20/02/23 22:16:54 dlQ9Ju/K.net
その日は朝からブンブン飛行機の飛ぶ音がしてゐて、その爆音で目を覚ましたんですが、それが味方機かと思つたら、京都上空を通過する米機だつたんです。
その時は仙糸さんも一緒に南禅寺の小浜に泊つてたんですが、これぢやあ、けふはやれるかな、と懸念しながら、そのなかを仙糸さん、家内、宿の女将、大井さんなんかと一緒に自動車で、ともかく会場へ出かけました。
行つてみるとお客さまは続々詰めかけてゐられます。が、相変らず飛行機の爆音は断続してをりますし、ラヂオもしつきりなしに情報を伝へてをります。
それで私は皆さんにご相談いたしまして、かう騒がしくてはとても落着いてお聴き下さるわけにゆかないでせうから、明日に延ばしてはいかがでせう、と申し上げたんですが、そつちが語る気なら構はないからやれ、と皆さんが仰つしやいます。
どこで死ぬのも一緒だ、好きな浄瑠璃を聴きながらドカンとやられりや本望だ、といつて下さる方もありました。
お客さまがその気なら、こつちはもとより舞台で倒れりや芸人としての本懐、そんならやりましよ、やつてくれ、といふことで、
午後一時の開演が一時間ばかり遅れましたが、予定どほり二段語りました。
語つてるあひだは、不思議に飛行機の音も耳に這入らず、それこそ、なんにも考へませんでした。
まことに快い気持で無事に二段語つたんですが、お客さまもウンもスンも仰つしやらず、実に静かに聴いて下さいました。
ところが、語り終つた途端に飛行機の音が気になり、落着かなくなり出したから妙なもんです。
……その日京都を通過した米機は二千機以上だつたさうで、その時分が一番烈しかつたんださうですが、そんな中で、よくもノンビリと浄瑠璃の二段も語つたもんだと思ひます。
(山城少掾聞書より)
やはり「趣味」では、この境地にはなれんだろうな
お大事に<m(__)m>