FFの恋する小説スレPart12at FF
FFの恋する小説スレPart12 - 暇つぶし2ch50:1/8760 - 定命の理(10)  ◆Lv.1/MrrYw
12/01/25 01:53:59.15 nHNFCQB80
「そう主張するなら、“本体”はどうした?」
『心配せんでも、ちゃ~んと後で来ますわ』
 悪びれた様子は全くない。
「……ほう?」
 疑いの眼差し向けるヴィンセントにも臆すること無くケット・シーはころころと笑う。
『ほれほれ、今日の主役がそんな顔したらアカンで~』
 大皿を運んできたティファがケット・シーに加勢する。
「そうよ? ふだん誘っても来てくれないんだから。またどっか行っちゃったのかと心配になる
じゃない」
 そう言ってティファはにっこりと微笑む。オメガの一件では彼女たちにもずいぶん心配をかけ
てしまった。そういう経緯もあってティファに反論することもできない。
 それに。
「たまにはこうしてみんなと過ごすのも楽しいよね」
 ナナキの言う事も否定できず、最終的にはユフィに感謝しなければなと言う結論に落ち着いた。


 ちなみにこの約1ヶ月後、ヴィンセントは本格的に頭を悩ませる事になるのだが、それはまた
別のお話。



                                        ―1/8760 - 定命の理<終>―

----------
・10/13と11/20がヴィンセントとユフィの誕生日ということで、DC組で唯一誕生日設定されていない
 リーブとケット・シー(?!)の誕生日についてこじつけた話。時期はずれも甚だしい。
・こじつけた結果、若干シリアスになる。仕方が無いね。
 (というかインスパイアが“生命を吹き込む”なんて超能力設定されてるから、大抵シリアスになる)
・“誕生日を祝う”というのは文化的な側面から見るともっと深い部分があると思いますが、
 今回はどちらかというと「日常のひとコマ」なお話。
・FF7本編もそうですが、>>49がケット・シーの独立した意識なのか、リーブの介入があるか
 どうかで解釈が変わります。「謀る」云々の発言はこの辺に対するもの。(分かりづらくてすんません)
・オチがいまいち曖昧になりました。言いたいことがまとまらなかった結果です、反省。

51:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/01/25 16:35:31.14 cxRp8C7b0
乙!
ヴィンセントの誕生日祝うのは確かに苦労しそうだw
ユフィの誕生日に頭悩ませるヴィンセントも見てみたいw

52:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/01/29 22:17:16.84 D80m76800
GJ!

53:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/01/30 08:29:06.52 oncXZwqi0
GJ
おもしろかった!

54:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/03 13:13:30.97 BLyLw3C60
セブンスヘブンの表現がうまいなーくそー
>◆Lv.1/MrrYw

55:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/08 06:36:49.20 5Lp4YV4a0


56:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/11 22:50:23.22 PLRzq4Xc0


57:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/15 21:15:42.23 y34jx0JB0


58:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/19 01:30:54.24 ukvLsgWS0
ねむねむ

59:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/02/27 07:34:54.11 c3pbAmmO0


60:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/01 21:49:08.91 GoLRsiFM0
保管サイトの管理人・関係者とかサイト放置しちゃったまんまいなくなってしまったのかな?
メアドの連絡が取れなくなっている。誰か知ってる人いませんか?

61:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/07 18:53:01.64 WI5A706Q0


62:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/14 00:06:42.32 lZNZaLAi0


63:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/20 20:36:53.85 pKoNGLBu0


64:人類半減期(1)  ◆Lv.1/MrrYw
12/03/22 23:54:45.01 QXLVLSS+0
※(FF7)魔晄炉と魔晄文明のお話。
  タイトルとあわせて嫌な予感・不快に思った方は読まない方が良い。
----------


 見渡す限りどこまでも続く荒涼とした大地。空は青く澄み渡り、空の高いところにはうっすらと
筋雲がたなびいている。
 岩場と砂地ばかりの土地は植物が地に根を張るどころか、芽吹くことすら許さないとでも言う
ようにじりじりと照りつける太陽に晒され、衰えた土地をさらに干上がらせていく。かつて存在した
生命の僅かな痕跡さえも風にさらわれ、すっかり生気を失った不毛の地。
 そんな場所に、砂塵を伴って大小3つの影が現れる。深紅の体毛と立派な鬣を持った獣の
親子だ。躍動する筋肉と力強い鼓動はまるで炎の化身であるかのように、もしこの土地に彼ら
以外の生命がいれば、3頭の姿は目も眩むほどに輝いて見えたに違いない。
 やがて親子の行く手を遮るようにしてそびえ立つ断崖に近づくと、3頭はさらに速度を上げた。
足場になりそうな場所を瞬時に見極め、3つの中でもっとも大きな影が勢いよく駆け上がる。
しなやかな四肢を活かしあっという間に崖の頂上まで辿り着くと、眼下には断崖の向こう側に
広がった緑の生い茂る大地が一望できた。後に続いた2つの小さな影も、ややおぼつかない
足取りながら、先頭を行く大きな影に追いつこうと跳躍を繰り返しながら頂上を目指す。
 崖の頂で親子を出迎えたのは、吹き荒ぶ風と絶好の眺望だった。鬣や全身を覆う体毛が
強風にあおられる。まるでここが生と死の世界を隔てる絶壁であるかのように、彼らの眼下に
広がる世界は、この断崖を境にして相反する色を見せていた。

 長い年月の間に、この星のあらゆる場所を歩き、この目に風景を焼き付けて来た。そんな中
でもここは、故郷とは別の意味で特別な場所だった。
 そこはかつて―すでに懐旧を通り越し、はるか昔と呼べる程の時間が経つ―かけがえの
ない仲間達と出会い、彼らと共にひと時を過ごした場所。

 自分のあとに続いた2つの影が到着するのを確認すると、先に待っていた大きな影が眼下に
向けて首を振った。
「さあ、みてごらん」
 まだヒトの言葉を理解することはできなくても、子ども達は父の動作に倣って、眼下に広がる
緑の大地に目を向けた。

65:人類半減期(2)  ◆Lv.1/MrrYw
12/03/22 23:57:53.97 QXLVLSS+0
「ずっと昔、あそこには二本足で立つ者達が多く暮らしていたんだ」
 繁茂する草木に覆い隠されているものの、目を凝らせばその下にある遺跡群の輪郭を見出す
ことができる。長年の風雨によって腐食が進み、都市として繁栄を謳歌していた当時の面影こそ
失われているが、500年ほどが経過した今でもプレートを支えている支柱の多くが緑を纏い
ながらも健在である事には驚かされる。彼が思っていたよりもずっと堅牢な作りだった都市は、
皮肉にもそこで暮らす人々が消えた後も、ずっとその地に残り続けた。
 ふと、その都市の建造に深く携わった仲間のひとりが思い起こされた。思慮深い一方で、
自身の本音を覆い隠すようにしていつも笑顔を絶やさなかった男。
 もしも彼が自分と同じ風景を目にしていたとしたら、どう思ったのだろうか? と。

「……彼らはあの土地を、『ミッドガル』と呼んでいたんだ」

 堅固な都市の建造に関われたことを誇りと思うだろうか?
 この地から人々が去ってしまった事を憂うだろうか?

 それとも―。

                    ***

 ナナキの故郷は、かつて星命学の聖地と呼ばれたコスモキャニオン。
 幼年期の彼を育てたのは生みの親ではなく、峡谷に暮らす穏やかな人々だった。
 中でも親代わりに彼の面倒を見てくれたのが、峡谷の長老ブーゲンハーゲン。
 まだ谷を出たこともない程に幼かったナナキに、長老はよく谷の外の事を話して聞かせた。


 天の高みで煌々と輝く太陽に憧れ、大地に恵みをもたらすそれこそが神の偉業、あるいは
純粋な感謝の念から、一部の人々はそれを崇拝した。
 長い年月を経て、いつしか人々はそれを自らの手中に収めようと試行錯誤を繰り返した。
 ある者はそれを鼻で笑い、またある者は冒涜だと批難した。
 その間に多くの思想が生まれ、数え切れないほどの議論が交わされた。
 しかし結果的に技術の進歩が止まることはなかった。

 魔晄炉。
 地中を循環する星の生命そのものを汲み上げ、ヒトが利用可能なエネルギーに変換する
ための施設。
 人は太陽のように自らエネルギーを生産するのではなく、星の内にある限られた資源を
エネルギーとする術を見出した。
 それは文字通りに星の命を削る行為。非難の声は当然に上がった。
 一方でそれは、人々の生活に飛躍的な進歩と利便性をもたらした。
 そんな状況を目の当たりにして功罪相半ばすると評した者がいた。魔晄炉は今を生きる
人々には功を、未来を生きる人々には罪過の遺産になるのだと。
 繁栄に沸き返る中でさえ、少なくない人々が様々な方法で警鐘を鳴らした。
 けれど魔晄炉は無くならなかった。

 いちど知ってしまった豊かさを手放して、過去の不便な生活には戻れない。それが人の弱さ。
 同時に、今以上の豊かさを追求して困難にも立ち向かっていく力。それが人の強さ。



 結局のところ、人は自らの意志で魔晄炉の恩恵を手放すことはできなかった。
 彼らの中で神を気取った連中の辿った末路、それこそが500年が経った後にナナキ達の
眼下に広がる光景だった。

66:人類半減期(3)  ◆Lv.1/MrrYw
12/03/23 00:01:19.73 QXLVLSS+0

                    ***

 ミッドガルが遺跡群になるよりもはるか昔。まだその全貌が世に現れていなかった頃。
 多くの若手社員を前に、社長は弁舌を振るっていた。
「『安全だ』と口で言うことは簡単だが、無知な市民にはそれを実証して知らしめる必要がある」
 プレジデント神羅の打ち出した方針は、最初期のミッドガル都市建設構想から既に盛り込まれ
ていた。彼らの発見した魔晄エネルギーを象徴する新たな都市。地上にある八基の魔晄炉の
中心に本社を据え、都市に住む人々は富を享受し繁栄を謳歌する。都市は一定の区画ごとに
分割し、それぞれのセクターに商工産業の機能を割り当て、必要なすべてを都市内部でまかなう
仕組みを作る。
「我々は自社の技術に絶対の自信を持っている。なぜならその自信は現実によって裏打ちされて
いるのだからな。これなら市民も納得するに違いない」
 エネルギーは全てを生み出す文字通りの源泉だとプレジデントは考えた。一介の軍事企業
ではとうてい得ることのできない富を我が手にできる。しかもその富には、民の信頼という付加
価値まで付いてくるのだから、こんな絶好の商機を見逃す手はない。
 商機どころか、もしかしたらこの都市を足掛かりに“星の絶対者”になれるのかも知れない。
そんなことを言えば「子供じみている」と笑われるかも知れないが、そうやって笑った奴らを後悔
させてやろうではないか。

 市民に富を与えれば、彼らは提供者に服従する。
 いちど豊かさを味わった者は、それ以前の生活には戻れない。
 ヒトにとって幸福とは、クスリのような物なのだ。
 同じ量の幸福では、やがて満足しなくなる。今以上の幸福を渇望する。
 それを手に入れるためなら、どんな努力をも厭わない。
 たとえ他者の命を奪う事も。あるいは自分の身を削る事になるとしても。

「需要があるからこそ我々供給者たる産業が成り立つのだよ。私は兵器を売ることになんら
後ろめたさは持ってない。戦争は悪ではないのだから」
 プレジデントはそう言い切る。皆、自分の正義のために戦っているだけなのだ。戦争そのもの
が悪ではないのだと。
 反論の声を上げる者はいなかった。誰もが疑問を口にすることもしなかった。それこそが
プレジデント神羅の語った世界の縮図だったのである。
「……本題に戻ろう」咳払いと共にプレジデントが向き直る「先程も言った通り、我々は自社の
技術に絶対の自信を持っている。これから我々は過去に類がない大都市を作り上げる。その
ためにも、このプロジェクトには1つの失敗も許されない」

67:人類半減期(4)  ◆Lv.1/MrrYw
12/03/23 00:06:56.89 5+gTa7f10
 言葉以上の威圧感が場を支配する。呼吸さえ止まるかと思う程のプレッシャーが、その場に
いた若手社員の心身を支配した。
「この都市が完成した暁には、人々はこれまでに無い豊かさを享受する事になる。住民が憂い
を感じる事無く暮らせる都市。その成否は、君たちの働きにかかっている」
 技術の進歩。文明の発展。そして、人々の幸福。それらを実現するためのプロジェクトこそが、
ミッドガル都市計画。誰かを傷つけるための兵器開発ではなく、戦をするための軍需産業でも
なく、君たちは人々の幸福の担い手なのだとプレジデントは続けた。
 話を聞いていた若者の一人は、自身の心身を支配しているのがプレッシャーだけではない
事に気が付いた。今は紙面上に描かれた設計図でしかない都市に対する期待や昂揚。そして
彼の脳裏では既に、引かれた図面から基礎や骨組みが組み上げられ、外構作業までが記録
映像とでも言うべき精度で再現されている。それはもはや確信を超えていた。
 八基が集中する魔晄炉の出力制御にも問題は無い。彼の中にあるルールさえ遵守すれば、
憂う様な事態は起こらないのだと言う確信があった。
 以来、彼の想像通りにミッドガルでは魔晄炉の事故は一度も起きなかったし、それは
プレジデントの語った様に、人々にエネルギーという形で豊かさと幸福をもたらす施設になった。
 後に彼は都市開発部門の統括職を務め、自身の確信が過ちであったことを認める。

                    ***

 ―それとも。


 吹き付ける風が強くなってきた。後ろに立っている子ども達が気にかかり、ナナキは我に返る。
 我が子らと共にミッドガルを訪れるにはまだ早すぎる。そう思って、ナナキはミッドガルに背を
向け、来た道を引き返す。
 近いうちに、自分だけでミッドガルを訪れよう。久方振りにあそこに供えてあるぬいぐるみに
会いに行こう。
 今も尚その土地に残る“彼”は、きっと笑顔で出迎えてくれるだろう。


                                        ―人類半減期<終>―

----------
・半減期500年、1000年でザナルカンドというオチではありません。
・書いている本人が言うのもなんですが、今作は決して面白い話ではありませんね…。
 微妙なテーマのお話ですみません。保守のお供に。
・FF7(シリーズ)ではすっかり悪役になってしまったプレジデント神羅ですが、彼の政治
 手腕というのはかなりのものだと思います。(意外と書いてて楽しいのがプレジデントw)

68:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/24 08:01:37.95 issB2uXc0
GJ

69:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/03/30 21:59:39.83 4pAMQsk/0
GJ111

70:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/04/10 13:04:13.30 X2v3AvZ/0


71:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/04/18 01:19:36.72 fgFPhuPL0


72:ラストダンジョン(458)  ◆Lv.1/MrrYw
12/04/23 22:36:13.35 T59e5POW0
前話:Part11 241-246
その後のシェルクさん
----------


 家々の屋根が夕日色に染まり始める頃、空は家路を急ぐ鳥たちの鳴き声で賑わい始めて
いた。地上ではまだ遊び足りないと走り回る子ども達の声。そんな彼らも、しばらくすると漂い
始めた夕餉の香りに足を止める。やがてあちこちで聞こえてくるのは、じゃあね、またねと弾ん
だ声で別れの挨拶。
 子ども達の帰り道を照らす様にして家々の軒先に明かりが灯る。玄関先では明るい「ただ
いま」に呼応する「おかえり」の声。それらはまるで町に夜を呼び寄せる呪文のように、路頭
から子ども達の姿が消えると日は落ちて、町はあっという間に静寂に包まれた。土を踏み
固めただけで特に舗装されていない通りには人影も無く、車の往来も滅多に無い。利便性と
機能性は無いけれど、そこにあったのは質素な暮らしと人々の笑顔。

 ―見た事の無いはずの風景に感じたのは、郷愁。

 まばたきした次の瞬間、気が付くと私は姉に手を引かれながら宵闇がせまる歩道を歩いて
いた。家族の笑顔と夕飯が待っている、我が家へと帰るために。
(お姉ちゃん? ……いつの間に)
 タイルで舗装された歩道と、幅の広い車道。等間隔に立ち並んだ街灯と、至る所に設けられ
た案内用の電光掲示板。利便性と機能性に満ちた、その代わりに自然物が排された街。
 自分の知らない場所なのに、そこから姉と一緒に家に帰ろうとしている。まるで脈絡の無い
展開に、それが自分の見ている夢だという事に気づく。でも、これが夢ならそれでも良いと
思った。
(わたし、ずっと……)
 人が見る夢は、自分の願望や深層意識の表れだと誰かが言っていた。そうなんだろうなと、
今なら心から納得できる。
(望んでいた)

73:ラストダンジョン(459)  ◆Lv.1/MrrYw
12/04/23 22:39:33.34 T59e5POW0
 そのとき唐突に、足下が大きく揺れ体が傾いた。一瞬遅れて辺りには轟音が響き渡った。
真っ二つに裂けた鋼鉄の大地に飲み込まれていく家々。吸い込まれる様にして闇の底に
落ちていく灯火。巻き上がる風に鳥たちのさざめきが混じり、徐々に大きくなる人々の悲鳴や
怒号が風の中で渦を巻く。どことも知れず方々で上がった火の手は夜の闇を煌々と照らし
出す。風の渦は灼熱を帯び、地上に迸る炎を煽り立てる。
 さっきまで繋いでいた手は、ただ宙をさまよっていた。隣にいたはずの姉の姿が無い。
(お姉ちゃん!)
 煙を吸い込んだのか声が出せなかった。燃えさかる炎と立ち上る黒煙に包まれ、逃げ惑う
人々でごった返す街の中を必死になって走った。道路をふさぐ瓦礫を乗り越え、さっきまで
一緒にいた姉を捜し回った。やがて深く亀裂の入った道路と、立ち上る炎の壁を越えたところ
に姉の背中が見えた。
(こっち! お姉ちゃん!!)
 姉の名を叫ぼうにも声は出なかった。しかも悪いことに姉はこちらに気づいていないし、手を
伸ばしたところで届く距離ではない。このままでは姉は炎に巻き込まれてしまう、なんとしても
姉を助け出したい。その一心で、亀裂を飛び越えようと跳躍した。飛び越せる確証は無い、
けれど迫り来る炎と、その向こうにいる姉の後ろ姿が見えているのだから、躊躇している場合
では無い。
 このとき私は、これが夢だという事をすっかり忘れていた。前後のつながりなど何も無い、
それなのに、どこかリアルな夢だった。
 確かなことは、夢の中で私は姉を助けたいと切に願っていた。
 姉が助かるのなら、自分が炎の中に飛び込む事も厭わなかった。
「お姉ちゃん!」
 やっとの思いで掠れ声が出た、私の声にようやく振り返った姉は、私にこう言った。

「ダメだ戻れ! 早く!」

                    ***

 目前にまで炎が迫り意識が途切れる間際、視界が一瞬にしてまばゆい光に包まれたかと
思うと、先ほどまで燃えさかる炎のあった場所には、無機質な文字列が延々と流れている。
 額どころか体中が汗ばんでいる。目尻に溜まっているのは涙だろうか。
 それでようやく、自分が悪夢から目覚めたのだと認識した。ヘッドセットを外そうと腕を上げ
ようとしたが、鉛の様に重たくなった腕は少しも動かす事ができなかった。
「……わ……?」
 すっかり掠れて声も出ない。シェルクは自分の置かれている状況が理解できずにいた。
 それどころか、目覚めたばかりだというのに強烈な睡魔に引きずり込まれてしまいそうだった。
「わたし……?」
 襲い来る睡魔に抗いながら、すっかり回転の鈍くなった頭で必死に記憶をたぐり寄せた
シェルクはようやく思い出す。あの時、ケット・シーの記憶領域(ライブラリ)にあった“感情の
源泉”―言ってみれば外傷体験―に触れてしまったのだ。
 本来であれば年単位で取得する膨大な量の情報と付随する感情に、いちどきに触れて
しまったせいで処理能力が追いついていないのだ。今こうして肉体を支配する気怠さも、
恐ろしいほどの眠気も、外部からの情報を遮断しようとする一種の防衛反応だ。
「助……かった」
 シェルクが覚醒する直前―彼女の意識がライブラリから切り離される寸前―に見た
“夢”の正体は、恐らく現時点でシェルクが整理し終えた、あるいは整理中の情報だろう。

74:ラストダンジョン(460)  ◆Lv.1/MrrYw
12/04/23 22:41:26.74 T59e5POW0
 人が見る夢は、当人の願望や深層意識とは別に、これまでに取得した情報の取捨選択と
いう側面もあるのだと言う。
 そう考えれば、自身の身体機能はひとつも損なわれていない。それなりの無茶をした割には、
ほぼ無傷で帰還できたのは奇跡に近い。その原因をシェルクは推測する。
「……助かったのではなく、『助けられた』?」
 相手がその気になれば―たとえばかつての自分の様に―この身を壊す事もできた
はず。しかしそうしなかった。そうする必要は無かったという事だろう。
(とは言え……これでは満足に動く事もできませんね……)
 通信状態を示す表示を目で追い、幸いにも通信には影響が出ていない事を知る。そこまで
確認し終えると、ひとまず自分ができる事はやれたのだろうと目処を付けたシェルクはまぶた
を閉じ、目の前に広がった闇に身を委ねた。こうして彼女は、自身の肉体を支配する気怠さと、
抗いがたいほどの睡魔に屈した。
 しかしそんな闇を切り裂くように、ある記憶がフラッシュバックする。


 ―『死んでしまった人にとっては、それが“全部”なんやて……!』


 休息を求める肉体とは裏腹に、シェルクの精神は高揚する。
(あれは、誰の感情?)
 操作主だったリーブ=トゥエスティのものと考えるのが妥当だろうが、もしかするとケット・シー
の物なのかも知れない。
 ケット・シーの中で記憶を保管しているライブラリには、それぞれの体験に基づいた記憶と
感情が関連づけされた状態で格納されていたが、どれもすべて共有されている様子だった。
つまりケット・シーの中にあるからといって、それが彼の体験に基づく記憶と断定する事は
できない。
(ケット・シーではない誰か……?)
 思う様に頭が働かない。一つ一つの現象は関連性のあるもののはずなのに、それらを結び
つける共通点を探す事ができない。
(だけど、あの時)
 シェルクが記憶の渦に飲み込まれる直前。
(確かに聞こえた)

 ―「ここから先、彼女に動かれると少々都合が悪いので」

 あれはリーブ=トゥエスティの声。いいえ意識。
 だとしたら。
(私には……まだできる事がある?)
 いや違う。もっと決定的な事。
(私にしか、できない事……?)
 ならば、こんなところでのんびりしている場合では無い。
 どうにかして、動かなければ。

75:ラストダンジョン(461)  ◆Lv.1/MrrYw
12/04/23 22:45:22.65 T59e5POW0
 一刻も早く、この状況を打開する為の最良の方策を考えて、実行しなければ。
(……どうやって?)
 行き詰まるシェルクに回答をもたらしたのは、彼女の埋め込まれた“断片”だった。


「……“私”を使って。たぶん一時的でしかないけど、今ならきっと、あなたの助けになれる」




----------
・断片化ファイルの有効活用。
 …ルクレツィア(→シェルク)や宝条(→ヴァイス)がやった様に、感情と関連づけした
 知識(記録、記憶)断片化ファイルという発想は、インスパイア能力の解釈としては有効なんじゃないか。
 そんな夢を見た結果こうなった。この後、拙作の中で関連性をきちんと示せればいいな。
・作者のルクレツィア観が少しズレている可能性があります。あらかじめお詫びしときます。

76:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/04/24 12:23:16.19 PUpLsssY0
GJ!

77:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/04/26 21:43:23.55 oY12vOai0
GJ!

78:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/05/06 22:58:55.62 ylNkbFvK0


79:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/05/11 22:31:31.60 2rlOwOEk0
ほっしゅ

80:ラストダンジョン(462)  ◆Lv.1/MrrYw
12/05/12 23:46:07.09 PJhrimsT0
前話:>>72-75
※Part7 357-361(まとめ10-1)から繋がる話。
※DCFF7を基にしたルクレツィアさんと断片化技術が、作者に都合良くねつ造されています。
----------


 声の主は元神羅の科学者ルクレツィア=クレシェント。ジェノバプロジェクトの研究チームの
中心人物の一人であり、セフィロスを産んだ女性でした。同時に、かつて私の中に取り込んだ
断片データであり、直接の面識が無い私達が知り合ったきっかけでもあります。彼女の声を
聞くのは実に約3年ぶりの事でした。
 私が彼女(の断片データ)と巡り会う事になったのはディープグラウンド時代。
当時エンシェントマテリアを求める私達は、神羅の残した膨大な量の研究記録を調べ、辿り
着いた彼女の記憶データを利用しようと試みた為です。
 一方では彼女も、断片データを取り込んだ私を失われた肉体の代わりとして利用しようと
しました。
 目的はどうであれ互いの利害は一致していました。そこで私は、私の中に異なる人物の
記憶と感情データを保有する事に同意―もっとも、当時の私に拒否権などありませんが
―しました。時折、彼女の断片がこちらの記憶や感情に干渉してくる事を除けば、身体的・
精神的な負担は殆ど無く、今なお私の中に断片が存在し続けていた事も、声を聞くまで忘れ
ていた程です。
 取り込んだ断片からの干渉にはいくつかの条件がありました。その1つは、ルクレツィア=クレシェント
にとって強い後悔や願望といった“心残り”であり、その多くはヴィンセント=ヴァレンタインに
まつわる出来事が引き金になっていました。科学者としての過ち。女性としての葛藤。
母親としての後悔。それら全てに、何らかの形で関わっていたのがヴィンセント=ヴァレンタインでした。
 オメガ戦役が決着した時、ヴィンセント=ヴァレンタインの身に宿されたカオスもエンシェント
マテリアと共に星に還り、ルクレツィア=クレシェントの心残りも晴れたものと推測できました。
 現にその日以来、今日ここに至るまで断片データが私に干渉してくる事は無かったのです。
 それが、一体どうして?
「オーバーフローした情報を一時的に私が預かるわ、時間稼ぎにしかならないでしょうけど、
その間あなたは行動ができる。どうかしら?」
 ひとまず有用性についての問題はさておき、提案そのものはありがたいものでした。ただ、
どうしても疑問が残るのです。
「……そうね。あなたにとって私は放漫に見えるのかも知れない。確かに褒められた生き方は
しなかったと思う。でもね」
 断片データは私の心中にそのまま反応し、彼女はこう続けました。
「白衣を着たあの人」
 どうやら私の姉の事を指しているようです。
 けれどルクレツィア=クレシェントと姉とは何の接点も無い筈。なのになぜ? 私の中の疑問
は増える一方でした。
「あのね、……お節介かも知れないんだけど」少しだけ言い淀みながらも、彼女は先を続けます。

「あの人にね、『後悔しないためにも、白衣を脱いで』って、伝えて欲しいんだ」

(え?)
 言葉が示す真意を考えるよりも、どうしてこんなに回りくどい言い方をするのだろう? と言う
疑問が先にありました。
「……これじゃあ意味が分からないよね。私が分かる範囲だけど説明、するね」

81:ラストダンジョン(463)  ◆Lv.1/MrrYw
12/05/12 23:49:28.99 PJhrimsT0
 私の中にあるルクレツィア=クレシェントの断片データが語り始めます。



 もともと“私”―あなたが言うところの“断片データ”―は、あなたが考えている通り、
私自身の心残りを無くすためだけに存在しているの。
 それは、私の研究が招いた災厄。
 それは、私の弱さが招いた不幸。
 それは、私の未熟さが招いた過ち。
 それらを償うために、あなたを利用した。……ごめんなさい。
(謝る必要はありません。こちらもあなたを利用しましたから、お互い様です)
 ありがとう。
(……いえ)
 話を戻すわね。
 “私”自身が利用した断片化技術。実はそれを研究していた者がいるの。その人物が残した
レポートが、以前あなたが見た『星還』というデータ。
(W.R.O.の廃棄データ群の中で偶然見つけた、データの残滓……)
 そう。
 『星還論』そのものは情報分野、ましてネットワーク技術とは異なるものの様だけど、私や
宝条が利用したのはこの概念。断片化した記録と記憶をネットワークにばら撒いて、それを
第三者に拾ってもらう。あわよくばその第三者の感情を依り代として、思惑通りの行動を取ら
せること。この辺は、ジェノバ細胞の性質からヒントを得ている部分もあるわ。
(つまりあなたにとって私は宿主だと?)
 そういう事ね。理解が早くて助かるわ。
(……対象の記憶データを上書きし、感情を発露させるというのは、ディープグラウンド時代に
SNDでやって来た事ですから。共生関係を築けない分、こちらはただの侵略者ですが)
 私も専門の研究者ではないから推測でしか無いけれど。あなたのSNDも、根底にはこの
『星還論』があるんじゃないかしら?
(どういう事ですか?)
 あなたが得てきたデータと、私が知っている事を合わせて考えると……あくまでも推測の
域を出ないけれど、神羅は古代種そのものを自分達の手で作り出そうとしていたんじゃない
かしら? 私が研究者として在籍していた当時から、既に古代種は絶滅が確定的だった。
だから神羅は、古代種の能力を人為的に作り出す事を考えていた。
 知識の奔流であるライフストリームをネットワークに。星の声を聞く能力を持つ古代種を、
SNDの技術として。
(……古代種……)
 ―「私は、古代種。最後に残った一人。だから神羅に追われていたの」

 …………。
 そう。あの娘の言う通り。

 ―「星の命、知の奔流、ライフストリーム。神羅は、それを人工的に作り出した。
    “ここ”には、たくさんの言葉や、思いがある。そうでしょう?」

 この記憶は、あのぬいぐるみを経由して得た物? それともあなたが触れてきた情報から
組み上げた仮想? いずれにしても、あなたはこの古代種の生き残りの事を知らないはず。
私自身も、彼女と直接顔を合わせた事は無いけど、彼女の父親のことなら知っているから……。
 ……。
 そうね、干渉能力と言う点でも双方に類似点があると言う事かしら?
(もしかすると……)
 確証は無い。でも、私も同じ考えよ。
(それでは?)
 もし仮に、SNDが古代種の特殊能力を人為的に再現すための過程であったのだとしたら。
『星還論』こそがその最終形を示唆したものだったのではないかしら?
(そんな物がW.R.O.のデータ内に残滓として存在していたのは、それが“不都合な物”だった
から?)

82:ラストダンジョン(464)  ◆Lv.1/MrrYw
12/05/12 23:54:07.33 PJhrimsT0
 私にはそれがどう影響するのかは分からない。ただ少なくとも、あれだけ細かな断片に
なっていると言う事は、あなたの考えている通り、再統合を見越しての断片化ではなく、破砕
処理した残滓であると見て間違いないと思う。
(その不都合とは、リーブ=トゥエスティにとって?)
 今し方あなたが受けた仕打ちを見れば、明らかね。
 だからこそ、私が役に立てる筈。あの人にとって、“私”の存在は完全に想定外だったはず
だから。
(でも、あなたは?)
 私はもともと“断片”、放っておいてもあなたの中の記憶領域を無駄に占有しているだけの
存在。あなたへの負担を極力減らしているとは言え、本来あなたの中には存在しないはずの
物。だから、あなたの為にできる事をしたい。さすがに「恩返し」、と言ったら恩着せがましい
かしら?
(いいえ……)
 ふふ、ありがとう。
 でもね、本当はやっぱり私の我が儘なの。私と、同じ様な間違いをして欲しくないって、どこ
かでそう思ってる。
(私が?)
 違うわ。あの、白衣の人。
(……姉さん?)
 あの人が同じって言う訳じゃ無いけど、少なからず科学者っていう生き物は、いろんな現象に
理由をつけたがるもの、なのかな。
 理屈を並べて、思いや行動を正当化して自分を守ったりして。そうしているうちに、いつの間にか
自分の本心に向き合えなくなって、中途半端に距離を置いて、結局そこから逃げ出して、最後は
行き場を失って……。それが、私だった。
(…………)
 私ね、失敗ばかりだった。だからこそ確信してる。
 あのね。あの白衣の人、……あなたのお姉さん。

 きっと、恋をしている。




----------
・ようやくスレタイに則した内容になって…無いようだ。
・DCFF7のオンライン→シングルプレイの流れで解釈すると、
 HJウィルスに感染してたヴァイスではルクレツィアデータを集める事ができなかった。
 →シェルクの出番。って展開で良いのかな?
・色々言いたいことを詰め込んだけど、要するに「大人って面倒くさい」。
 ルクレツィアに対するシェルクの見解は、それを元にしています(言い訳は長くなるので後日まとめページの雑記にでも)。
・ルクレツィアに最後のセリフを言わせたかっただけ、と言うのもある(身もふたも無い)。

83:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/05/13 14:35:22.49 oa4KU5Xy0
GJ !!

84:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/05/22 06:44:59.54 cThVSiRU0
GJ!

85:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/05/30 22:08:38.34 b+WYEERU0
ホシュッとな

86:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/01 21:40:07.23 SKJheShC0
ホー…

87:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/09 20:05:53.18 uQ9HRWFW0
…ックシュ!

88:Fragment of Memorize  ◆Lv.1/MrrYw
12/06/10 00:59:12.40 3IyZNHxk0
[Vincent Valentine 1]

※DCFF7『10年ぶりの再会』をヴィンセント視点で。
※関連はPart9 353-355(まとめ29-1)辺り。
※過去(タークス時代)話は作者の想像というかねつ造です。間違ってたらすみません。
----------


 総務部調査課、通称『タークス』。名称こそ社内の庶務を担当する総務部に区分されて
いるが、やっていることを有り体に言えば、表沙汰にできない種々の案件を一手に引き受け、
すべてを秘密裏のうちに処理する影の部署である。
 そんな性質上、一般の社員には正確な全容を知られておらず、また名前を知っている者
でさえ、自社の関わりが疑われる不穏な出来事があると、半ばスケープゴートの様にして
持ち出す程度の存在だった。
 一方で腕に覚えのある者達の中では、少数精鋭主義のタークスは羨望の対象として
語られる事もあったそうだ。採用条件や運用実態も分からぬまま、彼らの描くタークスは
夢の精鋭部隊という側面がひときわ誇張されていた。
 そんな世間の動向や事情には無頓着だった若かりし日の私は、期せずしてタークスに
登用された。当時の採用担当者に何を見込まれたのかは今もって不明である。
 しかし残念ながらタークスに籍を置いてからの期間はそれほど長いとは言えない。研究員
護衛任務の為に訪れた施設で、護衛対象に射殺されたところで私の経歴には終止符が
打たれ、記録からは抹消された。社内、とりわけ部外で私を知る者がいたならば、この失踪を
不審に思ったかも知れない。仮に社が死亡通知を出そうにも宛所はなく、社外に知れる
心配はまず無かった。加えて当時のタークスはそもそも公にされていない部署であり、
私の失踪に気が付く者はいなかったし、いたとしても真相まで辿り着ける可能性は皆無だった。
なぜなら護衛対象が従事していたのは社の重要機密とされていた研究で、プロジェクトの
存在自体を知らない社員も多く、部外への情報開示はかなり厳しく制限されていたからだ。
 記録上は死亡扱いとされたものの、場所と状態を問わなければ、私は生きていた。死線を
さまよった末、本来であれば死者が安らかな眠りにつく場所で悪夢と後悔に魘されながら、
それこそ生ける屍も同然にそこに存えていた。
 タークスとして受けた訓練と、不本意ながら身に宿された野獣の遺伝子、勝敗を問わず積み
重ねてきた戦いの経験。そんなもののお陰で、再び目覚めた私の能力は常人のそれ以上に
発達していた。

 考えるよりも先に脅威を知覚し、危害を加えられる前に照準を定めこれを排除する―それ
が、多くの代償と共に私が半生を費やして得た能力だった。
 こうして世捨て人となった私は成り行きで星を救う旅の一員となり、いつしか英雄と呼ぶ者
まで現れた。
 あるいはケルベロスを従え、死の淵から陽の下へと舞い戻った私の姿を指した皮肉である
のかも知れないが。

89:Fragment of Memorize  ◆Lv.1/MrrYw
12/06/10 01:03:04.72 3IyZNHxk0
[Vincent Valentine 2]

                    ***

 そんな私に言わせれば、いかなる状況においても対象への殺意や敵意は表に出すべきでは
ない。それができない様なら確実にこの種の仕事には向いていないし、それを理解できないなら
すぐに命を落とすことになるだろう。殺意などは特に、我々のような者からすれば声と同様の
意味合いを持っている。要するにむき出しの殺意は、大声を張り上げて自身の所在を知らせて
歩くのと同じなのだ。
 逆に敵意や殺意を露わにすることで、それを威圧として用い相手の動きを鈍らせる事もできるが、
その為にはいくつかの条件を満たす必要がある。野生動物が好例だが、威嚇のためには自身を
大きく見せたり、武器となる牙や爪をむき出しにしたりする。つまり個体としての優位性を示し、
対象の戦意を喪失させるのだ。

 だから私がW.R.O.本部で初めてシェルクを見た時、とてもちぐはぐな印象を受けた。小柄な
身の丈と手持ちの武器、そして彼女の特性を踏まえて考えればどう見ても斥候だ。実際に
視覚を欺く手段まで備えていたのだから、殺意を露わにするなど以ての外だ。リーブから事前に
知らされていなければ、彼女をシャルアの元へ誘導する事は困難だっただろう。
「お二人には少々事情がありまして。多少の荒事があっても手出しは無用に願います」
 あとは推して知るべしとばかりに手短な説明だったが、彼女たちのやりとりを見れば状況把握
は容易だった。姉妹にとって不可抗力とは言え、和解は本人達の手によってのみ成し得るもの
だというリーブの意図するところも理解できる。
 理解はできるが、それが可能かどうかと問われれば首を傾げたくなるし、なによりも今の私は
護衛という立場でW.R.O.に関わっている。あれほどの殺意を向けられて、ただ黙っている訳には
いかない。
 しかしこの組織の長であるリーブはその自覚が足りないのか、あるいはお人好しが過ぎるのか、
私からすればほぼ丸腰も同然でシェルクの前に進み出て説得を試みる。しかしどう見ても話の
通じる状況ではない。敵対陣営に属し武装までした相手に対してリーブの取った行動は、無策
無謀としか言いようが無い。
 ここらが限界だと見切りをつけて、私は銃口をシェルクに向けた。ところが先に引き金を引いた
のはリーブだった。
「いけません!」
 私を制止する声と共に護身用に携帯していた拳銃を取り出したかと思うと、それを迷わず天井に
向けた。発射された弾丸は消火用の散水装置に命中し、たちまち辺りは水浸しになった。リーブの
意図に考えを巡らせる前に、目前でうずくまったまま動かないシャルアを庇おうと反射的に体が
前に出る。霞がかった視界の向こうに振り上げられたランスが見えた。一刻の猶予も無い状態
だったのは明らかだったが、それでもホルスターに拳銃をしまうことを優先したのは、誤射を恐れて
無意識に取った行動だった。
 しかしその一瞬の差は歴然たる結果として現れた。振り下ろされたランスからシャルアを引き
離すどころか、庇うこともままならなかった。最早これまでかと諦めかけたところで、ようやく
リーブの狙いを知った。
 シャルアの頭上で短く鈍い音と共に火花を散らし、ランスは折れたようにして輝きを失った。
 見事な武装解除だった。

90:Fragment of Memorize  ◆Lv.1/MrrYw
12/06/10 01:06:02.95 3IyZNHxk0
[Vincent Valentine 3]

 後になってリーブに聞けば、シェルクの所有する武器が水気に弱いと把握しての行動だった
らしい。まったく、護衛の立場からしたらやりづらい事この上ないが、私には得がたい能力の
持ち主であるのは疑いようが無い。
 同時に、こういった男こそW.R.O.に、ひいては今の世界に必要な人材なのだろうと納得させ
られる。
 少ない語彙でそれを告げれば、リーブは笑みを浮かべたまま礼を言うだけで取り合おうとは
しない。ようやく口を開いたかと思えば。
「ご存知の通り私は戦うのが苦手ですし、誰かに拳銃を向けるだけの意気地もありません。
事実、最終的にはあなたの力が無ければ事態の打開は不可能でしたしね」
 などと自嘲気味に述べるにとどまった。しかし護身用の小型拳銃とはいえ、片手持ちで構え
た状態から、あの一瞬に天井の小さな的を正確に撃ちぬくなど、偶然では到底あり得ない。

 そう、あれは“偶然”ではなく歴とした意思の表れだったのだ。

 問題は自覚の有無。
 しかしそれこそ本人によって成し得るもので、私が口を差し挟む問題ではない。どちらにして
も偉そうに言える義理では無いが、それでも僅かだが、私の立場で助言できることもある。
「……リーブ、差し出がましいようだがこれだけは伝えておこう」
 これまでに数え切れない程そうしたように、私は右手に愛銃を構え、その銃口を天頂に向ける。
「発射した弾丸には射手のすべてが反映されるものだ」
 躊躇は引き金を錆び付かせ、雑念は照準器を曇らせる。射手に一分でも迷いがあれば弾道は
歪み標的には到達しない。言うほど簡単では無いし、理解と実践は別物だ。
「そしてお前が拳銃を手にする少ない機会のどれも、弾道に迷いは無い。……つまり、あの時の
お前にも迷いは無かったという訳だ」
「今日は珍しく多弁ですね」
 リーブが笑う。その笑みの裏にある真意を垣間見ることはできない。
「急にどうされましたか?」
 黙っている私が逆に問われる。改めて問われると、いったい私は何をリーブに伝えようとして
いたのだろうかと、返答に窮した。
「……そうですね」そんな姿を見かねたのか、リーブが口を開く「弓矢の時代から見れば
ずいぶん補助を受けていますが、あなたの仰る通りなのかも知れません。ただ、そういった
類の話なら私よりもユフィさんの方が……」
「お前と武器についての議論をしに来たのでは無い」
「はぁ……」
 切り出した話の落とし所が見えなくなって途方に暮れた私に、助け船を出したはずのリーブは
話の腰を折られてため息を漏らす。その姿を見て、我ながら何という仕打ちだろうと思い直した
のと、リーブが再び口を開いたのはほぼ同時だった。
「あなたが雑談しに来てくれたのだと思えば、これも貴重な機会ですね」
 今度はあからさまに悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

91:Fragment of Memorize  ◆Lv.1/MrrYw
12/06/10 01:12:12.61 3IyZNHxk0
[Vincent Valentine 4]

 会話のペースを握るのが上手いと言うよりも、相手や状況の先を見通しているという事か。

                    ***

 今にして思えばあの日、リーブがどこを見通していたのかを私が知る由も無く。
 さらに言えば、あの日伝えようとしていたことを私自身がはっきり理解したのは、この建物へ
足を踏み入れて、ここまで降りてきてからの事だった。


 今はただ、私の持つ銃が仲間を傷つける為の兵器としてではなく、彼を救うための道具と
なることを願っている。



                    ―Fragment of Memorize[Vincent Valentine ]<終>―

----------
・前置きが長いですがDCFF7のルーイ姉妹再会時(スプリンクラー)の話。
 個人的にあのイベントはかなり印象的だったので、ちゃんと書いてみたかった。
 (以前、同イベントを元にリーブの過去話をでっち上げたので、今回はゲームに忠実な
 描写を目指…そうとした結果この有様)
 さらにヴィンセントの過去をねつ造している感が否めないです(すみません)。
・コリオリの力とかじゃなく、引き金を引く意志の強さという表現はファンタジーならでは、と言う
 事でひとつ。(そもそも作者にはそんな知識がry)

92:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/11 18:53:52.59 vsAARdLk0
GJ!

93:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/11 21:58:26.81 QEYNc++z0
GJ!

94:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/15 20:31:46.32 ir0dpzNK0
GJ

95:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/06/22 23:38:57.11 TYRwN0Se0
gj


96:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/07/03 14:51:45.79 dbbT/rJ70
 ho ho ho ho ho

97:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/07/11 16:37:10.42 Ja0N8xs20


98:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/07/27 19:56:45.20 1wWrpy2v0


99:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/05 18:48:10.44 R7UBGqSc0


100:100GET
12/08/08 00:11:28.46 Dc2rtAFW0
【放送者】く牛ううう
【キャラ名】うし
【 ID 】
【現在の職業】戦士
【罪状】無断配信 地雷
【twitter】URLリンク(twitter.com)
【その他】URLリンク(www.nicovideo.jp)
 URLリンク(com.nicovideo.jp)
現在配信中
URLリンク(live.nicovideo.jp)


101:氷棺 - Cold Case 1 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/11 01:11:21.49 rJv/eN+50
※舞台はFF7AC~DCの間ぐらい。(DCの「エッジに流れる奇妙な噂」の出始め辺り)
※FF7の“タイトルロゴマーク”を見て膨らんだ妄想話。
  たぶん3~4回の投稿で終わる短編です。
----------



 ある日デンゼル達が持ち帰った一枚の古びた写真が、街の子ども達の間でちょっとした
話題になっていた。たいていの子はその写真に興味を示し、写る物の美しさに見とれた。
中には目を見張るような鮮明さに、これが写真ではなく絵なのではないかと疑う者や、記憶
に焼き付いた禍々しいメテオを想起した者もいたが、他のどれよりも目映く白い光を放つ
その姿は、メテオとはあまりにもかけ離れていた。
 結局、子ども達がその正体に行き着くことは無く、写真はデンゼルが保管し自宅に持ち
帰ることになった。


 夕食が終わり、ティファとマリンが片付けに席を立ったのを見計らって、デンゼルは件の
写真を取り出す。
「なぁ、クラウド」
 心なしか声を潜めて言いながら、隣に座っていたクラウドに写真を差し出す。
「これって流れ星?」
 写真に映っていたのは、星空を斜めに横切るひときわ明るい星の姿だった。写真の左下
に輝く星から延びる尾の姿が、巨大な流れ星を連想させた。
「これは流れ星じゃなくて……すい星、だな」
「すい星?」デンゼルは耳慣れない言葉を呟きながら、説明を求めるようにクラウドを見上げる。
 少年の、興味と好奇心に満ちた視線を受けて内心クラウドは僅かに後悔した。心当たりを
口にしたまでは良いが、デンゼルの期待に応えられるほど知識の持ち合わせが無いのだ。
 だからといって、痛いほどに感じるデンゼルの期待を裏切るというのもクラウドの望むところ
では無い。正直なところを言うと、ここは年長者として格好良いところを見せたいと思っていた。
「……こう言う話は俺よりもシドの方が詳しいと思うけど……」
 ところが、口を開いて最初に出たのはなんとも弱気な言葉だった。我ながら情けないと思い
つつも、知りうる限りの情報をデンゼルに伝えようと記憶をかき集める。
「流れ星とすい星は別の物なんだ。流れ星を見たことは?」
「……テレビでなら」
 デンゼルの記憶にあるミッドガルの空に、星は1つも無かった。そもそも夜空や、街灯の
並んだ夜道も暗くなかったからだ。夜が暗く恐ろしい物だと知ったのは、ミッドガルを出て
からだった。
「デンゼルが見たのは、この写真みたいなものだった?」
 聞かれたデンゼルは首を横に振る「もっと……小さかった、かな? こんなに明るく
なかった」。
「流れ星っていうのは、宇宙からこの星に降ってくる小さな石のかけらなんだ。それが空で
燃え尽きる時に、流れ星に見える」子どもの頃に何かの本で読んだ、うろ覚えの記憶だった。
「メテオみたいなのが……?」
 尋ねるデンゼルの表情がやや強張っているように見えたので、努めて穏やかな口調で
クラウドがこう答える。
「確かに大きすぎるとああなるけど、メテオはもう無い。だから大丈夫」
 当時の大人達でさえ恐怖したあの光景は、子ども達にはより強い恐怖と、精神的な影響を
残したことだろう。「メテオ」という単語を口にすること自体を敬遠する風潮さえあるぐらいだ。

102:氷棺 - Cold Case 2 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/11 01:15:23.24 rJv/eN+50
「……メテオが、どうしたの?」
 背後からひょっこりと顔を出すマリンに、デンゼルは思わず素っ頓狂な声をあげ、椅子から
飛び上がった。
「デンゼル!?」
 そんなデンゼルを見て、逆にマリンが驚いて声を上げる。
「急に出てくるからビックリするよ」
 テーブルに手を突いて振り返ると、マリンの姿を認めたデンゼルが安心したように椅子に
座り直す。
「なによ、人をお化けみたいに……」
 むっと頬を膨らませながら愚痴るマリンの目が、不意に細くなる。彼女の視線を追えば、
テーブルの上に置かれた写真に辿り着く。その様子が示す意味をデンゼルが悟るまでに
時間はかからなかった。マリンがこういう表情をした時はたいてい、デンゼルが隠したがって
いる悪事を見透かした時なのだ。
「……。わあ、綺麗な流れ星!」
 しかし写真を見た途端にマリンの声と表情が晴れやかになって、デンゼルはホッと胸を
なで下ろす。どうやらマリンの興味は写真そのものに移ったらしい。写真の出所を追及され
たくないデンゼルにとって、この流れは願ったり叶ったりだ。
「それ、流れ星じゃ無いんだって」
「え? じゃあこれは何?」
「すい星」
「すい星?」
 マリンに向かってちょっと得意げに話すデンゼルの背中を見ながら、微笑ましくも他人事
とは思えない照れくささを覚えて、クラウドの口元が自然とほころぶ。

 子どもは可愛いと思う。
 目に映る風景、耳に届く音、風に運ばれてくる匂いや、肌に触れる物。
 自分の知らない事に純粋な興味を抱き、好奇心に任せてどんどん知識を求める 
 彼らの目に映る世界は、どれも輝いて見えるのだろう。
 そこは希望に満ち溢れた……。

『……そこは希望に満ち溢れた星。
 宇宙を漂う氷の棺。それを溶かす熱に浮かされた。
 漂着し解き放たれ、大地に溢れる希望に歓喜した』

「……クラウド?」
 自分を呼ぶ声で我に返ったクラウドの前には、デンゼルとマリンの心配げな顔が並んで
いた。
「大丈夫?」
 クラウドの顔を覗き込んでデンゼルが尋ねる。
「俺は何ともない。……何かあったのか?」
「何かって……。いまクラウド、ひとりでしゃべってたよ?」
 訝しむようにマリンが言う。
「俺が?」
 二人が同時に頷く。しかしクラウドには心当たりが無い。マリンの質問に、デンゼルが
答える様子を見ていた―そう、それだけだ。
「ちょうど明日、エッジに飛空艇の定期便が来るわね。その時シドに聞いてみたらどう?」
 そう提案したのは、いつの間にかデンゼルとマリンの後ろで写真を手にしたティファだった。
いつからいたんだ? クラウドは内心で考える。
「……ところで、デンゼル」手にした写真を裏返して、ティファの口調が明らかに鋭くなる「この
写真、どこから持って来たの?」。
 ティファの追及に、デンゼルの肩が明らかに揺れた。
(ああ、なるほど)
 一連の行動にようやく得心がいったクラウドに、ティファが釘を刺す。
「まさか手引きをしたのはクラウドじゃないでしょうね?」
 問いに対する否定だけを短く返し、クラウドは黙り込む。
「……いい? デンゼル」腰を折り、デンゼルに視線を合わせるとティファが珍しく強い口調で
続ける「ミッドガルは遊び場じゃ無いのよ。今は資材の調達も必要無いんだから、むやみに
立ち入らないの」。

103:氷棺 - Cold Case 3 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/11 01:25:13.46 rJv/eN+50
 デンゼルにとってミッドガルは生まれ故郷。そこへ行くなと言うのは酷だろうと思う反面、
メテオ大接近による損傷で廃墟と化したミッドガルの殆どは手つかずのまま放置されている
のが現状で、プレート支柱も含めて、どこもいつ倒壊するか分からない状態なのだとケット・
シーが言っていた。何よりも魔晄炉周辺は残留魔晄の影響や、モンスターが出没すると言う
からさらに危険で、それらの施設や地域はWROによって立ち入りが厳しく制限されている。
そんな背景があって、デンゼルを諭すティファの口調が強くなるのは仕方の無いことだった。
 それに加えて近頃、エッジ近郊の子ども達の間でまことしやかに囁かれている噂があった。
ただでさえ『立ち入り禁止』などと言われると入りたくなる子ども心に加え、ヘタに興味を煽る
ような噂話も、ティファにとっては心配の種の一つだった。
(何事も無ければ良いのだけれど)
 肩を竦めるデンゼルと、落ち込んだ彼を励ますように背中を叩くクラウド。二人に笑顔を
向けるマリン。そんな家族の笑顔を見ていると、とてもあたたかい気持ちになるし落ち着く。
その一方で時折、漠然とした不安に駆られる事がある。自分は心配性なのだと言う自覚が
ティファにはあるが、それだけではない“勘”の様な何かだった。
 ここへ至るまで各々が苦境や悲しみを乗り越えてきた。だからこそ、今ある平穏を大切に
したいと思うし、脆いものだと思ってしまうのだろうか。
(……私、ダメね。考え始めると悪いことばっかり思い浮かんじゃうんだから)
「さ、みんな明日に備えてそろそろ寝るわよ」
 ティファがとびきりの笑顔で三人に告げると、それぞれの寝台へ向かう彼らの背中を
見送った。
 手元に残った写真を捨てるわけにも行かず、ひとまず今日のところはしまっておこうと、
もう一度それを見た時にふと思い出す。

(そういえばこれって『ほうき星』よね)
 夜空に現れるひときわ美しい星。その輝きは人を魅了するだけでは無く、惑わすものと
され、不吉の前兆とも言われた。そんな曰くから『妖星』と呼ぶ地域もあるそうだ。
(もしかして、私もこの写真に感化されたのかしら?)
 そんなことを考えている自分が、少しだけおかしくなってティファは小さく笑った。同時に、
そうなら良いかとどこかで安堵している。
 答えの出ない問いを抱えていても仕方が無いと言い聞かせるようにして、ティファは写真を
棚にしまうと、灯りを消して部屋を出た。


----------
・忘れた頃にやって来る作者です。膝に矢を受けてしまって以来久しいので、リハビリがてらの妄想小話。
・だいたい1回10kbを目安に投稿しています。
・FF7のロゴマーク、あれ最初は彗星だと思ってたんですよ。インタ版のパッケージ絵と言い、彗星っぽいな、
 というところが出発点の話。需要とか考えてないですすみませんw

104:氷棺 - Cold Case 4 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:05:42.39 36lzo9IC0
 飛空艇が各地の主要都市を巡回し、定期的に物資を運搬する体制が整ったのは最近の
ことだった。ただし就航する飛空艇の数や燃料が限られているので、まだ月に2便程度では
あるが、それでもメテオ災害直後よりは格段に便利になったのは間違いない。
 エッジに定期便が到着するこの日、スケジュールの合間を縫ってシドはセブンスヘブンに
立ち寄る予定だった。前日にはしっかり予約も入れてある。旅路を共にした仲間と顔を合わ
せて、息抜きをするにはちょうど良い場所だからだ。
 メテオ災害からの復興と星痕症候群の蔓延により、各地を結ぶ空路が担う高速・大量輸送]
への需要と期待は以前よりも大きくなった。その反面、魔晄に代わるエネルギーとそれに
合わせた飛空艇開発は急務となり、発足した飛空艇師団をまとめる立場に就いたシドは、
自身でも経験したことのないほど多忙な日々を送っていた。
 特にエッジ周辺は、カダージュ一味の襲撃によって破壊された道路や建物の修復作業に
追われ、3ヶ月以上が経っても街のあちこちに生々しい爪痕が残されている。
 と言うのも、エッジは騒動が収束した直後から各地へ星痕症候群の特効薬となる“泉の水”
の供給拠点となった為、街の復興作業が後回しにされたという事情があった。
 メテオ災害後、世界中の人々が苦しみ続けた星痕症候群。その特効薬は皆が待ち望んで
いた。街中が混乱に包まれたあの日の暮れに、空からもたらされた福音に触れたエッジの
住民達は、当然のように街の復興作業よりも供給活動に力を注いだ。その甲斐もあって、
今や星痕症候群は世界から一掃されたのである。
 そして今は、各地からエッジに資材や人が集まり復興作業が急ピッチで進められている。
飛空艇が到着すると、歓迎と慌ただしさに包まれた飛行場を中心に、街はにわかに活気づく。
 シドがこの街に立ち寄れる機会は限られていて、月に1度あるかないかと言う程度である。
ならば、セブンスヘブンでティファの作る旨い飯と、ちびっ子達の成長ぶりと、クラウドの
仏頂面を拝まないと来た甲斐が無いと言う物だ。


 飛空艇を降りた後、シドがチェックリストに並んだ項目を手早く済ませてからセブンスヘブン
の扉を開けるまでに要した時間はおよそ2時間半。これでも早くなった方なのだが、約束の
時間からは30分程遅れて、セブンスヘブンの扉を開けた。
「空を飛ぶために枷を着けた様なモンだぜ、こりゃ」
 そう漏らすシドの顔には僅かに疲労の色も見て取れるが、語り口にはそれを上回る充実感
を滲ませていた。
 濡れたタオルと冷えた水の入ったグラスを差し出しながらティファが出迎える。
「いらっしゃい、シド。飛空艇師団長はもうすっかり板に付いたみたいね」
 グラスの水を一気に飲み干すと、ようやく一息吐いたシドが応じる。

105:氷棺 - Cold Case 5 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:10:46.45 H3bstULA0
「おうよ、なんつってもオレ様は一流のパイロットだからな。……でもよ、あっちこっちに顔
出すってのがちぃと面倒でよ」チェックリストの大半は、機体や操縦関連のものではない
のだと苦笑する。
「お疲れ様です、飛空艇師団長殿」
 やや冗談めいた口ぶりでティファが言うと、シドは豪快な笑声で答えた。
「……あーそうだった。頼まれた荷物もちゃんと渡しとかないとな」そう言って、小脇に抱えて
いた箱をカウンターに載せた。
「あら、シドが配達なんて珍しいわね」
 言いながら、テープで一箇所だけ封がされているだけの箱を見下ろす。どうやら内容物は
生鮮品や割れ物ではない様子だ。宛先などは書かれていない事から察するに、差出人は
この荷物を直接シドに渡したのだろうから、仲間内の誰かが送り主だと言う事までは想像
できたが、それ以上はさっぱり見当が付かない。
「ま、中身は期待しないでくれよ? どーせロクなモン入ってねぇんだ」
「いったい誰から……」そう言ってテープを剥がし、フタを開いたティファは言葉を失った。
「な? ロクなモンじゃなかったろ?」
 開いたフタから中を覗けば、見慣れたぬいぐるみの姿があった。
『……運んでもろて言うのもなんやけど、も~ちょい値打ちモンや言うてくれてもエエねんで? 
このボディかて安物ちゃうしな』
 ぬいぐるみは、箱から溢れんばかりの愛嬌を振りまくケット・シーである。箱の中で横たわった
まま、ティファに向けて手を振っている。
「いらっしゃい、ケット・シー」予期せぬ仲間の来訪に喜びが半分と、疑問が半分。そんな微妙な
面持ちのままティファが尋ねた「今日は一体どうしたの?」。
 いつも何かしらの上に乗っかっていたけれど、その理由は単独で動けないからではなく
移動効率を重視してのものだった。それに、シドに運んでもらうにしても、わざわざ箱に入る
必要は無かったと思う。
『実はまだ隊内部でも公表してない事案があるんですわ。……ボクはその内偵調査で来ま
した。せやからここにおる事が公にバレると面倒なんで、シドはんに頼んで小細工したっ
ちゅーワケですわ』
「こりゃ小細工ってより茶番だぜ?」
 箱の中で半身を起こしたケット・シーがシドの方を向く。
『まぁ、どのみち後でバレる事やし。けどな、いたずらに未確認情報を公開してみんなを
混乱さしたり、不安を煽るんは得策やない』
 そう言ってから、ケット・シーがティファに向き直る。
『ティファはんらに迷惑はお掛けしませんから、ちょっとだけ協力してもらえんやろか?』
 まるでティファを拝むように、顔の前で両手を合わせたケット・シーが申し出る。言うまでも
無くティファは笑顔で快諾した。
「ケット・シーの依頼を断る理由は無いわ。私にできる事なら喜んで!」
 むしろエッジ再建の手助けをしてくれているWROには、返しきれない程の借りがある。貸し
借りという仲では無いし、何よりケット・シーの向こうには思慮深く信頼の置ける人物がいた。
彼がそう言うからには、きっと事情があるのだろう。
「それで、その依頼っていうのは何かしら?」
『少しの間だけ、ここにボクを“置いて”もらえんやろか? タダで言うのもなんやから、お店の
お手伝いもしまっせ。なんなら招き猫代わりでも……』

106:氷棺 - Cold Case 6 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:19:54.12 H3bstULA0
 ティファは顔の前で手を振ると、笑顔のままで応じる。
「いいの、いいの」言いながら、確かにケット・シーみたいな招き猫ならお客さんも寄って来る
だろうなと、特にこの装い―箱からひょっこりと顔を出している姿―は、見慣れている
はずのケット・シーなのに何故だかいつも以上の可愛らしさを感じているのも事実で。思わず
じっと見つめてしまう「ここにいてくれるのは構わないけど」。
 とはいえ、中身は元神羅の幹部で現在はWROの局長である事に変わりは無い。
「それで、私はなにをすれば?」
 俄然やる気になったティファが身を乗り出して問いかける。
『……あ、いや。ボクをここに置いてくれれば……』
 せっかく寄せられている期待を裏切った罪悪感に苛まれながら、ケット・シーが俯きがちに
言う。「協力」というのはティファに頼みたいことと言うより、ここにいる承諾を取り付けると
いう意味合いだった。
「ううん、私もケット・シーがいてくれたら嬉しいわ。それこそお客さんも増えるかも知れないし! 
……だけど、どうして? WROも忙しいんじゃない?」
『実は……その事も少し関係してるんですが……』
 ケット・シーが話を始めたところで、厨房の奥にあった電話が鳴った。
『あ、エエですよ。こっちはボクらでテキトーにやってますんで』
「そうだ、オレ様達の事は気にすんな。お客を待たせちゃなんねぇからな」だけどお前が
給仕ってのは風情がねぇなと、やや不満げな視線を猫に向けながらシドは電話の方へと
手を振ってティファを促した。



 受話器を取り上げたティファと入れ替わりに、厨房の奥から顔を出したのはデンゼル
だった。
「おーう小坊主、元気にしてたか?」
 話を切り出す機会を見計らっているような、やや控えめなデンゼルの姿を見つけるなり、
シドは大きく手招きして少年を呼び寄せた。
「……あの、すみません。俺、『小坊主』じゃなくてデンゼルって名前があるんですけど……」
「細けぇ事は気にすんな! 今のうちからそんなんだと、大人になってハゲちまうぞ?」
 それは小坊主とハゲをかけているのだろうか? などと考えながら、デンゼルは件の
写真を差し出した「教えてもらいたい事があるんです」。
 カウンターの上に置かれた写真を目にするやいなや、シドが目の色を変える。

107:氷棺 - Cold Case 7 ◆Lv.1/MrrYw
12/08/18 00:22:51.30 H3bstULA0
「おう、こいつは彗星の観測写真じゃねぇか。にしても良く撮れてるなー」
 言いながらも内心で、これほどの精度で観測・撮影できる機材がエッジにはあるのだろう
か? とシドが考えを巡らせる。この星で一番宇宙に近い場所と言えばロケット村か、学術
の総本山コスモキャニオンぐらいのものだ。
「その『すい星』について、教えて下さい」
 デンゼルの言葉に気をよくしたシドは、自身の胸を叩きながら満面の笑みを浮かべて
言った。
「小坊主のくせに宇宙に思いを馳せるたぁ、お前さんよく分かってるじゃねーか! おうよ、
どんな質問にでも答えてやるから遠慮なく聞け!」
 シドの隣のカウンター席に並んで座ると、早速デンゼルは質問した。
「彗星と流れ星は、どう違うんですか?」



----------
・おしぼりに対するおやじ達の反応予想(主観)。
 出されたおしぼりで顔を拭いても、何故か絵になるのがシド。
 拭いてても違和感ないのがバレット。拭いたらケット・シーがツッコミ入れてくれるリーブ。
>>104後半部分を書いているときの葛藤です。そもそもおしぼり文化あるの?って話ですがw)

108:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/18 09:57:25.28 YXm3YRWU0
GJ
続き楽しみ

109:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/20 23:34:07.81 /9yFJuCg0
GJ

110:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/08/28 07:20:26.69 0IqSaV9E0
保守

111:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/02 16:08:14.41 9HjDZDx10


112:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/05 22:15:52.72 fZMB638L0
うぉ、生きてたんかこのスレ
正直びっくりした
エロパロの方落ちちゃってるだろ
エロ展開になったらどうしてんだ?

113:氷棺 - Cold Case 8 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:42:43.38 3mSfi5vI0
前話:>>101-107
----------


 ティファが電話を終えてカウンターに戻ってくる頃には、シドとデンゼルが熱心な勉強会を
始めていたものだから、すっかり話を切り出す機会を逃してしまった。ひとまずは、準備して
あった料理を皿に盛りつけながら、彼らの話に耳を傾けていた。
(……ふふ、ふたりともすごく楽しそう)
 宇宙にかけるシドの情熱は、以前とちっとも変わらない。だけど、デンゼルがここまで熱心
になるのは少し意外だった。あの写真はてっきり、内緒でミッドガルに出かけて来た事を
ごまかすための口実にしただけだと思っていた。
 デンゼルがここへ来た当初、ティファは彼に対して大人しく物知りという印象を持った。
出会った当時の状況が状況だけにそれが彼本来の性格だとは思わなかったが、このぐらい
の年齢にしては、デンゼルは色々な事を知っていた。少なくとも自分がデンゼルぐらいの
年の頃には、これほど世界を知らなかったとティファは自身を振り返って思う。
 やがてここでの生活にも慣れ、デンゼルは日常的に笑顔を見せてくれる様になる頃には、
芯が強く思い遣りのある優しい子という印象に変わっていた。
 恐らくそれは彼がミッドガル育ちというだけではなく、ご両親の教育方針もあったのだろうと、
見たことの無いデンゼルの家族に思いを巡らせようとした。
(家族、……)
 しかしすぐさま、彼の家族は七番街のプレート崩落に巻き込まれたと聞いた事を思い出し、
ティファはやり場の無い罪悪感に苛まれた。その原因を作ったのは間違いなく自分達の
浅はかな行動だった。
 デンゼルには打ち明けていない、自分達の過去。
(デンゼルが大人になったら。……そう、自分で道を選べるようになったら、本当のことを
……伝えよう)
 それまでは、亡くなったご両親の代わりに彼を護るのだと。ティファはそう心に決めていた。

                    ***

 デンゼルのような孤児―メテオや、星痕症候群で親を失った子ども達―は、この街
では珍しくない。残念ながらエッジ以外の各地も状況に大差は無かった。あの日、たまたま
クラウドが五番街スラムの教会でデンゼルと出会って、そのまま成り行きで一緒に暮らす
ことになった。

 デンゼルとの出会いはただの偶然だった。

 一緒に暮らし始めてから暫く経った頃、どんなきっかけで話をしてくれたのかは覚えて
いないけれど、デンゼルが自分のことや亡くなった家族のことを少しだけ話してくれた。
自分のつらい過去を打ち明けてくれる事自体はとても嬉しかった。一緒に暮らす“家族”の
ことを、少しでも知ることが出来たから。
 けれど同時に、衝撃を受けた。
 アバランチという過去を持つ自分と、七番街で暮らしていたデンゼル。まさかこうして同じ
屋根の下で暮らすことになるなんて。

 デンゼルとの出会いは、単なる偶然ではないのかも知れない。

114:氷棺 - Cold Case 9 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:45:46.67 3mSfi5vI0
 もちろんアバランチの活動に参加したのは軽い気持ちでは無かったし、星の命を削って
まで魔晄に依存する状況をどうにかしたいと思っていたのも確かだった。とはいえ、
アバランチとしての活動がもたらしたものは、償いきれない罪であり、取り返しの付かない
過ちだった。
 そうと頭で分かっていても、目の前に立つあどけない少年の存在は、どんな言葉よりも
重くのし掛かった。あのとき壱番魔晄炉爆破なんてしなければ、プレート支柱だって落と
される事も無かった。

 ―『ミッドガルの壱番魔晄炉が爆発したとき、何人死んだと思ってますのや?
    アンタにとっては多少でも 死んだ人間にとっては、それが全部なんやて……』

 かつては自分も、父を殺したセフィロスを恨んだ。村を滅茶苦茶にした神羅を憎んだ。
 だからアバランチに入った。
 そして自分も誰かの親を殺し、ミッドガルを滅茶苦茶にした。憎み恨んだ相手と同じことを
繰り返しただけだった。
(死んだ人間にとってはそれが全部。でも、残された人間にとっては、その先につらい現実が
待っている。それも分かってた)
 神羅を憎んでた。でもデンゼルの親は関係ない。なのに彼らはアバランチへの報復行為に
よって命を落とした。
(分かってた……つもりでしかなかった)
 全てを知ったら、デンゼルはどう思うだろう? あの時の自分のように、やはりアバランチを
憎むだろうか。
 アバランチにいた自分を、恨むだろうか。
(当然……だよね)
 嘘を吐き続けるつもりはないし、まして騙しているわけでは無い。
 それにデンゼルと一緒に暮らしているのは罪滅ぼしの為ではない。
 けれど、罪滅ぼしという意識が全くないと言えば嘘になる。
 そんな自分と自分の過去に、後ろめたさを感じていた。

                    ***

『電話、大丈夫でっか?』
 戻ってきてからというもの、物憂いな表情のまま押し黙っているティファに声をかけたのは
ケット・シーだった。
「……え? ええ。さっきの電話はマリンからで、これからクラウドと一緒に帰るって。あなた
も来ているって話したら、すごく喜んでたわよ」
 我に返ったティファは笑顔で応える。その様子にケット・シーは内心でホッとする反面、
原因が電話ではなかったと知る。
『マリンちゃん、今日はどっかお出かけですか?』
「教会の花を世話しにね」そう言うと、笑顔は苦笑に変わる「……こう言うとデンゼルが怒るん
だけど、あそこはあまりモンスターも出ないし、マリンには思い出もあるから……」。
 マリンは初対面のエアリスにとても良く懐いていた。そんな彼女との数少ない思い出で
あり、なによりも自分達にとっても忘れがたい場所だった。
『なら心配要らへんな。……で、なんで電話から戻って来たらそんな顔してますんや? 
てっきり心配事でもあるんかと思いましたわ』
「そんなこと無いわよ?」内心ぎくりとしながら、本心をごまかすようにティファは綻びかけた
笑顔を繕った。

115:氷棺 - Cold Case 10 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 01:54:46.81 3mSfi5vI0
「そうだ! ケット・シーがここへ来た理由、まだ全部聞いてなかった」
『……ん? そら、まぁそうやけど』
 明らかに話をはぐらかされていると分かったが、本人が言いたくないのなら、これ以上話を
続けても仕方が無いと、ケット・シーが話を始める。
『実は、妙~な噂を小耳に挟みましてな。その確証を得るためにボクをここに置いてもらおう
って算段なんですわ。“人のおる所に情報が集まる”、スパイの基本やね』
 口ぶりこそいつもの戯けたものだったが、さり気なく気掛かりな単語を口にする。
「うわさ?」
『ミッドガルに関する妙な噂ですわ』
 隣で話し込んでいるデンゼルとシドを気に掛けながら、ケット・シーは箱から身を乗り出し、
ティファに顔を近づけると声を潜めた。
「……もしかしてそれって、『ミッドガルの亡霊』の話ですか?」
 もっぱら子ども達の間で流れている根も葉もない噂話で、ティファ自身はまったく信用して
いなかったし、どちらかというと下手に興味を煽るような類の話は不快に思っていた。
『それですわ。“夜な夜なミッドガルから人の声が聞こえてくる”って……』
「ミッドガルに人は残っていないのに、そんな事あるはずない。だけどデンゼルぐらいの年頃
の子ども達が、その噂を口実に興味本位でミッドガルに出入りするのは、私はあまり……」
 そう訴えるティファの口調は、彼女の心中をそのまま表していた。
『そう思とるんはティファはんだけと違いまっせ。WROとしても、治安維持の観点からそれを
放置するワケにはいかんのですわ。それに……ボク個人的にも』
 最後は消え入るような声だった。
「ケット・シー?」
『……はは』自嘲じみた乾いた笑いに続けて、ケット・シーに似つかわしくない重苦しい声音が
言葉を紡ぐ『にしても、“ミッドガルの亡霊”とは言い得て妙ですな。亡霊とはまさにボクの事
ですわ。たぶんボクはまだ、あそこに未練を残しとる。せやから、この手できっちり終わらせな
アカンのですわ』。
 それを後悔ではなく未練と言うあたりがケット・シーらしいと、彼の強さの所以なのだろうと
ティファは思う。
「……前から思っていましたけど、強いんですね」
『え? いやいや、ティファはんには敵わんて』
 言いながらパンチの仕草をしてみせるケット・シーに、ティファは首を横に振って答える。
「違います。内面の強さの事ですよ」
『それかてボクじゃ全然! ライフストリームん中にダイブして戻って来る自信なんてあれへんし』
 ケット・シーがミディールでの一件を言っているのだとはすぐに分かった。だからとティファも
反論する。
「それを言うなら、私だって古代種の神殿に残ってひとりでパズル解くなんて無理。……ね? 
これで“おあいこ”よ」
『そらボクが作りモンのボディやから……』
 言っている途中でティファはケット・シーの額に人差し指を当てて、ぐいと押してやる。
「分かってるクセに、はぐらかさない」
『わわわ、デコピンは堪忍や~』
 ティファから逃れるようにして顔を背けると、額を両手で覆いながらわざとらしくそう言った。
「ねえ、ケット・シー。もしその噂の真相が分かったら、私にも手伝わせてくれない?」

116:氷棺 - Cold Case 11 ◆Lv.1/MrrYw
12/09/08 02:07:31.65 3mSfi5vI0
 それが根も葉もないただの作り話ならそれでいい。けれど、そうじゃないのなら一刻も早く
決着をつけなければならない。でないと、とんでもない事件が起きそうな気がする。
『そう言ってもらえるんは心強いですな! けど、ティファはんは優しすぎや。その優しさに
つけ込んで、ボク甘えてしまいそうや』
「ふふ。優しいなんて事はないと思いますけど、ケット・シーから甘えられるのって、やり
甲斐がありそうで楽しみですよ。なんて言うのかしら? こう、腕が鳴るな~」
 笑顔でそういったティファに嘘は無い。一方のケット・シーも、仲間達の厚意は素直に
嬉しかった。
『なんやティファはん、さっきから誤解しとる気がするんやけど、ボクの考えすぎやろか……』
「なにか言ったかしら?」
『き、気のせいでっせ!』
 無意識のうちに後ずさろうとしたが、結果的に箱の中でもがいているだけになってしまった。
『格好悪いなぁ~』照れ隠しに言いながら、見上げてみればティファの顔にはいつもの笑顔が
戻っていた。
「さ、みんなが帰ってくるまでに、残りのお料理も準備しなくちゃね」
 それから厨房内をきびきびと動き回るティファの後ろ姿に、ケット・シーはホッと胸をなで
下ろすと、小さな声で呟いた『ま、結果オーライやね』。



----------
・小説デンゼル編って、よくよく考えたらわりと酷な話だよなぁと、思っていた事を書いたら
 今回の本題からすっかり離れてしまったお話でした。
・報復の連鎖を停めるのが子どもの役割なのかな?(デンゼル編の「大人の力を呼び起こせ」
 って件の真意がよく分かりません)

>>112
ここは細々と続いていますが、ご覧の通り過疎ってるのでそういう展開が見込めないのが現状。
(少なくとも自分には書けないw)

117:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 19:51:41.72 ZVZHEYXG0
>>112
もしかして管理人?

118:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 21:38:02.33 Mlg+uFLo0
>>117
>>112ですが
いえ、管理人じゃなくて観測人ス
昔けっこう読ませてもらってたんだけど、
しばらく過疎だった上に最近鯖落ちはひでーわDQ10で圧縮はすげーわで
もうとっくに落ちたと勝手に思い込んでますた
それでびっくりしたってとこですね

119:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/08 21:40:30.56 Mlg+uFLo0
>>116
面白かったです
7ヲタなので余計楽しかったですよ

えー
正直エロ展開もちょと読みたいんですがねw

120:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/10 07:36:46.38 JmM4HaJU0
GJ

121:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/15 19:11:50.35 wXBoSiBI0


122:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/22 16:02:20.34 eG86rQB80


123:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/09/29 00:38:38.49 b8G5Qidq0
ぼちぼち保守

124:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/03 18:20:12.99 Bi1U0TFT0


125:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/06 23:22:20.14 CK6kh97R0
保守あげ

126:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/07 23:00:48.10 QE3K65X00
今、ティーダとユウナがお祭り状態なんだが(^^;
書き溜めた方がいいだろうか?

因みにエロパロ板の方は8スレ目作ったけど。
スレリンク(eroparo板)

127:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:28:55.33 4NvwvyGP0
やっと一つ書けた(^^;
X-2の前の特典映像「永遠のナギ節」よりヒントを頂きました。

------
ビサイド島、海岸沿いの村。
夜中の真っ暗な時間帯、少女がたった一人、広場の中央に佇んでいる。
スピラでは知らぬ者は居ない大召喚士―ユウナ―。
2年ほど前の決戦でシンとエボン=ジュを倒し、死の螺旋を終わらせた少女。
だが、彼女の心は晴れない。

皆は褒めてくれる。尊敬のまなざしを向け、何処へ行っても称賛の嵐だ。
事実、シンは消滅し、永遠のナギ節が訪れた。
それは勿論、喜ばしい事ではあるが、シンと一緒に大切なものが消えた。
共に戦った仲間たち―召喚獣、祈り子、アーロン、そして―。

何となく眠れない。
たき火の燃えさしの傍にしゃがみ込む。
椅子代わりの丸太の上に座り、膝を抱えた。顔を腕の中に埋め、目を瞑る。
ユウナは、自分の状況について思いを巡らす。
この2年、周りは少しずつ前に進んでいる。
ワッカとルールーは結婚した。もうすぐ子供が生まれる。
リュックはスピラ中を飛び回っている。結構忙しいようだ。
キマリはガガゼト山に戻った。子供たちを導きたいらしい。
では自分は…?

128:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:31:11.50 4NvwvyGP0
>>127の続き

--------
素潜りの練習では、2分ぐらい潜れるようになった。
ワッカのぷにぷにお腹を笑えるようになった。
面会者には、自分の意見を言えるようになった。
縁談もひっきりなしだが、自分で断れるようになった。
だが、正直分からない。
心の奥底に、まだ粘つく感情がこびり付いている。

今気づいたが、袖が濡れていた。
(あれ?おかしいな…)
何の感情も伴わない涙が有るだろうか?
…いや、一つだけ忘れようとしていた感情が有った。
「ご、めん…」
腕に力を込め、更に縮こまった。
もう一つ有った。時折訪れる気持ち。
「やっぱり…会い、たい…な…」

「…ナ……ユウナ?」
「ん…?」
聞き覚えの有る声がする。
ルールーとワッカがユウナを心配そうに見つめていた。
もう朝方のようだ。いつの間にか眠っていたらしい。
「大丈夫?」
「どした?風邪引くぞ」
「うん…大丈夫…」
優しく微笑む二人に、ユウナは力なく笑って答えた。
「大丈夫そうには見えないけどね」
ルールーが苦笑する。
「眠れなかったんなら、今日は止めとくか?」
ワッカが尋ねる。今日の面会の事だろう。

129:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/09 00:34:40.96 4NvwvyGP0
>>127-128の続き

---------
少し考える。
皆不安なのだ。自分だけでは無い。
新たな時代が来た。先の事は分からない。
期待と不安の狭間で、右往左往している人も沢山居るのだ。
―不安定なのは自分だけでは無い―。

「ううん、大丈夫」
上手く笑顔が作れただろうか。
「ああ…じゃあいいけどよ…まあなんだ、涙ぐらいは拭いとけよ」
複雑な表情を浮かべながら、ワッカが頭を掻く。
「取り敢えず、家に戻る?」
ルールーに促され、ワッカに手を貸してもらう。
ユウナは、涙を拭いて、二人に付いて行った―。

10日後、ユウナはリュックにある映像スフィアを見せられ、カモメ団に入る事になった…。

~fin~
--------
ふう。お目汚し失礼(^^;

130:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/11 20:47:44.94 BdoRPr3F0
なつかしー GJ!

131:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/15 23:24:08.04 b68ORj5Y0
>>119
(ややスレ違いですが)その節は大変お世話になりました。
それと、読みたいと思ったものを自分で書くという方法もありますぞw

>>127-129
ユウナは自身の手で歴史を変えた責任を負ってビサイドに残ったんだろうけど、
翻弄され続ける周囲の人達の視点に立てるってところが彼女の強さだよね。
…X-2で印象がらっと変わっちゃったけど、それも若い子らしくて良いと思った。
これ読んでふと、長く潜れるようになった(ユウナにとってのコツ)が、泣くのをごまかす
(周囲に悟られない)為だとしたらなんかこう、良いなって思ったw何某かの毒気にyry

132:氷棺 - Cold Case 12 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:31:35.28 b68ORj5Y0
前話:>>113-116
※拙作の一部には科学的根拠を欠いた描写がある事をあらかじめご了承下さい。
  (世界観じゃなくて、単に作者の頭が足りないと言うだけの話なので許してやって下さい)
----------



「彗星と流れ星の違い、か。……なあ小坊主?」
「だから、小坊主じゃ無くてデンゼルです」
 悪い悪いとデンゼルをいなす様にして言いながら、シドはライターと紙巻き煙草を取り出し、
慣れた手つきで火をつけた。小さな炎がシドの口元をほのかに照らす。
「あの……シドさん?」
 不安げな表情になるデンゼルの目の前で、シドはゆったりと煙草を味わっている様だった。
くわえた煙草の先端がほのかな光を放つと、たちまち鼻を突く匂いが立ちこめた。
「ちょっと真面目に……」
 不満を口にしかけたデンゼルを横目に、シドは上を向いて煙を吐き出すと、人差し指と中指
の間に煙草を挟んで立てた状態で差し出す。デンゼルの視線が煙草に固定されたのを見計
らって、シドは話を始めた。
「今し方、お前さんの目に煙草の先端が光って見えたのは、コイツが燃焼してるからだ」
 煙草の先端からは、今も細い煙が立ち上っている。
「流れ星の大半の正体は隕石だ。隕石ってのは、宇宙からこの星に降ってくる石っころだと
思えば良い。メテオみたいにデカいのは別だが、たいていは地面にぶつかる前に燃え尽き
ちまうぐらいの大きさだ。それが物凄いスピードで落っこちてくる時、空気に触れて摩擦を
起こすとそいつが燃焼する。隕石が光って見える原理は大体こんなモンだ」
 正確には燃焼ではないのだが、その辺をもっと知りたいなら専門の勉強をすると良いと
シドは付け加える。
「けど彗星ってのは、この星に落っこちてくるモンじゃねぇんだ。……なんつうか、“通り
すがり”だな。お前さんの質問に答えるなら、この星の中に落っこちてくる物が隕石。そう
じゃない物が彗星って事ったな」
「すい星は、ずっと遠くにあるって事ですか?」
「まぁそうだな。お前さんの持ってきたこの写真……」
 そう言ってシドが写真を指さす。
「ふつうのカメラじゃこんだけ綺麗なものは撮れないな。観測に適した機材が使われてるん
だろう。お前さん、こいつをどっから持って来た?」
「…………」
 黙って俯くデンゼルを見ながら、シドは口元を歪めてにやりと笑う。
「まぁ、こんだけの物となるとミッドガルしか無ぇだろうな。違うか?」
 デンゼルはなおも黙ったままシドの推測を肯定するように頷く。その姿を見て満足した
表情を作ると、シドは笑顔のまま声を潜めて言った。
「その様子だと、さてはティファに怒られたか? ……ま、ティファの気持ちも分かるがな。
オレ様としちゃあ、ちぃと嬉しいぜ」
 「嬉しい」という言葉に思わずデンゼルが顔を上げる。シドは笑顔を絶やさずに先を続けた。
「世界がこんな風になっちまってよ」まぁ、本当はその前からなんだが。と声には出さずに
言ってから「世の中、もうちぃとばかり空を見る余裕があっても良いと思うんだ」。

133:氷棺 - Cold Case 13 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:35:44.82 b68ORj5Y0


 オレ様がガキの頃は空ばっかり見てたぜ? こう言うと今の若い連中は笑うかも
しれねぇが、オレ様が最初にやった事と言えば筋力トレーニングだった。けどよ、筋力を
鍛えてどんなに高く跳躍しても満足できなかった。そこで気付いたんだ、オレ様が目指す
べきなのは跳躍じゃなく飛行だってよ。
 鳥のように速く雲よりも高く。まだ誰も行った事の無い場所、あの青空の彼方を誰よりも
先にこの目で見てやるってな。そしたら月や、太陽にも手が届くんじゃねぇか? ってな。
 当時、神羅カンパニーはこの星で最も宇宙に近い組織だった。だからまずはそこに
入った。宇宙開発ってのは順風満帆とはいかねぇし、どっちかっつーと常に問題を抱えてて、
オレ様たち人間が束になって知恵を振り絞ってもどうにもなんねぇんだ。それも一日二日の
話じゃねぇ、何週間何ヶ月、時には何年何十年も、同じ問題と向き合ってるんだ。そうやって
一つ問題を解決しても、また新しく別の問題が出てきやがる。だからって腹立てたところで
問題は何も解決しない。とにかく解決のための最善を尽くすしかねぇんだ。途方も無い時間
と労力、さらにたくさんの知恵と資源が必要なんだ。
 結局、宇宙に行けたのはたったの一度きり。それじゃあ満足できねぇよな?
 だからよ、若い連中にはもっと開発を続けてほしいとオレ様は思ってる。
 けどよ、今の若い連中がガキの頃に空を見上げりゃ、そこにあったのは禍々しい輝きを放つメテオ。
 そいつは消えても、拭えない恐怖心を植えつけていきやがった。
 だから、空に夢を描く奴なんていなくなっちまった。
 たとえそれが、オレ様達の招いた災厄だったとしても、やっぱり……。


「やっぱりな、空には人を惹き付けて止まない魅力……みたいなモンがあるんだ。今の若い
連中には、それを教えてやりてぇ。そんでよ、オレ様達が到達できなかった場所まで行って、
もっといろんな物を見つけて欲しいんだ。オレ様の知らない事がまだまだ沢山あるに違い
ねぇんだ」
 些細な事かも知れないが、誰かが抱いた空への興味がその契機になり得るのだとシドは
固く信じていた。自分がそうであったように。
「シドさんは」
「まだるっこしいからシドで良いぜ」
 そう言うと煙草をくわえて、忙しなく視線を動かす。
 その様子を見たデンゼルは一度席を立つと、カウンターの隅にあった灰皿を持って来て
シドの前に差し出しながら続ける。

134:氷棺 - Cold Case 14 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:38:54.28 b68ORj5Y0
「……宇宙飛行士だったんですよね?」
「『だった』とは失礼な。今でも乗り物と機会さえあれば、オレ様はいつでも飛べるぜ?」
 自信に裏打ちされた強気な笑みだった。
「怖い思いをした事はないんですか?」
「おー、もちろんそりゃあるぜ? 訓練も時には命懸けって事だってある。同じ空を飛ぶ乗り
物でも、飛空艇技術とロケット技術は別物だし、知られてないだけで失敗だってしてる」
「それでも?」
「おうよ」シドは笑顔のまま大きく頷いた「飛空艇もだけどよ、ロケットってのは良いぞ」
 加速と共に全身にかかる重力。体内の血管を流れる血液も、呼吸も、視覚や聴覚なにも
かもが押し潰される感覚。そいつはまるで、地べたを這いずり回っていた人間が、どうにか
して重力という枷を外そうとしているんじゃないかと思える。
「訓練も無しに乗れるもんじゃねぇ。けどな、青空の彼方ってのをおがめるんだ、訓練なんて
安いモンだぜ」
 切り取られた空から見えていた雲の浮かぶいつもの青空は、身体にかかる重圧と共に
その色を濃くし、やがて重力を振り切った先には漆黒の闇が広がる。
「つってもオレ様が経験したのだって、魚が水面に顔を出した程度。宇宙を覗くにはあまり
にも短すぎたんだ。あんなんじゃ、まだまだ物足りねぇ。オレ様達はやっと瞬きしたぐらいで、
宇宙の何も見えちゃいねぇんだ」
 そう語るシドの目は少年のように輝いている、と現役で少年のデンゼルは思う。
「……あれ?」見えると聞いてデンゼルはふと疑問を持った「さっきのすい星の話……」。
「おう、どうしたよ?」
「流れ星が、この星に落ちて来るいん石が空中で燃えるから光って見えるなら、この星に
落ちて来ないすい星は、どうして光ってるんですか?」
 その質問にシドは最初こそ驚いたような表情を作るが、すぐに笑顔に変わる。
「飲み込みが早いなデンゼル! そう―」言いながら、短くなった煙草を灰皿に押しつけた
「燃焼には空気が必要だ。逆に言えば、空気が無い所で燃焼は起こらない」。
 よくぞその矛盾に気付いたと、気前の良い笑顔のままデンゼルの頭を叩く。同時に、メテオ
災害以降の混乱期にどこでそんな基礎知識を身に着けたのだろうと思った。
「……すい星ってのはな、実は氷の塊だって言う説がある」
「氷?! ……ですか?」
 すぐさまデンゼルの頭の中には、冷たい飲み物の中に浮かんでいる氷の姿が連想された。
どう考えても燃焼とはほど遠い存在だ。
「空気も無い場所で、しかも氷が? どうやって燃えるんですか?」
「光を出すのは何も燃焼だけとは限らねぇんだ」そうだな、と腕組みしながら考えを巡らせて
いる様子のシドが、少しだけ間を置いてからこう切り出した。
「じゃあデンゼル。オレ様達の目には、他にも空で光って見える物があるだろう? たとえば……」
「太陽」
「そう。昼間にまぶしく輝いてるお天道さんだな。他には?」
「じゃあ月とか」
「そうそう、夜見えるアレだな。いろんな形に変わるし、この星から一番近い星だ、だから
見応えがあるぞ。……と、それじゃあここまでで4つ出たわけだ」
 流れ星、すい星、太陽、月。
「どれもオレ様達の目には、空で輝いているように見える。こいつらは見かけの大きさや形は
違う、だが共通してるのは光ってるって事だな」
「光り方が……違う?」
「そう。光って見えてるが、こいつらは全部違う原理で光って見える。燃焼して光ってるのは
流れ星、つまり隕石だけなんだ」

135:氷棺 - Cold Case 15 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:42:48.92 b68ORj5Y0
「え? 太陽は燃えてないんですか?」
 だって昼間、太陽に当たってると熱いし。いかにも燃えてそうだよとデンゼルは首を傾げる。
「この星に落っこちてくる隕石以外は、どれも燃焼が起きない場所にあるんだ。だから太陽も
燃えてるって訳じゃ無い。分かり易く言うなら……あれは途方もなく巨大なエネルギーの塊
って事だな」
「魔法……?」
 シドの話を聞いてもさっぱり想像がつかないデンゼルは、苦し紛れに言ってみた。すると
シドはまんざらでもなさそうな顔で答える。
「まァ、なんだ。……悔しいけどよ、太陽がエネルギーを作ってる原理ってのを、まだオレ様達
はハッキリ理解してるわけじゃねぇんだ。太陽まで行って直接たしかめた奴はいねぇしな」
 あんなに毎日見てる物なのに、分からないんだぜ? とシドは続ける。
「ただ、はっきりしてるのは、月や彗星が光って見えるのは太陽のお陰なんだ。ついでに、
この星があるのもな」
 興味津々という表情でデンゼルはシドの話の続きを待っている。
「月は太陽の光を反射して光ってる。太陽の光がなけりゃ、ただのでかい岩の塊だな」
「見た目の形が変わるのも?」
 シドは頷きながら、左手で火をつけたライターを自分の左頬に近づける。すると、彫りの
深い顔立ちに影が落ちる。
「こうすると影ができるな? 光を当てる角度を変えると」言いながら、ライターを持った左手
を自分とデンゼルの間に持ってくる「影の形が変わる。月も同じだな」
「太陽との位置が変わるから?」
 その通り。大きく頷いたシドは火を消してライターをしまう。
「この星と太陽、それから月の位置が変わるから、この星にいるオレ様達から見える形が
変わるんだ」
 これで3つは解決した。残り1つが最後にして最大の疑問。
「じゃあ氷のかたまりだって言うすい星も、太陽の光を反射してる?」
 ジュースの中に浮かんでいる氷だって、放っておくとすぐに溶けてしまうのに? 確かに
光を反射してきらきら輝いてる様には見えるけど、暑い日に氷を外に持って行ったら手の
上ですぐに溶けてしまう。
「もしかして溶けた氷が光ってる……とか?」
 カウンターに置かれた写真に目を落とす。月みたいに反射して光っているというよりは、
これ自体が光っているような、そのぐらいまぶしいとデンゼルは思う。
「んー」シドは唸りながら先を続ける「近い。が、正解じゃ無い。太陽の熱で氷が溶けて、
それが光を作り出すっていう発想はいい線だと思うぜ」。
 なにせ彗星の観測は機会が限られている。仮説として定着しているものではあるが、
やはり実際に彗星に行って見ている訳ではないので、まだ確証に乏しいというのが正直な
ところだ。だから断言ができずに歯がゆい思いもある反面、不確かな事を教えるのもどうか
と言う葛藤があった。
「氷つっても、コップに入ってるようなモンじゃなくて、もっと……雪みたいなモンだろうな」
 雪を見た事はあるかと尋ねると、デンゼルは昔テレビでと答えた。
 ミッドガルからエッジ周辺は降雪地帯ではないが、寒い日に山間部では見られるかも知れ
ない。どちらにしても居住地では積雪まで至らないから、デンゼルに言葉で雪と説明しても
連想しにくいだろう。こう言うときに冷気系魔法を使えれば実際に見せてやれるから便利
なのにと、思いがけない形でシドは魔法の利便性を痛感する。

136:氷棺 - Cold Case 16 ◆Lv.1/MrrYw
12/10/15 23:46:45.69 b68ORj5Y0
 大皿に料理を盛りつけていたティファが、いつの間にか彼らの会話に応じて冷凍庫から
食材を取り出すと、皿に置いてデンゼルの前に差し出した。
「冷凍食品、って言う方が身近だから実感しやすいかしら?」皿の上には、下拵えした冷凍
肉がのっている「シドの言っている“氷”って、こういう感じじゃないかしら?」。
 シドが大きく頷いて、ティファに相づちを打つ。
「こいつは分かり易い!」
『……あ、けど彗星の中心部は肉とは違いますよ?』
「分かってるって!」
 ケット・シーが茶化すように横やりを入れると、すかさずデンゼルが反論する。ティファの
とりなしを経てから、シドが話を締めくくる。
「凍った土が溶ける時に気化して、一時的な大気の層を作る。彗星自体が移動しているの
と、太陽からのエネルギーを受けて、こいつらが物凄いエネルギーで宇宙空間に吹き飛ば
されるんだ。観測者にはそれが輝く中心角と尾として見える。これが、彗星の正体だって
言われてる」
『せやけど、まだ実際には誰も見てへんのやね』
「そうだ。けどよ、オレ様達はいつかそれを見てやるぜ?」
 この星を飛び立つことができたのだから、今度はその先へ。

 彼らの視線は、カウンターに置かれた彗星の写真に吸い込まれていた。




----------
・FF7シドのリミット技(既得ブーストジャンプ)体得の動機を踏まえて、神羅空軍(?)入隊の
 動機なんかを妄想してみた結果がこれ。それと個人的見解としては「宇宙を語る大人は熱い」。
・ハイウィンド家とはいえあのジャンプ力あったら空軍じゃなく別の方面に行くと思うんだ。
 (そもそも神羅に空・海軍ってあるのかという疑問も)
・自分が書くデンゼルっていつも名前を覚えてもらえない立ち位置だったりします(ごめんね)。
・このお話は次回完結予定です。

137:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/16 00:21:05.67 oqQxJRZ80
>>131
そういう考えも有ったか。
切ないな(^^;

◆Lv.1/MrrYw氏
GJ!

138:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/19 15:05:51.79 4EyxSMtt0
GJ

139:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/19 22:33:43.06 cRwCY/+D0
>>131
いや~おりゃ読み専で精一杯ですw
エロなんか書いた日にゃエロマンガのフキダシ並べたみたいになりそうですからねw
エロは抜きでも、皆さん文章書けてうらやましいですよ

140:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/10/24 23:58:39.50 bwLDql4s0
保守

141:空白の数時間1  ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:11:42.25 GR0oHeHL0
10-2エンディングより、復活~ザナルカンドの間を埋めてみましたw
---------
カモメ団の飛空艇が、ビサイド島を飛び立った。
ブリッジに新しい人間が一人乗り込んでいる。
さっき、砂浜でユウナと抱き合った少年だ。
「おっす!お帰りぃ♪」
「う~っす!ただいまぁ♪」
少年は、リュックとハイタッチを交わす。
「ちょっとぉ、2年ぶりじゃないかぁ」
「あぁ、そうみたいだね」
少年は苦笑いを浮かべた。
「どんな感じなの?」
横に居るユウナが尋ねる。
「一日か二日寝たみたいな…まあ、そんな感じかな」
頭をポリポリ掻きながら答える。
「ふぅ~ん、そっかぁ」
リュックが相槌を打った。

一通り会話を交わすと、次は、パインを紹介された。
「よ、よろしくっす」
恐縮しながら手を差し出し、パインと握手をした。
「あぁ、よろしく。話は聞いてるよ、ティーダだっけ」
「うん」
ティーダと呼ばれた少年が頷いた。
「まさか成功するとはな」
「祈り子様すごいよねぇ」
ユウナとパインが盛り上がる中、ティーダは置き去りにされた。
「え?祈り子がなんかしたんすか?」
どうやら、まだ何も聞いてないようだ。
「えっとねぇ…これから話すっす♪」
「あぁ…そうっすか」
多分、そこに行くまでに、冒険話が長くなるのだろう。
ティーダは納得し、ユウナに連れられて他のメンバーを紹介された。

シンラ君は天才少年で、通信スフィアは彼の発明である。
「~だし」をやたら使う印象が有る。どうやら口癖らしい。
アニキさんはカモメ団のリーダーである。2年前の決戦でも操縦席に居た。
何故か自分を睨んでいる気がする。まあ気のせいだろう。
ダチさんはアニキさんの親友で、情報解析係である。実はこの人も2年前、一緒に居たそうだ。
何故かアニキさんを制止する体勢になっている。良く分からない。

一通り会話を交わすと、ユウナに各区域を案内される事になった―。

142:空白の数時間2  ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:15:00.40 GR0oHeHL0
動力室、甲板と案内されて、居住区にやってきた。
「この人はマスターさん。アニキさんに拾われて、この飛空艇に乗ってるの」
カウンターに居るハイベロ族を紹介する。
「よろしく~ね」
「よろしくっす」
マスター、次いでダーリンとあいさつを交わし、階段を上った。
「ここがベッドルームだよ」
「へぇ~…結構綺麗だな」
「ベッドメイクはマスターさんがやってくれてるんだ」
そう言って、ユウナが奥のベッドにティーダを連れて行く。
いつもここで寝るらしい。

ベッドに座ると、スプリングが弾んだ。
「おぉ、すげー」
ティーダがトランポリンみたいにお尻を弾ませて少し遊ぶ。
「でしょ」
隣にユウナが座り、一緒に弾ませた。
ティーダはそのまま、ベッドに仰向けに寝転んだ。
「だぁ~!」
意味も無く叫び、大の字になる。
「何してんの、もう」
くすっとユウナが笑う。
「だってさぁ、やった事ねぇもん」
気持ち良さそうに天井を見上げて、ティーダも笑う。
「確かにそうだねぇ…」
そう呟くと、ユウナも寝そべった。
ティーダの腕を枕にして、胸板に寄り添う。
「んしょっと…ふふっ」
「ユウナ…ははっ」
顔を上げ、ティーダと見つめ合い、二人で笑った。
「あ、そうだ…続き、聞かしてよ」
「うん♪」
ティーダは、寝返りを打つようにユウナの背中に腕を回し、優しく包み込む。
ユウナもティーダの背中に手を回し、胸板に顔を埋めた。
「あのねぇ…」
添い寝をしながら、順番に話し始めた…。

―2時間後―

そのまま寝息を立てる二人が居た。
二人とも穏やかな寝顔である。幸せそうだ。
「ん…ふぁ…」
先にユウナが目を覚ました。

143:空白の数時間2  ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:16:15.19 GR0oHeHL0
首を曲げると、すぐ目の前にティーダの寝顔が映る。
「…ふふっ♪」
思わず、ユウナの顔が綻ぶ。
こんな時間が来るとは思って無かった。ずっとこのまま傍に居たい。
ぽすっとティーダの胸板に顔を擦りつけ、目を閉じ―

「ユ・ウ・ナん♪」

突然、背中から声を掛けられた。アルベド訛りの、いつも側で聞く声だ。
(!?―見られてる―!)
一体いつからか。全く気付かなかった。
急に恥ずかしくなり、顔が熱くなる。一気に汗が噴き出した。
「中々幸せそうな顔だったな」
聞き慣れたクールな声もした。
ユウナは硬直し、動けない。
いやそもそも、ティーダにがっちり捕獲されているので逃げられないのだが。
「い…いつ…か、ら…?」
ユウナが恐る恐る訊く。
「10分ぐらい前かなぁ」
「流石に盛り上がってると思ってな…2時間ぐらい待ってみたんだ」
二人してにやついているのが、声のトーンで分かった。
「いやぁ、まさか添い寝で終わるとはねぇ」
「マスターに聞いたら、そういう気配は全く無かったってさ」
「ますっ…!」
そう言えば存在を忘れてた。挨拶もしたのに。
素っ頓狂な声が出て、耳まで真っ赤になった。

そうこうしている内に、ティーダがもぞもぞと動き出した。
「ん…んん……ユウ、ナぁ…」
ティーダの腕に力が籠る。
「へっ?」
ユウナを抱き寄せ、額に顔を近づける。
「ん~…ユウナ…」
そしてまた、寝息を立て始めた。
「ほほぉう、仲が宜しいようで♪」
「羨ましいな」
体が熱い。抱きしめられているから…だけでは無いだろう。
「ひ、冷やかさないでよぅ!」
「ユウナぁ、声おっきいよぉ♪」
リュックが弾んだ声で言う。
「起きちまうぞ」
パインもからかうような口調だ。
「う゛っ…」
ぐうの音も出ない。

144:空白の数時間2  ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:18:23.86 GR0oHeHL0
「で…あの……い、いつまで、ここに居るの?」
背中越しに、恐る恐る訊いてみた。
「ユウナが起き上がるまで♪」
「そいつが起きるまで、だな」
リュックの言葉に、パインが更に被せる。
「え゛っ!」
それまでこの状態という事か。
「いいいやちょっと待って」
慌てるユウナに、二人はニヤニヤが止まらない。
「なによぉ?」
「なんだ?」
「あ、あのさぁ…二人とも暇なの?」
ユウナの必死さが、二人には滑稽に映るらしい。
「あ~…うん暇」
「まあ、暇だな」
だから冷やかしに来ているんだ。
そんな事を言われ、ユウナは沈黙してしまった。

そんなやりとりをしていると、ティーダがまたもぞもぞと動き出した。
「ん……んん…ふぁ~…」
どうやら目を覚ましたらしい。
ユウナの拘束を解き、目を擦った。
「あ~……良く寝たぁ」
そう言ってまた暢気にあくびをする。
「おはよー♪」
リュックがニヤニヤしながら言った。
「あぁ…おはよっす」
寝ぼけ眼のまま、手を挙げて応える。
ユウナの方を向くと、ふにゃっと笑った。
「おはよう、ユウナ」
「う…うん……おはよう…」
不覚にも、ドキッとしてしまった。

「てゆーかさぁ、朝じゃ無いよね」
「あはは、そうっすね」
ティーダは、リュックに同意しながら起きた。
一緒にユウナを起こす。
「随分と気持ち良さそうだったな」
パインがからかうように言う。
「あ~…そう言えば、こんな感覚は久しぶり…」
ティーダはそう呟くと、頭をポリポリ掻いてユウナの方を向いた。
「?…な、何?」
ユウナが戸惑いながら訊くと、ティーダが一人納得したようにこう答えた。

―あぁ、そっか…ユウナが居るからだ、多分―

言うや否や、ユウナを抱きしめる。
(!?…あばばっばbっばbbっばああbっば)
頭が真っ白になり、何も考えられない。

145:空白の数時間5  ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:20:23.13 GR0oHeHL0
少し呆けていると、ティーダの体が離れた。
「よしっ!」
少し気合を入れて、ベッドを降りる。
「ちょっと甲板に行ってくるっす」
「えっ?」
ユウナが聞きかえす。
「眠気覚ましにさ、風に当たって来るよ」
ユウナの頭を撫でながらそう言うと、階段を降りて行く。
「あ、い、行ってらっしゃい」
ユウナの声に手を振って、ティーダはエレベーターに乗り込んだ。
「行ってらっしゃい、だってさぁ」
「見せつけてくれるなぁ」
「あ゛っ!…いや……えっと、あの…」
ニヤニヤする二人に挟まれ、ユウナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

一方、当のティーダはそんな事はつゆ知らず、甲板で髪をなびかせていた。
自分の体を眺めまわし、ユウナの冒険話を思い出す。
祈り子の力で復活した。
何をしたのか―多分、こういう事だろう―と、自分なりの仮説を立てる。
両手を下げ、前を向く。
流れ去る風が頬と髪を撫でていく。
気持ちいい。
目を瞑り、数秒その感触に浸ると、再び目を開けた。
力強く、うん、と頷くと、彼は甲板を後にし、ユウナ達の所へ戻って行った…。
~fin~

146: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/10/27 00:21:15.81 GR0oHeHL0
タイトルの番号間違えたorz

147:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/01 23:33:37.02 /5TrEk/C0
GJ !

148: ◆w7T2yFC1l7Bh
12/11/09 22:20:30.22 +zGZvRaY0


149:名前が無い@ただの名無しのようだ
12/11/11 21:48:08.50 8m8js0Z00
>>141-145
なんという据えz…いやいや。
よく堪えた!えらいぞティーダ!!(…と、考えてしまう自分が汚れているのだろうか?w)

10から含めてユウナの苦労が報われた気がして、10-2のあのEDはとても良かった~。
(自力じゃ100%出せなかったけど…orz)

150:氷棺 - Cold Case 17 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:00:26.07 8m8js0Z00
前話:>>132-136
----------


 場所は変わってWRO<世界再生機構>本部最上階に位置する、局長執務室。
「……で、局長」
 デスクの前にまるで審問官のようにして立ちはだかっているのは、すらりとした体格に
独創的かつやや扇情的な衣装と、その上から白衣を羽織った女性だった。彼女の視線は
失われた片方を補っても余りあるほどに鋭く、左上膊部からの義手も悲壮感より勇猛さの
象徴であるかのような印象を見る者に与える。そんな外見的な要素に加えて彼女自身の
持つ気迫が、対峙する者にはさらなる圧力としてのしかかるのだ。
 しかしその正体は審問官では無く、WRO技術部に所属する科学者シャルア=ルーイ博士
その人である。
「ミッドガル地下へ調査団を派遣すると言う話はどうなった? よもやWROが何もせず手を
拱いて傍観に徹すると言うのでもないだろう」
 彼女自身の所属する組織WROの最高責任者を目の前にしても、臆した様子は全くない。
 ここ最近、エッジ周辺を中心に相次いで報告される異変があった。中でも特に少数の
住民が行方不明になるという事件は、報道管制を布いて部外への情報流出を制限して
いたものの、状況の深刻性は問うまでも無い。住民達の間でまことしやかに囁かれるように
なったミッドガルの噂も、拡大の兆しを見せている。シャルア博士でなくとも、この状況は
見過ごせる物ではない。
 しかし席に座っていたWRO局長ことリーブ=トゥエスティは、このときデスクワークに集中
していたのか、シャルアが声をかけてから返答までには少しの間があった。
「……もちろんです。ただ、調査団本隊を派遣する前に下準備は必要でしょう。ちょうど
先遣隊が現地に入りました」
 それらの事情を全て踏まえた上での行動ですよと、リーブは穏やかな笑みを浮かべて
答えた。
「ケット・シーか?」
「そうです」笑顔も口調も穏やかなままで、リーブは続ける「……私が元神羅の、それも
都市開発部門の責任者だったからといって、別にあなたに隠し事をする必要はありません。
部隊を派遣する際にはあなたがた技術部の協力も必要です、どうかその点はご理解下さい」。
「……別に私が神羅に恨みを持っていたとしても、あんたを疑っている訳じゃ無い。
そこは誤解しないでくれ」
 ええ、と言ってリーブは笑顔で頷いた。
 その姿を見て、安心とも呆れともつかない表情でシャルアはやや肩を落とす。ここへ来て
得られた返答は予想通りだが、期待通りとはいかなかった落胆もあった。
「それじゃあ、必要なときは呼ん……」

151:氷棺 - Cold Case 18 ◆Lv.1/MrrYw
12/11/11 22:04:26.46 8m8js0Z00
「ところでシャルアさん。彗星ってご存知ですか?」
 部屋を出ようとしたシャルアの背中に唐突な質問が飛んできた。僅かに訝しむような表情
を作りながらも振り返ると、首を縦に振った。
「帚星の事だな。恒星系内に漂う、特に氷を含有した核を持つ浮遊物……それが、今回の
異変と何か関係があるか?」
「あ、いえ。そうではないんですが」困ったような笑みを浮かべながらリーブが続ける「さすが
は博士」。
「天文学者ではないので私も詳しいことは……。彗星自体は滅多に観測できるものでは
ないから、今後の学術研究で発見できるところも多いだろう」
「彗星の出現が凶兆を示すというような例は、恐らく文献に残る歴史的な要因によるもの
なのでしょうが、私自身もいつからそう認識したのかが分からないですね……」
 話の口火を切った当人は真顔で考え込んでいるから、からかい目的でない事が辛うじて
分かっただけで、シャルアにしてみれば一体どういう経緯から話が出たのか見当が付かない。
「局長、悪いが話が見えない」
「氷棺。……彗星そのものが、氷でできた棺の様な役割を担っていたら―」たとえば
冬眠する動物の様に、生命を維持するための必要最低限のエネルギーだけで長距離を
移動するための手段だとしても、眠りから確実に覚める方法があるとは言い難い。だから
それは棺なのだと想像できた。
「もしかしたら『空から来た災厄』の記憶が、彗星を凶兆とする潜在的な畏怖の根源にある
のではないかと。根拠はありませんが、そんなことをふと思いまして」
 空から来た災厄がジェノバの事を指しているのだとは、シャルアにもすぐ分かった。
「彗星が、冷凍仮死状態のジェノバをこの星に運んだと?」
 かつて古代種が多くの犠牲を払って北の地の底にジェノバを封印した。つまり極低温で
生命活動をほぼ停止する状態に追い込み、無害化を図った。仮に彗星によって運ばれた
存在なら、この星に飛来した時と同じ状態に戻したという事になる。
 つまり古代種から続くこの星の住人達は、まだ誰一人としてジェノバを完全に駆除する
方法を知らない。
「……なかなか興味深い仮説だが、なぜそんな話を?」
 シャルアの言葉でようやく、彼女に対する状況説明が足りていなかった事に気付く。
「すみません。実は今、ケット・シーがエッジにいるんですが、そこにいる子どもが持って
来た写真が彗星の観測写真なんです。恐らく神羅ビルの展示場にあった物だと思います。
ちょうど飛空艇師団のシドもいましたので、彼が彗星について講義しているところなんですよ」
 元神羅カンパニー宇宙開発部門所属の優秀なパイロットにして、現在は飛空艇師団の
長を務めるシド=ハイウィンド。なるほど宇宙について訊くなら、彼以上の適任者はいない
だろうとシャルアは納得した。
「彼らを見ていて考えさせられたのですが、子ども達への教育の機会というのも早急に
解決しなければならない問題です。メテオ災害では特にミッドガルやジュノンなど都市部では
教育機関が破綻してしまいましたし。特にこの分野についてはボランティアに頼っている
面が非常に大きいのが実情です。我々WROは街の再建や物流、経済の復旧など、目先の
問題に追われるばかりで、対応はすべて後手に回っていました。ですがそろそろ将来を
支える基盤、つまり子ども達の教育機会という重要な問題にも着手するべき時期が……」


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