13/07/01 17:25:44.41 vVifiBTb
ある時、心労を貯め込む新島襄を心配した徳富猪一郎(蘇峰)ら学生が気晴らしにハンティングに誘った。
一緒に付いてきた八重が銃の使い方について、アレコレと夫や学生たちにアドバイスをする。
学生たちは八重が会津戦争で稀有な働きをした大そうな女傑らしいとは聞いていたが、
まだ誰も彼女の砲術の腕を見たことがない。皆、怪訝な顔をしながら半信半疑で聞いていた。
狩猟を始めても八重は皆の後から付いてくるだけで、銃は持とうとしない。
腰に脇差を一本差しているのみ。
しばらくたった時、突然茂みから現れた大きなイノシシが新島たちに猛烈に突進してきた。
学生たちは驚いて逃げまどい或いは立ちつくし、新島もとっさのことに動けなかった。
徳富もあわてて声をかける「先生逃げてください!」
その時、後ろにいた八重が、体つきに似合わぬ驚くほどの敏捷性で新島たちの前に回り
夫から素早く銃を受け取ると、片膝をついて冷静に狙いを定める。
ダーン。急所の眉間を見事に打ち抜かれたイノシシがもんどりをうってひっくり返る。
八重は慣れた様子で腰に差していた脇差を無造作に抜き、イノシシの喉を真一文字にかき斬る。
着ていたシャツを返り血で真っ赤にしながら八重は笑顔で言った。
「ジョー。私はいつだって身を呈してあなたをお守りします」
あっという間の出来事だった。学生たちはあまりのことに言葉もなく、
日頃尊敬する先生に無礼を働く八重に度々噛みついていた徳富も苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「この女はまさしく妖怪ヌエだ。このヌエには敵わねぇ・・・」