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必需財としてのスポーツ＝町田樹
２０２０年４月７日、新型コロナウイルスの感染の脅威を抑え込む目的で、政府が緊急事態宣言を発令した。これに伴い多くの経済活動や教育活動が停止、さらには日常生活のさまざまな場面で自粛が要求され、私たちはいや応なく新生活様式に順応せざるを得ない状況に追い込まれた。
いち早く業務のリモートワーク化に踏み切った業種の一つに、「大学教育事業」が挙げられるだろう。全国的に多くの大学が一時、業務を完全に停止させたが、軒並み５月中には、授業をオンライン形式に切り替えて教育を再開させていた。
私はその時、二つの大学でダンスの実技授業とスポーツビジネスに関する講義授業の非常勤講師を務めていた。講義形式の授業は、オンライン会議アプリを用いて比較的簡単に通常通りの授業を展開することができる。しかし、ダンスの実技授業は一筋縄にはいかない。どうすれば遠隔でダンスを教えられるか、私は頭を悩ませた。結局、半径１メートル以内で実施できるストレッチとダンスのプログラムを、オンライン会議アプリで学生に提供することになった。そこで思わぬ反応を得たのである。受講した学生が口をそろえて、「家からも出られず体を動かす機会がなくなってしまったので、この授業がなかったら心身の健康を害していたと思う」と、不安と感謝の気持ちを伝えてくれたのだ。私はその言葉を聞いて、自分のスポーツ（体育）観が１８０度変わった気がした。
経済学では家庭で消費される財を大きく二つに分ける。一つは、衣食住などの生活を営むうえで必要不可欠となる「必需財」。もう一つが、生活に不可欠ではないが、あれば生活を豊かにする「選択財」、もしくは「ぜいたく財」と呼ぶ。私はスポーツをぜいたく財だと考えてきた。しかしこのコロナ禍において、さまざまな活動が制限され、リモートワーク化が加速度的に進むことで、心身の健康に不安を感じている学生が大勢いる状況を目の当たりにし、スポーツは人間の生命維持に不可欠な「必需財」なのだと痛感したのである。
私たちの社会は今こそ、「リモートワークの健康問題」を急ぎ再検証するとともに、いかに必需財としてのスポーツを社会に普及させるか、その方法を真剣に考えていくべきではないだろうか―。