04/05/05 20:24 nReYVhv5
幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。
学もなく、技術もなかった母は、個人商店の手伝いみたいな
仕事で生計を立てていた。それでも当時住んでいた 土地は、
まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていけた。
娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りの弁当を持って、
近所の河原とかに 遊びに行っていた。給料をもらった次の日曜日には、
クリームパンとコーラを買ってくれた。
ある日、母が勤め先からプロ野球のチケットを2枚もらってきた。
俺は生まれて初めてのプロ野球観戦に興奮し、母はいつもより
少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。 野球場に着き、チケットを見せて
入ろうとすると、係員に止められた。母がもらったのは招待券ではなく
優待券だった。チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わ
なければいけないと言われ、帰りの電車賃くらいしか持っていなかった
俺たちは、外の ベンチで弁当を食べて帰った。電車の中で無言の母に
「楽しかったよ」と言ったら、 母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼしてた。
俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、
一生懸命に勉強した。
新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になった。
結婚もして、母に孫を見せてやることもできた。 そんな母が去年の暮れに亡くなった。
死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように
「野球、ごめんね」と言った。俺は「楽しかったよ」と言おうとしたが、
最後まで声にならなかった。