12/08/11 01:11:21.49 rJv/eN+50
※舞台はFF7AC~DCの間ぐらい。(DCの「エッジに流れる奇妙な噂」の出始め辺り)
※FF7の“タイトルロゴマーク”を見て膨らんだ妄想話。
たぶん3~4回の投稿で終わる短編です。
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ある日デンゼル達が持ち帰った一枚の古びた写真が、街の子ども達の間でちょっとした
話題になっていた。たいていの子はその写真に興味を示し、写る物の美しさに見とれた。
中には目を見張るような鮮明さに、これが写真ではなく絵なのではないかと疑う者や、記憶
に焼き付いた禍々しいメテオを想起した者もいたが、他のどれよりも目映く白い光を放つ
その姿は、メテオとはあまりにもかけ離れていた。
結局、子ども達がその正体に行き着くことは無く、写真はデンゼルが保管し自宅に持ち
帰ることになった。
夕食が終わり、ティファとマリンが片付けに席を立ったのを見計らって、デンゼルは件の
写真を取り出す。
「なぁ、クラウド」
心なしか声を潜めて言いながら、隣に座っていたクラウドに写真を差し出す。
「これって流れ星?」
写真に映っていたのは、星空を斜めに横切るひときわ明るい星の姿だった。写真の左下
に輝く星から延びる尾の姿が、巨大な流れ星を連想させた。
「これは流れ星じゃなくて……すい星、だな」
「すい星?」デンゼルは耳慣れない言葉を呟きながら、説明を求めるようにクラウドを見上げる。
少年の、興味と好奇心に満ちた視線を受けて内心クラウドは僅かに後悔した。心当たりを
口にしたまでは良いが、デンゼルの期待に応えられるほど知識の持ち合わせが無いのだ。
だからといって、痛いほどに感じるデンゼルの期待を裏切るというのもクラウドの望むところ
では無い。正直なところを言うと、ここは年長者として格好良いところを見せたいと思っていた。
「……こう言う話は俺よりもシドの方が詳しいと思うけど……」
ところが、口を開いて最初に出たのはなんとも弱気な言葉だった。我ながら情けないと思い
つつも、知りうる限りの情報をデンゼルに伝えようと記憶をかき集める。
「流れ星とすい星は別の物なんだ。流れ星を見たことは?」
「……テレビでなら」
デンゼルの記憶にあるミッドガルの空に、星は1つも無かった。そもそも夜空や、街灯の
並んだ夜道も暗くなかったからだ。夜が暗く恐ろしい物だと知ったのは、ミッドガルを出て
からだった。
「デンゼルが見たのは、この写真みたいなものだった?」
聞かれたデンゼルは首を横に振る「もっと……小さかった、かな? こんなに明るく
なかった」。
「流れ星っていうのは、宇宙からこの星に降ってくる小さな石のかけらなんだ。それが空で
燃え尽きる時に、流れ星に見える」子どもの頃に何かの本で読んだ、うろ覚えの記憶だった。
「メテオみたいなのが……?」
尋ねるデンゼルの表情がやや強張っているように見えたので、努めて穏やかな口調で
クラウドがこう答える。
「確かに大きすぎるとああなるけど、メテオはもう無い。だから大丈夫」
当時の大人達でさえ恐怖したあの光景は、子ども達にはより強い恐怖と、精神的な影響を
残したことだろう。「メテオ」という単語を口にすること自体を敬遠する風潮さえあるぐらいだ。
102:氷棺 - Cold Case 2 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/11 01:15:23.24 rJv/eN+50
「……メテオが、どうしたの?」
背後からひょっこりと顔を出すマリンに、デンゼルは思わず素っ頓狂な声をあげ、椅子から
飛び上がった。
「デンゼル!?」
そんなデンゼルを見て、逆にマリンが驚いて声を上げる。
「急に出てくるからビックリするよ」
テーブルに手を突いて振り返ると、マリンの姿を認めたデンゼルが安心したように椅子に
座り直す。
「なによ、人をお化けみたいに……」
むっと頬を膨らませながら愚痴るマリンの目が、不意に細くなる。彼女の視線を追えば、
テーブルの上に置かれた写真に辿り着く。その様子が示す意味をデンゼルが悟るまでに
時間はかからなかった。マリンがこういう表情をした時はたいてい、デンゼルが隠したがって
いる悪事を見透かした時なのだ。
「……。わあ、綺麗な流れ星!」
しかし写真を見た途端にマリンの声と表情が晴れやかになって、デンゼルはホッと胸を
なで下ろす。どうやらマリンの興味は写真そのものに移ったらしい。写真の出所を追及され
たくないデンゼルにとって、この流れは願ったり叶ったりだ。
「それ、流れ星じゃ無いんだって」
「え? じゃあこれは何?」
「すい星」
「すい星?」
マリンに向かってちょっと得意げに話すデンゼルの背中を見ながら、微笑ましくも他人事
とは思えない照れくささを覚えて、クラウドの口元が自然とほころぶ。
子どもは可愛いと思う。
目に映る風景、耳に届く音、風に運ばれてくる匂いや、肌に触れる物。
自分の知らない事に純粋な興味を抱き、好奇心に任せてどんどん知識を求める
彼らの目に映る世界は、どれも輝いて見えるのだろう。
そこは希望に満ち溢れた……。
『……そこは希望に満ち溢れた星。
宇宙を漂う氷の棺。それを溶かす熱に浮かされた。
漂着し解き放たれ、大地に溢れる希望に歓喜した』
「……クラウド?」
自分を呼ぶ声で我に返ったクラウドの前には、デンゼルとマリンの心配げな顔が並んで
いた。
「大丈夫?」
クラウドの顔を覗き込んでデンゼルが尋ねる。
「俺は何ともない。……何かあったのか?」
「何かって……。いまクラウド、ひとりでしゃべってたよ?」
訝しむようにマリンが言う。
「俺が?」
二人が同時に頷く。しかしクラウドには心当たりが無い。マリンの質問に、デンゼルが
答える様子を見ていた―そう、それだけだ。
「ちょうど明日、エッジに飛空艇の定期便が来るわね。その時シドに聞いてみたらどう?」
そう提案したのは、いつの間にかデンゼルとマリンの後ろで写真を手にしたティファだった。
いつからいたんだ? クラウドは内心で考える。
「……ところで、デンゼル」手にした写真を裏返して、ティファの口調が明らかに鋭くなる「この
写真、どこから持って来たの?」。
ティファの追及に、デンゼルの肩が明らかに揺れた。
(ああ、なるほど)
一連の行動にようやく得心がいったクラウドに、ティファが釘を刺す。
「まさか手引きをしたのはクラウドじゃないでしょうね?」
問いに対する否定だけを短く返し、クラウドは黙り込む。
「……いい? デンゼル」腰を折り、デンゼルに視線を合わせるとティファが珍しく強い口調で
続ける「ミッドガルは遊び場じゃ無いのよ。今は資材の調達も必要無いんだから、むやみに
立ち入らないの」。
103:氷棺 - Cold Case 3 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/11 01:25:13.46 rJv/eN+50
デンゼルにとってミッドガルは生まれ故郷。そこへ行くなと言うのは酷だろうと思う反面、
メテオ大接近による損傷で廃墟と化したミッドガルの殆どは手つかずのまま放置されている
のが現状で、プレート支柱も含めて、どこもいつ倒壊するか分からない状態なのだとケット・
シーが言っていた。何よりも魔晄炉周辺は残留魔晄の影響や、モンスターが出没すると言う
からさらに危険で、それらの施設や地域はWROによって立ち入りが厳しく制限されている。
そんな背景があって、デンゼルを諭すティファの口調が強くなるのは仕方の無いことだった。
それに加えて近頃、エッジ近郊の子ども達の間でまことしやかに囁かれている噂があった。
ただでさえ『立ち入り禁止』などと言われると入りたくなる子ども心に加え、ヘタに興味を煽る
ような噂話も、ティファにとっては心配の種の一つだった。
(何事も無ければ良いのだけれど)
肩を竦めるデンゼルと、落ち込んだ彼を励ますように背中を叩くクラウド。二人に笑顔を
向けるマリン。そんな家族の笑顔を見ていると、とてもあたたかい気持ちになるし落ち着く。
その一方で時折、漠然とした不安に駆られる事がある。自分は心配性なのだと言う自覚が
ティファにはあるが、それだけではない“勘”の様な何かだった。
ここへ至るまで各々が苦境や悲しみを乗り越えてきた。だからこそ、今ある平穏を大切に
したいと思うし、脆いものだと思ってしまうのだろうか。
(……私、ダメね。考え始めると悪いことばっかり思い浮かんじゃうんだから)
「さ、みんな明日に備えてそろそろ寝るわよ」
ティファがとびきりの笑顔で三人に告げると、それぞれの寝台へ向かう彼らの背中を
見送った。
手元に残った写真を捨てるわけにも行かず、ひとまず今日のところはしまっておこうと、
もう一度それを見た時にふと思い出す。
(そういえばこれって『ほうき星』よね)
夜空に現れるひときわ美しい星。その輝きは人を魅了するだけでは無く、惑わすものと
され、不吉の前兆とも言われた。そんな曰くから『妖星』と呼ぶ地域もあるそうだ。
(もしかして、私もこの写真に感化されたのかしら?)
そんなことを考えている自分が、少しだけおかしくなってティファは小さく笑った。同時に、
そうなら良いかとどこかで安堵している。
答えの出ない問いを抱えていても仕方が無いと言い聞かせるようにして、ティファは写真を
棚にしまうと、灯りを消して部屋を出た。
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・忘れた頃にやって来る作者です。膝に矢を受けてしまって以来久しいので、リハビリがてらの妄想小話。
・だいたい1回10kbを目安に投稿しています。
・FF7のロゴマーク、あれ最初は彗星だと思ってたんですよ。インタ版のパッケージ絵と言い、彗星っぽいな、
というところが出発点の話。需要とか考えてないですすみませんw
104:氷棺 - Cold Case 4 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:05:42.39 36lzo9IC0
飛空艇が各地の主要都市を巡回し、定期的に物資を運搬する体制が整ったのは最近の
ことだった。ただし就航する飛空艇の数や燃料が限られているので、まだ月に2便程度では
あるが、それでもメテオ災害直後よりは格段に便利になったのは間違いない。
エッジに定期便が到着するこの日、スケジュールの合間を縫ってシドはセブンスヘブンに
立ち寄る予定だった。前日にはしっかり予約も入れてある。旅路を共にした仲間と顔を合わ
せて、息抜きをするにはちょうど良い場所だからだ。
メテオ災害からの復興と星痕症候群の蔓延により、各地を結ぶ空路が担う高速・大量輸送]
への需要と期待は以前よりも大きくなった。その反面、魔晄に代わるエネルギーとそれに
合わせた飛空艇開発は急務となり、発足した飛空艇師団をまとめる立場に就いたシドは、
自身でも経験したことのないほど多忙な日々を送っていた。
特にエッジ周辺は、カダージュ一味の襲撃によって破壊された道路や建物の修復作業に
追われ、3ヶ月以上が経っても街のあちこちに生々しい爪痕が残されている。
と言うのも、エッジは騒動が収束した直後から各地へ星痕症候群の特効薬となる“泉の水”
の供給拠点となった為、街の復興作業が後回しにされたという事情があった。
メテオ災害後、世界中の人々が苦しみ続けた星痕症候群。その特効薬は皆が待ち望んで
いた。街中が混乱に包まれたあの日の暮れに、空からもたらされた福音に触れたエッジの
住民達は、当然のように街の復興作業よりも供給活動に力を注いだ。その甲斐もあって、
今や星痕症候群は世界から一掃されたのである。
そして今は、各地からエッジに資材や人が集まり復興作業が急ピッチで進められている。
飛空艇が到着すると、歓迎と慌ただしさに包まれた飛行場を中心に、街はにわかに活気づく。
シドがこの街に立ち寄れる機会は限られていて、月に1度あるかないかと言う程度である。
ならば、セブンスヘブンでティファの作る旨い飯と、ちびっ子達の成長ぶりと、クラウドの
仏頂面を拝まないと来た甲斐が無いと言う物だ。
飛空艇を降りた後、シドがチェックリストに並んだ項目を手早く済ませてからセブンスヘブン
の扉を開けるまでに要した時間はおよそ2時間半。これでも早くなった方なのだが、約束の
時間からは30分程遅れて、セブンスヘブンの扉を開けた。
「空を飛ぶために枷を着けた様なモンだぜ、こりゃ」
そう漏らすシドの顔には僅かに疲労の色も見て取れるが、語り口にはそれを上回る充実感
を滲ませていた。
濡れたタオルと冷えた水の入ったグラスを差し出しながらティファが出迎える。
「いらっしゃい、シド。飛空艇師団長はもうすっかり板に付いたみたいね」
グラスの水を一気に飲み干すと、ようやく一息吐いたシドが応じる。
105:氷棺 - Cold Case 5 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:10:46.45 H3bstULA0
「おうよ、なんつってもオレ様は一流のパイロットだからな。……でもよ、あっちこっちに顔
出すってのがちぃと面倒でよ」チェックリストの大半は、機体や操縦関連のものではない
のだと苦笑する。
「お疲れ様です、飛空艇師団長殿」
やや冗談めいた口ぶりでティファが言うと、シドは豪快な笑声で答えた。
「……あーそうだった。頼まれた荷物もちゃんと渡しとかないとな」そう言って、小脇に抱えて
いた箱をカウンターに載せた。
「あら、シドが配達なんて珍しいわね」
言いながら、テープで一箇所だけ封がされているだけの箱を見下ろす。どうやら内容物は
生鮮品や割れ物ではない様子だ。宛先などは書かれていない事から察するに、差出人は
この荷物を直接シドに渡したのだろうから、仲間内の誰かが送り主だと言う事までは想像
できたが、それ以上はさっぱり見当が付かない。
「ま、中身は期待しないでくれよ? どーせロクなモン入ってねぇんだ」
「いったい誰から……」そう言ってテープを剥がし、フタを開いたティファは言葉を失った。
「な? ロクなモンじゃなかったろ?」
開いたフタから中を覗けば、見慣れたぬいぐるみの姿があった。
『……運んでもろて言うのもなんやけど、も~ちょい値打ちモンや言うてくれてもエエねんで?
このボディかて安物ちゃうしな』
ぬいぐるみは、箱から溢れんばかりの愛嬌を振りまくケット・シーである。箱の中で横たわった
まま、ティファに向けて手を振っている。
「いらっしゃい、ケット・シー」予期せぬ仲間の来訪に喜びが半分と、疑問が半分。そんな微妙な
面持ちのままティファが尋ねた「今日は一体どうしたの?」。
いつも何かしらの上に乗っかっていたけれど、その理由は単独で動けないからではなく
移動効率を重視してのものだった。それに、シドに運んでもらうにしても、わざわざ箱に入る
必要は無かったと思う。
『実はまだ隊内部でも公表してない事案があるんですわ。……ボクはその内偵調査で来ま
した。せやからここにおる事が公にバレると面倒なんで、シドはんに頼んで小細工したっ
ちゅーワケですわ』
「こりゃ小細工ってより茶番だぜ?」
箱の中で半身を起こしたケット・シーがシドの方を向く。
『まぁ、どのみち後でバレる事やし。けどな、いたずらに未確認情報を公開してみんなを
混乱さしたり、不安を煽るんは得策やない』
そう言ってから、ケット・シーがティファに向き直る。
『ティファはんらに迷惑はお掛けしませんから、ちょっとだけ協力してもらえんやろか?』
まるでティファを拝むように、顔の前で両手を合わせたケット・シーが申し出る。言うまでも
無くティファは笑顔で快諾した。
「ケット・シーの依頼を断る理由は無いわ。私にできる事なら喜んで!」
むしろエッジ再建の手助けをしてくれているWROには、返しきれない程の借りがある。貸し
借りという仲では無いし、何よりケット・シーの向こうには思慮深く信頼の置ける人物がいた。
彼がそう言うからには、きっと事情があるのだろう。
「それで、その依頼っていうのは何かしら?」
『少しの間だけ、ここにボクを“置いて”もらえんやろか? タダで言うのもなんやから、お店の
お手伝いもしまっせ。なんなら招き猫代わりでも……』
106:氷棺 - Cold Case 6 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:19:54.12 H3bstULA0
ティファは顔の前で手を振ると、笑顔のままで応じる。
「いいの、いいの」言いながら、確かにケット・シーみたいな招き猫ならお客さんも寄って来る
だろうなと、特にこの装い―箱からひょっこりと顔を出している姿―は、見慣れている
はずのケット・シーなのに何故だかいつも以上の可愛らしさを感じているのも事実で。思わず
じっと見つめてしまう「ここにいてくれるのは構わないけど」。
とはいえ、中身は元神羅の幹部で現在はWROの局長である事に変わりは無い。
「それで、私はなにをすれば?」
俄然やる気になったティファが身を乗り出して問いかける。
『……あ、いや。ボクをここに置いてくれれば……』
せっかく寄せられている期待を裏切った罪悪感に苛まれながら、ケット・シーが俯きがちに
言う。「協力」というのはティファに頼みたいことと言うより、ここにいる承諾を取り付けると
いう意味合いだった。
「ううん、私もケット・シーがいてくれたら嬉しいわ。それこそお客さんも増えるかも知れないし!
……だけど、どうして? WROも忙しいんじゃない?」
『実は……その事も少し関係してるんですが……』
ケット・シーが話を始めたところで、厨房の奥にあった電話が鳴った。
『あ、エエですよ。こっちはボクらでテキトーにやってますんで』
「そうだ、オレ様達の事は気にすんな。お客を待たせちゃなんねぇからな」だけどお前が
給仕ってのは風情がねぇなと、やや不満げな視線を猫に向けながらシドは電話の方へと
手を振ってティファを促した。
受話器を取り上げたティファと入れ替わりに、厨房の奥から顔を出したのはデンゼル
だった。
「おーう小坊主、元気にしてたか?」
話を切り出す機会を見計らっているような、やや控えめなデンゼルの姿を見つけるなり、
シドは大きく手招きして少年を呼び寄せた。
「……あの、すみません。俺、『小坊主』じゃなくてデンゼルって名前があるんですけど……」
「細けぇ事は気にすんな! 今のうちからそんなんだと、大人になってハゲちまうぞ?」
それは小坊主とハゲをかけているのだろうか? などと考えながら、デンゼルは件の
写真を差し出した「教えてもらいたい事があるんです」。
カウンターの上に置かれた写真を目にするやいなや、シドが目の色を変える。
107:氷棺 - Cold Case 7 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:22:51.30 H3bstULA0
「おう、こいつは彗星の観測写真じゃねぇか。にしても良く撮れてるなー」
言いながらも内心で、これほどの精度で観測・撮影できる機材がエッジにはあるのだろう
か? とシドが考えを巡らせる。この星で一番宇宙に近い場所と言えばロケット村か、学術
の総本山コスモキャニオンぐらいのものだ。
「その『すい星』について、教えて下さい」
デンゼルの言葉に気をよくしたシドは、自身の胸を叩きながら満面の笑みを浮かべて
言った。
「小坊主のくせに宇宙に思いを馳せるたぁ、お前さんよく分かってるじゃねーか! おうよ、
どんな質問にでも答えてやるから遠慮なく聞け!」
シドの隣のカウンター席に並んで座ると、早速デンゼルは質問した。
「彗星と流れ星は、どう違うんですか?」
----------
・おしぼりに対するおやじ達の反応予想(主観)。
出されたおしぼりで顔を拭いても、何故か絵になるのがシド。
拭いてても違和感ないのがバレット。拭いたらケット・シーがツッコミ入れてくれるリーブ。
(>>104後半部分を書いているときの葛藤です。そもそもおしぼり文化あるの?って話ですがw)
108:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/18 09:57:25.28 YXm3YRWU0
GJ
続き楽しみ
109:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/20 23:34:07.81 /9yFJuCg0
GJ
110:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/28 07:20:26.69 0IqSaV9E0
保守
111:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/02 16:08:14.41 9HjDZDx10
112:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/05 22:15:52.72 fZMB638L0
うぉ、生きてたんかこのスレ
正直びっくりした
エロパロの方落ちちゃってるだろ
エロ展開になったらどうしてんだ?
113:氷棺 - Cold Case 8 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:42:43.38 3mSfi5vI0
前話:>>101-107
----------
ティファが電話を終えてカウンターに戻ってくる頃には、シドとデンゼルが熱心な勉強会を
始めていたものだから、すっかり話を切り出す機会を逃してしまった。ひとまずは、準備して
あった料理を皿に盛りつけながら、彼らの話に耳を傾けていた。
(……ふふ、ふたりともすごく楽しそう)
宇宙にかけるシドの情熱は、以前とちっとも変わらない。だけど、デンゼルがここまで熱心
になるのは少し意外だった。あの写真はてっきり、内緒でミッドガルに出かけて来た事を
ごまかすための口実にしただけだと思っていた。
デンゼルがここへ来た当初、ティファは彼に対して大人しく物知りという印象を持った。
出会った当時の状況が状況だけにそれが彼本来の性格だとは思わなかったが、このぐらい
の年齢にしては、デンゼルは色々な事を知っていた。少なくとも自分がデンゼルぐらいの
年の頃には、これほど世界を知らなかったとティファは自身を振り返って思う。
やがてここでの生活にも慣れ、デンゼルは日常的に笑顔を見せてくれる様になる頃には、
芯が強く思い遣りのある優しい子という印象に変わっていた。
恐らくそれは彼がミッドガル育ちというだけではなく、ご両親の教育方針もあったのだろうと、
見たことの無いデンゼルの家族に思いを巡らせようとした。
(家族、……)
しかしすぐさま、彼の家族は七番街のプレート崩落に巻き込まれたと聞いた事を思い出し、
ティファはやり場の無い罪悪感に苛まれた。その原因を作ったのは間違いなく自分達の
浅はかな行動だった。
デンゼルには打ち明けていない、自分達の過去。
(デンゼルが大人になったら。……そう、自分で道を選べるようになったら、本当のことを
……伝えよう)
それまでは、亡くなったご両親の代わりに彼を護るのだと。ティファはそう心に決めていた。
***
デンゼルのような孤児―メテオや、星痕症候群で親を失った子ども達―は、この街
では珍しくない。残念ながらエッジ以外の各地も状況に大差は無かった。あの日、たまたま
クラウドが五番街スラムの教会でデンゼルと出会って、そのまま成り行きで一緒に暮らす
ことになった。
デンゼルとの出会いはただの偶然だった。
一緒に暮らし始めてから暫く経った頃、どんなきっかけで話をしてくれたのかは覚えて
いないけれど、デンゼルが自分のことや亡くなった家族のことを少しだけ話してくれた。
自分のつらい過去を打ち明けてくれる事自体はとても嬉しかった。一緒に暮らす“家族”の
ことを、少しでも知ることが出来たから。
けれど同時に、衝撃を受けた。
アバランチという過去を持つ自分と、七番街で暮らしていたデンゼル。まさかこうして同じ
屋根の下で暮らすことになるなんて。
デンゼルとの出会いは、単なる偶然ではないのかも知れない。
114:氷棺 - Cold Case 9 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:45:46.67 3mSfi5vI0
もちろんアバランチの活動に参加したのは軽い気持ちでは無かったし、星の命を削って
まで魔晄に依存する状況をどうにかしたいと思っていたのも確かだった。とはいえ、
アバランチとしての活動がもたらしたものは、償いきれない罪であり、取り返しの付かない
過ちだった。
そうと頭で分かっていても、目の前に立つあどけない少年の存在は、どんな言葉よりも
重くのし掛かった。あのとき壱番魔晄炉爆破なんてしなければ、プレート支柱だって落と
される事も無かった。
―『ミッドガルの壱番魔晄炉が爆発したとき、何人死んだと思ってますのや?
アンタにとっては多少でも 死んだ人間にとっては、それが全部なんやて……』
かつては自分も、父を殺したセフィロスを恨んだ。村を滅茶苦茶にした神羅を憎んだ。
だからアバランチに入った。
そして自分も誰かの親を殺し、ミッドガルを滅茶苦茶にした。憎み恨んだ相手と同じことを
繰り返しただけだった。
(死んだ人間にとってはそれが全部。でも、残された人間にとっては、その先につらい現実が
待っている。それも分かってた)
神羅を憎んでた。でもデンゼルの親は関係ない。なのに彼らはアバランチへの報復行為に
よって命を落とした。
(分かってた……つもりでしかなかった)
全てを知ったら、デンゼルはどう思うだろう? あの時の自分のように、やはりアバランチを
憎むだろうか。
アバランチにいた自分を、恨むだろうか。
(当然……だよね)
嘘を吐き続けるつもりはないし、まして騙しているわけでは無い。
それにデンゼルと一緒に暮らしているのは罪滅ぼしの為ではない。
けれど、罪滅ぼしという意識が全くないと言えば嘘になる。
そんな自分と自分の過去に、後ろめたさを感じていた。
***
『電話、大丈夫でっか?』
戻ってきてからというもの、物憂いな表情のまま押し黙っているティファに声をかけたのは
ケット・シーだった。
「……え? ええ。さっきの電話はマリンからで、これからクラウドと一緒に帰るって。あなた
も来ているって話したら、すごく喜んでたわよ」
我に返ったティファは笑顔で応える。その様子にケット・シーは内心でホッとする反面、
原因が電話ではなかったと知る。
『マリンちゃん、今日はどっかお出かけですか?』
「教会の花を世話しにね」そう言うと、笑顔は苦笑に変わる「……こう言うとデンゼルが怒るん
だけど、あそこはあまりモンスターも出ないし、マリンには思い出もあるから……」。
マリンは初対面のエアリスにとても良く懐いていた。そんな彼女との数少ない思い出で
あり、なによりも自分達にとっても忘れがたい場所だった。
『なら心配要らへんな。……で、なんで電話から戻って来たらそんな顔してますんや?
てっきり心配事でもあるんかと思いましたわ』
「そんなこと無いわよ?」内心ぎくりとしながら、本心をごまかすようにティファは綻びかけた
笑顔を繕った。
115:氷棺 - Cold Case 10 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:54:46.81 3mSfi5vI0
「そうだ! ケット・シーがここへ来た理由、まだ全部聞いてなかった」
『……ん? そら、まぁそうやけど』
明らかに話をはぐらかされていると分かったが、本人が言いたくないのなら、これ以上話を
続けても仕方が無いと、ケット・シーが話を始める。
『実は、妙~な噂を小耳に挟みましてな。その確証を得るためにボクをここに置いてもらおう
って算段なんですわ。“人のおる所に情報が集まる”、スパイの基本やね』
口ぶりこそいつもの戯けたものだったが、さり気なく気掛かりな単語を口にする。
「うわさ?」
『ミッドガルに関する妙な噂ですわ』
隣で話し込んでいるデンゼルとシドを気に掛けながら、ケット・シーは箱から身を乗り出し、
ティファに顔を近づけると声を潜めた。
「……もしかしてそれって、『ミッドガルの亡霊』の話ですか?」
もっぱら子ども達の間で流れている根も葉もない噂話で、ティファ自身はまったく信用して
いなかったし、どちらかというと下手に興味を煽るような類の話は不快に思っていた。
『それですわ。“夜な夜なミッドガルから人の声が聞こえてくる”って……』
「ミッドガルに人は残っていないのに、そんな事あるはずない。だけどデンゼルぐらいの年頃
の子ども達が、その噂を口実に興味本位でミッドガルに出入りするのは、私はあまり……」
そう訴えるティファの口調は、彼女の心中をそのまま表していた。
『そう思とるんはティファはんだけと違いまっせ。WROとしても、治安維持の観点からそれを
放置するワケにはいかんのですわ。それに……ボク個人的にも』
最後は消え入るような声だった。
「ケット・シー?」
『……はは』自嘲じみた乾いた笑いに続けて、ケット・シーに似つかわしくない重苦しい声音が
言葉を紡ぐ『にしても、“ミッドガルの亡霊”とは言い得て妙ですな。亡霊とはまさにボクの事
ですわ。たぶんボクはまだ、あそこに未練を残しとる。せやから、この手できっちり終わらせな
アカンのですわ』。
それを後悔ではなく未練と言うあたりがケット・シーらしいと、彼の強さの所以なのだろうと
ティファは思う。
「……前から思っていましたけど、強いんですね」
『え? いやいや、ティファはんには敵わんて』
言いながらパンチの仕草をしてみせるケット・シーに、ティファは首を横に振って答える。
「違います。内面の強さの事ですよ」
『それかてボクじゃ全然! ライフストリームん中にダイブして戻って来る自信なんてあれへんし』
ケット・シーがミディールでの一件を言っているのだとはすぐに分かった。だからとティファも
反論する。
「それを言うなら、私だって古代種の神殿に残ってひとりでパズル解くなんて無理。……ね?
これで“おあいこ”よ」
『そらボクが作りモンのボディやから……』
言っている途中でティファはケット・シーの額に人差し指を当てて、ぐいと押してやる。
「分かってるクセに、はぐらかさない」
『わわわ、デコピンは堪忍や~』
ティファから逃れるようにして顔を背けると、額を両手で覆いながらわざとらしくそう言った。
「ねえ、ケット・シー。もしその噂の真相が分かったら、私にも手伝わせてくれない?」
116:氷棺 - Cold Case 11 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 02:07:31.65 3mSfi5vI0
それが根も葉もないただの作り話ならそれでいい。けれど、そうじゃないのなら一刻も早く
決着をつけなければならない。でないと、とんでもない事件が起きそうな気がする。
『そう言ってもらえるんは心強いですな! けど、ティファはんは優しすぎや。その優しさに
つけ込んで、ボク甘えてしまいそうや』
「ふふ。優しいなんて事はないと思いますけど、ケット・シーから甘えられるのって、やり
甲斐がありそうで楽しみですよ。なんて言うのかしら? こう、腕が鳴るな~」
笑顔でそういったティファに嘘は無い。一方のケット・シーも、仲間達の厚意は素直に
嬉しかった。
『なんやティファはん、さっきから誤解しとる気がするんやけど、ボクの考えすぎやろか……』
「なにか言ったかしら?」
『き、気のせいでっせ!』
無意識のうちに後ずさろうとしたが、結果的に箱の中でもがいているだけになってしまった。
『格好悪いなぁ~』照れ隠しに言いながら、見上げてみればティファの顔にはいつもの笑顔が
戻っていた。
「さ、みんなが帰ってくるまでに、残りのお料理も準備しなくちゃね」
それから厨房内をきびきびと動き回るティファの後ろ姿に、ケット・シーはホッと胸をなで
下ろすと、小さな声で呟いた『ま、結果オーライやね』。
----------
・小説デンゼル編って、よくよく考えたらわりと酷な話だよなぁと、思っていた事を書いたら
今回の本題からすっかり離れてしまったお話でした。
・報復の連鎖を停めるのが子どもの役割なのかな?(デンゼル編の「大人の力を呼び起こせ」
って件の真意がよく分かりません)
>>112
ここは細々と続いていますが、ご覧の通り過疎ってるのでそういう展開が見込めないのが現状。
(少なくとも自分には書けないw)
117:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 19:51:41.72 ZVZHEYXG0
>>112
もしかして管理人?
118:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 21:38:02.33 Mlg+uFLo0
>>117
>>112ですが
いえ、管理人じゃなくて観測人ス
昔けっこう読ませてもらってたんだけど、
しばらく過疎だった上に最近鯖落ちはひでーわDQ10で圧縮はすげーわで
もうとっくに落ちたと勝手に思い込んでますた
それでびっくりしたってとこですね
119:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 21:40:30.56 Mlg+uFLo0
>>116
面白かったです
7ヲタなので余計楽しかったですよ
えー
正直エロ展開もちょと読みたいんですがねw
120:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/10 07:36:46.38 JmM4HaJU0
GJ
121:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/15 19:11:50.35 wXBoSiBI0
122:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/22 16:02:20.34 eG86rQB80
123:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/29 00:38:38.49 b8G5Qidq0
ぼちぼち保守
124:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/03 18:20:12.99 Bi1U0TFT0
ほ
125:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/06 23:22:20.14 CK6kh97R0
保守あげ
126:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/07 23:00:48.10 QE3K65X00
今、ティーダとユウナがお祭り状態なんだが(^^;
書き溜めた方がいいだろうか?
因みにエロパロ板の方は8スレ目作ったけど。
スレリンク(eroparo板)
127:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:28:55.33 4NvwvyGP0
やっと一つ書けた(^^;
X-2の前の特典映像「永遠のナギ節」よりヒントを頂きました。
------
ビサイド島、海岸沿いの村。
夜中の真っ暗な時間帯、少女がたった一人、広場の中央に佇んでいる。
スピラでは知らぬ者は居ない大召喚士―ユウナ―。
2年ほど前の決戦でシンとエボン=ジュを倒し、死の螺旋を終わらせた少女。
だが、彼女の心は晴れない。
皆は褒めてくれる。尊敬のまなざしを向け、何処へ行っても称賛の嵐だ。
事実、シンは消滅し、永遠のナギ節が訪れた。
それは勿論、喜ばしい事ではあるが、シンと一緒に大切なものが消えた。
共に戦った仲間たち―召喚獣、祈り子、アーロン、そして―。
何となく眠れない。
たき火の燃えさしの傍にしゃがみ込む。
椅子代わりの丸太の上に座り、膝を抱えた。顔を腕の中に埋め、目を瞑る。
ユウナは、自分の状況について思いを巡らす。
この2年、周りは少しずつ前に進んでいる。
ワッカとルールーは結婚した。もうすぐ子供が生まれる。
リュックはスピラ中を飛び回っている。結構忙しいようだ。
キマリはガガゼト山に戻った。子供たちを導きたいらしい。
では自分は…?
128:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:31:11.50 4NvwvyGP0
>>127の続き
--------
素潜りの練習では、2分ぐらい潜れるようになった。
ワッカのぷにぷにお腹を笑えるようになった。
面会者には、自分の意見を言えるようになった。
縁談もひっきりなしだが、自分で断れるようになった。
だが、正直分からない。
心の奥底に、まだ粘つく感情がこびり付いている。
今気づいたが、袖が濡れていた。
(あれ?おかしいな…)
何の感情も伴わない涙が有るだろうか?
…いや、一つだけ忘れようとしていた感情が有った。
「ご、めん…」
腕に力を込め、更に縮こまった。
もう一つ有った。時折訪れる気持ち。
「やっぱり…会い、たい…な…」
「…ナ……ユウナ?」
「ん…?」
聞き覚えの有る声がする。
ルールーとワッカがユウナを心配そうに見つめていた。
もう朝方のようだ。いつの間にか眠っていたらしい。
「大丈夫?」
「どした?風邪引くぞ」
「うん…大丈夫…」
優しく微笑む二人に、ユウナは力なく笑って答えた。
「大丈夫そうには見えないけどね」
ルールーが苦笑する。
「眠れなかったんなら、今日は止めとくか?」
ワッカが尋ねる。今日の面会の事だろう。
129:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:34:40.96 4NvwvyGP0
>>127-128の続き
---------
少し考える。
皆不安なのだ。自分だけでは無い。
新たな時代が来た。先の事は分からない。
期待と不安の狭間で、右往左往している人も沢山居るのだ。
―不安定なのは自分だけでは無い―。
「ううん、大丈夫」
上手く笑顔が作れただろうか。
「ああ…じゃあいいけどよ…まあなんだ、涙ぐらいは拭いとけよ」
複雑な表情を浮かべながら、ワッカが頭を掻く。
「取り敢えず、家に戻る?」
ルールーに促され、ワッカに手を貸してもらう。
ユウナは、涙を拭いて、二人に付いて行った―。
10日後、ユウナはリュックにある映像スフィアを見せられ、カモメ団に入る事になった…。
~fin~
--------
ふう。お目汚し失礼(^^;
130:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/11 20:47:44.94 BdoRPr3F0
なつかしー GJ!
131:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/15 23:24:08.04 b68ORj5Y0
>>119
(ややスレ違いですが)その節は大変お世話になりました。
それと、読みたいと思ったものを自分で書くという方法もありますぞw
>>127-129
ユウナは自身の手で歴史を変えた責任を負ってビサイドに残ったんだろうけど、
翻弄され続ける周囲の人達の視点に立てるってところが彼女の強さだよね。
…X-2で印象がらっと変わっちゃったけど、それも若い子らしくて良いと思った。
これ読んでふと、長く潜れるようになった(ユウナにとってのコツ)が、泣くのをごまかす
(周囲に悟られない)為だとしたらなんかこう、良いなって思ったw何某かの毒気にyry
132:氷棺 - Cold Case 12 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:31:35.28 b68ORj5Y0
前話:>>113-116
※拙作の一部には科学的根拠を欠いた描写がある事をあらかじめご了承下さい。
(世界観じゃなくて、単に作者の頭が足りないと言うだけの話なので許してやって下さい)
----------
「彗星と流れ星の違い、か。……なあ小坊主?」
「だから、小坊主じゃ無くてデンゼルです」
悪い悪いとデンゼルをいなす様にして言いながら、シドはライターと紙巻き煙草を取り出し、
慣れた手つきで火をつけた。小さな炎がシドの口元をほのかに照らす。
「あの……シドさん?」
不安げな表情になるデンゼルの目の前で、シドはゆったりと煙草を味わっている様だった。
くわえた煙草の先端がほのかな光を放つと、たちまち鼻を突く匂いが立ちこめた。
「ちょっと真面目に……」
不満を口にしかけたデンゼルを横目に、シドは上を向いて煙を吐き出すと、人差し指と中指
の間に煙草を挟んで立てた状態で差し出す。デンゼルの視線が煙草に固定されたのを見計
らって、シドは話を始めた。
「今し方、お前さんの目に煙草の先端が光って見えたのは、コイツが燃焼してるからだ」
煙草の先端からは、今も細い煙が立ち上っている。
「流れ星の大半の正体は隕石だ。隕石ってのは、宇宙からこの星に降ってくる石っころだと
思えば良い。メテオみたいにデカいのは別だが、たいていは地面にぶつかる前に燃え尽き
ちまうぐらいの大きさだ。それが物凄いスピードで落っこちてくる時、空気に触れて摩擦を
起こすとそいつが燃焼する。隕石が光って見える原理は大体こんなモンだ」
正確には燃焼ではないのだが、その辺をもっと知りたいなら専門の勉強をすると良いと
シドは付け加える。
「けど彗星ってのは、この星に落っこちてくるモンじゃねぇんだ。……なんつうか、“通り
すがり”だな。お前さんの質問に答えるなら、この星の中に落っこちてくる物が隕石。そう
じゃない物が彗星って事ったな」
「すい星は、ずっと遠くにあるって事ですか?」
「まぁそうだな。お前さんの持ってきたこの写真……」
そう言ってシドが写真を指さす。
「ふつうのカメラじゃこんだけ綺麗なものは撮れないな。観測に適した機材が使われてるん
だろう。お前さん、こいつをどっから持って来た?」
「…………」
黙って俯くデンゼルを見ながら、シドは口元を歪めてにやりと笑う。
「まぁ、こんだけの物となるとミッドガルしか無ぇだろうな。違うか?」
デンゼルはなおも黙ったままシドの推測を肯定するように頷く。その姿を見て満足した
表情を作ると、シドは笑顔のまま声を潜めて言った。
「その様子だと、さてはティファに怒られたか? ……ま、ティファの気持ちも分かるがな。
オレ様としちゃあ、ちぃと嬉しいぜ」
「嬉しい」という言葉に思わずデンゼルが顔を上げる。シドは笑顔を絶やさずに先を続けた。
「世界がこんな風になっちまってよ」まぁ、本当はその前からなんだが。と声には出さずに
言ってから「世の中、もうちぃとばかり空を見る余裕があっても良いと思うんだ」。
133:氷棺 - Cold Case 13 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:35:44.82 b68ORj5Y0
オレ様がガキの頃は空ばっかり見てたぜ? こう言うと今の若い連中は笑うかも
しれねぇが、オレ様が最初にやった事と言えば筋力トレーニングだった。けどよ、筋力を
鍛えてどんなに高く跳躍しても満足できなかった。そこで気付いたんだ、オレ様が目指す
べきなのは跳躍じゃなく飛行だってよ。
鳥のように速く雲よりも高く。まだ誰も行った事の無い場所、あの青空の彼方を誰よりも
先にこの目で見てやるってな。そしたら月や、太陽にも手が届くんじゃねぇか? ってな。
当時、神羅カンパニーはこの星で最も宇宙に近い組織だった。だからまずはそこに
入った。宇宙開発ってのは順風満帆とはいかねぇし、どっちかっつーと常に問題を抱えてて、
オレ様たち人間が束になって知恵を振り絞ってもどうにもなんねぇんだ。それも一日二日の
話じゃねぇ、何週間何ヶ月、時には何年何十年も、同じ問題と向き合ってるんだ。そうやって
一つ問題を解決しても、また新しく別の問題が出てきやがる。だからって腹立てたところで
問題は何も解決しない。とにかく解決のための最善を尽くすしかねぇんだ。途方も無い時間
と労力、さらにたくさんの知恵と資源が必要なんだ。
結局、宇宙に行けたのはたったの一度きり。それじゃあ満足できねぇよな?
だからよ、若い連中にはもっと開発を続けてほしいとオレ様は思ってる。
けどよ、今の若い連中がガキの頃に空を見上げりゃ、そこにあったのは禍々しい輝きを放つメテオ。
そいつは消えても、拭えない恐怖心を植えつけていきやがった。
だから、空に夢を描く奴なんていなくなっちまった。
たとえそれが、オレ様達の招いた災厄だったとしても、やっぱり……。
「やっぱりな、空には人を惹き付けて止まない魅力……みたいなモンがあるんだ。今の若い
連中には、それを教えてやりてぇ。そんでよ、オレ様達が到達できなかった場所まで行って、
もっといろんな物を見つけて欲しいんだ。オレ様の知らない事がまだまだ沢山あるに違い
ねぇんだ」
些細な事かも知れないが、誰かが抱いた空への興味がその契機になり得るのだとシドは
固く信じていた。自分がそうであったように。
「シドさんは」
「まだるっこしいからシドで良いぜ」
そう言うと煙草をくわえて、忙しなく視線を動かす。
その様子を見たデンゼルは一度席を立つと、カウンターの隅にあった灰皿を持って来て
シドの前に差し出しながら続ける。
134:氷棺 - Cold Case 14 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:38:54.28 b68ORj5Y0
「……宇宙飛行士だったんですよね?」
「『だった』とは失礼な。今でも乗り物と機会さえあれば、オレ様はいつでも飛べるぜ?」
自信に裏打ちされた強気な笑みだった。
「怖い思いをした事はないんですか?」
「おー、もちろんそりゃあるぜ? 訓練も時には命懸けって事だってある。同じ空を飛ぶ乗り
物でも、飛空艇技術とロケット技術は別物だし、知られてないだけで失敗だってしてる」
「それでも?」
「おうよ」シドは笑顔のまま大きく頷いた「飛空艇もだけどよ、ロケットってのは良いぞ」
加速と共に全身にかかる重力。体内の血管を流れる血液も、呼吸も、視覚や聴覚なにも
かもが押し潰される感覚。そいつはまるで、地べたを這いずり回っていた人間が、どうにか
して重力という枷を外そうとしているんじゃないかと思える。
「訓練も無しに乗れるもんじゃねぇ。けどな、青空の彼方ってのをおがめるんだ、訓練なんて
安いモンだぜ」
切り取られた空から見えていた雲の浮かぶいつもの青空は、身体にかかる重圧と共に
その色を濃くし、やがて重力を振り切った先には漆黒の闇が広がる。
「つってもオレ様が経験したのだって、魚が水面に顔を出した程度。宇宙を覗くにはあまり
にも短すぎたんだ。あんなんじゃ、まだまだ物足りねぇ。オレ様達はやっと瞬きしたぐらいで、
宇宙の何も見えちゃいねぇんだ」
そう語るシドの目は少年のように輝いている、と現役で少年のデンゼルは思う。
「……あれ?」見えると聞いてデンゼルはふと疑問を持った「さっきのすい星の話……」。
「おう、どうしたよ?」
「流れ星が、この星に落ちて来るいん石が空中で燃えるから光って見えるなら、この星に
落ちて来ないすい星は、どうして光ってるんですか?」
その質問にシドは最初こそ驚いたような表情を作るが、すぐに笑顔に変わる。
「飲み込みが早いなデンゼル! そう―」言いながら、短くなった煙草を灰皿に押しつけた
「燃焼には空気が必要だ。逆に言えば、空気が無い所で燃焼は起こらない」。
よくぞその矛盾に気付いたと、気前の良い笑顔のままデンゼルの頭を叩く。同時に、メテオ
災害以降の混乱期にどこでそんな基礎知識を身に着けたのだろうと思った。
「……すい星ってのはな、実は氷の塊だって言う説がある」
「氷?! ……ですか?」
すぐさまデンゼルの頭の中には、冷たい飲み物の中に浮かんでいる氷の姿が連想された。
どう考えても燃焼とはほど遠い存在だ。
「空気も無い場所で、しかも氷が? どうやって燃えるんですか?」
「光を出すのは何も燃焼だけとは限らねぇんだ」そうだな、と腕組みしながら考えを巡らせて
いる様子のシドが、少しだけ間を置いてからこう切り出した。
「じゃあデンゼル。オレ様達の目には、他にも空で光って見える物があるだろう? たとえば……」
「太陽」
「そう。昼間にまぶしく輝いてるお天道さんだな。他には?」
「じゃあ月とか」
「そうそう、夜見えるアレだな。いろんな形に変わるし、この星から一番近い星だ、だから
見応えがあるぞ。……と、それじゃあここまでで4つ出たわけだ」
流れ星、すい星、太陽、月。
「どれもオレ様達の目には、空で輝いているように見える。こいつらは見かけの大きさや形は
違う、だが共通してるのは光ってるって事だな」
「光り方が……違う?」
「そう。光って見えてるが、こいつらは全部違う原理で光って見える。燃焼して光ってるのは
流れ星、つまり隕石だけなんだ」
135:氷棺 - Cold Case 15 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:42:48.92 b68ORj5Y0
「え? 太陽は燃えてないんですか?」
だって昼間、太陽に当たってると熱いし。いかにも燃えてそうだよとデンゼルは首を傾げる。
「この星に落っこちてくる隕石以外は、どれも燃焼が起きない場所にあるんだ。だから太陽も
燃えてるって訳じゃ無い。分かり易く言うなら……あれは途方もなく巨大なエネルギーの塊
って事だな」
「魔法……?」
シドの話を聞いてもさっぱり想像がつかないデンゼルは、苦し紛れに言ってみた。すると
シドはまんざらでもなさそうな顔で答える。
「まァ、なんだ。……悔しいけどよ、太陽がエネルギーを作ってる原理ってのを、まだオレ様達
はハッキリ理解してるわけじゃねぇんだ。太陽まで行って直接たしかめた奴はいねぇしな」
あんなに毎日見てる物なのに、分からないんだぜ? とシドは続ける。
「ただ、はっきりしてるのは、月や彗星が光って見えるのは太陽のお陰なんだ。ついでに、
この星があるのもな」
興味津々という表情でデンゼルはシドの話の続きを待っている。
「月は太陽の光を反射して光ってる。太陽の光がなけりゃ、ただのでかい岩の塊だな」
「見た目の形が変わるのも?」
シドは頷きながら、左手で火をつけたライターを自分の左頬に近づける。すると、彫りの
深い顔立ちに影が落ちる。
「こうすると影ができるな? 光を当てる角度を変えると」言いながら、ライターを持った左手
を自分とデンゼルの間に持ってくる「影の形が変わる。月も同じだな」
「太陽との位置が変わるから?」
その通り。大きく頷いたシドは火を消してライターをしまう。
「この星と太陽、それから月の位置が変わるから、この星にいるオレ様達から見える形が
変わるんだ」
これで3つは解決した。残り1つが最後にして最大の疑問。
「じゃあ氷のかたまりだって言うすい星も、太陽の光を反射してる?」
ジュースの中に浮かんでいる氷だって、放っておくとすぐに溶けてしまうのに? 確かに
光を反射してきらきら輝いてる様には見えるけど、暑い日に氷を外に持って行ったら手の
上ですぐに溶けてしまう。
「もしかして溶けた氷が光ってる……とか?」
カウンターに置かれた写真に目を落とす。月みたいに反射して光っているというよりは、
これ自体が光っているような、そのぐらいまぶしいとデンゼルは思う。
「んー」シドは唸りながら先を続ける「近い。が、正解じゃ無い。太陽の熱で氷が溶けて、
それが光を作り出すっていう発想はいい線だと思うぜ」。
なにせ彗星の観測は機会が限られている。仮説として定着しているものではあるが、
やはり実際に彗星に行って見ている訳ではないので、まだ確証に乏しいというのが正直な
ところだ。だから断言ができずに歯がゆい思いもある反面、不確かな事を教えるのもどうか
と言う葛藤があった。
「氷つっても、コップに入ってるようなモンじゃなくて、もっと……雪みたいなモンだろうな」
雪を見た事はあるかと尋ねると、デンゼルは昔テレビでと答えた。
ミッドガルからエッジ周辺は降雪地帯ではないが、寒い日に山間部では見られるかも知れ
ない。どちらにしても居住地では積雪まで至らないから、デンゼルに言葉で雪と説明しても
連想しにくいだろう。こう言うときに冷気系魔法を使えれば実際に見せてやれるから便利
なのにと、思いがけない形でシドは魔法の利便性を痛感する。
136:氷棺 - Cold Case 16 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:46:45.69 b68ORj5Y0
大皿に料理を盛りつけていたティファが、いつの間にか彼らの会話に応じて冷凍庫から
食材を取り出すと、皿に置いてデンゼルの前に差し出した。
「冷凍食品、って言う方が身近だから実感しやすいかしら?」皿の上には、下拵えした冷凍
肉がのっている「シドの言っている“氷”って、こういう感じじゃないかしら?」。
シドが大きく頷いて、ティファに相づちを打つ。
「こいつは分かり易い!」
『……あ、けど彗星の中心部は肉とは違いますよ?』
「分かってるって!」
ケット・シーが茶化すように横やりを入れると、すかさずデンゼルが反論する。ティファの
とりなしを経てから、シドが話を締めくくる。
「凍った土が溶ける時に気化して、一時的な大気の層を作る。彗星自体が移動しているの
と、太陽からのエネルギーを受けて、こいつらが物凄いエネルギーで宇宙空間に吹き飛ば
されるんだ。観測者にはそれが輝く中心角と尾として見える。これが、彗星の正体だって
言われてる」
『せやけど、まだ実際には誰も見てへんのやね』
「そうだ。けどよ、オレ様達はいつかそれを見てやるぜ?」
この星を飛び立つことができたのだから、今度はその先へ。
彼らの視線は、カウンターに置かれた彗星の写真に吸い込まれていた。
----------
・FF7シドのリミット技(既得ブーストジャンプ)体得の動機を踏まえて、神羅空軍(?)入隊の
動機なんかを妄想してみた結果がこれ。それと個人的見解としては「宇宙を語る大人は熱い」。
・ハイウィンド家とはいえあのジャンプ力あったら空軍じゃなく別の方面に行くと思うんだ。
(そもそも神羅に空・海軍ってあるのかという疑問も)
・自分が書くデンゼルっていつも名前を覚えてもらえない立ち位置だったりします(ごめんね)。
・このお話は次回完結予定です。
137:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/16 00:21:05.67 oqQxJRZ80
>>131
そういう考えも有ったか。
切ないな(^^;
◆Lv.1/MrrYw氏
GJ!
138:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/19 15:05:51.79 4EyxSMtt0
GJ
139:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/19 22:33:43.06 cRwCY/+D0
>>131
いや~おりゃ読み専で精一杯ですw
エロなんか書いた日にゃエロマンガのフキダシ並べたみたいになりそうですからねw
エロは抜きでも、皆さん文章書けてうらやましいですよ
140:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/24 23:58:39.50 bwLDql4s0
保守
141:空白の数時間1 ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:11:42.25 GR0oHeHL0
10-2エンディングより、復活~ザナルカンドの間を埋めてみましたw
---------
カモメ団の飛空艇が、ビサイド島を飛び立った。
ブリッジに新しい人間が一人乗り込んでいる。
さっき、砂浜でユウナと抱き合った少年だ。
「おっす!お帰りぃ♪」
「う~っす!ただいまぁ♪」
少年は、リュックとハイタッチを交わす。
「ちょっとぉ、2年ぶりじゃないかぁ」
「あぁ、そうみたいだね」
少年は苦笑いを浮かべた。
「どんな感じなの?」
横に居るユウナが尋ねる。
「一日か二日寝たみたいな…まあ、そんな感じかな」
頭をポリポリ掻きながら答える。
「ふぅ~ん、そっかぁ」
リュックが相槌を打った。
一通り会話を交わすと、次は、パインを紹介された。
「よ、よろしくっす」
恐縮しながら手を差し出し、パインと握手をした。
「あぁ、よろしく。話は聞いてるよ、ティーダだっけ」
「うん」
ティーダと呼ばれた少年が頷いた。
「まさか成功するとはな」
「祈り子様すごいよねぇ」
ユウナとパインが盛り上がる中、ティーダは置き去りにされた。
「え?祈り子がなんかしたんすか?」
どうやら、まだ何も聞いてないようだ。
「えっとねぇ…これから話すっす♪」
「あぁ…そうっすか」
多分、そこに行くまでに、冒険話が長くなるのだろう。
ティーダは納得し、ユウナに連れられて他のメンバーを紹介された。
シンラ君は天才少年で、通信スフィアは彼の発明である。
「~だし」をやたら使う印象が有る。どうやら口癖らしい。
アニキさんはカモメ団のリーダーである。2年前の決戦でも操縦席に居た。
何故か自分を睨んでいる気がする。まあ気のせいだろう。
ダチさんはアニキさんの親友で、情報解析係である。実はこの人も2年前、一緒に居たそうだ。
何故かアニキさんを制止する体勢になっている。良く分からない。
一通り会話を交わすと、ユウナに各区域を案内される事になった―。
142:空白の数時間2 ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:15:00.40 GR0oHeHL0
動力室、甲板と案内されて、居住区にやってきた。
「この人はマスターさん。アニキさんに拾われて、この飛空艇に乗ってるの」
カウンターに居るハイベロ族を紹介する。
「よろしく~ね」
「よろしくっす」
マスター、次いでダーリンとあいさつを交わし、階段を上った。
「ここがベッドルームだよ」
「へぇ~…結構綺麗だな」
「ベッドメイクはマスターさんがやってくれてるんだ」
そう言って、ユウナが奥のベッドにティーダを連れて行く。
いつもここで寝るらしい。
ベッドに座ると、スプリングが弾んだ。
「おぉ、すげー」
ティーダがトランポリンみたいにお尻を弾ませて少し遊ぶ。
「でしょ」
隣にユウナが座り、一緒に弾ませた。
ティーダはそのまま、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「だぁ~!」
意味も無く叫び、大の字になる。
「何してんの、もう」
くすっとユウナが笑う。
「だってさぁ、やった事ねぇもん」
気持ち良さそうに天井を見上げて、ティーダも笑う。
「確かにそうだねぇ…」
そう呟くと、ユウナも寝そべった。
ティーダの腕を枕にして、胸板に寄り添う。
「んしょっと…ふふっ」
「ユウナ…ははっ」
顔を上げ、ティーダと見つめ合い、二人で笑った。
「あ、そうだ…続き、聞かしてよ」
「うん♪」
ティーダは、寝返りを打つようにユウナの背中に腕を回し、優しく包み込む。
ユウナもティーダの背中に手を回し、胸板に顔を埋めた。
「あのねぇ…」
添い寝をしながら、順番に話し始めた…。
―2時間後―
そのまま寝息を立てる二人が居た。
二人とも穏やかな寝顔である。幸せそうだ。
「ん…ふぁ…」
先にユウナが目を覚ました。
143:空白の数時間2 ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:16:15.19 GR0oHeHL0
首を曲げると、すぐ目の前にティーダの寝顔が映る。
「…ふふっ♪」
思わず、ユウナの顔が綻ぶ。
こんな時間が来るとは思って無かった。ずっとこのまま傍に居たい。
ぽすっとティーダの胸板に顔を擦りつけ、目を閉じ―
「ユ・ウ・ナん♪」
突然、背中から声を掛けられた。アルベド訛りの、いつも側で聞く声だ。
(!?―見られてる―!)
一体いつからか。全く気付かなかった。
急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。一気に汗が噴き出した。
「中々幸せそうな顔だったな」
聞き慣れたクールな声もした。
ユウナは硬直し、動けない。
いやそもそも、ティーダにがっちり捕獲されているので逃げられないのだが。
「い…いつ…か、ら…?」
ユウナが恐る恐る訊く。
「10分ぐらい前かなぁ」
「流石に盛り上がってると思ってな…2時間ぐらい待ってみたんだ」
二人してにやついているのが、声のトーンで分かった。
「いやぁ、まさか添い寝で終わるとはねぇ」
「マスターに聞いたら、そういう気配は全く無かったってさ」
「ますっ…!」
そう言えば存在を忘れてた。挨拶もしたのに。
素っ頓狂な声が出て、耳まで真っ赤になった。
そうこうしている内に、ティーダがもぞもぞと動き出した。
「ん…んん……ユウ、ナぁ…」
ティーダの腕に力が籠る。
「へっ?」
ユウナを抱き寄せ、額に顔を近づける。
「ん~…ユウナ…」
そしてまた、寝息を立て始めた。
「ほほぉう、仲が宜しいようで♪」
「羨ましいな」
体が熱い。抱きしめられているから…だけでは無いだろう。
「ひ、冷やかさないでよぅ!」
「ユウナぁ、声おっきいよぉ♪」
リュックが弾んだ声で言う。
「起きちまうぞ」
パインもからかうような口調だ。
「う゛っ…」
ぐうの音も出ない。
144:空白の数時間2 ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:18:23.86 GR0oHeHL0
「で…あの……い、いつまで、ここに居るの?」
背中越しに、恐る恐る訊いてみた。
「ユウナが起き上がるまで♪」
「そいつが起きるまで、だな」
リュックの言葉に、パインが更に被せる。
「え゛っ!」
それまでこの状態という事か。
「いいいやちょっと待って」
慌てるユウナに、二人はニヤニヤが止まらない。
「なによぉ?」
「なんだ?」
「あ、あのさぁ…二人とも暇なの?」
ユウナの必死さが、二人には滑稽に映るらしい。
「あ~…うん暇」
「まあ、暇だな」
だから冷やかしに来ているんだ。
そんな事を言われ、ユウナは沈黙してしまった。
そんなやりとりをしていると、ティーダがまたもぞもぞと動き出した。
「ん……んん…ふぁ~…」
どうやら目を覚ましたらしい。
ユウナの拘束を解き、目を擦った。
「あ~……良く寝たぁ」
そう言ってまた暢気にあくびをする。
「おはよー♪」
リュックがニヤニヤしながら言った。
「あぁ…おはよっす」
寝ぼけ眼のまま、手を挙げて応える。
ユウナの方を向くと、ふにゃっと笑った。
「おはよう、ユウナ」
「う…うん……おはよう…」
不覚にも、ドキッとしてしまった。
「てゆーかさぁ、朝じゃ無いよね」
「あはは、そうっすね」
ティーダは、リュックに同意しながら起きた。
一緒にユウナを起こす。
「随分と気持ち良さそうだったな」
パインがからかうように言う。
「あ~…そう言えば、こんな感覚は久しぶり…」
ティーダはそう呟くと、頭をポリポリ掻いてユウナの方を向いた。
「?…な、何?」
ユウナが戸惑いながら訊くと、ティーダが一人納得したようにこう答えた。
―あぁ、そっか…ユウナが居るからだ、多分―
言うや否や、ユウナを抱きしめる。
(!?…あばばっばbっばbbっばああbっば)
頭が真っ白になり、何も考えられない。
145:空白の数時間5 ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:20:23.13 GR0oHeHL0
少し呆けていると、ティーダの体が離れた。
「よしっ!」
少し気合を入れて、ベッドを降りる。
「ちょっと甲板に行ってくるっす」
「えっ?」
ユウナが聞きかえす。
「眠気覚ましにさ、風に当たって来るよ」
ユウナの頭を撫でながらそう言うと、階段を降りて行く。
「あ、い、行ってらっしゃい」
ユウナの声に手を振って、ティーダはエレベーターに乗り込んだ。
「行ってらっしゃい、だってさぁ」
「見せつけてくれるなぁ」
「あ゛っ!…いや……えっと、あの…」
ニヤニヤする二人に挟まれ、ユウナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
一方、当のティーダはそんな事はつゆ知らず、甲板で髪をなびかせていた。
自分の体を眺めまわし、ユウナの冒険話を思い出す。
祈り子の力で復活した。
何をしたのか―多分、こういう事だろう―と、自分なりの仮説を立てる。
両手を下げ、前を向く。
流れ去る風が頬と髪を撫でていく。
気持ちいい。
目を瞑り、数秒その感触に浸ると、再び目を開けた。
力強く、うん、と頷くと、彼は甲板を後にし、ユウナ達の所へ戻って行った…。
~fin~
146: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:21:15.81 GR0oHeHL0
タイトルの番号間違えたorz
147:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/01 23:33:37.02 /5TrEk/C0
GJ !
148: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/11/09 22:20:30.22 +zGZvRaY0
ほ
149:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/11 21:48:08.50 8m8js0Z00
>>141-145
なんという据えz…いやいや。
よく堪えた!えらいぞティーダ!!(…と、考えてしまう自分が汚れているのだろうか?w)
10から含めてユウナの苦労が報われた気がして、10-2のあのEDはとても良かった~。
(自力じゃ100%出せなかったけど…orz)
150:氷棺 - Cold Case 17 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:00:26.07 8m8js0Z00
前話:>>132-136
----------
場所は変わってWRO<世界再生機構>本部最上階に位置する、局長執務室。
「……で、局長」
デスクの前にまるで審問官のようにして立ちはだかっているのは、すらりとした体格に
独創的かつやや扇情的な衣装と、その上から白衣を羽織った女性だった。彼女の視線は
失われた片方を補っても余りあるほどに鋭く、左上膊部からの義手も悲壮感より勇猛さの
象徴であるかのような印象を見る者に与える。そんな外見的な要素に加えて彼女自身の
持つ気迫が、対峙する者にはさらなる圧力としてのしかかるのだ。
しかしその正体は審問官では無く、WRO技術部に所属する科学者シャルア=ルーイ博士
その人である。
「ミッドガル地下へ調査団を派遣すると言う話はどうなった? よもやWROが何もせず手を
拱いて傍観に徹すると言うのでもないだろう」
彼女自身の所属する組織WROの最高責任者を目の前にしても、臆した様子は全くない。
ここ最近、エッジ周辺を中心に相次いで報告される異変があった。中でも特に少数の
住民が行方不明になるという事件は、報道管制を布いて部外への情報流出を制限して
いたものの、状況の深刻性は問うまでも無い。住民達の間でまことしやかに囁かれるように
なったミッドガルの噂も、拡大の兆しを見せている。シャルア博士でなくとも、この状況は
見過ごせる物ではない。
しかし席に座っていたWRO局長ことリーブ=トゥエスティは、このときデスクワークに集中
していたのか、シャルアが声をかけてから返答までには少しの間があった。
「……もちろんです。ただ、調査団本隊を派遣する前に下準備は必要でしょう。ちょうど
先遣隊が現地に入りました」
それらの事情を全て踏まえた上での行動ですよと、リーブは穏やかな笑みを浮かべて
答えた。
「ケット・シーか?」
「そうです」笑顔も口調も穏やかなままで、リーブは続ける「……私が元神羅の、それも
都市開発部門の責任者だったからといって、別にあなたに隠し事をする必要はありません。
部隊を派遣する際にはあなたがた技術部の協力も必要です、どうかその点はご理解下さい」。
「……別に私が神羅に恨みを持っていたとしても、あんたを疑っている訳じゃ無い。
そこは誤解しないでくれ」
ええ、と言ってリーブは笑顔で頷いた。
その姿を見て、安心とも呆れともつかない表情でシャルアはやや肩を落とす。ここへ来て
得られた返答は予想通りだが、期待通りとはいかなかった落胆もあった。
「それじゃあ、必要なときは呼ん……」
151:氷棺 - Cold Case 18 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:04:26.46 8m8js0Z00
「ところでシャルアさん。彗星ってご存知ですか?」
部屋を出ようとしたシャルアの背中に唐突な質問が飛んできた。僅かに訝しむような表情
を作りながらも振り返ると、首を縦に振った。
「帚星の事だな。恒星系内に漂う、特に氷を含有した核を持つ浮遊物……それが、今回の
異変と何か関係があるか?」
「あ、いえ。そうではないんですが」困ったような笑みを浮かべながらリーブが続ける「さすが
は博士」。
「天文学者ではないので私も詳しいことは……。彗星自体は滅多に観測できるものでは
ないから、今後の学術研究で発見できるところも多いだろう」
「彗星の出現が凶兆を示すというような例は、恐らく文献に残る歴史的な要因によるもの
なのでしょうが、私自身もいつからそう認識したのかが分からないですね……」
話の口火を切った当人は真顔で考え込んでいるから、からかい目的でない事が辛うじて
分かっただけで、シャルアにしてみれば一体どういう経緯から話が出たのか見当が付かない。
「局長、悪いが話が見えない」
「氷棺。……彗星そのものが、氷でできた棺の様な役割を担っていたら―」たとえば
冬眠する動物の様に、生命を維持するための必要最低限のエネルギーだけで長距離を
移動するための手段だとしても、眠りから確実に覚める方法があるとは言い難い。だから
それは棺なのだと想像できた。
「もしかしたら『空から来た災厄』の記憶が、彗星を凶兆とする潜在的な畏怖の根源にある
のではないかと。根拠はありませんが、そんなことをふと思いまして」
空から来た災厄がジェノバの事を指しているのだとは、シャルアにもすぐ分かった。
「彗星が、冷凍仮死状態のジェノバをこの星に運んだと?」
かつて古代種が多くの犠牲を払って北の地の底にジェノバを封印した。つまり極低温で
生命活動をほぼ停止する状態に追い込み、無害化を図った。仮に彗星によって運ばれた
存在なら、この星に飛来した時と同じ状態に戻したという事になる。
つまり古代種から続くこの星の住人達は、まだ誰一人としてジェノバを完全に駆除する
方法を知らない。
「……なかなか興味深い仮説だが、なぜそんな話を?」
シャルアの言葉でようやく、彼女に対する状況説明が足りていなかった事に気付く。
「すみません。実は今、ケット・シーがエッジにいるんですが、そこにいる子どもが持って
来た写真が彗星の観測写真なんです。恐らく神羅ビルの展示場にあった物だと思います。
ちょうど飛空艇師団のシドもいましたので、彼が彗星について講義しているところなんですよ」
元神羅カンパニー宇宙開発部門所属の優秀なパイロットにして、現在は飛空艇師団の
長を務めるシド=ハイウィンド。なるほど宇宙について訊くなら、彼以上の適任者はいない
だろうとシャルアは納得した。
「彼らを見ていて考えさせられたのですが、子ども達への教育の機会というのも早急に
解決しなければならない問題です。メテオ災害では特にミッドガルやジュノンなど都市部では
教育機関が破綻してしまいましたし。特にこの分野についてはボランティアに頼っている
面が非常に大きいのが実情です。我々WROは街の再建や物流、経済の復旧など、目先の
問題に追われるばかりで、対応はすべて後手に回っていました。ですがそろそろ将来を
支える基盤、つまり子ども達の教育機会という重要な問題にも着手するべき時期が……」
152:氷棺 - Cold Case 19 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:06:38.04 8m8js0Z00
半ば独り言のように止め処なくしゃべり続けるリーブをこのまま放置して部屋を出て行く
事も考えた。むしろそれが最善なのだろうと思えたのだが、シャルアはそうしなかった。
覚悟を決めてデスクに向き直ると、腰に手を当て大きく息を吸い込んでから、呆れ半分、
諦め半分の心境で大きく溜息を吐き出した。
「……差し出がましいようだが」
その言葉にリーブが顔を上げる。
「局長の言っている事は正しいし、それを成し遂げられるだけの人材と組織力と資金も
ここにはある。だが問題を一気に抱え込んだところで、いくら自慢の猫が手を貸してくれて
も、効率的な動きが取れるとは思わない」
「二兎を追う者は一兎をも得ず、ですか。確かにおっしゃる通りです」
言いながら頷くリーブの表情は至って真剣だ。
「今はボランティアもいる」同じ事を考えているのは局長ばかりでは無い、だからこそ彼らの
活動が表立っているのだ「しばらくは彼らに委ねてもいいのではないか?」。
世界を再生するのは、何もWROだけに課せられた義務ではないのだ。
「なにより、WROにしか出来ない事がある。局長自身がそれを見失うのは……」
「分かっています。ミッドガルの件を放り出そうとは思っていません」
先に結論を言われてしまい、シャルアは言葉を飲み込んだ。
「ご忠告、ありがとうございます」
身の丈を知り足が地に着かない状態では、きわめて流動的な世界情勢の中で安定した
舵取りなど到底できませんからねと、自嘲気味な笑顔を浮かべながらリーブは礼を言った。
そんな彼の姿には、隠しきれない疲労の色が見て取れる。
「……他人に何かを忠告できる程、余裕がある訳じゃないんだが」
まるで自身の発言を後悔したようにシャルアが呟くと、良く聞こえなかったらしいリーブが
首を傾げて問い返す。
「シャルアさん?」
ますますシャルアは居心地が悪くなって、そのまま無言で執務室を後にした。
妹さえ見つかればそれで良い。
この時のシャルアにとって、世界にはそれだけの価値しかなかった。
そんな世界を再建しようと奔走するWROに籍を置くのは、自分の目的を果たすためだ。
人と情報が集まる場所。そこが、妹がいる場所への近道。WROを選んだのは間違いでは
無いと、確信さえあった。
なのにここは。
(とんでもない場所だ)
後悔する要素は無いが、不安要素が多いのは事実だった。
153:氷棺 - Cold Case 20 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:10:56.25 8m8js0Z00
***
シャルアが出て行った部屋にはいつも通りの静寂が戻った。
とはいえ、モニタ上には次々と新しい情報が表示され、随時書き換えられていく。言い方
を変えれば、世界が復興に向けて歩んでいく様子が文字として映し出されている。
目下のところ各地の復興支援を掲げるWROともなれば、活動の場の多くは現地だ。元々
は各地に神羅が残した遺産―遺産と一口に言ってもその種類は様々で、とりわけライフ
ラインやネットワーク、各部署に勤務していた者達の技術的なノウハウ―を持ち寄った
有志達を、世界規模でまとめあげた組織、あるいは巨大な寄り合い所帯だ。
しかし局長の仕事は机上で出来る事の方が多い。たとえば情報収集、状況分析、計画、
指示、折衝―神羅が残した負債の清算を請け負うために便宜上、指導的立場にいる彼は
こうして日々を送っている。
少なくとも今は、それが最善だと考えているからだ。
未曾有の危機を脱した世界は、失われたものを取り戻すべく今この瞬間も歩み続けて
いる。先程のシャルア博士にしても、彼女自身が失った大切な何かを取り戻そうとしている。
個々にそれぞれ事情はあるだろうしいちいち詮索するようなことはしない。なぜなら、そんな
人達の助けとなるためにWROがあり、自分がいる。迷いは無いし、迷うための選択肢も他に無い。
もっとも、迷っている暇さえ無い。はずだったのだが。
(急にどうしたんでしょうね。子ども達に感化されたのでしょうか?)
リーブの脳裏には目の前のモニタではなく、ケット・シーが見ていた彗星の写真が映し
出されていた。
(彗星……)
その写真が一瞬にして神殿壁画にすり替わる。メテオが描かれた古代種の神殿の壁画だ。
(……氷の棺)
空から来た災厄。
古代種の神殿。
人の世で起きた出来事としては未曾有の災厄でも、星や宇宙の規模で見ればありふれた
現象でしか無いのかも知れない。
『なんや~? 人がロマンと将来への希望に溢れた話で盛り上がってるところに、容赦なく
水をさす様なマネせんでもエエのに』
エッジにいるケット・シーだった。彼はリーブの持つインスパイアという異能力によって存在
する“生命”。
ケット・シーとは別の躯体でも意識を共有できる、自立した意識を持つ生命。しかし生命
とは言っても、本来であれば生命維持のために行うあらゆる行為を必要としない。それは
生命と呼ぶにはあまりにも曖昧な存在。
(そんなつもりではなかったのですが)
『しゃーないとは言え、アレは強烈なイメージやからなぁ~』アレが示すのが古代種の神殿
壁画である事は疑うまでも無い。ケット・シーに言わせると、リーブの脳裏に描かれた強烈
なイメージに意識を引っ張られた、と言ったところだ。ちなみに神殿壁画を実際に見た
ケット・シー1号機は、黒マテリア獲得という大役を務め神殿と共に失われた。彼の残した
記録、あるいは記憶が今のケット・シーに引き継がれ、彼らの共有する過去となっている。
ここまで話し終えたところで、暢気だったケット・シーの口調が一変する。
『で、ボクが問題にしとるんは、なんでアンタが今アレを連想してるんや? っちゅー話』
(……)
返答の代わりの沈黙。
『あんな。ボクが言うのも何やけど、そーやってすぐ思考にフタするクセ、良い傾向とは
言えんで?』
154:氷棺 - Cold Case 21 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:18:04.71 8m8js0Z00
詰問が説教に変わる。
(違うんですよ)ことさら軽く流すようにしてリーブが反論する(これは一種の妄想です。
根拠も無い妄想を不用意に晒すのは憚られます)。
『ジェノバが氷漬けにされて宇宙に放り出されて、それが彗星になってこの星に落っこちて
きた。それがあの壁画やって? まぁそんな妄想ぐらいエエやないか』
(確かにそういう連想はしましたけど、私の言うのとは違います)
『じゃあ何や? 別に言いふらしたりせえへんし、ボクがそんな事するように見えるか?』
ケット・シーは自分の半身、彼がその気になれば“妄想”の正体にもいずれ辿り着く。
インスパイアとは実に面倒な能力だとリーブは思う。
観念したようにリーブは打ち明ける。
(古代種から数千年を経ても私達は、まだ何も進歩できていないと言う事なのでしょうか?)
むしろ大きすぎる過ちのせいで、進歩どころか後退しているのかも知れないと。
するとケット・シーが言う。
『ん~、ボクならそれ“のびしろがデカい”って考えるで? まだまだこれからやないか』
人はこれまでに幾多の災厄を退けてきたのだから。
『魔晄が無うなっても、ボクらにはもっとできることがある』
今までが無理でも。今は無理でも。将来は可能になる事がたくさんある。
『リーブはんの言う通り、彗星がジェノバを運んだ氷棺だったとしても、その原理を応用して
ボクらが遠くの星に行くことだって出来るかもしれんって事やろ? 考えただけでワクワク
するで』
リーブの表情が自然とほころぶ。
(そうですね。その為にも今やるべき事をやらないといけませんね)
そのための、WROなのだから。
―氷棺 - Cold Case <終>―
----------
・FF7インタ版のジャケット絵が彗星に見えた事と、ジェノバの由来と行方って結局あいまいな
ままだったのを個人的な見解でつなげたお話。
・Cold Caseはそのまま「氷の容器(棺)」と言う意味合いと「未解決事件(≒作中で明かされ
なかったジェノバの謎)」という意味をかけてみた。
・各キャラクターの話を詰め込みすぎた結果、話の落とし所がぼやけてるのは相変わらず。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございます。
155:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/12 22:26:32.41 ONZ5/9sa0
GJ
156: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/11/12 23:14:45.86 JWzhOzro0
GJ
157: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/11/13 22:52:52.18 CWAAk3v20
>>149
据え膳食っちゃった話をエロパロ板に投稿しましたw
やれやれ(自嘲)
<宣伝>
FF7のエロパロスレ作りますた
スレリンク(eroparo板)
宜しければご利用下さいm(_ _)m
158:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/14 21:07:26.21 maGSXmbo0
>>157
スレ立て乙
159:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/22 05:38:38.68 Xc8Rtnv+0
sage
160:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/12/01 23:17:22.39 7kAqE3TT0
ho
161:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/12/09 19:37:42.90 S20bnnQY0
ほ
162: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/12/14 22:12:37.37 +RPqDFWq0
<訃報>
エロパロ板のFF7スレが落ちましたorz
ナムー(ー人ー)
163:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/12/23 18:59:34.44 jH8XJCQI0
164:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/12/31 01:36:23.84 YGOLRwc+0
ほ
165: 【大吉】 【180円】
13/01/01 11:37:43.39 AgNhfkYE0
ほ
166:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/01/01 17:08:47.04 hpidbSWe0
探してみたけどカップリングについて話すスレってないのな
FF7のヴィンユフィに急に再燃して
DCでユフィがヴィンセントに気があるっぽい描写がある件について話したいんだが
どのへんが適当なんだろう
167:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/01/04 00:00:48.76 FIkrOWh60
今年も沢山のSSが読めますように。
>>166
んー、作品によらずその手の話題って荒れる原因だから敬遠されるんじゃないかなと。
そういうスレ(カップリング専用スレみたいなの)が無いのなら尚更。
まーこのスレに来たのも何かの縁、166が思う根拠をもとに、ひとつ話を書いてみては
どうだろう?
ここはそういったスレだと思うよ~。
168:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/01/16 06:53:46.85 7xmtkg5I0
ほ
169:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/01/24 22:15:01.58 xEeKPhAT0
の
170:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/01/31 22:20:13.20 rrjvpdUA0
へ
171:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/02/06 21:18:42.82 +YAI/YjJ0
の
172:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/02/17 16:39:14.07 bWN8rK/F0
も
173:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/02/24 21:46:29.37 pN/gVZ7n0
ち
174:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/03 00:36:10.83 03400gqF0
保守あげ
175:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/10 22:00:08.08 p7GLcr4h0
つ
176:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/18 06:47:42.14 V296w+Hr0
ほ
177:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/23 20:40:46.41 iZ+kPSrM0
つ
178:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/26 00:44:43.42 IDTM1WNV0
XがHD発売情報につき記念保守
179:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/03/30 20:32:34.12 AXScSRYM0
ほ
180:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/03 19:50:54.43 s92xhUY30
ぼ
181:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/11 21:10:25.31 1D8294Uy0
ぼ
182:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/12 23:06:40.97 F8LoDUt50
各シリーズの名場面を小説に書き起こしてみたらどうなるんだろう
とふと思った件
183:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/13 23:35:47.69 UmxjC3c60
それいいかも
リーブ視点のFF7本編のノベライズは読んでみたい
184:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/14 11:20:21.37 wDi4oonc0
>>183それ読んでみたい
他には
5のギルガメッシュ自爆とか
6のダリルの墓イベントとか
9のダガーが髪を切る所とか
も読んでみたいw
185:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/17 20:31:45.27 sUWe7ha+0
おっなんだ
スレが板のどん底に来てるぞw
それはともかく>>182-184はいいねえ
読んでみたいス
186:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/18 00:51:19.18 xz+ZLMsK0
>>185ティーダ?
他のナンバーも名場面色々有るんだよな
と言いつつ保守上げ
187:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/21 12:45:40.61 QjW+e+xY0
ほ
188:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/22 23:19:19.25 1d6BdoRL0
ぼ
189:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/25 18:57:07.93 GSJ3or/D0
ん
190:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/04/27 17:48:49.55 rRFK5PCL0
ほ
191:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/05/03 05:25:32.15 kSEkJ3770
age
192:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/05/07 19:22:23.69 Gdjc9oOr0
ほ
193:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/05/11 00:59:10.52 5y1eklj+0
し
194:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/05/20 22:24:51.24 qjg6Tzrm0
ゅ
195:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/05/28 22:03:24.81 cGJxaHNw0
age
196:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/03 01:14:26.20 oWWbnUsq0
ほ
197:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/07 21:10:39.29 +oTmlg5Z0
ん
198:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/09 23:05:38.99 pZRY700H0
最下層だからageる
199:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/11 22:45:44.27 hRoxNe6P0
むう
なかなか面白いお話を書いてくれる人は現れんのぅ
てめーが書けとか言うなよ
文才ゼロだからなw
200:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/12 08:55:52.21 2sb9zO8e0
>>199
貴方が書いてくださいお願いします。
土下座して待機いたします。
201:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/12 21:09:33.17 JEDh5qpe0
>>200
㍉
俺7ファンだからなあ
題材が限られちゃうよ
あと既に上手い人いたろ
Lv1とかってコテトリつけた人
202:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/13 01:12:16.03 kmHndw9l0
>>201
別に題材限られてもいいだろ
人によって視点や文体とか違うんだから
まああの人は別格だと思うが
取り敢えず待ってるよ
203:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/13 01:15:42.31 kmHndw9l0
保守がてら名(迷)言書き出してみるか
・ウボアーッ
・いいですとも
・うちゅうの ほうそくが みだれる!
・お前とは1対1で勝負したかったぜ
・無とはいったい うごごごごご
・ホワッホッホッホ
・カレーライスむにゃむにゃ
・お前は・・・人形だ
・お前は俺が生きた証だ
・別に
・はぐはぐしよ♪
・蛙より美味いもの有るか?
・僕の記憶を・・・空に預けに行くよ
・会わせてくれ、愛しのダガーに!
・違うよ・・・君が夢なんだ
・もう、行かなくちゃ
・ありがとう・・・
・自分のおうちに帰るっす→ハイタッチ
・俺はこの物語の主人公だぜ
・あの人はそんな事望まない!→天空の繭を割る
・結局、死んだ人間の気持ちなんて、生きてる人間が勝手に解釈するしか無いのかもな
うろ覚えだな(^^;
13系と零式は分からんorz
204:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/13 01:47:14.50 vjE2y4wJ0
VIIならむしろ書いて下さい。土下座しっぱなしでお願いします。
Lv1さんは、早くどこかの公募に出す作業に戻って、いやそうじゃなく。
どのFFも需要がある。零式・FFTシリーズ・FFCCシリーズ等、
人気はとても高いのに、ここであまりカバーし切れなかった作品もある。
まったり書いて頂きたい。一名無しが言うのも変だけど…と、保守。
205:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/16 18:05:30.64 BJJVBmld0
まあ過疎ってるしな上げ保守
ついでに思い付いた一文を廃棄
真実は時に残酷な事実を眼前に突き付け、運命は時に過酷な選択を迫る。
どのシリーズでも使えそうだがな
206:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/22 15:42:39.97 cCn4zxg80
カッコイイのに廃棄とは…ほぼまりもんば!
207:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/25 01:48:42.32 6R/+inAc0
*それを捨てるなんてとんでもない!
思いついた文言からお話を膨らませていったり、
思いついた会話から展開を膨らませていったり、
思い浮かんだ場面に繋がる様に進めていったり、
(いいタイトル思い付くとなんかテンションあがったり)
…で、意外と書けちゃうモンじゃないかなと言ってみるw
閃きってとっても大切。あとは愛があれば何とかなるさ!
…ならないかな、なるといいな、なるんじゃないかな?
投稿まってるよ~。保守!
208:205
13/06/27 00:37:37.27 sl1DfQn80
FF10・土日どっちか・書き溜めじゃ無く投稿フォームの前で即興
で良ければネタ一つ有るけど
209:205 ◆w7T2yFC1l7Bh
13/06/29 17:14:58.45 vhobcF0J0
FFXを即興で投下
NGは番号かトリで。
時期としては最終決戦前、シンの両腕をもぎ取った後です。
-----------------------------
真実は時に残酷な事実を眼前に突き付け、運命は時に過酷な選択を迫る。
少年は窓の外に流れていく雲を見つめていた。
特に観察している訳では無い。目の焦点は何処にも合っていないように見える。
物思いに耽り、ガラスに映る自分の顔をただ漫然と眺めていた。
嘗てアーロンは言った。
このスピラには死が満ち溢れていると。
シンが死を振り撒き、死人が幅を利かせ、魔物が徘徊する。
そして究極召喚を行えば、召喚士は死んでしまう。
この死の螺旋は、何としても断ち切らねばならない。
幸い、召喚士が犠牲にならずとも、シンを倒す方法は見つかった。
これで、彼の少女も、スピラ共々救える。
―君は、消えないよね―
少年は不意に俯いた。先ほど少女に言われた言葉が、脳裏に蘇る。
シンの中に入り、エボン=ジュを倒せば、永遠にシンは復活しない。
ナギ節がずっと続くのだ。
もう、人々がシンに怯える必要は無くなる。
ただその代わりに、祈り子達は夢を見なくなる。
召喚獣たちも消え、エボン=ジュが召喚し続けている夢も消える。
少年の決意と運命に、果たして仲間たちは気付いているだろうか。
あの少女は気付いているかもしれない。
210:205 ◆w7T2yFC1l7Bh
13/06/29 17:20:26.09 vhobcF0J0
>>209の続き
-----------------------
人の死に対しては敏感な方で、しかも召喚士だ。
聖なる泉の大勢の祈り子達が、どれほど巨大な夢を見ているか。
その夢が少年の存在と直結している事を、具体的には分からなくても、薄々気付いているかも知れない。
夢を終わらせる夢―。
少年は自分の手のひらを見つめた。
1000年間夢を見続けるというのはどれほどのものか。
もう解放してやってもいいだろう。その間、苦しみ続けて来たのだから。自分の父親と同様に。
ザナルカンドに居た頃の自分なら、全く思わなかっただろう。
アーロンに全てを告げられ、少女の覚悟とザナルカンドの真実を聞くまでは―。
自分がスピラの悪夢を終わらせる―全ての覚悟と決意を拳に握りしめ、少年は再び前を向いた。
窓に映った顔、その目には見覚えが有った。少年は思わず苦笑いを浮かべる。
以前、ガガゼト山の入口で、ロンゾの長老に対した時の少女と同じだ。
鉄のように固く、ロンゾの屈強な戦士が何人束になっても折れない、強い意志。
究極召喚を使えば死ぬと分かっていても、それでも歩みを止めなかった。
同類の鋭い眼差しが、窓の向こうから自分を見返している。
今見られたら、他の皆にもばれるだろうか。
少年は儚げにふっと笑みを零すと、天井を見上げた。
「くそオヤジ、今行くから大人しく待ってろよ」
ポツリと呟くと、少年はうんと頷き、ブリッジへと足を向けた…。
~fin~
-------------------------
ムービーの間を自分なりに妄想してみました。
スレ汚しスマソ、保守代わりに。
211:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/06/29 20:11:52.77 vzJp9bKj0
乙乙乙!!
212:205
13/06/29 20:42:23.52 vhobcF0J0
書くと事前妄想と実際のストーリーが乖離してしまうorz
神職人の皆さんが羨ましい(^^;
213:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/07/11 23:24:24.32 hYdIGtEx0
ほ
214:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/07/15 16:11:08.76 nYTuIRKO0
ぼ
215:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/07/18 00:42:12.25 wh/zLoIE0
ho
216:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/07/20 04:32:13.07 CLWDpz3f0
bo
217:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/07/26 00:32:04.96 dvTiusUI0
ほ
218:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/02 01:03:21.55 MVeuwxWi0
>>209-210
ティーダにとっては二度(一度目は究極召喚、二度目は自分自身の立ち位置)も
この展開があったんだと考えると、彼は本当に「夢を終わらせる夢」という宿命を
背負っていたんだなとしみじみする。
けど、FF10ってパーティーメンバー全員それぞれが背負っているものがあって、
各々に冒頭一行目の件が適用できるっていうところが凄いと思う。
(だからストーリー自体もまとまりがあったんだと思ってます)
同時に、10のED時点でユウナは「選択」できなかったって事を考えると・゚・(つД`)・゚・
219:ラストダンジョン(465) ◆Lv.1/MrrYw
13/08/02 01:17:58.85 MVeuwxWi0
前話:>>80-82
今回は主にルクレツィアのお話ですが、作者の主観が多分に繁栄されています。
----------
―きっと、恋をしている。
「くだらない」
ルクレツィア=クレシェントの見解を聞いた私の脳裏で真っ先に過ぎったのは、この
言葉でした。顔を合わせて対話しているのであれば、声に出さない限り伝わることの
無い思惑は、しかしこの場合は全く意味がありませんでした。
なにせここが“脳裏”だからです。
「ふふ」それでも彼女は自嘲気味に続けます「……あなたからしたら悪例が言うの
だから、説得力なんて当然無いわよね」。
「……すみません」
「謝るけど、否定はしない。……あなたのそういう所、嫌いじゃないわ」
今度は楽しそうに笑う。改めてルクレツィア=クレシェントの強さを思い知らされる。
そもそも断片にしてまで意志を保つことができるのは、強さという裏付けがあっての
事なのだろう。
「強さじゃないと思うの。強いて言えば“執着”の強さ、かな?」
「意識を共有しているというのは些か不便なものですね」心に浮かんだ疑問や、口に
出さない思考さえも共有してしまう。他者の断片を取り込む際の副次的な効果は、
当初考えていたよりも深刻な影響をもたらすものだと、今さらながらに身をもって
知ることになろうとは。
けれどそれは、皮肉と言うよりも因果なのでしょう。
「でも安心して、もうしばらくの辛抱」
「『もうしばらく』とは、どういうことですか?」
「元々この断片化ファイルが作られた目的は既に達成されている。今の私は、あなたの
考えている通り副産物でしかない。直にここは、元の持ち主に書き換えられる領域。
書き換えられれば、ここにいる“私”は消える」
220:ラストダンジョン(466) ◆Lv.1/MrrYw
13/08/02 01:20:54.18 MVeuwxWi0
そして今は、流れ込んでくる途方も無い量のデータを処理するために、一時的な受け
皿として私の代わりに働いてくれている、言ってみれば防波堤だ。
不思議な共生関係、どちらかというと一方的に使役しているような、そんな罪悪感にも
似た思いがしますが。
「あなたは何も悪くないわ。本来なら当人以外の意志や個性を維持することはできない
から、異常だった状態が正常化するだけのこと。それにね、あなたよりは私の方が人生
経験は長いのよ?」
確かに彼女の、彼女の言い方に倣えば“断片”の言う通り、元々は私の記憶領域に
移植されたもの。その説明に間違いはありません。
ただ、今この領域を使用しているのは明らかに“私”以外の者であるのも事実。だから
こそ尋ねてみたくなりました。
「……怖くは、ないんですか?」
もうすぐ消えるとなれば、少なからずそう思います。
ところが彼女は平然として返答しました。
「まったく怖くないと言えば嘘になるけどね。だけど、それ以上に恐ろしいことを知って
いるから……」
やや間があってから、彼女はこう続けました。
「本当の『私』は、事態の推移をただ見守っている事しか……いいえ、自分だけでは
見守る事さえできない。
……それは未熟だった私があがいた末に、辿り着いた答え。今の私がいる場所。
だけどね、ここでは本当に何もできないの。あがくことも、逃げることさえも。
何もしない、出来ないこと。それほど恐ろしい事は無いと身をもって知った」
今さらだけどね、と彼女は笑います。
「だからね。しっかり自分の頭で考えて、行動するの。その結果が失敗だったとしても、
それは次に活かせるから。私の失敗を嗤いたい人はそうすれば良いわ。……もちろん、
持論を実証するのは科学者として重要な要素だけど、それは科学者に限った話じゃ
ないって、私は思うの」
221:ラストダンジョン(467) ◆Lv.1/MrrYw
13/08/02 01:23:58.05 MVeuwxWi0
3年前。私はほんの僅かの間だけ“彼女”―ルクレツィア=クレシェントという科学者
の記憶と感情を共有し、その過程で彼女の半生を垣間見た。彼女が言わんとしている
事、その概要については理解できる。だからこそ、分からない。なぜ唐突に、恋などと
言うくだらない話を持ち出して来たのか。
「『くだらない』事なんて一つも無いわ。
……ねえ、シェルク。なぜあなたは『くだらない』と思ったの?」
「え?」
確かにくだらないと思った。けれど、何故と問われると明確な答えが返せない。
「本来なら無関係の私が、あなたのお姉さんにお節介を焼くのが気に入らない?」
「そうではありません」
そう、気に入らないという訳ではないのです。
「あなたのお姉さんの事を知らない私に、お姉さんの事を語って欲しくない?」
「そんな事ではありません」
まるで子どもじみた独占欲。幼少期に姉と引き離され、10年間を孤独と不安と恐怖で
過ごす中で、確かに姉は唯一心の拠り所であり希望でした。だけど今の私は違います。
「お姉さんが、自分以外の人に執心しているとしたら嫌だから?」
「そんな筈がありません」
子どもじみた独占欲どころか、ただの嫉妬。どうして私が? 姉は連れ去られた私を
必死に捜してくれていた。10年かかったけれど、ちゃんと助けに来てくれた。きっと
私以上に苦しい思いをしてきた。だからもうこれ以上、姉が私に縛られる事はない。この
先は姉の自由に生きて欲しい。
「じゃあ。……恋って、くだらないかな?」
「……わかりません」
そんなこと私に聞かれても、分からない。分かるわけが無い。
「誰かを好きになるって、素敵なことよ」
「そう、ですか」
どうでもいい。今の私には、必要が無いから。
222:ラストダンジョン(468) ◆Lv.1/MrrYw
13/08/02 01:26:32.65 MVeuwxWi0
膠着状態と言うのに充分な間を置いてから、仕切り直しと言わんばかりに彼女は
こんな風に問う。
「聞き方を変えるわね。―あなたは、お姉さんが好き?」
「はい」
当然です。一人しかいない肉親ですから。
「お姉さんは大切な人でしょう?」
「そうです」
「じゃあ、これからお姉さんにはどうしてほしい? どうなってほしい?」
「……姉の、望むままに、暮らして欲しいと……思います」
問いに答えることは簡単だった。けれど、返答するうちに分からなくなった。現在の
姉が何を望み、どうしたいと思っているのか?
あれだけ待ち望んでいたはずなのに、わたしは、お姉ちゃんのことをなにも知らない。
「そう。好きな人には笑顔でいてほしいわよね? 幸せでいてほしい」
「はい」
―『彼女が幸せなら、それで良い』そういった彼の気持ちも、今なら少し分かる気が
します。
そもそもディープグラウンドに連れて来られてから、苦痛と恐怖を味わってきたのは
私だけでは無かったはず。私を必死に探してくれていた姉も、そうだったのだと。姉が
腕や目を失った経緯は、想像したくも無い。ルクレツィア=クレシェントの言う様に、私が
姉の幸せを、笑顔を望んでいる気持ちに嘘偽りは無い。
「だけどそのせいでお姉さんが変わってしまう事が、こわい?」
彼女の言葉に、まるで過電流によって私の中の全ての思考が停止したような気がした。
一気に血の気がひき―もちろんここに体内の血流や皮膚感覚は直接影響しない筈
ですが―反応する事もできなかった。
「あなたは私のことを見ている。だから余計にそう思うかも知れない。こわい、よね?」
否定も肯定もできなかった。
だって分からないから。
「……昔から『恋煩い』っていう言葉があるけど、確かに恋ってウィルスに似ているわね。
感染すると思わぬ形で自分を変えてしまう。まるで今までの自分じゃ無いみたい。熱に
浮かされた様な感覚で、判断も思考も、大袈裟な言い方かも知れないけど、自分に
とって世界のなにもかもが変わる。だけどウィルス自体に悪意は無いし、感染しようと
思ってできるものじゃない。今のあなたの心境は、不治の病を恐れるのと似ているかもね」
そもそもが人工物であるコンピューターにおけるウィルスとの決定的な違いは、その
誕生が人為的であるか否かです。多くの場合は作成者の意図を反映し利益をもたらす
為の道具。それは往々にして作成者以外には不利益にしかならない。
「だけどね、悪いことばかりじゃ無いわ。こうして私が存在しているのも、そのお陰。
……って言っても、説得力ないかしらね」
私はウィルスに感染した結果、制御しきれずもたらされる影響を恐れている、……の
だろうか。それとも変質そのものを恐れている。あるいは認めたくないと、無意識に
思っている?
こうして埋め込まれたルクレツィア=クレシェントの断片は、意識下にある感情に同期
したとでもいうのだろうか?
「ごめん、……そろそろ、時間切れ、みたい……」
彼女の声にノイズが混じる。
「え?!」
「こっちに、割ける余裕……もう、ないみたい」
ノイズは徐々に拡大し、彼女をのみ込んでいく。
「シェルク。あなた自身と、お姉さん、……悔いは、残さないで」
悔い?
あなたの言っていることは、理解に苦しむことばかり。だから。
(だから、もう少し)
話したかった、のに……。
223:ラストダンジョン(469) ◆Lv.1/MrrYw
13/08/02 01:33:18.40 MVeuwxWi0
***
―『足止め』には充分な量の情報と感情。
だけどいくら過酷な環境を生きてきたとはいえ、
これだけの量を処理……“中和”するのはあの子にはまだ難しい。
もしかしてあの子の中にあった断片《私》の存在も織り込み済みかしら?
人は生きていれば変わって行くもの。変化は成長であり進化。
誰でも最初は、変化に戸惑いや恐れもあると思う。
だけどね……。
変化や成長がなければ、死んでいるのと何も変わらない。
だから怖がらなくても良いんだよ。
ライフストリームに還る事もできず、私はずっと地上に留まっている。
その意味では本当に『死んで』しまったの。
これってきっと、上書きされるか、消えてしまうかもしれないけれど……。
伝えたいと思うのは自由よね?
『どうか、“生きて”』。
----------
・ルクレツィアは非常に女性的で頼もしい存在だと言う作者の主観丸出しである。
・なので、なんとなくシャルアとは別の意味で“お姉さん”適任だと思うんだ。
・初見の方がいたらすみません。
ずいぶん長い話になっていますが、続ける気は一応あるようですw
・作者のリーブ好きFF7好きが文章から伝染して(?)楽しんで頂ければ、
それ以上の報酬はありません。
(だからむやみにハードルを上げちゃダメ、絶対w)
224:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/04 20:41:07.63 GcfgGSsN0
きてたー
おつー
225:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/10 12:48:42.03 K20daN/SO
職人さんGJ
ついでにage
226:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/18 22:06:52.27 pNW96nrw0
ほ
227:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/21 03:00:39.04 D1gpQczg0
乙
228:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/08/27 01:18:16.95 ZHNuNKbi0
職人さん期待保守
229:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/09/01 20:31:41.05 VT3bC96m0
乙です
230:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/09/07 07:16:08.40 7nQkbq/z0
乙!
231: ◆w7T2yFC1l7Bh
13/09/07 20:40:34.83 lSL8fy+C0
Xにドハマりしている漏れが来ましたよ
先日思い付いたシーンを一つ廃棄
---------------------------
とある平原に、一人の少女が佇んでいる。
周囲には、嘗てアルベド族が建てた避雷針が幾つも並んでいた。
昔では考えられない程晴れ渡った空を見上げている。
雷平原―数年前、少女が仲間と一緒にコンサートを開いた場所だ。
あの奇跡以来すっかり晴れてしまい、今では雷が落ちる方が少ないぐらいだった。
少女は昔を懐かしむように微笑み、風景を見渡した。
自分をここに連れて来た張本人は、他のアルベド族と共に避雷針の点検をしている。
カモメ団は解散したが、彼女は相変わらず忙しく、スピラ中を飛び回っているようだ。
発掘やら機械の教育など、やる事、やりたい事は沢山有るらしい。
一方自分はどうだろうか。
あの頃の気持ちには既に折り合いを着けた。
ワッカ・ルールー夫妻と一緒にイナミの世話をするのは楽しい。
イナミも成長し、子供たちと一緒に走り回っている。
このまま、ビサイドで暮らすのも悪く無いと思っている。
-------------------
オハリ
232:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/09/15 20:04:43.96 0aPtQ/Ov0
ほ
233:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/09/24 11:24:46.27 3z+I0Ob00
ぼ
234:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/10/01 18:38:46.60 B8CPcqhD0
乙
235:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/10/13 07:57:42.28 e0HTRGRh0
ほ
236:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/10/15 23:47:01.73 JoH6kMX40
ho
237:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/10/19 16:46:17.44 Rcu+n2Bo0
age
238:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/10/31 07:18:52.39 NtFhuRtQ0
ほ
239:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/11/06 09:29:15.14 vMKpsPVL0
乙です
240:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/11/18 12:51:28.95 6zii41Wk0
ほ
241:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/11/26 21:28:04.87 rDkY1Zn5O
某ネタスレで話題に上がってたフリオとシヴァの恋話上げてもいいかな、保守代わりに
242:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/11/27 01:04:10.42 h8Iidv7C0
おk
ついでにage
243:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/11/27 04:29:56.16 ULk/5N1OO
では少々お待ちをー&あげ
244:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/04 04:37:23.64 WRufkKlP0
ok
245:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/04 16:23:19.89 jdpNxSlXO
報告です
エロあり小説になったので、FFシリーズ総合エロパロスレ8に
「フリオニール×シヴァ」としてアップしました
ご了承ください
246:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/09 20:23:30.88 4Iq0GsIx0
>>245
わかったok
247:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/12 16:43:06.18 XYlh5YgxO
ほしゅ
248:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/22 10:51:54.55 WxR9aCWA0
ほ
249:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/25 12:37:18.32 49ZGHR7W0
し
250:名前が無い@ただの名無しのようだ
13/12/28 22:17:24.39 absqHBkg0
ゅ
251:パンケーキ【1】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 17:56:31.49 MkykL9JU0
※FF6のエドガーとリルムです。恋愛要素をふくみます。苦手な方はご注意下さい。
************************
朝ごはんはふわふわのパンケーキだ。
生地には卵をたっぷり使った。
それを前の晩から一晩置いてしっかりと寝かせておいた。
そうすると、焼き上がりがよりいっそうふわふわになるのだ。
リルムがこんなにも張り切っていたのはアイテムを調達してきてくれた金髪の王様がメイプルシロップを手に入れてきたからだ。
「リルム、好物だって聞いたよ。」
チャーミングな笑顔でそれを渡された時になんと返事してそれを受け取ったか覚えていない。
うれしいような、くすぐったいような、それがなんだか悔しいような。
彼がまたパーティの女性陣にも花や果物を贈っているのを見てよりいっそう腹が立って。
252:パンケーキ【2】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:00:09.59 MkykL9JU0
キッチンにはバニラエッセンスの甘い香りがただよって、フライパンの中のパンケーキは焦げることなく綺麗なきつね色になった。
リルムは大満足でそれを皿に移す。
空っぽになったフライパンをちょっと冷まして新たに生地を流し込む。
パンケーキをどんどん焼いて、それらは一枚の皿の上にどんどんと重ねられていく。
10枚目を積み上げたところで生地がなくなった。
リルムはそれをテーブルに運ぶと、予め用意してあったホイップクリームをたっぷりとのせ、その上から皿にいちごを煮込んで作った甘い甘いソースもかける。
ミルクと砂糖をふんだんに入れたお茶も用意した。
「完璧!」
リルムはナイフとフォークを持つと、パンケーキの山に挑みかかる。
まずは10枚まとめて一気に半分にカットする。
253:パンケーキ【3】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:05:18.80 MkykL9JU0
手に少しクリームがついてしまったけど、気にしないで更にそれを半分に切る。
四等分されたパンケーキの一片にえいや!とフォークを突き刺し、刺さった分だけ口元に運ぶ。
そのとき、キッチンの扉が開いた。
「おはよう、リルム。」
よく通る甘い声。
みめよい長髪のエドガーと、筋骨隆々なマッシュの兄弟が入って来た。
リルムはエドガーの挨拶に応えずにパンケーキにかぶりつく。
「お!うまそうだな!」
マッシュがリルムの皿を目ざとく見つける。
「やらないよ、キンニク男。」
リルムの口の悪さはいつものことなので、マッシュは気にせず豪快に笑う。
「なんだよ、一口くらいいいだろ?」
リルムはパンケーキでいっぱいの口をもごもごさせながらマッシュにしかめ面をしてみせる。
254:パンケーキ【4】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:07:49.29 MkykL9JU0
それを微笑ましく見ていたエドガーは、おや?と首を傾げる。
「リルム、メイプルシロップは使わないのかい?」
エドガーの言葉に、リルムはパンケーキを噛みつぶしながらそっぽを向いてしまう。
がっかりした様子にリルムは内心ほくそ笑む。
この台詞を言わせたいがために頑張ってパンケーキを焼いたのだ。
「こら、リルム!いっぺんに口に入れすぎだろ?」
マッシュがあきれてリルムの大きな帽子の上に大きな手を乗せる。と、帽子がぱふん、と音を立ててへこんだのがおかしくてエドガーは思わず吹き出してしまう。
「なにがおかしいんだよ!」
口の中のパンケーキは全てその小さな胃袋におさまってしまったのに、未だぷう、と頬をふくらませているのが愛らしい。
255:パンケーキ【5】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:13:34.37 MkykL9JU0
「これは失礼。ただ、マッシュの言うとおり、一度に口の中のいっぱいにパンケーキを頬張るのはお行儀が悪いな。」
エドガーはリルムに歩み寄ると、その顔を覗き込み、
「ほら、ほっぺにクリームがついてるよ。」
と、リルムの頬に唇を寄せ、クリームをついばんだ。
「なななな、何すんだよ!」
リルムは驚いて跳ねるようにして立ち上がり、椅子が派手な音を立ててひっくり返った。
「別に。おいしそうなパンケーキがあったから、一口いただいただけさ。」
目をすっと細め、口角を品よく上げた完璧な微笑みでもって言われ、リルムは咄嗟に言い返すことが出来ず、ナイフとフォークを握りしめ、エドガーをキッと睨みつけた。
256:パンケーキ【6】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:16:45.85 MkykL9JU0
リルム本人は睨みつけてるつもりなのだが、顔を真赤に染め、いきなりキスされた動揺のためかほんの少し涙ぐんで、さらにその身長差でリルムは自然とエドガーを見上げることになり、結果的に「瞳をうるうるさせた上目遣い」になっていることに本人は気付いていない。
「なんだぁ?リルム、おまえがパンケーキみたいにパンパンになってるぞ?」
耳どころか肩まで真っ赤になっているリルムの帽子を、またぱふぱふと叩いてマッシュがからかう。
「うううう、うるさぁい、クマ男!」
リルムはパンケーキの皿を抱えるようにして”クマ男”に大ウケしてがっはっはと笑っているマッシュの横をすり抜け、キッチンから出て行ってしまった。もちろん、ドアは乱暴にばたん!と閉めてた。
「しまった、怒らせちまったかな?」
257:パンケーキ【7】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:20:17.30 MkykL9JU0
呆気にとられてその後姿を見送ったマッシュだったが、テーブルの上にフォークとナイフが転がっているのを見つけ、
「リルムのやつ、手で食べるつもりか?」
「私が持って行くさ。」
「いいのか?兄貴からうまく謝っといてくれよ。」
「ああ、二人でちょっとからかい過ぎたかな。」
エドガーは新しいナイフとフォークを持って、リルムの部屋に向かう。
まったく、なんて可愛らしいんだろう、とエドガーは一人笑みを浮かべる。
リルムの反応はエドガーにとって上々だった。
メイプルシロップがうれしかったアピールを、ちょっとばかりひねくれた方法で表現する意地っぱりな少女がエドガーにはとても好ましい。
258:パンケーキ【8】 ◆WzxIUYlVKU
13/12/30 18:24:03.32 MkykL9JU0
彼女のそんな振る舞いが見られるのなら、
(次はどんな贈り物をしようかな、リルム。)
彼女が大人になるまで、何度でも贈り物をしよう。
そうして、時間をかけて自分以外は見えなくさせてしまおう。
そんな野望を抱いて、自信たっぷりにリルムの部屋の扉をノックするエドガーだったが、ドアが開いた途端にパンケーキが宙を飛んできて、端正なその顔に見事にヒットするなどとは思いもしなかったのだった。
おわり。
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読みにくくてごめんなさい。文字数制限のため、細切れになってしまいました。