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飛空艇が各地の主要都市を巡回し、定期的に物資を運搬する体制が整ったのは最近の
ことだった。ただし就航する飛空艇の数や燃料が限られているので、まだ月に2便程度では
あるが、それでもメテオ災害直後よりは格段に便利になったのは間違いない。
エッジに定期便が到着するこの日、スケジュールの合間を縫ってシドはセブンスヘブンに
立ち寄る予定だった。前日にはしっかり予約も入れてある。旅路を共にした仲間と顔を合わ
せて、息抜きをするにはちょうど良い場所だからだ。
メテオ災害からの復興と星痕症候群の蔓延により、各地を結ぶ空路が担う高速・大量輸送]
への需要と期待は以前よりも大きくなった。その反面、魔晄に代わるエネルギーとそれに
合わせた飛空艇開発は急務となり、発足した飛空艇師団をまとめる立場に就いたシドは、
自身でも経験したことのないほど多忙な日々を送っていた。
特にエッジ周辺は、カダージュ一味の襲撃によって破壊された道路や建物の修復作業に
追われ、3ヶ月以上が経っても街のあちこちに生々しい爪痕が残されている。
と言うのも、エッジは騒動が収束した直後から各地へ星痕症候群の特効薬となる“泉の水”
の供給拠点となった為、街の復興作業が後回しにされたという事情があった。
メテオ災害後、世界中の人々が苦しみ続けた星痕症候群。その特効薬は皆が待ち望んで
いた。街中が混乱に包まれたあの日の暮れに、空からもたらされた福音に触れたエッジの
住民達は、当然のように街の復興作業よりも供給活動に力を注いだ。その甲斐もあって、
今や星痕症候群は世界から一掃されたのである。
そして今は、各地からエッジに資材や人が集まり復興作業が急ピッチで進められている。
飛空艇が到着すると、歓迎と慌ただしさに包まれた飛行場を中心に、街はにわかに活気づく。
シドがこの街に立ち寄れる機会は限られていて、月に1度あるかないかと言う程度である。
ならば、セブンスヘブンでティファの作る旨い飯と、ちびっ子達の成長ぶりと、クラウドの
仏頂面を拝まないと来た甲斐が無いと言う物だ。
飛空艇を降りた後、シドがチェックリストに並んだ項目を手早く済ませてからセブンスヘブン
の扉を開けるまでに要した時間はおよそ2時間半。これでも早くなった方なのだが、約束の
時間からは30分程遅れて、セブンスヘブンの扉を開けた。
「空を飛ぶために枷を着けた様なモンだぜ、こりゃ」
そう漏らすシドの顔には僅かに疲労の色も見て取れるが、語り口にはそれを上回る充実感
を滲ませていた。
濡れたタオルと冷えた水の入ったグラスを差し出しながらティファが出迎える。
「いらっしゃい、シド。飛空艇師団長はもうすっかり板に付いたみたいね」
グラスの水を一気に飲み干すと、ようやく一息吐いたシドが応じる。