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そう問うヴィンセントの心中を察したようにケット・シーが答える。
『いやぁ怖い言うても、威圧とかやのうて……どない言うたらエエんやろか……』
あれだけ饒舌なケット・シーが珍しく言葉に迷っている。幸いにしてヴィンセントは気の長い方
だったから、話の先を急かそうという気は起きなかった。ただ、このケット・シーの様子から察す
るに、これから彼の口から語られる話が、やや深刻なものなのだろうと気構えていた。
『リーブはんにとってボクは“道具”って言うよりも、“自分の一部”って感覚なんやね』自分の
手や足が傷つけば痛みを感じるのと同じ様に、その痛みを受け入れる事で目的が果たせるの
なら、その犠牲を憂慮する必要はどこにもない。それがリーブと自分の関係性なのだと、まるで
確かめでもするように『ボクもそれに文句は無いし、こうしておる事自体が楽しいんや。なんや
言うても煩い事に悩まされんで済むし』。
いつ終わるか分からないなら、日々を全力で生きられる。それが自分の役得みたいなものだと
ケット・シーは笑った。
『けどリーブはんは、……WROの局長として背負とるモンは、ボクには想像もつかんぐらい重たい
んやろね。現にボクじゃ分からへんし』
ケット・シーの言う通り、リーブの周囲には常に多くの死がつきまとう。WRO局長を指して「死の
においを纏う男」などと言う者さえいる。表現に潜む悪意の有無はさておきミッドガル、メテオ災害、
星痕症候群、そしてディープグラウンド―確かにここ十年も経たない内に、彼は数え切れない
ほどの死に触れてきた。その度に飲み干せないほどの苦汁、時には煮え湯さえも飲まされた。
それでも尚、彼は歩みを止める事はしなかった。
『……星と、そこで生活するたくさんの人達のために心を砕いとる。けど、そんなん続けてたら
そのうち粉々になって無くなってしまうんやないか? って怖くなるんや』
「なるほど」そう呟いたヴィンセントは目を細めた「お前の言う『怖い』は心配という意味だな」。
同時にリーブ自身の誕生日について話題に上らない理由も、なんとなくだが分かった気がした。
恐らく今し方リーブの口から出た“出会えた事に感謝”の対象が生者だけではないという事であり、
それが積み重ねてきた過去に対する彼なりの向き合い方なのだろう。
律儀と難儀、リーブはどちらに該当するだろうかとヴィンセントはふと考える。
『ボクから言わせたらあのおっさん、危なっかしいったら無いわ』
「……そうだな」
息抜きを奨めたところで、おとなしく聞き入れるとは思えなかったが「ケット・シーがこれだけ
心配しているのだから、話をしてみるのも良いかもしれないな」。
『頼んますわ~。ボクが言うても聞かへんのや』
その数時間後、ヴィンセントの姿はエッジのセブンスヘブンにあった。久々に集まった仲間達
と共にゲーブルを囲む、それこそまさにユフィの目論見どおりの光景だった。ティファと彼女を
手伝うマリンの手料理がテーブルを彩り、酒を酌み交わしながら話に花を咲かせる中年連中や、
賑やかな声と笑顔に溢れる若者達。目の前に並んだケーキを巡ってじゃれ合うデンゼルと
ナナキとケット・シーの姿を横目にしながら、ヴィンセントはぽつりと呟いた。
「……謀ったな」
その声に顔を向けたケット・シーがしたり顔でこう言った。
『ああでも言わな、ヴィンセントはんここまで来なかったやろ?』