12/09/29 02:30:54.91 urfPDMsbO
有楽町の映画館に行ったとき、隣の席に篤人がくるはずなんだけど、電車が遅れたのか彼はなかなか現れない。
今か今かとずっと映画館の入り口の方を、ドキドキしながら眺めている。
篤人と結婚しても今の仕事はやめない。
篤人は私の手料理が死ぬほど大好き。篤人のお義母さまからも誉められた。来年のお正月には里帰りして、カミングアウトしてる実家の母と篤人と、三人でご飯を食べよう。
私は夜勤の仕事で目の下の隈が消えない。恥ずかしいから目を伏せてご飯を食べている。篤人は言った。「なんで気にするの?チャームポイントじゃん」
日に日に、彼のことをもっと好きになる。今日は飯田橋で篤人と待ち合わせをした。右手には昨日焼き上げた手作りのアーモンドケーキ。オトナの恋愛に勿論憧れはあるけれど、身の丈に合ったこんな日常を愛しくも感じる。
篤人に、他に好きな人がいたらどうするの?って意地悪なゲイ友に訊かれた。浮気。縁起でもない。言葉を無くした。
すると笑いながら、この人たちまさにお似合いだわ、だってさ。友達は篤人のことを知っている。私のつらい過去も、平凡な今も知っている。二人の出会いから、いま同棲していることも、話してある。
子供だよね、二人とも。今の世の中で、こんなに純粋なままでよく生きてこられたよね。
恋愛、彼氏、諦めた日々。今日を生きることに精一杯だった。人を羨んだ。クリスマス、目を伏せて歩いた。ある日、恋に落ちた。夜勤明けの日は理由をつけてデートを断った。
出会ってまだまもない頃、たまたま私の仕事場の近くまで寄った篤人は、好奇心から私を探した。
そのとき、働いてる私の姿を見てこの人だと思ったと、ゲイ友に話していたということを後から知った。汚い仕事だから、引け目に感じていたというのに。
寒い季節、キラキラ光る街を歩く二人。途中のセブンイレブンで肉まんを買う。話したいことは山ほどある。でも、言葉はいらない。ふいに篤人と視線が合えば今でも嬉しい。知り合ってからもう6年も経つのに。
私は篤人以外に他の男を知らない。知りたいとも思わない。毎日を懸命に生きる。ただそれだけ。ドラマチックなことなど何もない人生。それでもしみじみと幸せを感じることができる。
外国に旅行しなくても、ブランドものを買えなくても、美味しい料理を知らなくても、あれもこれもなくても満たされた気持ち。そう思える度胸。
篤人と近くの深夜営業のスーパーに行き、明日の朝ごはんに出す納豆をかごに入れた。アイスクリームも、忘れないように買わなきゃ。