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宮崎駿『風の谷のナウシカ』マンガ版と「読みにくさ」 夏目房之介
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1)『ナウシカ』マンガ版は読みにくいのか?
阿部幸広「究極の、そして最も幸福なアマチュア-マンガ家としての宮崎駿」(「ユリイカ 臨時増刊
宮崎駿の世界」青土社 1997年)をはじめ、『ナウシカ』マンガ版を「読みにくい」とする意見が複数ある。
夏目自身は、違和感は多少あるが、それほど読みにくいとは感じていなかったので、少し意外であった。
直観的には、宮崎のマンガ観が50年代の読書体験によって形成され、古典的な表現形式を踏襲しているために、
現在のマンガ形式になじんだ読者には「読みにくい」のではないかと思われた。しかし、問題がそう単純であるとも思えない。
一方で、宮崎自身も「読みにくさ」を自認し、あえてそのように描いていると主張している。
〈自分は職業人として漫画を描いているのではないのだから、読みにくく描こう。ソバを食べながらは、
絶対に読めない漫画を描こう、という目標を立ててやりはじめたものですから、途中で読みやすくなったとなると愕然として。
コマ割りの数が減っているなとか、1ページが8コマになっているから、11コマにするとか。それで読みにくくしてね。
本にする時、コマやページを足すとか、馬鹿なことをやっているんです。〉
宮崎駿「出発点 1997-1995」(徳間書店 1996)所収 p550
しかし、宮崎自身の言もまた、そのまま鵜呑みにはできない。そこで、表現形式としてやや違和感のあるところをいくつか指摘し、
「読みにくさ」「読みやすさ」とは何かという問題のヒントを探ってみたい。
2)マンガ版『ナウシカ』の「読みにくさ」とは?
①コマの多さ 頁単位のコマの多さはつとに指摘され、それが現在の読者に「読みにくい」のは予想される。
コマの多さは、戦後50年代の雑誌マンガや絵物語で見られるが、『ナウシカ』の場合、50年代に比して
コマの構成が複雑で大きさの差があり、必ずしも4段組の規則的な枠になっていない点で
(もっとも絵物語の構成は実際は多様で複雑ですらあったが)、連載当時としても普通のものであったかどうか疑わしい。