俺を気遣ってくれる優しい彼女が非情になる瞬間である。
俺は本気で頭に来ていて不快感を隠さないが彼女はまったくお構いなしだ。

待合い席で心臓が暴れ馬のようになっていた。
その隣で雑誌を見て「この服かわいいね~」とか言っているが、
腹立たしいのと緊張でそれどころではない。

俺のテンパった顔を見て微笑んでいる。

(とんでもない女だ)


87:1
06/07/22 23:00:09 VYARX4xj
>>86の続き

俺の順番が来た。

「死んだ振りしていれば大丈夫だよ」ニコニコしながら耳元でささやく。

死んだ振りは無理だったが、眠った振りをしてやり過ごした。
時々目を開けて鏡越しに彼女の方を見た。
ずっと俺を見ている様だった。

終わった後も俺はむくれていたが、
「うんうん、なかなかカッコ良いよ」彼女は満足気である。

「頑張ったね~、チョコレートパフェおごってあげようか」
俺は別にチョコレートパフェが好きなわけではない。
俺が不機嫌になった時の彼女のお決まりのセリフである。
一度として実現したことはなかった。

「私はさとる君の困った顔が好きなの」
そんな酷いセリフを無邪気な笑顔で言われても
俺はどうしたら良いんだよ。

88:優しい名無しさん
06/07/22 23:01:33 79cubrH9
なにこれ。気持ち悪い・・・

89:1
06/07/22 23:02:29 VYARX4xj
>>87の続き

彼女と居る時間はとても楽しかった。
一緒に居るときは笑っていられた。

懐かしい感じがして 、
幼なじみや女の姉弟が居ればこんな感じなのかなと思ったりした。



90:1
06/07/22 23:03:58 VYARX4xj
>>89の続き

でも家で一人で居るときは、
これもどうせ儚いものだと考えていた。

”灰色の世界に花びらがひとひら落ちてきて
今はそこだけ鮮やかに色づいているけど
しかしやがて天候が変わり風が吹けば簡単に飛ばされてしまい
そしてまた一面の灰色が残されるだけ。 ”

そんなもんだろう。
そんなもんだと思うようにしていた。

人生に何かを期待するのが怖かった。
そもそもなんで彼女が俺なんかに優しくしてくれるのか分からなかった。

91:1
06/07/22 23:07:02 VYARX4xj
>>90の続き

一人の休日は自分の部屋に籠もって色々と考えていた。
これからどうやって生きていけばいいのか。

今の生活を続けていけば、じり貧になるのは明白だった。

高卒の俺がアルバイト生活をいつまでも続け、
歳を取れな取るほど就職が困難になる。

そうかといって今の俺は現状維持が精一杯で
新しい世界に飛び込んでいく余裕も勇気もない。

92:1
06/07/22 23:08:13 VYARX4xj
>>91の続き

何のために生きているのか、
自分の存在にすら違和感を感じて
どうか俺自身が消えてくれないかと願ってみたりする。

生まれてきて良かったなんて今まで一度だって思ったことがなかった。

せめて、こんなにも苦しいなら人生の価値とか意味とか理由とか知りたいと
あれこれと考えてみるけれど
いつまで経っても納得出来る答えは出てこなかった。



93:1
06/07/22 23:10:00 VYARX4xj
>>92の続き

「さとる君は考えすぎだよ。頭でっかちのさとる君。」
彼女は唐突にこう言って、よく俺をからかった。

「俺のこと分かったようなこと言わないでくれ」
と口では言っていたが、さほど不快ではなかった。

不快では無かったが納得もしていなかった。

人生すべて上手く行っていてバラ色なら脳天気でいられる。
今の俺は考えなくちゃならないことが沢山あった。

94:優しい名無しさん
06/07/22 23:16:48 79cubrH9
創作系の板行った方がいいんじゃね?

95:優しい名無しさん
06/07/23 15:42:15 su7rxM9r
いつこれが登場するの?
URLリンク(www.shop-sanei.com)

96:1
06/07/24 22:04:53 QSWzv57i

あまりにも無計画に書き始めたので失敗しました。
行き詰まってしまいました。


97:優しい名無しさん
06/07/25 09:22:09 WFq248fS
>>96
えっ、マジで?
仕事の合間のいい気晴らしだったのに・・・
スレが落ちる前に充電し直して、続きを書いて欲しいです。

98:優しい名無しさん
06/07/25 19:14:34 /pmMs2GZ
age

99:1
06/07/28 21:49:30 HvWpg7ig
最初から読んでくれてる人も居たんだね。


100:1
06/07/29 22:26:15 x6jUF6XC
最初から一部を書き直して
改訂版を他でアップするつもりですが(時期未定)
ここでは2ちゃんバージョンをお届けします。

最後まで書けなかったらごめんなさい。
sageで行きます。

101:1
06/07/29 22:27:48 x6jUF6XC
>>93の続き

知り合って4,5ヶ月経った頃。
彼女の家に初めて行った。

別に誘われたのでも
俺が行きたいと言ったのでもなく
ただの成り行きだった。

俺は外出先で体調が悪くなることがよくあった。
特に人混みが苦手で、頭がクラクラしたり
酷い時には目がかすみ前が良く見えなくなる。

そんな時彼女はいつも俺の状態を察して
静かなところに連れて行ってくれた。

その日はたまたま近くで買い物をしていたので
彼女の家に向かった。

102:1
06/07/29 22:30:05 x6jUF6XC
>>101の続き

彼女が俺のヘソのあたりに手を置いて
「ここだよ。ここ」と言う。
俺の具合が悪くなった時のお決まりの行動だ。

腹筋に力を入れて見せたら
「違うよ。意識を向けるだけで良いの。
体に無駄な力を入れる癖をつけちゃ駄目だよ。」

「意識を向けるって言う言葉の意味が分からないよ」
俺は面倒臭そうに言う。

そんなことより早く休みたい。

103:1
06/07/29 22:31:48 x6jUF6XC
>>102

いきなりバチンと掌で腹を叩かれた。

「何してんの!?痛いよ!」
俺が具合が悪いの分かってるだろ。

「ねっ!これがお腹に意識が向いた状態だよ」
(ねっ!じゃないだろ!)

ヘソの少し下のあたりに丹田とか言う場所があって
そこに力が充実していると精神が安定し、
まわりの影響を受けにくくなると言うのが彼女の理屈だ。

俺にはまったくトンチンカンなおとぎ話だ。

104:1
06/07/29 22:33:32 x6jUF6XC
>>103の続き

「さとる君はいつも上に気が上がって
下半身がスカスカなんだよ。。
それじゃあ疲れちゃうよ。
私が色々とテクニックを教えてあげるよ」

「いつも言ってるけど、俺はいいから」
頭がクラクラしている今の俺には面倒臭い話だ。

「頑固だよね~」

(優しいんだか、意地悪なんだか分からないよ)

105:1
06/07/29 22:35:00 x6jUF6XC
>>104の続き

どこにでもある少し古そうなアパートだった。
地味な外観で彼女には似合わないなと思ったが
「駅から近くて結構家賃が安いの」と言って
お気に入りのご様子だ。

中は結構広く、8畳ほどのダイニングキッチンとそれ以外に二部屋ある。
ここに一人で暮らしているそうだ。


106:1
06/07/29 22:37:52 x6jUF6XC
>>105の続き

女性の部屋に入るのは初めてだった。
俺がイメージしていた女性の部屋とはほど遠く
ぬいぐるみもピンクのカーテンもない。

畳の部屋で、窓には青いカーテン、
ベットには薄いオレンジ色の布団が乗っている。
物が少なく落ち着いた感じの部屋だ。

「ここで寝てていいよ」

俺は上着を脱いでベットに寝かされた。
太陽の臭いと、枕からは彼女の髪の香りがする。

フカフカして気持ちが良い。
俺はそのまま眠ってしまった。

107:1
06/07/30 10:52:52 5BmP5pa4
>>106の続き

どれくらい寝たのだろうか、
目が覚めた時、外はもうすっかり暗くなっていた。
時計を見ると8時を回っている。
3時間以上は寝ていたことになる。

彼女は台所に居るようだ。物音が聞こえる。

ところで、今俺が置かれている状況は・・・
一人暮らしの女性の部屋でベットに寝ている。
緊張してきて一気に眠気が覚めた。

(どんな顔をして出て行けば良いんだよ)

108:1
06/07/30 10:56:39 5BmP5pa4
>>107の続き

「あっ、目が覚めた?

午前中に布団干したんだよ。
気持ちよかったでしょ。

夕飯食べていきなよ。もうすぐで出来るから。

最初に言っておくけど
どんなに不味くても美味しいって言うんだよ。
そう言っとけば間違いないから」

台所に入って来た俺の顔を見て声を掛けてきた。
いつもとまったく変わらない彼女がいた。
大きすぎるエプロンが似合っていない。

109:1
06/07/30 10:58:35 5BmP5pa4
>>108の続き

「う、うん」
ぎこちないのは俺だけだった。
さり気なく振る舞うことが大の苦手だ。

肉嫌いの彼女が作った料理はもちろん魚料理だった。
結構薄味だ。

味が薄いからか、緊張の為なのか美味いのか不味いのか分からない。

「どお?」

「うん、美味しいよ」
最初から用意された回答を言う。

「正解です!」
彼女は満足気だ。

110:1
06/07/30 11:02:24 5BmP5pa4
>>109の続き

「お母さんには女の部屋に
行ったなんて言わない方が良いよ。
女親は色々と心配するからね」

「うん、そうだね」

俺は話題を探した。

「あっちの部屋は?」
まだ見ていないもう一つの部屋を指差して言った。

「私の仕事部屋だよ」

111:優しい名無しさん
06/08/01 00:47:23 Lis0iIk9
結構、楽しみにしてるので
のんびりでいいから続けてね。
まだレイキの詳しい事わかんないし…

112:1
06/08/02 21:55:04 NSEJXEDv
ありがとう
のんびり書きます。


113:1
06/08/02 21:57:36 NSEJXEDv
>>110の続き

ヒーリングを仕事にしていることは前から聞いていた。
自宅で女性相手に商売をしているらしい。
初めて会った日に話していた末期癌の患者もお客さんの一人だと聞いていた。

無料でヒーリングをしてくれると何度か誘われたがいつも断っている。

”俺に限っては”と言う意味でだが、あまり期待は出来ないと思っている。

自分を変えたくて今までも色々試してきた。
カウンセリングもカイロプラクティックや鍼灸も・・・
心身両面からアプローチすれば効果があると思った。

あまり続かなかったせいもあるかもしれないが
相変わらず俺はこの通りだ。

彼女の仕事を否定する気持は無かった。


114:1
06/08/02 22:00:17 NSEJXEDv
>>113の続き

結局はずっと抵抗があった薬物療法に行き着いた。
抗うつ剤と抗不安剤で感情と思考を麻痺させる下品な療法だ。

本当に回復に向かっているのかまったく実感がないが、
頭が馬鹿な状態で、ボーっとなんとなく生きて
くたばるのならそれも素敵だ。
出来ることなら早めにくたばりたいと願うばかりだ。

でも、誘いを断っていた一番の理由は
ヒーリングを受けて効果が出なかったら
彼女を傷つけるのでは無いかと思ったからだ。

115:1
06/08/02 22:01:05 NSEJXEDv
>>114の続き

具体的にどんなことをするのか聞いたが、
いつも教えてくれなかった。
先入観を持たずに体験して欲しいと言うのが理由だった。

ヒーリングにはさほど興味が無かったが
彼女の仕事部屋が見たくなって食後に見せてもらった。


116:1
06/08/02 22:02:41 NSEJXEDv
>>115の続き

6畳ほどのフローリングの中央に
マッサージ店などで見かける
頭の所に穴の空いたベットが置いてある。

部屋全体にお香の匂いがして
壁にはマンダラや太陽の絵、
意味不明な幾何学模様の絵などが何枚も飾ってある。

部屋の四隅には、岩か塩のかたまりの様な
高さ30センチほどの得体の知れない白い物体が置いてある。

(異様と言うか悪趣味というか・・・)

117:1
06/08/02 22:04:37 NSEJXEDv
>>116の続き

「この部屋は・・・」
俺は見慣れない異空間に言葉を失っていた。

「えっ、何?」
「ちょっと・・・変わってるね」
「そう?」
「・・・」

二人で突っ立ったまま部屋の中を見ている。
俺は彼女の趣味が理解できない。
彼女は俺の反応が理解できない様子だった。

118:1
06/08/02 22:06:32 NSEJXEDv
>>117の続き

「これマンダラって言うんだよね」
先ほどまで寝ていた部屋の本棚に
キリスト教の聖書が置いてあるのを思い出しながら言った。

「そうだよ」
「マンダラって仏教だったよね?」
「うん、そうだよ」
「あっちの部屋の本棚に聖書が置いてあったよね」
「うん、置いてあるね」
「・・・」
「えっ?何?」

俺が何を言いたいのか分からない様で
きょとんとしている。

119:1
06/08/02 22:07:43 NSEJXEDv
>>118の続き

「何教なの?」
「ナニキョウ?」
「信仰している宗教は何?」
「信仰している宗教・・・?」

誤魔化しているのではなく
なんて答えて良いか本当に分からない様子だ。

俺は無宗教だから良く分からないがこういうのはアリか?


120:1
06/08/02 22:10:11 NSEJXEDv
>>119の続き

二人ともポカーンとして
傍から見ればアホが二人突っ立っているように見えるだろう。

「なにかおかしい?」
「う~ん・・・」
「・・・」
「・・・」

アホが二人、無言のままキッチンに戻る。

テーブルに着いて彼女が煎れてくれた緑茶を飲む。
かみ合わない二人に変な沈黙が流れる。
視線が合って、その空気に二人同時に笑い出した。

121:1
06/08/05 22:01:18 6sgMeeQK
>>120の続き

「どこか宗教団体には入ってるの?」

「宗教団体には入ってないけど
普通の人が見たら変わっていると思う事は色々やってるかも」

(自分が変わっているって自覚してるんだ。)

「変わってる事って?」

「ヨガ、瞑想、レイキ、オーラソーマ、NLPとかかな・・・」
思い出すように指折り数えながら言う。

聞いたことあるのはヨガと瞑想くらいだ。

122:1
06/08/05 22:02:58 6sgMeeQK
>>121の続き

「神様は信じる?」

「そういうのは在るんじゃない。」
彼女は”居る”ではなく”在る”と言った。

「ふ~ん・・・」
聞きたいことが何かあったはずだが、上手く言葉が出てこなかった。

「色々と宗教書は読むけど、参考程度だよ。
理屈で分かる世界じゃないと思うし。
さとる君は?」

「神様が居ればもう少し世の中マシでしょ。
もし居ると仮定して、この苦しい世界が神の試練なら、
何様気取りで試練とか与えているんだろうね。
余程のサディストだよ」

「ひねくれてるね~」
目に涙をためながらお腹を抱えて笑っている。

(俺はウケねらいで言ったんじゃないよ。)


123:1
06/08/05 22:04:03 6sgMeeQK
>>122の続き

「あの部屋見てお客さん何か言わない?」

「そんなに違和感ある?」意外そうに言う。
「一度来て二度と来なくなるお客さんは居るけど・・・
あの部屋が原因なんて事あるのかな?」

あると思う。十二分に。

「経営は成り立ってる?」
なんか心配になってきた。
ボロアパートでも都心に近くてこれだけの間取りなら
家賃を払うだけでも大変だろう。


124:1
06/08/05 22:04:59 6sgMeeQK
>>123の続き

「基本的に土日は休みにしてるけど
平日はほとんど予約で埋まってるよ。
まあまあ順調なんじゃないかな」

「へ~っ!」
そんなにマニアが居るのかと思わず驚きの声が出てしまったが、
彼女の人柄に惹かれて客が集まっても不思議じゃないなと直ぐに思い直した。

「『へ~!』って少し失礼じゃない」
そう言いながらも声を出して笑っている。

「もう良い時間だよ。
お母さん心配するから帰った方が良いよ」

最近俺はすっかり子供扱いされている。
それはそれでなんとなく安心感を覚えるが、複雑な気持ちだ。

125:43
06/08/06 21:59:51 IlDM8lg5
>>121
オーラソーマやエンジェルリンクはなんか女性用な気がして手が出せないんだよね・・・

126:1
06/08/07 03:43:32 r9N1Hh0R
オーラソーマって使えるんでしょうかね?
俺はあまり興味ないです。

時々書き込んでくれると嬉しいです。
このスレ俺一人?とか思っちゃうので

127:1
06/08/07 03:45:21 r9N1Hh0R
>>124の続き

彼女を知れば知るほど遠い存在だと思うようになっていった。

「さとる君と私は似ているね」
彼女はよくそんなことを言っていた。

天真爛漫で無邪気に笑う彼女と
まだ21なのに精神的に年老いている俺(もちろん成熟しているって意味じゃない)
とどこが似て居るんだ。

彼女は立派に自立して自分で商売をしている。
社交的で友人も多く、いつも心に余裕を持って見かけに寄らず強い人だ。

趣味嗜好、性格、生き方、あらゆる全てが俺とは全く違った。

128:1
06/08/07 03:48:24 r9N1Hh0R
>>127の続き

俺は彼女に何も期待していなかった。
男が女に求めることも、特別な感情を持ってもらうことも。
ただ一緒にいて笑っていられれば、それだけで良かった。

次第にそれすらも疑問を持つようになっていった。
俺と彼女じゃ何もかも釣り合っていない。

一緒に居る時間が楽しければ楽しいほど
その後一人になって落ち込むことも多くなった。

(もう会わない方が良いのかな)
そんな事も考えたりした。

129:1
06/08/07 03:51:00 r9N1Hh0R
>>128の続き

秋が過ぎ、冬が訪れていた。

環境に変化があった。
季節外れの人事異動で、バイト先の上司が代わったのだ。

高木と言う23才の小太りの男で、いつも尊大な態度で
年齢より5才は老けて見えた。

完璧主義者で細かいことまで口うるさく、みんなに嫌われていた。
休憩時間に同僚が高木ブーと言ってバカにしているのをよく耳にした。

俺は会話に加わらなかったが
誰よりも高木を嫌っているのは他ならぬ俺だった。

高木の俺に対するイジメが始まっていたのだ。

130:1
06/08/07 03:53:57 r9N1Hh0R
>>129の続き

高木は高卒でこの会社に入社し、
異例の早さで主任まで出世した優秀な人らしかった。

俺の所属する課では不良品が多く、
それが社内で問題になり、
幹部からの信頼の厚い高木が職場の改善のために抜擢されたのだ。

高木が来てから、作業手順から、チェック項目まで
前任者とは仕事のやり方が大きく変わった。
合理的で無駄が無く、初めは頭の良い人だと思っていた。

しかし、部下の大半が高木より年上だった為か、
同僚達は反発してなかなか言うことを聞かなかった。

そのストレスは、無口でおとなしい俺に向かっていった。

131:1
06/08/07 03:58:32 r9N1Hh0R
>>130の続き

高木に対して初めはなんの感情もなかった。
新しい作業手順に慣れようと努力もした。

俺は俺なりに仕事は真面目にやっていたつもりだ。
今までだって、無駄話しながら作業する同僚より、
もくもくと働く俺の方が、作業スピードも速くミスも極端に少なかった。

それなのに高木は、他の社員を見回り
思い通りにならないイライラを俺の所に来てぶつけた。

132:1
06/08/07 04:00:03 r9N1Hh0R
>>131の続き

「そんなやり方してるからミスが増えるんだ!
責任感を持って仕事しろよ!お前頭悪いのか!」
敢えてみんなに聞こえるように大声で怒鳴りつけた。

言葉の最後に必ず「バカ野郎」「アホ」「グズ」と無駄な一言が入る。
そんなセリフで作業効率や品質が上がるのなら、
トヨタもホンダも採用するだろうが、
そんな話は聞いたことがない。

(本当は俺に言いたいんじゃなくて、
みんなに聞かせるために俺を見せしめに使ってるんだろ)

悔しくて仕方なかったが、何も言い返せなかった。

133:1
06/08/07 04:02:28 r9N1Hh0R
>>132の続き

ストレスで頭がボーっとすることが多くなり、
同僚のミスが減っていくのに反比例して
俺は作業上のミスが増えていった。

高木に対する怒りは、自己嫌悪に変わっていった。
言われるままで何も言い返せない自分に。
たいして難しい作業でもないのに、それすら満足に出来ない自分に。

(こんな姿彼女に見せられない。あまりにみじめだ。)

134:1
06/08/07 04:06:33 r9N1Hh0R
>>133の続き

俺には何もなかった。
学歴も、能力も、人間的な強さも、
そして、欲しい物も、やりたいことも・・・

どこに行ってもこの駄目な自分からは逃れられない。
その現実に耐えられなかった。

生きる理由を必死で探した。
人生の価値、自分が存在する価値、苦痛に耐えるに値する生きる理由が必要だった。
しかしどんなに考えても何も見えてこなかった。

その頃から精神薬を貯め始めた。
ネットで知り合った人も何人かこれで逝っている。
一番確実で苦痛の少ない方法だろう。

135:1
06/08/08 09:22:55 wbgnyXNf
>>134の続き

彼女からの誘いも断ることも多くなった。
2ヶ月くらい会わない時もあった。

一緒居る時も、あれこれと考えて
彼女が何を話していたのか分からなくなることも時折あった。

居酒屋で飲んでいる時、彼女が不意に質問してきた。

「人間が限界まで絶望すると、何を体験すると思う?」

(なんでそんな事を聞くんだろう)

「自殺するんじゃない」
言ってから自分の言葉にドキッとした。


136:1
06/08/08 09:26:04 wbgnyXNf
>>135の続き

「それでも死ななかったら?死なずにとことん絶望したらどうなると思う?」
世間話でもするような自然な口調だ。

「頭がおかしくなるのかな~」
敢えて興味なさそうに答えた。

137:1
06/08/08 09:27:11 wbgnyXNf
>>136の続き

彼女は料理に目を向けながら、独り言の様に話始めた。

「人は何か抱えきれないことがあると絶望する。
そのままじゃ壊れてしまうから、
自然と色々な想いを捨て始める。

プライドも見栄も、未来も希望も・・・
そうやって捨てていくと最後の最後に
生きたいという想いと、死にたいという想いだけが残るの。

ほとんどの人は、落ちていく途中で、
生と死の欲求のぶつかり合いの中で死んでいくの。
自殺する人は、心のどこかで生きたいと想いながら死んでいく。

それでも死なずに生き続けると
生死の欲求すら重たくなって壊れてしまいそうになる。
それすら捨てざるを得なくなる。

全ての想いを捨てると自分自身すら消えてしまうの。
自分が消えた時、完全な自由や
今まで体験したことも無いような完全な安らぎを体験する。

それが絶望の底だよ。」

138:1
06/08/08 09:29:03 wbgnyXNf
>>137の続き

ずっと黙って聞いていた。
彼女は時折料理を口に運びながら
なんでも無いことのように話し続ける。

「それからまた捨てた物を一つずつ拾い始めて
重たくなってくるんだけどね。

でも元通りにはならない。
一つずつ拾いながら重たくなっていく過程を体験しているから、
必要以上に抱え込まなくなるの。」

139:1
06/08/08 09:30:55 wbgnyXNf
>>138の続き

話の内容は部分的に覚えているのに
俺はどう思って聞いていたのかまったく思い出せない。

一つだけ確かなことは
彼女が何かを伝えようとしてくれていたのに
それをちゃんと受け取ることが出来なかった。

随分経ってから気付いたことだが
ただの癖なのか、俺が言葉を受け取りやすいように考えてのことなのか、
何か大切な事を伝えたい時、彼女はいつも静かに独り言のように話していた。

140:1
06/08/08 09:31:37 wbgnyXNf
今週は夜勤なのでこんな時間に書いています。
それではおやすみなさい。

141:優しい名無しさん
06/08/08 12:25:18 OGPFDiwE
おつかれさまー
続きはマターリ待ってるお!

142:1
06/08/10 08:37:27 Ia8oYudZ
あっ、こんにちは

143:1
06/08/10 08:38:50 Ia8oYudZ
>>139の続き

それから2週間くらい経った頃だろうか。
近くに来ているからと呼び出されて
ファミリーレストランに来ていた。

俺はファミリーレストランの様な華やかな場所は苦手だったのだが
彼女に何度も強引に連れてこられ、今ではすっかり慣れて
料理も美味しくてお気に入りの場所の一つになっていた。

ファミリーレストランに”華やかさ”や”美味”があるかどうか
異論はあるだろうが、「人並み」に一歩近づけたと俺はささやかな満足を感じていた。


144:1
06/08/10 08:39:42 Ia8oYudZ
>>143の続き

窓の外は霧雨が降っている。
雨の日の彼女はいつも少しテンションが低く口数も少ない。

今日は特に彼女の様子がいつもと違う。
何かをずっと考えているようだった。
どことなく寂しげにも見える。

145:1
06/08/10 08:41:09 Ia8oYudZ
>>144の続き

「雨の日は嫌いだけど好き」
いつか彼女が言っていた。
矛盾しているが俺にはしっくりと来る表現だった。

人にとってあらゆる対象物に向ける感情は
好きだけど嫌い、嫌いだけど好き、無関心の3パターンしかない。

どんなに愛し合っている夫婦や恋人同士、親子や兄弟、親友でも
それに相反する感情が必ず隠されている。

それに気付かないか、または気付かない振りをする。
あるいは問題視しないことで関係は保たれていく。

雨には彼女の心を揺さぶる何かがあるのだろうと思った。


146:1
06/08/10 08:42:46 Ia8oYudZ
>>145の続き

「さとる君はいつも何か考えてるね」
”頭でっかち”といつものからかう口調とは今日は違った。
”ただ客観的事実を口にした”そんな気怠い感じの言い方だった。

「そうかな~」
軽く受け流す感じで言う。

「疲れちゃうでしょ」

「俺が何を考えているか分かるの?」
なんの感情もなく、なんとなく発した言葉だ。

「分からないよ」

「俺の性格とか良く分かるみたいだけど」

「感じるだけだよ」

「ふ~ん」

147:1
06/08/10 08:44:07 Ia8oYudZ
>>146の続き

「音楽で喩えれば、メロディーは分かるけど歌詞は分からない。そんな感じかな」

「俺が普段何を考えていると思う?」(俺はどんな音楽を奏でているんだろう)

「だから分からないよ」
少し苦笑を浮かべている。

「想像で良いよ」
遊びのつもりで軽く聞いた。

「う~ん、そうだね~
雨が降って傘を差すくらいの準備はあっても良いけど
さとる君の場合は、雨を止めようとして雲に向かって石を投げてる。」

「・・・もうちょっと分かりやすく言って」

148:1
06/08/10 08:45:35 Ia8oYudZ
>>147の続き

「コントロール出来ないことをコントロールしようとしているとか、
答えが出るはずの無いことにも無理矢理答えを出そうとしているとか、
考えすぎて余計に分からなくなってどんどん消耗していくとか、
そんな感じかな。」

俺はそんなだったかな?
彼女の言葉をどう受け取ったらいいか戸惑っていた。

たしかに考えなくても良いことまで考えてることもあるかもしれないが・・・
俺の考えていることは無駄な事って言われているような気もする。
そんなに無駄な事ばかり考えているつもりはない。

「俺が考えていることは無駄って事?」

「雲に石を投げ続けて疲れていく姿は滑稽でしょ」

(滑稽って・・・)

149:1
06/08/10 08:47:09 Ia8oYudZ
>>148の続き

「考えなくちゃならないこともあるでしょ?」

「じゃあ何を考えているの?
さとる君はいつも何も言わないから私だってわからないよ」
珍しく非難するような言い方だった。

「生きる意味とか・・・、人生の価値とか・・・、自分の存在理由とか・・・」
気恥ずかしくて小さな声になった。

こんなこと今まで人に話したことはなかった。
でも、俺がいつも低俗で無駄なことばかり考えているわけではないことを
分かってもらいたかった。

「くだらない」
顔を横に向けて、話にならないと言わんばかりだ。

150:1
06/08/10 08:51:26 Ia8oYudZ
>>149の続き

「どうして!」
俺は混乱していた。
なんでそんなことを言われなきゃならないんだ。

怒った方が良いのかな?
怒るべき場面とかタイミングが俺には分からない。

いつも怒るタイミングを逃して、あの時ああ言い返せば良かったとか
言い返せないまでもせめて不愉快な顔くらい見せるべきだったとか
後になってから後悔する。

「考えても答えの出ないことでしょ。
そんなものは生きていく中で見えてくるものだよ。
だから考えたって無駄、滑稽だって言ってるの。」
俺の目を見てキッパリと言い切った。

151:1
06/08/11 07:14:15 3ilG1+fx
>>150の続き

俺は我慢出来なくなって一気に話し始めた。

「生きる理由は誰だって知りたいはずだ。
俺が”生きる理由”を欲しいのは人生に喜びを見出せないからであって

人は、遊園地で遊んでいるとき
面白いテレビを見ているとき
美味しい料理やお菓子を食べているとき
『何故ジェットコースターに乗るの?』『何故テレビを見るの?』『何故食べるの?』
と理由を求めたりしない。

理由を求めるのは
何か不快感があるとき
何か痛みがあるとき
何か理不尽さを感じるとき
そこに理由が無いと耐えられないから

そして当たり前のように人生は誰にとっても厳しいもので
だから納得できる理由が欲しいんだ」

感情を抑えながら、分かってもらおうと必死で話した。

152:1
06/08/11 07:15:50 3ilG1+fx
>>151の続き

「だからそれが無駄なのよ!」
聞いたことの無い厳しい声だ。

どうして彼女がこんなに苛ついているのかまったく分からない。
俺が普段何を考えようが自由なはずだ。
何があったか知らないが、これじゃただの八つ当たりじゃないか。

153:1
06/08/11 07:17:37 3ilG1+fx
>>152の続き

「さとる君は幻想を持ってるの
考えれば考えるほどより良い答えが見つかるはずだとか

その答えが見つかれば不安から解放されるはずだとか
もっとより良い生き方が出来るはずだとか

でも実際は考えれば考えるほど不安になって
余計に分からなくなってしまうことの方が多いの

考えるのを止めた時に見えてくることの方が多いよ
さとる君は目の前すら見えていないじゃない」


154:1
06/08/11 07:20:44 3ilG1+fx
>>153の続き

「不安だから考えるんだよ。
考えずにはいられないんだ。
全て上手くいってれば俺だってあれこれと考えないよ」

感情が高ぶっていた。本当はもっと違うことが言いたかったはずた。
何か言わずにはおれなくて出てきた言葉だった。

本当は自分を否定されているのが悔しかっただけだ。
いったい俺の何を分かってそんなことを言っているんだ。

(顔を見ているだけで不愉快だ。)
初めて本気でそう思った。

彼女が一瞬悲しそうな顔をした。
俺の気持が伝わったのだろうと思った。

155:1
06/08/11 07:22:30 3ilG1+fx
>>154の続き

それでも彼女は話し続けた。

「そうだね。不安になると考えちゃう。
考える必要の無いことを考えないためには覚悟が必要だよ。

現実を受け入れる覚悟って言うのかな。
生きていく上で降りかかる痛みに甘んじる覚悟

覚悟を決めると楽になるんだよ」

(もういい加減にしてくれよ)

156:1
06/08/11 07:24:32 3ilG1+fx
>>155の続き

「今のさとる君は傘を捨ててずぶ濡れになるくらいの覚悟でちょうど良いかも。
どんなに濡れたって死ぬことはないよ。

ずぶ濡れになる覚悟を決めたとき
自分の体がまったく濡れていないことに気づくこともよくある話だよ」

「・・・」

「学校でも家でも、親や教師が”考えろ”って言い過ぎなの。
考える事に過剰な価値を置きすぎてる。

一番必要なのは考えるべき事と、考えても仕方のないことを見極める事だよ。
考えても無駄なことは覚悟を決めてバッサリと切り離すことだよ。」

157:1
06/08/11 07:27:13 3ilG1+fx
>>156の続き

俺は悲しくなっていた。

彼女は時々強引なところがあったけど
土足で人の心に踏み入るようはことはしなかった。

今までも図星で色々言ったけど
俺を傷つけるような言い方をしたことは無かった。

俺は駄目なヤツだけど、俺は俺なりに・・・

俺のこと嫌いになったのかな?
嫌いになったらそう言ってくれればいい。
会いたくないのなら電話してこなければいい。

「もう帰ろう(もういい、もういいよ)」
限界だった。

158:1
06/08/11 07:31:02 3ilG1+fx
>>157の続き

「さとる君・・・」
彼女はまだ何か言いたげで、俺を引き留めようとしている。

「俺、今日はもう帰るよ。先に帰るね」
やっと出た小さな声でそれだけ言ってレストランを後にした。

歩道から窓越しの彼女を見た。
うつむいていた。小さな体が余計小さく見えた。

彼女と俺は違う
人それぞれの生き方があって良いはずだ。
誰かの生き方で自分を生きるのは宗教だ。

宗教を押しつけられても困る。

俺は傘で顔を隠し、まっすぐ家に向かった。
(せっかく出来た唯一の友達だったのに。)

159:1
06/08/12 07:24:08 ELZbr7b/
>>158の続き

俺の顔を見て母親が怪訝な顔をしている。

「今日は夕飯要らないから、もう寝るね」

もう限界で今すぐにでも自分を終わりにしたいと思ったが、
精神薬はまだ充分な量を用意できていなかった。

失敗して生き残ることほど恥ずかしいことはないと思った。
確実に一回で、それが俺の最後の見栄だった。

160:1
06/08/12 07:27:40 ELZbr7b/
>>159の続き

その夜彼女から電話があった。
母親が受話器を取り、俺が寝ていると言ったら、また今度電話すると切ったそうだ。

その後も平日に何度か電話があったそうだが
バイトが遅番のシフトだったので俺は家にいなかった。

週末にも2週続けて電話があった。
どこか遊びに行こうよと誘われたが、
体調が悪いから、家でやることがあるからと理由を付けて断った。

何を考えているのかさっぱり分からない。

「もう電話取り次がないで」
「何かあったの?」母親が心配そうに言う。
「大したことじゃないよ」


161:1
06/08/12 07:30:18 ELZbr7b/
>>160の続き

次の日曜日の朝に電話が鳴った。
「手を離せないから、ちょっとアンタ出てよ」
朝食を作りながら母親が言う。

受話器を取ると彼女からだった。
暗い気持ちになる。


162:1
06/08/12 07:31:51 ELZbr7b/
>>161の続き

「今日何か予定ある?」
「今日はちょっと・・・」
「私困っている事があって手を貸して欲しいの。
1時に秋葉原の電気街口の改札前ね。」
「・・・」
「分かった?1時に秋葉原電気街口の改札だよ」
「だから今日はちょっと・・・」
「本当に困ってるの。来なかったら恨むからね。絶対来てよ。」
「だから今日は・・・」
電話が切れた。

(なんなんだよ!)

163:1
06/08/12 07:34:28 ELZbr7b/
>>162の続き

散々迷ったが、せっぱ詰まった声が気になって
結局言われた場所に向かった。
30分近く遅れて駅に着いた。

まだ彼女は待っていた。
不安そうな顔をしている。
俺を見つけて嬉しそうに手を振る彼女の目が
少し潤んでいるに気付いた。

そんなに困っていたのか? 

164:1
06/08/12 07:36:08 ELZbr7b/
>>163の続き

「どうしたの?」
意地でも遅れてゴメンなんて言わない。
約束したつもりはないのだから。

「お客さんと連絡を取るのに、携帯メールや電話じゃ不便になって、
パソコン買おうと思っているの。
私そういうの全然駄目だからさとる君選んで」

困ってるってそんな事?
俺は力が抜けた。困っているって言うから来たのに・・・。
それになんで俺なんだよ。


165:1
06/08/12 07:38:40 ELZbr7b/
>>164の続き

「俺だってそんなに詳しくないよ。
店員に相談すれば色々教えてくれるよ。」

「さとる君はパソコン持ってたよね。
店員さんと話をするのもそれなりの知識が必要でしょ。
それに騙されて高い買い物させられるかもしれないし。」

嬉しそうに話す彼女の笑顔が余計に腹立たしい。

166:1
06/08/12 07:40:21 ELZbr7b/
>>165の続き

「で、どんなのが欲しいの?
マック?ウインドウズ?ノート?デスクトップ?」
どうでも良いと思いながらも仕方なく聞いた。

「私にも分かるように日本語でしゃべってよ」
何言ってるの?と言わんばかりだ。

そんな怒られても俺が悪いのか?
俺の質問の仕方が悪かったのか?

167:1
06/08/12 07:42:39 ELZbr7b/
>>166の続き

「・・・パソコンで何がしたいの?予算は?」
不機嫌に聞いた。

「取り合えずメールが出来れば良いよ。
安ければ安いほど良いけど、値段は成り行きで。
あっ、でも将来ホームページ作るかもしれないから
それなりの物が欲しいの。」

俺だってどんなのが良いか分からない。

「パソコンを使ったことは?」

「無いよ。携帯電話を使いこなすだけでも精一杯。」

これだけチンプンカンプンな人のパソコンを選ぶのか・・・
責任重大じゃないか。

168:1
06/08/12 07:45:31 ELZbr7b/
>>167の続き

俺は秋葉原に詳しくなかった。
この街の独特の雰囲気に馴染めなくて
数える程しか来たことがない。

取り合えず名前を聞いたことがある大型店に入った。

「これがマック、こっちがウインドウズ、
これがノート型で、これがデスクトップ型だよ」
次々と説明しながら見せていった。

「ふ~ん、4種類もあるんだね」

(いや、ちょっと違う)

説明の仕方が悪かったか・・・
彼女にパソコンの基礎を教えるだけで丸一日掛かりそうだ。

169:1
06/08/12 07:51:17 ELZbr7b/
>>168の続き

「取り合えず手頃な値段でメールが出来るパソコンなら良いんだよね?」
気を取り直してもう一度確認した。

「うん、可愛いのが良い。」

「・・・」

困って店員に相談した。
俺にとっては苦痛な事だがそんなこと言っていられない。
標準的なマシンを選んでもらおう。

170:1
06/08/12 07:52:39 ELZbr7b/
>>169の続き

「それほどハイスペックじゃなく、
基本的な事がストレス無く出来る
パソコンを探して居るんですが、
何かお薦めありますか?
なるべく値段の張らないのが良いのですが。」

店員からも俺が彼女にした質問と
同じ様なことを聞かれた。
(そりゃそうだよな)

171:1
06/08/12 07:54:43 ELZbr7b/
>>170の続き

「優先順位は?」
仕方なく彼女に聞いた。

「優先順位って?」
「機能、値段、大きさ、どれ?」
「可愛いのが良い」

(話が変わってきてるじゃないか)

172:1
06/08/12 07:56:05 ELZbr7b/
>>171の続き

「どれが可愛いと思う?」
「これ!」
指さしたのはiMACだった。

「これでメール出来る?」彼女が聞く。
「出来るよ。」俺は答える。
「ホームページ作れる?」
「作れるんじゃない」
「じゃあこれが良い」

(俺必要無いじゃない・・・Orz)

173:1
06/08/12 07:58:04 ELZbr7b/
>>172の続き

「他の店も見て、値段を見比べた方が良いよ」
店員に聞かれないように小さな声で言った。

「大きな店の方が良いもの置いてそうじゃない。いいよ此処で。」

「野菜や果物じゃないんだから、
同じ機種ならどこで買っても性能は同じだよ」

「めんどうだからいいよ」

「・・・」
なんなんだこの疲労感は・・・

初心者向けのマニュアルと、インターネットの
アンチウイルスソフトを一緒に買って店を出た。

174:1
06/08/13 20:36:59 EI8BPF3m
>>173の続き

お礼に夕飯を奢ってくれると言うので
あまり気が進まなかったが、
少しお洒落なカレー店に入った。

「日本語で書いてくれなきゃ分からないよ」
そんなことを良いながら先ほど買ったマニュアルを見ている。

「全部日本語で書いたらもっと訳分からなくなるよ」
俺はぐったりと疲れ、力無く言う。


175:1
06/08/13 20:40:31 EI8BPF3m
>>174の続き

「2,3日で届くって言ってたから、
次の土曜か日曜日ね」

「んっ?」
彼女が何を言っているのか分からない。

「家に来てセッティングしてくれるでしょ」

「えっ!?」
思わず大きな声が出た。
隣のカップルがこちらを見ているのに気付いて恥ずかしくなった。

176:1
06/08/13 20:43:48 EI8BPF3m
>>175の続き

「私出来ないもん。最後まで責任持ってよ。」
当然でしょ、とでも言いたげだ。

(あれっ?そういうことになっちゃうの?)

「カレー食べたよね」

「う、うん」

「このカレーはセッティングも含まれてるよ。
また美味しい魚料理作ってあげるから。」

「魚料理より肉料理の方が好きなんだよ」
俺は何を言っているんだ。問題はそんなことじゃない。

「肉ばっかり食べてるとアタマ馬鹿になるよ」

(そんな話聞いたこと無いよ・・・ああそうか、ドコサヘキサエン酸がどうしたこうしたって言うあれか・・・)

少し我が儘が過ぎるんじゃないかと思った。
俺、便利に使われているだけじゃないか。

飲みに誘われたが「疲れたから」と言って断った。

177:1
06/08/15 20:30:40 K2ys+fwt
>>176の続き

彼女ともうあまり会いたくなかった。

この前のことを引きずっていたが
問題はそんなことじゃなかったのかもしれない。

彼女のことが好きだとか嫌いだとか
一緒に居る時間が楽しいとか不快だとか
それら全てが苦痛だった。

このまま会わずに互いに無関心になっていけば
それが俺にとっては一番楽なのだと思った。

178:1
06/08/15 20:31:43 K2ys+fwt
>>177の続き

口うるさい両親からも
高木からも、そして彼女からも逃げたかった。

それなのに俺は、次の週末までマニュアルを買って勉強していた。

ウインドウズは持っていたが、
マッキントッシュはほとんど触ったことが無かったからだ。

なんでこんなことしているんだろうと思いながら
マニュアルの文字を追いかけた。


179:1
06/08/15 20:33:36 K2ys+fwt
>>178の続き

約束?通り次の土曜日に彼女のアパートに行った。

「いらっしゃい!
部屋の中で見るとパソコンって凄く大きく見えるね」

「箱は大きいんだよ。中身はそれほどでもないよ」

ご機嫌な彼女と対照的に俺は不機嫌だった。
お茶を飲むか聞かれたが直ぐに作業を始めることにした。

早めに終わらせて、家に帰って寝ようと思っていた。
最近酷く疲れているんだ。


180:1
06/08/15 20:34:50 K2ys+fwt
>>179の続き

パソコンを座卓型デスクの上に置き、メールの設定を始めた。

彼女は俺の肩越しにモニターを覗き込んでいる。
肩にアゴが乗りそうなほど近い。

(ちょっと・・・顔が近すぎるよ)
そう思って彼女の方を向いた。

彼女はニコニコと首をかしげて(何?)という表情をしている。
新しいおもちゃを目の前にして嬉しくて仕方がないようだ。
ため息が出そうになるのを堪えて、マニュアルに目を落とす。

181:1
06/08/15 20:36:02 K2ys+fwt
>>180の続き

次にアンチウイルスソフトのインストールを始めた。

自分のパソコンにも同じソフトが入っているが、
インストール後に何か設定が必要だったか覚えていないので
パッケージに入っていたマニュアルをめくる。

彼女に説明しなきゃならないこともあるかもしれない。

製品についているマニュアルは、
どうしてこんなにも分かりづらいのだろうか。

182:1
06/08/15 20:38:08 K2ys+fwt
>>181の続き

「これ、この前買ったソフトだよね。
何をするソフト?」

この前説明したはずだが・・・

「コンピューターウイルスからパソコンを守るソフトだよ」

「コンピューターウイルスって聞いたことあるよ。
パソコンが病気になるなんて不思議だよね。」

「そうだね」
説明するのも面倒なので適当に答える。

「私がヒーリングしたら直ったりするかな?」

「それは有り得ないよ」

183:1
06/08/15 20:39:13 K2ys+fwt
>>182の続き

そんなことより俺はマニュアルを理解するのに苦労している。
ただでさえ最近頭の働きが悪いのだ。

これを全部読んで理解するのは時間が掛かりすぎるので、
最低限知る必要のある箇所を探していた。

ふと気付くと、今まで直ぐ近くに感じていた彼女の息づかいや体温を感じない。
振り向くと彼女は一歩下がった所で気落ちした表情でうつむいている。

184:1
06/08/15 20:40:46 K2ys+fwt
>>183の続き

何が起きたのか分からない。
俺が見ているのに気付いて彼女は顔を上げた。

「私の仕事そんなにバカにしなくても良いじゃない」
彼女には似合わない弱々しい声だ。

「・・・???」
彼女の表情に何か違和感を感じたが、
それよりも、なぜ今そんなセリフが出てくるのか分からない。

俺は彼女の仕事をバカにしたことはない。
若いのに自分で商売していることを立派だと思っていたくらいだ。

185:1
06/08/15 20:42:36 K2ys+fwt
>>184の続き

「頭ごなしに否定しなくても良いでしょ」

もしかしてさっきのアレ?
コンピュータウイルスはプログラムだから
ヒーリングで直るはずがない。 

ヒーリングでプログラムを書き換える事が出来るなら
プログラマーは全員ヒーリングを学ぶだろう。

俺は別に間違ったことは言っていないはずだ。

彼女は泣きそうな顔をしている。
でもなんとなく変だ・・・

186:1
06/08/15 20:49:12 K2ys+fwt
>>185の続き

「コンピューターウイルスはプログラムだから・・」
「私のヒーリング受けたことも無いくせに」
「だからコンピュータウイルスは・・・」
「さとる君は認めてくれないかもしれないけど
私はこの仕事に誇りを持ってるの」

説明して誤解を解こうと思ったのに聞いてくれない。

言葉というのは少しズレていても間違っていると気付きやすい。
正当性を主張しようとして出された言葉が、大きく外れていれば屁理屈だと分かる。

しかし、今の彼女の様にストライクゾーンを完全に無視して、
あらぬ方向に勢いよく飛んでいく言葉には
妙な説得力が生まれてしまうことがある。

だから人は、有り得ない詐欺や
インチキ宗教に引っ掛かってしまうのだ。

俺は動揺していた。

187:1
06/08/15 20:52:24 K2ys+fwt
>>186の続き

「私に出会えて救われたって言ってくれる人もいるの」

「・・・」

「私の仕事をバカにすることは
私自身をバカにすることになるんだよ」

このセリフで俺は完全に出来上がってしまった。

「ごめん・・・そんなつもりで言ったんじゃないんだよ」
きっと俺が悪かったんだ。

「私のヒーリング受けてよ」
「うん、わかったよ・・・」
この状況でNOと言えるほど強い心臓を持ち合わせていない。

188:1
06/08/15 21:00:42 K2ys+fwt
>>187の続き

「そこに仰向けで横になって」
仕事部屋のベットを指さす。

彼女はもう機嫌が直っていた。
いつもの明るい彼女だ。
(さっきのアレはなんだったの?)

「体のあちこち触ることになるよ。
さとる君は人に体触られるの苦手みたいだけど
私なら大丈夫でしょ?」

「う、うん」
大丈夫かどうか分からないが、もうどうでも良かった。
(いいよ、もう。好きにしてくれたら)

189:1
06/08/15 21:04:44 K2ys+fwt
>>188の続き

顔の上にハンカチより少し大きめの布を置かれた。
死体並みの扱いである。

布の上から両手を置いてきた。
小さくて温かい手だった。
何か始まるのかと思ったが、手を置いているだけだ。

これに何の意味があるのだろう。
どうせ体に触るなら揉むなり叩くなりしてくれれば
多少は気持ちいいかもしれない。

190:1
06/08/15 21:07:06 K2ys+fwt
>>189の続き

次に頭、首と、手が移動していく。
それでも何も始まらず手を置いているだけ。

この異様な雰囲気の部屋からして
何か神秘体験とかあるかもしれないと少しは期待していたが
まったく何もない。

(後で感想を聞かれた時、なんて答えれば良いのだろう)
そんなことを考えながらも、退屈して眠ってしまった。

191:1
06/08/15 21:09:57 K2ys+fwt
>>190の続き

「次、うつ伏せだよ」

ボーっとした頭で言われたとおりうつ伏せになる。
そのまま、また眠ってしまった。

「終わったよ」

彼女の言葉で目を開けた。

「大丈夫?」

大丈夫も何も俺は眠っていただけだ。
何をされたのかも最初の方しか覚えていない。
結局何も感じなかった。

192:1
06/08/15 21:13:15 K2ys+fwt
>>191の続き

なんて感想を言えば良いのだろう・・・
取り合えずこの場合”気持ちよかったよ”とでも言えばいいのだろうか?

俺が何か言う前に
「これ飲んでね。ヒーリングの前後に飲んでおくと良いの」
ミネラルウォーターのペットボトルを俺に渡した。

冷えていない生ぬるい水だった。
(美味しくないな)

193:1
06/08/15 21:14:49 K2ys+fwt
>>192の続き

「あまり冷たい物、口にしない方が良いから。特にさとる君は」

(意味不明・・・まあいいや帰ろう)

「ありがとう気持ちよかったよ。
疲れているから帰るね。」
俺は玄関に向かおうとした。

「ちょっと待って」
彼女が慌てて引き留める。

「・・・?」

194:1
06/08/15 21:33:47 K2ys+fwt
>>193の続き

「あとコレ。朝と寝る前に4滴ずつ口に入れて。
それとミネラルウォーターに4滴入れて会社に持って行って飲んでね。」
そう言いながらスポイトが付いた謎の小瓶を俺に渡した。

「これは?」
「フラワーエッセンス。ストレスを和らげる効果があるの」
「・・・」
「海外ではそれなりに信頼されているものだから大丈夫だよ。
私も飲んでるから。」
「・・・」
「ちゃんと使ってよ」
「・・・」
「使うって約束して」
「・・・分かったよ」

俺の手を取って勝手に指切りした。

「指切りしたからね」
「分かったよ・・・それじゃあね」
今度こそ行こうと思った。

195:1
06/08/15 21:36:07 K2ys+fwt
>>194の続き

「夕飯食べて行ってよ」

「ごめん、本当に疲れているんだよ。」
彼女と一緒に居ることは、今の俺には苦痛でしかない。

「二人分の食材買っちゃったの」
彼女は寂しそうな顔をしていた。

(この雰囲気で帰ったら俺すごく悪いヤツみたいじゃないか。)
俺はどうして良いか分からなくなって立ちつくしていた。

196:1
06/08/15 21:58:03 K2ys+fwt
>>195の続き

「そっか、疲れてるんだ・・・」

彼女も分かってくれて解放してくれるのかと思ったが
腕を掴まれ彼女の部屋に連れて行かれた。

「私のベット使って。疲れた時は眠った方が良いよ」

(そうじゃないんだよ・・・家で休みたいんだ)

「遠慮しなくて良いよ」

そうじゃなくて・・・

俺は帰るのをあきらめてベットに横になった。

197:1
06/08/15 21:58:54 K2ys+fwt
>>196の続き

「夕飯出来たら起こすから、それまで寝ててね」
そう言って彼女は出て行った。

前は優しかったのに最近の彼女は
我が儘が過ぎるし強引すぎる。

女の人が考えていることは俺には分からない。
そう思いながらもどうでも良くなって眠ってしまった。

1時間ほどで起こされてキッチンに行った。

当然のように魚料理。
相変わらず美味いのか不味いのか分からない薄味だ。


198:1
06/08/15 22:00:00 K2ys+fwt
>>197の続き

「この魚美味しいでしょ。
川魚なんだけど臭みがないの。
今日スーパーで安売りしてたから買っちゃった。」
彼女は楽しげに、料理の話をしていた。

(これ食べたら帰れるんだ)
俺は下を向いて、彼女の話に適当に相づちを打ちながら食べていた。

ふと、彼女の声がいつもと違うことに気付いた。
無理して明るく振る舞っているような気がする。
どうしたんだろうと彼女の顔をチラッと見た。

199:1
06/08/15 22:07:03 K2ys+fwt
>>198の続き

「どうしたの?」
彼女が聞いてきた。

どうしたの?は俺のセリフだ。

「なんかあった?」
セリフを変えて俺の方から聞いた。

「なんで?」

「なんか変だから」

「私が?」
彼女の顔が少し強ばっている。
あまり見たこと無い表情だ。

「うん」

「来週も家に来て」

200:1
06/08/15 22:08:16 K2ys+fwt
200ゲット!



201:43
06/08/15 23:21:14 rveuXxeC
(・∀・)200とられた!

202: ◆3p09yZwKNk
06/08/16 22:17:28 1x3LUWZu
test

203:優しい名無しさん
06/08/17 22:51:45 2pqUgWpa
続きが気になる…ワクワク

204:優しい名無しさん
06/08/19 06:48:19 f+rBSpJK
読んでしまった・・


205:優しい名無しさん
06/08/19 08:44:20 phZv34Dn
こぇー

206:雅ん家で癒やしてリクエストも聞いちゃう('-^*)/
06/08/19 08:47:49 LkiMgAwS
雅の所へおいで('-^*)/
雅ん家に来ると
雅を見れるだけでなく
雅とメールでお話出来るよ
勿論無料
見られて感じるのURLリンク(sl.t-ss.info)


207:優しい名無しさん
06/08/19 09:04:39 s43xpK+s
レイキって何? >>1

208:優しい名無しさん
06/08/19 09:09:41 ZuGAGgyp
何これ体験談?

209:1
06/08/21 21:19:35 0Y6F2Izz
書けるかな?

210:1
06/08/21 21:24:31 0Y6F2Izz
仕事多忙+風邪っぴき+アクセス規制で書き込めませんでした。
今週も忙しくなりそうなので
書き込みはゆっくりになりそうです。

今食事中なので後ほど

211:1
06/08/21 21:38:06 0Y6F2Izz
>>199の続き

それは勘弁して欲しかった。
休日は家でゆっくり休みたいし
彼女にもあまり会いたくなかった。

「ちょっと難しいな」

「パソコンの使い方まだ教わってないし、
またヒーリングしてあげるから」

他の友達に教われば良いじゃないか。
今時パソコンを持っている人はそこら中に居る。

「休日は家で静かにしていたいんだ」

「パソコン最後まで責任もってよ」

212:1
06/08/21 21:41:50 0Y6F2Izz
>>211の続き

(なんでそうなっちゃうんだよ)

彼女はいったい何をそんなにムキになっているのか・・・
会社でもプライベートでも疲れることが多すぎる。

「他の人に教えてもらってよ」
俺は下を向いたままどうでも良いと思って言った。

「友達に断られちゃったから、さとる君に頼んでるの!」

ああ、そうか。
友達に冷たくされて落ち込んでいたのか。
彼女も色々あるんだな。

213:1
06/08/21 21:42:41 0Y6F2Izz
>>212の続き

「今教えてあげるよ。
メールの使い方くらいだったらそんなに時間が掛からないから」

「来週で良いよ。
今日はもう遅いから」

遅いと言ってもまだ8時前だ。

「一時間も掛からないと思うよ」

「来週ゆっくり教えて」

「・・・うん、わかったよ」
気落ちしている彼女に向かって
これ以上断るわけにもいかなかった。

214:1
06/08/21 22:03:50 0Y6F2Izz
>>213の続き

バイトは辞めずに続けていた。
会社に行っても高木に怒鳴られるだけだが
うんざりしながらも通っていた。

他の誰よりも作業ミスが多くなって
会社としては俺に辞めて欲しがっているだろう。

俺も最後の日までゆっくりしたかったが
いつもと違う行動を取れば周りに怪しまれると思った。

誰にも邪魔されずそっと逝きたかった。



215:1
06/08/21 22:05:08 0Y6F2Izz
>>214の続き

本当は誰も居ないところに行きたかった。

どこか遠い無人島に行って、
日の出と共に起き、日の入りと共に寝る。

動物に餌付けして友達になって・・・
そこでならこんな俺でも生きられるかもしれない。

そんな妄想をどんなに膨らましてみても
現実的に無理なのは充分わかっていた。

どこにも逃げ場は無いのだ。

216:1
06/08/21 22:06:48 0Y6F2Izz
>>215の続き

約束通り次の土曜日も彼女のアパートに行った。

起動と終了、ソフトの立ち上げ、新規書類の作り方、
基本中の基本を教えた。

彼女は使い方を全く知らなかった。

俺は説明するのに、
クリック、ダブルクリック、ドラック&ドロップ、デスクトップ、ファイル、フォルダーなどの
用語を使うが、そのたびに彼女は「それ何?」と聞き返してきた。

217:1
06/08/21 22:08:07 0Y6F2Izz
>>216の続き

俺のhotmailのアドレスを教えて、
メールの送受信の練習をした。

使ったことが無いのだから仕方無いが、
メール一行書くのにひどく時間が掛かる。

「これだけボタンが沢山あると目が回るね」
キーボードと格闘しながらそんな事を言っている。

「・・・ボタンじゃなくてキーって言うんだよ。」

人に何かを教えるのがこんなに大変だとは思わなかった。

218:1
06/08/21 22:10:54 0Y6F2Izz
>>217の続き

「あ~、もう疲れた!」
伸びをしながら彼女が言う。

まだ一時間ちょっとしか経っていない。

「もう少しだから」
まだ教えなくちゃならないことがあった。

「お茶飲もうよ」

「あと少しだから」

「そんなにいっぺんに覚えられないよ」
もうヤダ、といった感じだ。

仕方ないので休憩することにした。
後でまた教えればいい。

219:1
06/08/21 22:14:09 0Y6F2Izz
>>218の続き

「フラワーエッセンス使ってくれた?」
キッチンで向かい合ってお茶を飲みながら彼女が聞いてきた。

「あっ、うん」
こんな返事じゃ簡単に嘘がばれる。

カバンの中に入れっぱなしになっていた。
もらったことすら忘れていた。

「人にもらったものは使わなきゃ失礼でしょ」

それはその通りだが、もらったと言うより押しつけられたに近い。

「うん、使わせてもらうよ」

220:あぼーん
あぼーん
あぼーん

221:優しい名無しさん
06/08/25 01:16:17 TbjbKkIG
まだ風邪なおってないかな…
お大事に…

222:43
06/08/27 12:37:15 dQyyPcg5
保守したりして

223:優しい名無しさん
06/08/27 22:35:44 L09Arl14
続きまだかなぁ。楽しみにしてるんだけど…

224:優しい名無しさん
06/08/28 00:15:26 CKwamEBj
おらも・・・

225:優しい名無しさん
06/08/28 00:26:52 KR9iDIcV
はわあぁあ~
彼女むかつくです><
男もはっきり断れよおぉ
そんなんだからメンヘラになるんだ!!

226:1
06/08/28 00:49:26 kAPU1b9o
すみません
風邪をひいているのに連日深夜まで残業していたので
すっかり疲れてしまいました。

続きは必ず書きますので
体力が回復するまでしばらくお待ち下さい。

今週は夜勤です。
早く帰って来られたら続きを書きます。


227:優しい名無しさん
06/08/28 07:49:47 kMsVvcl5
無理するなー
とりあえずゆっくり寝るんだ。

228:1
06/08/29 08:08:23 5R4CFNpL
気遣いありがとう

また忙しい時は書けないと思いますが
ご了承ください。

229:1
06/08/29 08:09:42 5R4CFNpL
>>219の続き

「ヒーリングするからトイレ行っておいてね」
そう言って仕事部屋に入っていった。

そう言えばこの前そんなことを言っていた様な気がするが
良く覚えていない。

これで断れば”私の仕事をバカにしている”とか言って
またイジケてしまうのだろうか。

人付き合いの煩わしさにうんざりしていたが
仕方ないので言われたとおりにした。


230:1
06/08/29 08:11:04 5R4CFNpL
>>229の続き

先週と同じことをされた。
やっぱり俺は直ぐに眠ってしまい何も分からないままだった。

「わたし夕飯作らなきゃ」
ヒーリングが終わった後に彼女が言った。

「まだそんな時間じゃないよ」
出来れば早く仕事を終わらせて夕飯を食べずに帰りたかった。

「今日は作るのに時間が掛かるの。
待っている間、私の部屋自由に使ってていいよ」

「・・・」


231:1
06/08/29 08:13:33 5R4CFNpL
>>230の続き

彼女の部屋をゆっくり見るのは初めてだった。

自由に使って良いと言われても
まさかあちこち触るわけにもいかないし
どうやって時間を潰して良いか分からない。

窓の外の味気ない町並みや
デスクの上の置物を見たりしていたが直ぐに飽きてしまった。

本でも借りようかと小さな本棚の前に行った。

東西の医学書や精神医学書、
各種健康法、ヨガ、整体、指圧、瞑想、
聞いたことのないカタカナ言葉の本など様々な本が置いてあった。

(・・・健康オタク?)


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