涙が出るほどいい話at HEALING
涙が出るほどいい話 - 暇つぶし2ch821:癒されたい名無しさん
04/09/29 12:38:18 TK5sb+tk
ジェリーが大人になった頃トムはもうこの世にいませんでした。
トムは自分の命の終わりがすぐ傍まで来ているのを知ったとき、
こっそりジェリーの前から姿を消しました。ジェリーの前で弱っ
て涙もろくなった自分を見せたくなかったのです。
トムはジェリーの心の中ではずっと喧嘩相手として生きつづけた
かったのです。
トムがいなくなったのに気づいたときジェリーは悲しみはしませ
んでしたが、退屈になるなと思いました。
トムとの喧嘩は最高にスリルのあるゲームでしたから。胸の奥が
不思議にチクチクはするのですが、それが何なのか、
ジェリーにはよくはわかりませんでした。トムの願い通り、ジェ
リーの心の中でトムはいつまでも仲の悪い喧嘩相手でした。
そんなある日ジェリーの前に一匹の猫が現れました。トムよりの
ろまで体も小さい猫です。喧嘩相手のトムがいなくなって寂しか
ったジェリーは、今度はこの猫を喧嘩相手にしようと考えました。
そこでジェリーは、穴のあいた三角チーズが仕掛けられたねずみ
取りを利用して、その猫に罠をかけることにしました。いつもト
ムにしていたように。
ジェリーは物陰に隠れて、ねずみを求めて猫がねずみ取りの近く
に来るのを待っていました。そして思惑通り猫が罠に向かって近
づいてきます。
ジェリーはしめしめと思いました。いつものように、自分がねず
み取りにひっかかるふりをして、逆に猫をねずみ取りにかけてや
るんだ。うふふ。手か尻尾を挟んだ猫の飛び上がる姿が頭に浮か
び愉快です。
でも、その猫はトムではありません。猫はチーズの近くまで来た
とき、ジェリーが出てくるより早く美味しそうなねずみの匂いに
気づき、目にもとまらぬ速さで隠れていたジェリーに襲いかかっ
てきました。ジェリーはいつもトムから逃げていたように逃げま
したが、トムよりのろまなはずの猫にすぐに追いつかれてしまい、
体をガブリと噛まれました。ジェリーも噛みつき返しましたが、
トムより体が小さいはずの猫は平気です。
血まみれのジェリーは薄れ行く意識の中で、本当は鼠が猫と喧嘩
して勝てるわけがないことと、いつもトムはジェリーに「してや
られた」ふりをして、わざとジェリーを捕まえないでいたことを、
そのとき始めて知ったのです。トムの大きな優しさと友情に気づ
いたのです。
そしてトムがいなくなった時の胸の奥のチクチクの正体にも気づ
きました。かけがえのない友を無くした悲しみでした。
ジェリーの魂が体を抜けた時、空の上には優しく微笑みジェリー
を待っているトムがいました。
「また喧嘩ができるね」
「のぞむところさ、今度こそは捕まえてやるぞ」



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