12/09/08 01:42:43.38 3mSfi5vI0
前話:>>101-107
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ティファが電話を終えてカウンターに戻ってくる頃には、シドとデンゼルが熱心な勉強会を
始めていたものだから、すっかり話を切り出す機会を逃してしまった。ひとまずは、準備して
あった料理を皿に盛りつけながら、彼らの話に耳を傾けていた。
(……ふふ、ふたりともすごく楽しそう)
宇宙にかけるシドの情熱は、以前とちっとも変わらない。だけど、デンゼルがここまで熱心
になるのは少し意外だった。あの写真はてっきり、内緒でミッドガルに出かけて来た事を
ごまかすための口実にしただけだと思っていた。
デンゼルがここへ来た当初、ティファは彼に対して大人しく物知りという印象を持った。
出会った当時の状況が状況だけにそれが彼本来の性格だとは思わなかったが、このぐらい
の年齢にしては、デンゼルは色々な事を知っていた。少なくとも自分がデンゼルぐらいの
年の頃には、これほど世界を知らなかったとティファは自身を振り返って思う。
やがてここでの生活にも慣れ、デンゼルは日常的に笑顔を見せてくれる様になる頃には、
芯が強く思い遣りのある優しい子という印象に変わっていた。
恐らくそれは彼がミッドガル育ちというだけではなく、ご両親の教育方針もあったのだろうと、
見たことの無いデンゼルの家族に思いを巡らせようとした。
(家族、……)
しかしすぐさま、彼の家族は七番街のプレート崩落に巻き込まれたと聞いた事を思い出し、
ティファはやり場の無い罪悪感に苛まれた。その原因を作ったのは間違いなく自分達の
浅はかな行動だった。
デンゼルには打ち明けていない、自分達の過去。
(デンゼルが大人になったら。……そう、自分で道を選べるようになったら、本当のことを
……伝えよう)
それまでは、亡くなったご両親の代わりに彼を護るのだと。ティファはそう心に決めていた。
***
デンゼルのような孤児―メテオや、星痕症候群で親を失った子ども達―は、この街
では珍しくない。残念ながらエッジ以外の各地も状況に大差は無かった。あの日、たまたま
クラウドが五番街スラムの教会でデンゼルと出会って、そのまま成り行きで一緒に暮らす
ことになった。
デンゼルとの出会いはただの偶然だった。
一緒に暮らし始めてから暫く経った頃、どんなきっかけで話をしてくれたのかは覚えて
いないけれど、デンゼルが自分のことや亡くなった家族のことを少しだけ話してくれた。
自分のつらい過去を打ち明けてくれる事自体はとても嬉しかった。一緒に暮らす“家族”の
ことを、少しでも知ることが出来たから。
けれど同時に、衝撃を受けた。
アバランチという過去を持つ自分と、七番街で暮らしていたデンゼル。まさかこうして同じ
屋根の下で暮らすことになるなんて。
デンゼルとの出会いは、単なる偶然ではないのかも知れない。