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前話:Part11 241-246
その後のシェルクさん
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家々の屋根が夕日色に染まり始める頃、空は家路を急ぐ鳥たちの鳴き声で賑わい始めて
いた。地上ではまだ遊び足りないと走り回る子ども達の声。そんな彼らも、しばらくすると漂い
始めた夕餉の香りに足を止める。やがてあちこちで聞こえてくるのは、じゃあね、またねと弾ん
だ声で別れの挨拶。
子ども達の帰り道を照らす様にして家々の軒先に明かりが灯る。玄関先では明るい「ただ
いま」に呼応する「おかえり」の声。それらはまるで町に夜を呼び寄せる呪文のように、路頭
から子ども達の姿が消えると日は落ちて、町はあっという間に静寂に包まれた。土を踏み
固めただけで特に舗装されていない通りには人影も無く、車の往来も滅多に無い。利便性と
機能性は無いけれど、そこにあったのは質素な暮らしと人々の笑顔。
―見た事の無いはずの風景に感じたのは、郷愁。
まばたきした次の瞬間、気が付くと私は姉に手を引かれながら宵闇がせまる歩道を歩いて
いた。家族の笑顔と夕飯が待っている、我が家へと帰るために。
(お姉ちゃん? ……いつの間に)
タイルで舗装された歩道と、幅の広い車道。等間隔に立ち並んだ街灯と、至る所に設けられ
た案内用の電光掲示板。利便性と機能性に満ちた、その代わりに自然物が排された街。
自分の知らない場所なのに、そこから姉と一緒に家に帰ろうとしている。まるで脈絡の無い
展開に、それが自分の見ている夢だという事に気づく。でも、これが夢ならそれでも良いと
思った。
(わたし、ずっと……)
人が見る夢は、自分の願望や深層意識の表れだと誰かが言っていた。そうなんだろうなと、
今なら心から納得できる。
(望んでいた)