12/05/09 18:05:24.00
少しだけ減らず口気味の言葉を残し、彼は万事屋を出た。
いつの間にか日が暮れて、薄暗くなっていた。
すぐに歩きだす。一応、これからどこに向かうかは決めていた。
何よりまず外に出たのは、頭を冷やしたかったからだったが。
「やな夢見ちまったな……」
最初の方はよかったような気がするのだが、なぜか最終的には悪夢めいていた。夢の中だからか、彼があんな風に悲しげにすがってきたのは。
……聞きたいのか、銀時……
一週間前に言われた言葉を思い出す。これは夢ではなく、本当に問われたことだった。
思いきり泣かれた後に、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。ばつが悪いのか顔を伏せたまま小さな声でそう尋ねられた時に、思わず言い返していた。
「……いや、もういいよほんと」
よくわからねーこと言って、悪かった。なんつーの、魔がさしたっつーか。
銀時は星がちらつきだした夕暮れの空に向かって息を吐き出した。あいつから逃げるのは、そろそろやめた方がいい。言い訳にしてもひどすぎた。
だが憔悴していたあいつは「大丈夫だ」と言ってそのまま眠ってしまった。何か声をかけることもできず、そのあとは桂が再び起き出す前に新八と神楽が戻ってきてしまったために、なんのフォローもできなかった。
こういうときって多串君ならどうするんだろうね。やっぱうまくフォローすんのかね。
まぁ多串の奴は実際、女っ気がないから、好きなやつがいてもだめだそうだなぁ。
そんなことをつらつらと考えながら、彼はゆったりとした足取りで歩く。
「おい」
「大体多串くんて瞳孔開いちゃってるもんね。無理だよね。女の子寄りつけないよね。モテるとかそれ以前に異性を拒否してるっていうかもうアレ、下手すると人殺しの目だよね……」
「テメー、おい、こっち向け」
「そう、で口も悪いんだよ~。何かこう渋めの剣豪っぽい声してるくせに出てくる言葉が汚いっつーか。絶対女の子とかには毒だよね。モテちゃいけない人種だよホント」
銀時の後ろで、何かが切れる音とため息のような声がしたが、彼は気づかなかった。
次の瞬間。
853:マロン名無しさん
12/05/09 18:05:57.55
「……おいっつってんだろーがッ!!?」
「うごッ!?」
後ろからドロップキックをくらって銀時は前に転げていった。
いきなりだったので、近所の家の壁に激突して逆さに止まったころには銀時の首は少しひねったような痛みを残していた。それ以前に体中が痛んでいたが。
さかさまのまま、彼は自分を蹴ったであろう男を見つけて口を開いた。
「……アレ? 多串くん?」
「テメーいい加減その呼び名やめろ! ひ・じ・か・ただっつーの!」
「てか俺に何か恨みでもあんのォ? 警察が一般市民に、こんなことしちゃダメでしょ」
「それはこっちのセリフだ! 歩きまわってっから怪我が治ったのかと思って声掛けてみりゃ無視しやがるわ、あげくに人の悪口さんざん言いやがって……」
「ああ、口に出てたんだ。ごめんごめん」
へにゃっと笑ってから彼は身体を動かして立ち上がった。
軽く首をまわすと、違和感もすぐになくなった。もともと頑丈にできている彼は、この程度で怪我はしない。
「けどちょっとひどいんじゃねーの? 怪我が治ったか聞こうとした相手に怪我させる気?」
854:マロン名無しさん
12/05/09 18:06:31.94
「……無事そうで何よりだ。心配して損しちまった気がするくれーだ」
イライラした表情で土方は銀時をにらみながら煙草をふかした。
ほこりを払いながら銀時はチンピラ警官を見つめ返す。
「そーいやオメー、こんなところで何してんのよ。また見回り? ごくろうさんだねぇ」
吸い終わったたばこを携帯灰皿にねじ込みながら、どこかバツが悪そうに土方が舌打ちする。
「ちげーよ。今日はオメーに会いに来たんだよ」
「俺に? 何でまた」
「テメーらんとこ行ったら電気が消えてたんでな。どっかいっちまったんだろうと思って引き返してきたとこだ。そしたら偶然白髪頭の男が街中歩いてるのを見つけてな」
「へぇ……で、何の用なの? 俺もう真選組に話せること、もーないんだけど」
土方とはすでに、四日前に鬼兵隊についての話をしてある。銀時は万事屋に来られると困るので、わざわざ痛む傷をおして屯所近くまで出向いて話してやった。桂についても聞かれたが、
高杉に彼が捕まっていたことも一緒に戦って逃げ出したことも話していない。銀時ひとりで屋敷付近まで行ってみたところ、偶然巻き込まれたことにしてあった。
「別に、そういうわけじゃねーよ。真選組の件でてめーにゃ世話になってたからな……今日はようやく時間もできたし、酒の一杯くらい奢ろうかと思ったんだよ」
ついでに何か聞き出すつもりだと思ったのは、銀時の色眼鏡のせいだろうか。
いや、もしかしたら彼も何か語りたいことがあるのかもしれない。何の裏もなく。
ツンデレと突っ込みたいところだが、どことなくくたびれた雰囲気の土方は、そういう要素とことなったある種の陰りを見せている。
認めたくはないが、土方はやはり自分と似たところがある男だった。
少しだけ考えてから、銀時は肩をすくめた。
「ついでに夕飯奢ってくれんならつきあってもいーぜ、多串くん」
855:マロン名無しさん
12/05/09 18:07:14.53
居酒屋で二人は席をひとつあけて横に並びながら適当に料理を注文した。土方は案の定、さらにマヨネーズもチューブで出すよう注文していた。
相変わらずの味覚崩壊ぶりですね、このマヨラは。
「その後どーなのよ。鬼兵隊の奴らはなんか動いたわけ?」
唐突に銀時は言った。適当な話題がなかったことと、何か話していないとまた余計なことを考え出しそうだったからそう言っただけだった。
実際、聞くまでもなく何もないことはわかっている。
「いや……いたって平穏無事。拍子抜けしたくれーだ」
ちょうど酒とつまみを先に出されたので、二人は黙ってお猪口に熱燗を注ぎ、同時に飲みほした。日本酒の熱燗。安酒だが、気分が悪い時に飲む分には何でもよかった。
そもそも、市中の警戒網は解かれたものの、要所要所では未だ幕府側は警戒を怠っていない。それに何かが引っかかることもなかったようである。
第一、鬼兵隊が本格的に動いてしまったらそれはそれは大きな騒ぎを起こすに決まっている。銀時たちの耳に入らないはずもないのだ。
さらにもう一杯飲み干す土方の方をちらりと見やって、銀時は口元に笑みを浮かべた。
「ま、あれだね。まだ気は抜けねーだろーけど。とりあえず奴らは見事にとんずらかましたってことか」
「ったく……あいつら、やるこたぁ過激なくせにちっともその姿を見せやがらねぇ……攘夷志士ってのはどいつもこいつも逃げ足だけは速ぇようだな」
やや挑発するような言葉だったが、自分には関係ないので無視した。おそらく桂のことも言いたいのだろうが。
土方はさらに杯を干し、一本目の銚子を開けてしまうとすぐさま店主に追加を注文した。
今日はいやに飲もうとしているようだった。
「それにしてもわからねぇ……」
少し赤みのさしたほほの仏頂面は、照れているようにも見えてどこかおかしかった。笑いをこらえながら、人のいいお兄さんのような声音で銀時は土方に問う。
「何がわかんねーって?」
「へいおまち、熱燗一本ね」
店主がカウンター越しに出してきた酒を受け取るなり注ぎ、いっきにお猪口を開けてから土方がつぶやくように言った。
「あの館にゃあ……何にもなかった。そりゃ武器の類はあったけどな。オメーが破壊してきたっつーやつ以外には、そういう危ねぇもんは何にもなかった」
「……」
856:マロン名無しさん
12/05/09 18:07:44.64
捜査状況とか話していいんですかこの男は。
そして土方は銀時が何となく一瞥くれただけでも、すでに出来上がってきてるように見えた。
銀時の隣で常に目が据わっている男は酔いに任せているのか再び口を開く。
「あー……違う意味でやべぇもんはいろいろあったぜ? けどあんなもんは幕府に戦しかける時にゃ何の役にもたたねぇからな……だれか趣味のいいやつがいたんだろうな」
「違う意味でって、なに? 変な薬でも見っけたの?」
思わず彼は問いかける。
桂がやられたという薬についてなら、多少知っておきたいととっさに思ってしまうあたりが何となくむなしかったが、土方は首を横に振った。
「いや。道具だ。拘束用の、拷問用の……あとはあれだ、なんつったかな」
いやなことを思い出しかける。桂にはめられていた手枷に、足枷。そして、それだけでは済むまい。
土方の言葉も、それだけでは済まなかった。
「ああ、そうだ沖田の野郎が、地下でつぶされてた道具類を見分けたんだが……たしか拘束具と一緒に淫具も、山のように」
「……」
聞くんじゃなかったぜコノヤロー……。
思わずうめきそうになったが、彼を責めても仕方がないので銀時はため息をひとつはくだけにとどめた。
……使われたんだろうな。
想像もしたくないことだが、もう知ってしまった以上気になってどうしようもなかった。
「なぁ……」
気づけば顔の赤い土方が酒臭い息を吐きながら銀時の方を見つめている。若干身体を乗り出しているので、思わず引いていた。
そんなことにはいっさい構わず、その酔っ払いは銀時をじっと見つめてくる。
「テメーほんとに一人で拘束されちまってたのか?」
「……なんでそんなこと聞くのよ多串くん」
「……一人でのこのこ行ってあっさり捕まるような野郎かよ、テメーは。他に誰かいたんじゃねーのか?」
「いや、俺一人だって。ホント。すっげー強い人斬りとやりあって、足場が悪くてとっ捕まっちまったって言ったろ?」
実際捕まったのは思いっきり油断したからであって、しかも再戦の折に大勝したわけだが。
「まぁチャイナもメガネも行ってねぇようだったしな……一人で行ったんだろうとは思うけどよ……」
まだ納得がいかないらしく、疑惑に満ちた表情で土方がぼそぼそと呟いた。
857:マロン名無しさん
12/05/09 18:08:16.43
その時、二人が注文した料理が出された。面倒くさいということで土方が丼ものを頼んだのだが、まさかまたカツ丼を二つ注文して奢ってくるとは思っていなかった。
ちょっと腹に重くないかこれ。まぁ夕飯だからいいっちゃいいけど。
大盛りで出されたカツ丼を前に銀時がため息をつくと、隣で土方がマヨネーズをどんぶりの上でくるくる回しながら盛り付けていた。
見ているだけでこっちの胃が油まみれになりそうなんだけど、多串くん……。
「他に、本当に誰もいなかったんだよな……?」
「おいおいしつこいね。俺はほんとに誰も見てねーよ?」
土方はマヨトッピングを終えたどんぶりに手をつけようとしたが、それをやめてどんぶりを見つめた。
あれ? もしかして後悔した?
もちろんこのマヨラーに限ってはそんなはずもなかった。彼の口調は顔色とは裏腹に、理性的ですらあった。
「オメーのほかに……オメーの言うことが本当なら、オメーと入れ違いぐれーに、誰かとっ捕まってたはずなんだ。……しかもそいつは、奴らからかなりひどい仕打ちを受けていた」
「……っ」
彼の言葉に思わず目を見開いた銀時には気づかず、土方は自らが作り上げたマヨカツ丼を見つめたまま唇を震わせる。
「それらしい死体は確認されちゃいねぇ……だが、そいつがいた形跡だけはあるんだ。殺されていねぇなら、奴が連れていった可能性もある」
自分の他にとらえられていた者は、一人しかいない。銀時は土方の言うところの「仕打ち」の現場こそ見ていないものの、嫌というほどその意味を知っている。
だが、第三者から客観的に語られるとは思ってもみなかった。
それにしても、饒舌すぎるこの男に、銀時の腹も立ってきた。
捜査情報一般人に公開してんじゃねーぞおい。
「拘束されてたそいつは、どうやら拷問されてたわけじゃねーらしいんだ。使用済みの淫具が散らばってる部屋が別に見つかったらしい……久々に殺し以外で気分の悪い報告受けちまった。調べた沖田の奴も軽く流しちゃいたが、ありゃあ内心苛立ってたな……」
「……で、何が言いたいんですかね、多串くんは」
少し抑えた声で問いかけると、土方はお猪口を再び開け直した。
勢いがつかないと言えないのだろうか。
858:マロン名無しさん
12/05/09 18:08:58.01
「とにかく、オメーがもしかしたら他に捕まってた奴のこと何か知らねーかと思ってな。空振りならしかたねぇが。まだ生きて捕まってるなら、どーにかして、やらねーと」
言い終えると、土方はいい加減しゃべり飽きたのか腹がもたなかったのかどんぶりをひっつかんでマヨカツスペシャルをほおばり始めた。
銀時はそれを見ながら心の中でつぶやいた。
……そいつ生きてます。
しかもあそこからちゃんと逃げだしてます。
そして君たちからも逃げなきゃいけない立場だったりします。
少し食欲が減退したままだったものの、彼もカツ丼を食らうことにして向き直った。しばらくは二人とも黙ったまま目の前の食事に取りかかる。
ややあってから、土方が口の中のものを飲み込んで言った。
少しだけ、前よりもろれつの回りが悪くなっている口調だった。
「とりあえず、このあたりで起こった誘拐事件や失踪事件と関わってねーか、その辺を洗ってみようとは思ってんだが……何にしても、胸糞悪ィ話だ。あいつら、寄ってたかって一人を嬲ってたらしいんだからよ……」
もうやめろ。
思わずそう言いそうになった
さすがに、叫びはしなかったが、かわりに別の言葉を吐き出した。
「……あのさぁ多串くん。今更言うのも遅いとは思うけど」
銀時はうめくように告げる。
「食事時にする話じゃねーよ」
「……だな、すまねぇ」
頭こそ下げなかったものの土方は素直にそう言った。やはり酔っているらしい。
だからといって、こっちの気分が晴れるわけでもない。
「大体……それって俺へのあてつけのつもり? 俺は無事逃げ出して、別に拷問とかひどいこととかされてません、怪我はしたけどっていう状態だよ、そりゃあ俺はね」
「いや……別にそういうわけじゃ……」
土方はすこしだけあわてたように否定するが、銀時は言葉を重ねてそれを中断させた。
「んじゃーなんですか? もしかしたら捕まってた他の奴? 野郎か女かはわからねーが、もしかしたらそいつも俺が助けられたかもしれねーとか、そんな風に言いてーんですかね、この税金泥棒は。
自分たちはあっさり取り逃がしちまったくせにさァ……それずいぶん調子良すぎじゃね?」
「……すまん。悪かった」
859:マロン名無しさん
12/05/09 18:09:35.74
素直に謝る彼の反応に調子に乗って責めてみたものの、よけいむなしくなっただけだった。
「……まぁ、力になれなくて悪いとは思いますけれどー? さすがに食事時の良識は守ろうよ多串くん」
「……ああ」
普段なら、そんなことを言わなくてもこんな話を長々とするような男ではないはずだったが。考えてみれば何がこの男をそうさせたのだろう。
再び二人は黙々と箸を動かしはじめた。腹には重そうに見えた量も、イライラで勢いづいていた彼にかかればたいしたこともなかった。酒の肴に、と甘いものを注文すると白玉あんみつを出された。残念ながらパフェは置いてないとのことだった。
やはり黙ったまま銀時はデザートを平らげる。土方はその間、ずっと酒を飲んでいた。よくよく見れば、土方の前のお銚子は既に七本目だった。銀時はまだ一本目すら開けきっていない。どう見ても、明らかにペースが速い。彼の酒の強さは銀時と同じくらいだったはずだが。
「あのさ……多串くん、ちょっと飲みすぎじゃない?」
きつく言いすぎたかとも思い、やさしい人ぶってみることにした銀時の言葉を、その酔っ払いはすべて無視した。
そして言う。
「……桂の奴が、捕まってたかも、しれねぇ」
「なッ……!?」
何で知ってる、と続けそうになり、思わず銀時は口を右手でふさいだ。
土方は銚子を傾けながらどこかとろんとした目で言葉を続ける。
「半分つぶれちまった部屋によ……黒い長髪と、桂の服の切れ端っぽいもんが見つかったんだよ……鎖にも、黒い髪が、いくつかこう……絡んでたらしいしな……」
「……今時、長ぇ黒髪の女なんてたくっさんいるだろーが。ヅラの服の切れ端ったってオメー、ヅラがいつも同じ服ならわかるけどよ……偶然じゃねぇの?」
「目撃情報が、途絶えた時期が、被ってやがんだ……」
ついにカウンターに突っ伏した土方に、銀時は倒れかけたお銚子を助けてやりながら声をかける。
「おーい、多串くーん?」
「桂の奴と……高杉ぁ……因縁、あんだろー……?」
「多串くん?」
「ぶっ壊されたり、してんじゃ、ねーだろーな……まさかよぉ……」
どうしてなのかはわからない。だが、土方は桂の身を案じているらしかった。
そのことに驚きながら、突っ伏したままぶつぶつと呟く土方を見下ろし、銀時は心の中で返答する。
860:マロン名無しさん
12/05/09 18:10:26.94
壊されかけてたよ。あの反応を見る限りじゃ。
だが。
「なんでそんなこと気にすんだよオメー。まさか、ヅラに気でもあるんじゃねーだろーな?」
思わず口をついて出た質問に、土方はカウンターを押しのけるように身体を起こした。そしてそのまま立ち上がると明らかに焦点も定まらないような目で、銀時の方を見ようとする。だが、ぐらぐらと揺れる彼の身体がそれを邪魔しているようだった。今にも倒れそうである。
「ちっげーよ! なんっで俺が、野郎なんかにッ……てか、よりにもよってあの野郎に気を持たなきゃいけねーんだよっ!?」
「あーごめんごめん。聞いてみただけ。からかってみただけ」
肩を掴んで押さえてやると、あっけなく土方は席に座った。が、そのままの勢いでカウンターに再び倒れこんだ。
幸いお銚子は倒さなかった。痛そうな音が店内に軽く響いただけで済んだ。
「高杉はぁ……まずいって……ほんと、あいつは、やべーん、だよ……ぉ」
へろへろになりながらも訴えてくる土方に苦笑しながら銀時はつぶやいた。
「それはむしろ、俺の方がよく知ってるよ……」
昔から知っていたのに、嫌というほどあの場で思い知らされた。
ため息をついて自分の酒を飲んでしまうと、銀時は寝息を立て始めた土方に一瞥くれて再びため息をついた。
結局、何が言いたかったのか分からなかった。それでも、おそらく土方は本当に桂のことを心配しているらしいということがよくわかった。
そしてそれが少しだけ、気に入らない自分がいた。
せっかくフォロ方くんに会えたのにねぇ。まぁこいつに相談したって仕方がないけどさ。そもそも恋愛相談だか人生相談だか、そういうことをする相手じゃねぇよな。
そんなことをぼんやりと考えてから、銀時は新たにあんみつを頼もうと口を開きかけた。
その時だった。
「トシー、いるかー?」
「あれ……ゴリラじゃん」
銀時が振り向くと暖簾を分けて中を見渡しているひげ男が視界に入った。銀時と目があうが、近藤の視線はその横にすぐ向けられた。
「ああ、いたいた……おーい、こっちだ沖田ァ!」
外の方に声を掛け、近藤は店の中に入ってきた。そのまま銀時たちの方にやってくると、土方を見下ろして肩をすくめた。
861:マロン名無しさん
12/05/09 18:10:57.86
「すまねぇが邪魔するぞ万事屋。……あーあー、こいつつぶれちまったのか?」
「なんか、勝手に飲んで勝手につぶれてったけど。俺に責任ねーよ?」
「いや、いいんだ。わかってる。最近こいつの様子がおかしかったからな」
「たまにまた深夜アニメとかつけてましたからね、体育座りでぼんやりしながら」
沖田がやってきて、相変わらず飄々とした声で銀時に言う。
「旦那、どーもすみません。うちの土方がつき合わせたみたいで」
「別に、土方くんの奢りらしいからいいんだけどさ。酒はちょっと飲み足りねーけど」
沖田にそういうと、彼は軽く口元だけ微笑んで土方の身体を揺らしてみたりして反応を確かめ始めた。その間に近藤が店主に声をかけている。
「おっちゃん、勘定してある? ……あ、してない? じゃ俺が払うから。いくら?」
「あーあ。ほんとにつぶれてやがら。近藤さん、ほっといて帰りやせんか? これじゃお荷物ですぜ」
「まぁそう言うな。ここんとここいつは毎日あちこち駆けずり回って鬼兵隊のことを調べまわってたんだからよ。少しくらい優しくしたってバチは当たらねーぞ総語」
酔いが回ったのもあるが、どうもくたびれていたからその回りも速かったらしい。
銀時はそんな状態でなんで土方がわざわざ自分に会いに来るのかと不思議に思ったが、口にはしなかった。
ふと、財布を取り出して店主と談笑している近藤の傍らの沖田と視線が合った。
「……土方さん、何か言ってやせんでしたか?」
肩をすくめながら銀時は応えてやる。
「……何が? 別にたいしたこと言ってなかったよぉ、お宅らの捜査じゃ結局ろくなこともわかんねーとか、結局鬼兵隊の足取りはつかめてねーとか。前に聞いたのから進展してねーってことしかわかってねーよ」
「あらら。土方さん余計なこといっぱいしゃべっちまったみてーだ」
……。俺そんなこと一切言ってねーんだけど。
高杉みてーな奴だよな、こいつ。察しがいいって言うか。
半眼の銀時に、沖田は土方を担ぎあげようと試しながら言った。
「桂のことなんですけどね」
862:マロン名無しさん
12/05/09 18:11:34.15
唐突すぎるんだよてめぇ。しかも一番俺が食いつきやすい所をわかってやがるなコノヤロー。
唐突に攻めを発揮する男、沖田は、どうにか土方に肩を貸しながら言葉を続けた。
「旦那ならたぶん何か知ってると思ったんですよ。その様子だと、おそらく無事なんでしょうが」
「なんでそんなことわかるわけ?」
思わず聞き返してしまう。沖田少年は別にいやらしい顔をするわけでもなく、淡々とそれに返答した。
「土方さんの話を聞いたはずの旦那が、慌ててるよーに見えねーから」
なるほど。こいつは本当に察しがいい。銀時は表情を変えずに内心苦笑せざるを得なかった。
「てこたぁ、土方さんの心配も無用の長物だったわけだ。はあ、大体最初から桂が妙な真似されてようがなんだろうが、気にしなきゃいいのに」
「なんでそいつ、そんなにヅラのこと気にしてんの?」
「あれ? 旦那はわからないんですかィ? 旦那ならすぐ気付くと思ってたんだけどな……」
肩からずり落ちてきた土方をどうにか支えなおそうと沖田は態勢を崩しかけたが、途中でため息一つこぼして手をはなしてしまった。思った以上に大変だったらしい。
……その決断、ちょっと早すぎない?
どさりと床に倒れる土方を無視して沖田は銀時に言う。
「攘夷志士でも、桂は好敵手、まぁ特別な標的なんでさァ。すぐ見つかる割にうまく逃げおおせやがるが、むやみに被害をださねぇ。今じゃ攘夷志士の穏健派とも言われるくらいで。
鬼兵隊みてーな超過激な奴らより、はるかに好感が持てますぜィ。もちろんムカつく奴に変わりはねーんですが」
床でぐうぐうと寝息を立てている土方をちらりと見やって沖田が続ける。その表情は心なしか、楽しそうにも見えた。突っ伏した土方は完全に真正面から床に突っ込んでいるため、かなり痛そうなのだが。
863:マロン名無しさん
12/05/09 18:11:56.38
「土方さんも、敵とわかっていても気が気じゃなかったらしいんでさァ。桂の奴が鬼兵隊に調教だか拷問だかされて奴らに染まっちまったか、あるいはぶっ壊されちまったか。あいつは俺たちの手で捕まえてーのに、そうなっちまってたら意味がねーんで」
調教、とこの少年は表現した。現場を検分した沖田という男の見解ではそうなるのかと一瞬うめきそうになる。
だが、とりあえず沖田の説明は銀時に得心のいく回答だった。土方の荒れようは、ある意味彼らしいものなのかもしれない。……本当に気があるかどうかは別にしても。
さすがに、酔った上であれだけ否定したのだから桂に対して気があるなどということはないだろうと思ったが。
勘定と話を終えたらしく、近藤がようやく二人の方に向き直った。
「総悟、帰るぞ……ってオイ!? 何でトシが床に突っ伏して尻上げてんだ!? 何プレイ!?」
土下座にしてはムカつく姿勢で土方は寝息を立てていた。
「なんか、こうしてほしいって土方さんに言われたんで」
沖田があっさりと嘘をつく。
彼のとぼけっぷりに、銀時は思わず苦笑した。
864:マロン名無しさん
12/05/09 18:12:26.32
銚子一本でも、ほろ酔い加減は味わえた。
結局銀時は、土方を背負った近藤と沖田の二人と店の前で別れ、もともとの目的地に向かっていた。
いないとわかっていて、昼間も行った場所に向かっている。
万が一にも、そこにいるかもしれない。
だが、もしそこにいたらどうしよう。
何か矛盾しているのだが、余計な話を聞いたせいで逆にその顔を見て安心したくなっていた彼は、ひたすら歩き続けた。
本当に、そこにいたらどうしよう。托鉢の坊主がこんな夜中までいるわけもないし。
だからといって、顔を見れないのも嫌だった。
その時はその時だ、と割り切ることにする。
別れ際に沖田は銀時にこんなことを言った。
「土方さんも旦那も、もっと素直になっちまえばいいと思いますよ……こんな飲んだくれるほどいろいろため込むより、よっぽど楽でさァ。素直になるのを恥ずかしがってるからこんなことになっちまうわけで。
俺みたいに素直に思ったことをくちにすりゃあため込んだりしやせんぜ。ああ旦那、ストレス発散に丑の刻参りとかお勧めしますぜィ。今ならこいつの髪引き抜いて持っていってもバレません」
近藤がさすがにそれを諌め、二人は屯所の方に戻って行った。
言葉の後半はともかく、沖田は珍しく土方のことを気にかけているようにも見えた。
でもって俺に、素直になれって?
まったくもってその通りだね。
いろいろ腹をくくってしまった方が、よさそうな頃あいだった。
本人に何も言わずうじうじしているから悪いのだ。そう、いろいろとためておくのはよくない。
……そしてそれは、桂にも言えることだ。
あいつも何も言わない。言わずに、耐えることをすぐに選んでしまう。あの日、自分が感情的に襲いかけた日に、少しだけ彼にすがっただけで。あげくに彼を責めるでもなく、再びすがることもなく、ただ自分の中にしまいこんでしまったのだ。
865:マロン名無しさん
12/05/09 18:12:58.93
角を曲がり、昼間とは様子が異なった路地を進む。確か、団子屋の少し向こうのところにいたはずだ。もうそろそろ、その場所が見える―
「……いるし」
思わず呟いて、それでも彼は道のはじに立っている編みがさの坊主に向かって歩き続けた。
何を言ったものかと思いながら近づくと、言葉を考え付く前に桂がこちらを見た。
銀時が近くにやってくるまでそのまま待ち、声の届く位置に来たところで口を開いた。
「……どうした。こんな時間に散歩か」
「そういうテメーは、こんな時間まで托鉢の坊主かよ」
言おうと考えかけたことをすべて忘れながら銀時は言った。何事もノリがあればいけるもんだと思う。
「怪我治りきってねぇのに、何やってんだ。さっき俺、真選組のやつらと会ったぜ?」
「ふむ」
桂は一度周囲を見渡してから編みがさをかぶり直した。溜息をついて、少し気を抜きながら銀時の方に一瞥くれる。そしてすぐ視線をそらしてしまった。
こいつ最近、俺にかまわなくなったもんな……
前はしつこいほど勧誘しに来ていたくせに。
案の定、桂はサバサバした様子で彼に言った
「では忠告通り帰ることにしよう。さらばだ銀時」
「……送る」
自分でも驚くほど、素直に言葉が出てきた。
「ん?」
すぐに彼に背を向けたため聞こえなかったのか、桂が足を止めて振り向いた。
もう一度、言ってやる。
「送る。家まで」
桂が黙ってしまった。
「……」
銀時も黙った。
「……」
というか、彼にはもう何を言っていいかわからなくなった。素直に心配だからと言えばよかったか。
さすがにそれはなめられていると思われるか? 変に思われんじゃねーの? あれ? 俺もう信用なかったりしねーよな……?
866:マロン名無しさん
12/05/09 18:13:17.25
内心冷や汗をかきながら言葉を待っていると、桂がどこか力を抜いた表情で言う。
「お前、時間はあるのか」
「……え? あ、まぁうん。別に用事もねーし」
新八と神楽が既に万屋に戻っているような気がしていたが、それはすぐに頭の隅に追いやった。心の中で一度だけ詫びる。
すまん。明日は相手してやるから。
「なら、少し飲まないか」
「へ?」
「エリザベスが無事の帰還を祝ってくれてな。何やらいい酒をくれたのだ」
「……俺は、かまわねーけど」
お前それでいいのか? え、もしかして俺いろんな意味で誘われてんの?
仮にも自分を襲おうとした人間相手にすることじゃねーだろそれ。こいつ何考えてんの?
銀時の内心の焦りなど、彼の表情には全く現れていなかった。桂の考えが、銀時にはまったくわからない。
「ではいこう。少し入り組んだ道を通るから、しっかりついてくるのだぞ」
桂はきびきびと移動を始めてしまった。仕方なくついていく銀時を時々振り返って確認しながら足早に歩いて行く。
完全に動きは元に戻っていた。一週間前と少し前は脚がろくに動かない状態で、あげくにあちらこちらに怪我をおったまま完治していない人間とは思えない動きである。
が、桂はやはり無理をしていたらしく、彼の家に着くころにはかなり息を切らせていた。
少しだけおかしそうに笑いながら、彼は言う。
「半ば寝たきりで一週間も過ごしていたからな……体力を取り戻すのも一苦労だ。お前はもう完治したのか?」
「まさか。けどもう包帯ぐるぐる巻くようなこともねーな」
「そうか」
言って家の中に彼を案内する。とりあえず手近な和室に通されたが、銀時が今日は月が出ていたことを思い出し、結局縁側で晩酌することになった。
867:マロン名無しさん
12/05/09 18:13:38.60
少し涼しい風のふく縁側で銀時がぼんやり月を見ていると、杯を二つと、日本酒の一升瓶を持って桂が部屋から出てきた。着替えていつもの衣になっている。
そういえば、こいつもそんなに着物のバリエーションがない気がする。同じもの四着とかなんかな、やっぱ。妙な着替えはいっぱい持ってるみたいだが。
出された酒は確かに旨いものだった。かといって土方のように泥酔するほど飲もうとは思わなかったが。もちろんここが桂の家であり、供されているのが彼の酒だという遠慮もあるが、泥酔する理由はないはずだった。
……いや、そうでもないか。
自分が泥酔したくなる理由となりかねない男が、彼の横で同じ酒を飲んでいる。
夜空には少し欠けはじめた月が輝いていた。時刻はもう夜をすぎ、深夜に向かうだろうか。あの二人には悪いことをしたと思うが、電話をするのもなんとなく避けてしまった。結局、明日になってから二人にしかられればすむと割り切ってしまう。
そして今、悩める男は悩みの原因と向き合っている。
本当の意味では向き合っておらず、隣に並んでいるだけなのだが。
その隣を見る。
桂は縁側に姿勢正しく座りながら気品のあるしぐさでお猪口を傾けた。
喉を鳴らして、ほう、と感嘆のため息をもらす。嫌味なほど絵になっているそれをぼんやりと眺めながら、銀時は胡坐かいて背中を丸めたまま自分の盃を傾けた。
ほんとにまぁ、隙のない……。少しはくだけないもんかね。
「銀時」
と、ふいに桂の唇が動いた。
「どした」
ぼんやりしたまま答えると、桂がどこか抑えた声音で再び唇を動かした。
「あの日……」
どきりというよりもグサリと胸に何か刺された彼に、和装のよく似合う貴公子は、月を見上げたままやわらかい風に黒髪をなびかせてしばらくだまった。おかげで、違う意味でもなにか気持ちが揺らぐ。胸が痛くてそういう気分にならないだけましだったが。
そんな彼につゆほど気づいた様子も見せず、桂は続けた。
「お前が俺を助けてくれたときに、高杉の奴も生きていたのか?」
……そうきたか。
868:マロン名無しさん
12/05/09 18:14:02.23
ある意味、再び傷口をえぐられたような感覚を味わいながら銀時はゆっくり返答した。
「……ああ。まぁ、ありえねぇぐれーぼろぼろだったけどな。キセルふかしてガンつけて、俺らより先に逃げてったよ」
結局、この男がいつまでもあの野郎を気にしているらしいことが腹立たしい。高杉のことが、そして何よりあれほど苦しめられてなお野郎のことを気にかけている桂自身が。
なんだかまた、薄暗いどろどろとした感情が胸の中で膨れはじめたような気がする。
「生きてて欲しかったのか?」
銀時が憎々しげに吐き出したその言葉に、桂が笑った。
え、笑っ……?
「ならば、いい……」
怒気をはらんだ声音で、彼はもう感情を隠さなかった。
「今度相対するときは、俺がこの手で必ず葬ってやる……その時は、手を出すなよ銀時」
あれ? こいつもしかして怒ってる?
どう好意的に見てもそうとしか思えない顔つきだった。
「そもそもあの館で最初に人斬りなぞと会わずあやつに会えていれば……捕まる前にぶった斬ってやれたものを」
「……ははは」
銀時は思わず肩の力を抜きながら笑った。桂にはあいつに対する執着心はあっても、考えていた方向とベクトルが違うらしい。
ややおいてから、銀時は鼻で笑った。
「馬鹿言うな、俺がたたっ斬っといてやるから譲っとけよ。大体オメーよぉ、あの野郎にまともに勝ったこともねーんじゃねーか?」
「稽古の時は防具が邪魔でやりにくかっただけだ。実践では負けんぞ」
「いや、どうかねぇ。あいつ、ちっとも腕さびついてなかったよ。もっかいやったら、またとっ捕まるんじゃねーの?」
「……次は、もうない」
「あん?」
「俺たちにはもうどちらが斬り伏せるか、それしかなかろう。会えば必ず敵対し、斬り合うことになる。そんなことはわかりきっている。……いや、喧嘩を売った春雨に捕まることはあるかもしれんな。いずれにせよ、次は決着をつける時だろうと俺は思う」
覚悟のようなものを感じさせる声音だった。庭を見つめる視線も、まっすぐ前だけを見ている。そのくせどこかはかなく危ういような、矛盾した感覚を覚えさせられた。
869:マロン名無しさん
12/05/09 18:14:36.17
「……おいおい。前みたいな自爆はもうやめろよ? すげぇ気負いまくってんじゃねぇか」
酔っているとしても、あまり過激なことを言われると少し怖くなる。そう、この男には前科があるからだ。桂が高杉に捕まって即座に自爆覚悟で爆弾を使った時に、いやというほどの驚きと恐怖を味わったものだ。
あの時の感覚だけは、もう味わいたくない。
つかなんだそりゃ。こだわりと執着のベクトルが違っても、特攻されたら何の意味もねーよ。
「……」
銀時の言葉に、桂は応えることなく黙ってしまった。どこか思いつめた表情で盃を傾けている。
何だよ、その顔。
冗談じゃない。お前に死なれてたまるか。
銀時は再び口を開く。こんどは、確固たる意志を持って。
「ヅラぁ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「やめてくれよ、そういうの」
押し殺した声音で横の男にそう言うと、彼はこちらを向いた。やや驚いたような顔つきで。
「……あいつをたたっ斬るのはかまわねーよ。俺だってぶちのめしてやりてーけど、別に譲ってやるし。……けどな、あん時みてーに特攻してもかまわねぇって思ってるんだったら、あいつに関わるのは絶対にやめてくれ。俺はオメーに、死なれたくねぇ」
「銀時……」
「……嫌なんだよ、そればっかは」
視線をそらさずにはいられず、銀時は真正面を向いて、手もとの盃を見下ろしながら続けた。
「てめーが攘夷活動やっていようが、妙なバイトしていようが、仲間と馬鹿やってようがかまわねーからよ……」
勝手なことだとわかりつつ、それを口にする。
「俺の目の届かねぇところに、手の届かねぇところに行っちまうのは、やめてくれ……」
最後には、思っていたよりも情けない声が自分の口からこぼれ出ていることに気づいた。高杉の笑い声が聞こえてきそうな気がするほど。
てめーで見捨てたくせになぁ?
そのとおり。だから勝手は自覚している。それでも言わずにはいられなかった。
870:マロン名無しさん
12/05/09 18:15:10.25
「……」
桂は黙って銀時を見つめていた。言葉の意味をとらえかねているのか、言葉について考えていてくれるのか、視線だけを感じながらも銀時には当然判断できなかった。
そうして、どれだけ時間が経ったかわからない。
ただ、月は天頂部分までにも移動していなかったから、実際はさほどたっていなかったのかも知れない。
不意に、桂が立ち上がった。
思わずそちらを見上げると、彼は日本酒に蓋をして彼に言った。
「そろそろ冷え込んできた。中に入らぬか」
その顔は、柔らかい彩りを得た、やさしい笑みだった。
さほど酔っていたとも思わない。
どちらが先だったのかもわからない。
どちらからともなく寄り添い合った。
それだけだった。
いや、それだけではなかった。
お互いに言いたいことを少しだけ言い、聞きたいことを少しだけ聞いてみた。
871:マロン名無しさん
12/05/09 18:15:30.86
「高杉は俺に指一本触れておらんよ」
それが気になっていたのか、と桂はどこか苦笑気味に言う。
「俺があいつ本人に捕まった、あの時まで……あいつは俺に触れもしなかった」
……そっか。
銀時は小さく返答した。それが見苦しい嫉妬だとでも思ったのか、安堵しつつも気まずそうな顔をしている。
「俺が好きか?」
銀時のようにばつの悪そうな回りくどい質問はしなかった。だから素直に聞いてみた。
だがそのごく単純な質問に、彼を抱き寄せる男は言葉を詰まらせた。
「……まぁ、その……うん」
「ならばそれほどでもないということか」
それであれだけのことをしてくれるのだから、お前はよっぽど嫉妬深いということだ。
「ちがっ……いや、そのな? ……ああ、もう……」
むずがゆそうなその反応に、苦笑する。
だが。
銀時が意を決して桂の耳元にその言葉をささやくまで、そう長くはかからなかった。
872:マロン名無しさん
12/05/09 18:15:49.69
辰馬はすでに酔いつぶれていた。豪快にいびきをかきながら自分の横で眠っていた。
辰馬を酔いつぶした男は、自分の前で柱に寄りかかっていたが、意識だけはあるようだった。部屋に残っているのは自分と辰馬と高杉だけで、あとはみなうまく自室に引き下がらせた。
辰馬はそのつぶれ様から、起き上がらせることはあきらめていた。体格的にも一人で担ぐのは大変だったし、自分も飲んでいたこの状態ではまず担ぐことはできないだろうと思った。
辰馬には誰かが脱ぎ散らかしたらしい着物をかけて布団代わりにしてやった。それから向き直ると、高杉はまだ動けそうではあった。だから声をかけた。
「立てるか? 無理なら何かかけるものをとってこようか」
「……いや。部屋に戻る……」
反応も返答もどこか鈍かったが、そう言いながら高杉は腰を上げようとした。そしてそのまま軽く足を滑らせた。
がつん、といい音がした。
「……ってぇ」
柱に後頭部をぶつけた高杉が顔をしかめ、思わず苦笑しながらそれに手を伸ばした。
「しっかりしろ。肩を貸すから」
高杉はあっさり自分の手をとった。珍しく素直なその姿に、よほど酔っているのかと呆れながらもその身体を支えてやった。
廊下をゆっくり歩きながらふと夜空を見上げれば、少しだけ欠けた月が昇っている。
「……銀時はどーした……あの野郎は」
「外の空気を吸ってくると出たままだが……まぁ心配はいるまい」
「別に心配なんざしちゃいねぇ……あいつが途中で逃げやがったせいで、俺が辰馬と飲み比べる羽目になっちまったんだぜ……」
「おかげでそのざまか。だがあれは挑発に乗ったお前が悪い」
ふいに高杉が押し黙った。
873:マロン名無しさん
12/05/09 18:16:19.28
「……? どうした」
「……辰馬の奴……変じゃなかったか?」
その言葉に振り返ってみるが、思い当たるようなことはなかった。
「そうか? いつも通りのはしゃぎようだったと思うが」
「……そう、見えたか」
「どうした高杉。何か気になることでもあるのか?」
結局高杉は、それに返答しなかった。
酔いのまわっている相手に対していろいろと考えさせるのも悪かろうと、それ以上は何も言わなかった。
そしてちょうどその時に廊下を突き当たり、高杉の部屋の横まで来た。障子をあけてやりながら、肩を貸している男に言った。
「ついたぞ」
「……」
「どうした?」
顔を覗きこむと、無表情のまま高杉が見つめ返してきた。いぶかしがって声をかけようとした瞬間、その男はこちらに体重をかけてきた。
とっさに支えようと軽く踏ん張った足が、唐突に払われた。驚きながらなすすべもなく、二人で畳の上に倒れこんだ。
身体を打ったが、わずかに顔をしかめただけだった。ただひたすら驚いていた。
「……高杉?」
開かれたままの障子の間から差し込まれる月明かりの下で、視線がぶつかった。
ひどくうつろな表情だった。
ぞっとして何かを言おうとした瞬間、言葉ごと彼にのみこまれた。
それはついばむような口づけだった気がする。
そのあとどんなことをされたのか、細かいところまでは覚えていない。
ただ、何を言っても高杉がやめようとしなかったことは覚えている。口づけだけではなく、脱がせようとするのも、肌に直接触れるのも。
やめろ、おい、よせ、高杉。
嫌悪よりも驚愕が勝っていた。この男がこんな真似をするとは思ってもいなかった。泥酔して理性がとんだかと思い、どうにか抜けだそうと抵抗していたが、不意にその行為が生々しくなった。
深く口づけされた。舌が口腔を蹂躙し、唾液を吸い上げられた。下腹部に添えられた手が、腰ひもを解いて衣服の中にすべりこんできた。
身震いした。
この行為には意志がある。
874:マロン名無しさん
12/05/09 18:16:40.47
敏感な部分に手が触れて、思わず悲鳴のようなものを飲み込んだ。
その時、おぞけが走って思いきり拒絶した理由は、純粋な嫌悪からだった。
仲間内でそういう関係になることはさほど珍しくもなかった。戦場は、血の気の多い男たちばかりだった。戦国時代でもよくあったことだが、女の代わりはやはり戦場には必要不可欠だったのだろうと思う。
仲間たちからさり気なく誘われたことも少なくはない。線が細い男はたいてい誘われやすかったが、自分に対しての誘惑が本当にさり気なくだったのは、常に自分の近くに白い夜叉や黒い獣、陽気な戦士がいたからかもしれない。
彼らはひたすら戦いだけを求めていた。支え合う意思はあっても、まったく方向が違ったのだ。
そして自分もそうだった。
戦に殉じ、信念に殉じて戦いぬく仲間であり同志。その関係がずっと続くのだと漠然と思っていた。
今思い返せば、その関係を壊したくないという意志があったのかもしれない。
がむしゃらに抵抗すると、高杉はすぐさま自分の上からはじかれることになった。
痛打された顔を押さえながら高杉は茫然としていた。妙だった。どこか理性的に触れてきたはずの彼が、自分が何をしたのか唐突に理解したような顔だった。
そうして、どのくらいの間、見つめあっていたかわからない。
「……酔い、覚ましてくらぁ」
ふらつきながらも立ち上がり、その男は自室を出ていった。
手ひどく殴って蹴り飛ばしてしまったが、それを成した手足は震えていた。
あとで謝る気にすら、なれなかった。
酔っていただと? あれだけ意志を感じさせたのに? 冷静に俺を見下ろしながら、自分のモノにしようとしていたのに?
それはおぞましさではなかった。
圧倒的な不信と、徐々に色濃く胸の内に広がる不安だった。
何が原因でこんなことになったのかわからなかった。あり得ないと思った。
高杉は、俺に懸想するような男ではない。
それともその考え方が間違っていたのだろうか。
何かが違う。何かがずれている。
875:マロン名無しさん
12/05/09 18:17:16.87
追いかけはしなかった。
追いかける前に、着衣を直したちょうどその時、銀時が通りかかったから。
「あん? ……そこにいんの、ヅラか。お前、高杉の部屋で何やってんの」
気だるそうに月明かりの下で銀時は自分を見た。
どこかまだ気分がすぐれないという顔つきだった。
「……高杉がつぶれかかってたので、わざわざ部屋まで運んでやったのだが」
「そなの?」
銀時を見て、妙に落ち着きを取り戻していく自分がいた。いつも通りの銀時の様子に、安堵さえ覚える。
先ほどのことは、忘れた方がいいのかもしれない。
苦い記憶にはなりそうだったか。
平静を保ちながら言う。
「ああ。何やら酔いを覚ますと言って、結局出て行ってしまったんだ」
「あいつ俺とさっきすれ違ってったぞ……足取りもおぼつかねーのに、どーこ行く気なんだろね」
足取りがおぼつかないのに放置したらしかった。
肩の力を抜きながら廊下に出ていくと銀時が肩をすくめた。
「放っといてほしそうな感じだったし……まぁ大丈夫でしょ」
子どもじゃないんだからさ。
ああ、いつも通りだ。何も不安がることはない。
そう思った矢先、銀時が表情を急に引き締めた。
「正直、どうなんだろうとは思うけど。あいつは察しもいいし頭も悪くないし……自分で出てったんなら一人で整理つけさせてやる方がいいんじゃねーかな……」
誰かに頼るの、絶対好きじゃないだろうしな。
「……それは」
どういうことだ?
と、聞いていたら。もしかしたら高杉のあとを追っていたのかもしれない。
事情を把握していたら、自分も別の行動をとっていただろう。
だがその時はなぜかそれを尋ねたくなかったのだ。
876:マロン名無しさん
12/05/09 18:17:37.61
不安が再び胸の中に広がっていって、漠然とした恐怖すら覚えていたから。
何かが失われるような感覚が広がってしまって。
「ヅラ?」
しばらく呆けていたらしく、気付けば銀時が自分の前にいた。
眉をひそめ、少し不安そうな顔をしていた。
「……いや、何でもない」
思わず首を横に振る。
「お前も部屋戻って寝といたら? 皆のかーちゃんみたいな世話焼きしなくていいってホント」
「大丈夫だ。だが確かに片づけは明日にしておこう」
その時は到底、何かできる気分ではなかった。部屋に帰って休みながら考えてみた方がいいと思った。
「……だから、そうやって率先しなくていいっつのに。お前他人の世話ばっか焼きすぎなんですー。たまには誰かに任せて自分は楽したらどうよ」
「そうか。ならお前も手伝え。どうせ手が足りんし、明日はほとんどの奴らが二日酔いだ」
「ちょ、んなのやだよ俺!」
文句を言って焦る銀時に不安を和らげられながら、その日は大人しく自室に帰った。
それだけだった。
たったそれだけのことだった。あの夜のことは。
……それからすぐ後だった。
坂本辰馬が戦争を抜けたのは。
877:マロン名無しさん
12/05/09 18:18:10.30
あの夜感じた不安の原因はそれだったのだと、辰馬から話を聞かされて初めて気づいた。
辰馬は主だった人間と話をしてから出て行った。反対や引きとめもさんざんあっただろう。だがそんなものであいつの意思を変えられるわけがない。
辰馬はそういう男だった。
直接見送ったのは、たぶん銀時あたりだろう。一番の理解者で、友人だったわけだから。あいつは辰馬をいつも通り気楽な顔で見送ったに違いない。
自分はおそらく、仲間内では一番最後にあいつと会話したのだろうと思う。
隣に座った男は、戦闘時のような威圧感も鋭さも、普段の軽薄さと陽気さもなりをひそめた不思議な状態だった。
はっきり言えば、めずらしく真面目だったということだ。
「おんしは止めんのじゃな、高杉」
その言葉に鼻で笑ってやった。
「はっ、止めてどうする。やる気なくした奴がこんなとこにいたって邪魔なだけなんだよ。大体てめーが決めたことをあっさりひっくり返すタマか?」
「それもそうじゃが……やっぱりおんしゃ察しちょったかの」
「まぁな。薄々ってとこだが」
「ほうか」
寂しげにも見える微笑で、辰馬がうなずいた。
こういうときは妙に落ち着いて、貫ろくのある男だった。
不思議なものだ。普段はあり得ないほど抜けていて、阿呆という二文字がこれ以上ないほど似合う男なのに。
辰馬の次の言葉は、ややためらった後の言葉だった。
「……おまんも来るか?」
「あぁ? 本気で言ってんのかそれは」
思わず苦笑していた。
坂本は苦笑いした。
「どいつもこいつも、戦場で散らせとうない猛者ばかりじゃ。まっこと悔しいの」
この口ぶりでは引き留めに応じるどころか、色々な人間を引き抜こうとしているようだった。実際、彼についていくという男がいると聞いていたので失敗ばかりではなかったわけだが。
だが、その表情ですぐにわかった。
誰よりも誘いたいメンバーは、誰一人その誘いに乗らなかったのだと。
878:マロン名無しさん
12/05/09 18:50:10.75
この戦争の意味を辰馬はよく知っている。理解した上で、こいつはそれを自分のためにも他の人間のためにもならないものだと考えている。
実際にそれは正しい。
だが……間違っている。
当人にとっての必要性というものがあるのだ。
「あきらめろ辰馬」
強い奴は、有能なやつは皆、似ている。
強い芯を持っているから逆になかなか折れない。自分の信念を捻じ曲げない。
自分の信念を、捨てることもあきらめることもしない。
「それもテメーの言うところの時勢の一つだぜ」
「あっはっはっはっはー、確かにそうじゃ! ……ま、簡単にゃあきらめられんがの」
「どいつもこいつも、戦場で死ぬとは限らねぇさ」
そうあった方がいいのかもしれないが。
「おんしゃこれからどうするんじゃ」
唐突に辰馬が立ちあがった。話はもう終わりということだろう。
「俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
俺も決めた。これはお前のおかげだ。
あの日の宴のあとで、決めた。
もう違えない。自分の道は自分で敷く。
不敵に笑っただろう自分に、辰馬は笑い返した。いつもの陽気な笑顔だった。
「もう他には何も言わん。達者でいとうせ」
「そうかい。ま、テメーも達者でな」
差し出された大きな手を、笑いながら軽くはじいてやった。
握るつもりもなかったらしく、それだけで満足げに辰馬はその場を離れていった。
879:マロン名無しさん
12/05/09 18:51:12.75
眠りの浅さに嫌気がさした。
「またか……」
高杉は口元を歪めながらつぶやいた。
同じような夢は今までもよく見ている。久しぶりにあの男が出てきたことには驚いた。
それにしても、どうも調子が悪い。怪我を負った頃から、ちょっとしたことだけですぐに目を覚まさせてくれるいやな身体だ。
だからなおさら怪我の治りが遅い。そんな悪循環を繰り返し、一時は睡眠薬の服用も考えたのだが他の傷薬を調合されていたので許可されなかったしひどく止められた。
そもそも昔はもう少し治りが良かったと思うのだが。
うつぶせの体勢のまま横になっていたが、彼は唐突に起き上がった。
背中の大傷が痛むが無視する。痛みは頭から切り離せばいい。その程度は我慢できる。
だが治りが悪いために座りながら寄りかかれないというのは、なかなかつらいものだった。こればかりは熱の蓄積と傷の悪化が避けられないのでどうしようもない。
こんなことならあの時かばったりしなければよかったのだ。
だが。
やっちまったもんはしかたねーよな……。
思わず笑う。
自分でもあの時の行動はよくわからない。桂が爆弾を転がした瞬間、勝手に身体が動いていた。
あの時は確実に、桂をかばっていた。
そのくせ、炎の中で意識をなくした桂を再び見たときは、殺意がわいていた。
だからそのまま放置して一人死なせてやろうかと思い、一度は見捨てた。
比較的近くにいた万斉の息を確認して隠し通路に落とし、不意に桂に振り向いた。
昔と中途半端に変わらない男が、倒れていた。
880:マロン名無しさん
12/05/09 18:51:36.71
どうせなら確実に殺せる方法をとれよ、馬鹿が。
無意識とはいえせっかくかばったのに、ここで死なれるのはなおのこと癪にさわった。
その判断はおそらく一瞬のことだった。迷いも何もなく、その男に近づいた。
もう少し、てめーも付き合え。
このくだらねぇ世界に付き合え。
俺が壊す世界を見届けろ。邪魔するなら邪魔しにこい。投げ出してんじゃねーよ、こんなところで。
桂を担ぎあげ、すぐに移動を開始した。危ないところで館を出た。
全身が痛んだ。だが無視した。意識したら下手をすると歩けなくなるとわかっていた。
館に再び戻ろうとしている男が自分に気づいて足を止めた。そいつに桂を放り投げるように落とした。驚いたようなそいつの顔も一興だった。
そして二人と別れた。
紅桜の時といい、どうもあいつらは敵に回すと面倒くさい。
だがそれを面白がっている自分もいる。
窓の外を見れば、少し欠けた月が夜空に輝いていた。
畳の上に腰をおろし、高杉は三味線に手を伸ばした。
881:マロン名無しさん
12/05/09 18:52:00.28
何か、違和感があった。
河上万斉は痛みを堪えながら身を起こし、枕元のサングラスをいつものようにかけた。同時に扉をたたく音が聞こえ、返事を待たずに中に人が入ってくる。
それは能面のように無表情な男だった。
「おや、起きておいででしたか」
言いながら彼は手に持っていた盆を近くの机に置く。盆の中身は水の入ったコップといくつかの錠剤だった。怪我の治療薬だが、基本的には痛み止めが主である。
「今し方。何か用でござるか」
「いえ、ご様子を伺いがてら、お薬を届けにきただけですよ。明日からまた例の交渉任務をなされるということですが……そのお怪我で本当に?」
「日常生活が可能な程度には回復しているでござる。無理をしなければ問題もない」
仮に何かの戦闘に巻き込まれたら、あっさり死ぬかもしれないだろうが。
「ならばよいのですが」
そっけないが、どこか安心したような声音である。だがこの武市にとっては、彼の計画通りに事が運べばたとえ万斉が死のうが問題はないのだ。案じているのは彼の身の上ではなく、あくまで鬼兵隊の予定の進行である。
それは構わないのだが。
ふと、万斉は気にかけていたことを尋ねた。
「参謀。晋助は、あの時桂を助けたでござるか?」
さすがに率直すぎたのか、武市の反応はやや遅かった。万斉が自分に尋ねたことばの意味をいろいろと考えたらしい。
「……? なぜそんなことを」
「いや、少し気に掛かることがあってな」
大したことではないでござる、と口早に告げると、その男は少しだけ思い返すようなしぐさをしてから答えた。
「助けるどころか、本当に何もされていませんでしたよ」
「……何も?」
ええ、と小さくうなずいて武市は続ける。
882:マロン名無しさん
12/05/09 18:52:42.61
「私もお願いしませんでしたから、御覧になっていただけですよ。もっとも、それだけで桂さんを精神的に乱すことができると踏んでいたわけです。実際、そのとおりになりましたし」
「そうでござるか」
「はい。ただ、しばらくの間部下を払っていたときもあったと報告は受けています。その間に何かされたのかもしれませんが、はっきりとは」
武市の言葉は信じられなくもなかったが、おそらく何もしていないのではないかと万斉は思った。
……そう、高杉の意図は、もっと違うところにあるような。
しかし、と武市はどこか残念そうな声音で再び口を開いた。
「桂小太郎は本当に強い精神力で。二日もすれば確実に陥落させられると思っていたのですが……」
ため息混じりに武市は淡々と続ける。
「念を入れて晋助さんにご足労願ったのに、みごとに逃げられてしまいました。まったく大した方です」
「……」
彼は、武市にそれ以上の追及はしなかった。
その後はいくつか次の計画の話を彼と交わし、武市は部屋を出ていった。
しばらくの間万斉は、自分の質問に対する武市の返答内容について考え込んでいた。
やはり解せなかった。
彼は寝台から起き上がると窓に向かった。
カーテンのない窓は、月明かりの夜空を美しく映し出している。
月夜に窓を開け放つと、風に乗ってわずかに三味線の音が聞こえた。
その音色は万斉をしても、ひどく読み取りづらいものだった。
聞き取りづらいのは奏でている人物との距離があるためだろう、当たり前のことだ。それでも彼は、音色さえあればまず奏者の感情や意志を読み取れないことはないのだが。
万斉はため息を吐いた。
確かに武市は嗜好の問題こそあれど、狡猾に合理的に行動する男だ。その男が二日で陥落させると言っていた以上、精神的に強かろうとそれも計算のうえであったはず。
宿敵の前で凌辱される屈辱など、考えただけでも反吐が出るが、果たしてそれは、あの桂に対して本当に効果的だったのだろうか。
883:マロン名無しさん
12/05/09 18:53:11.42
確かに高杉は宴に招かれた。だが興が乗らねばあの男は本当に何もしない。そもそも、あのような場に好んで出向く人間ではないはずだった。だからこそ、万斉がその話を聞いた時から感じていた違和感だったのだ。
昔の仲間が、紅桜の一件で完全に敵対したという桂が捕らえられたから興が乗った。それはありえるかもしれなかった。だが、本当に興が乗っただけで三日も休まずに眠らずに、桂がいたぶられる様を見ていただと?
……ありえない。
常のあの男なら、せいぜい顔を出して口を出して嘲笑って終わりだろう。武市に呼ばれたなど、口実に過ぎないように万斉は感じていた。
だから。
……高杉は本当は、桂を助けたかったのではないだろうか。
捕らえられてしまったあの男のために、傍にいてやったのではないだろうか。
高杉があの場にいれば、桂は常に高杉を意識するだろう。ひどい苦痛と屈辱を受けても、憎むべき対象がそこにいれば、意識の奥底で踏み留まることも可能かもしれない。だとしたらその行為は、安らぎや癒しとは真逆の、だがまごうことなく救いの手となる。
884:マロン名無しさん
12/05/09 18:53:43.06
……高杉はそのことをわかっていて、その身に桂の敵意と嫌悪と侮蔑を浴びながら、自分なりのやり方で助けていたのではないだろうか。
そこまで考えたところで、万斉は深く息を吐き出した。
……すべて推測に過ぎんな。
月を見上げながら、自嘲の笑みを浮かべる。彼の視線の先、雲がかかって先ほどとは異なる風情を見せ始めた朧月は、流れてくる三味線の調べのように輪郭を現さない。
もちろん万斉は、それを高杉に確かめる気は毛頭なかった。この藪を突けば蛇どころか鬼を出しかねない。分かり切った危険をおかす趣味など、彼にはない。
いずれにせよ、あれだけひねくれた男に聞いたところで本音を語るとは思えなかった。特に過去の同志の話などは。
彼は苦笑した。
高杉の歌はノれないのではなく、ノりにくい。わかっていて彼を挑発しているのか……案外、当人は気付いていないかもしれない。
その音色もまた、人を魅了する類のものなのだ。
時折寂しげにも聞こえる弦の音は、長い間独奏を続け、やがて夜空に消えて行った。
885:マロン名無しさん
12/05/09 18:54:12.58
「綺麗アルー」
万華鏡を月明かりや外灯で覗きながら神楽がはしゃいでいる。それなりに高い和食の店だったが、開店記念とかで神楽に小さな万華鏡をくれたりもした。
それはお子様扱いなのかもしれなかったが、女性にだけです、と言いながら店員が神楽に手渡していたので、彼女は喜んで新八に見せびらかしたていた。
「よかったねぇ、神楽ちゃん」
新八は楽しそうな神楽を見ながらその後ろをのんびり歩いた。
食事を終えたあとはお代わり自由のスープで閉店間際までねばってしまった。それでも咎められなかったしお土産までくれた、かなり良心的な店だった。
店では二人でどうでもいいことを話した。たまに銀時が話題になった。なんとなく、今日は銀時は帰ってこないだろうと二人は予想していた。
だから神楽と新八は一緒に駅に向かっている。お妙には職場を通じてすでに連絡してあるから、帰るだけで良い。
「んー……」
いつの間にか不満げにくるくると万華鏡を回し始めた神楽に新八が気付く。
「あれ、どしたの神楽ちゃん」
「さっき見た模様が、定春の顔そっくりだったネ。もう一回あの模様見たいアル」
唇をとがらせながらつぶやく神楽に、新八は穏やかに笑った。
886:マロン名無しさん
12/05/09 18:54:32.45
「あはは、そんな模様あったの? でも無理だよ。同じ模様にはならないと思うよ」
「そうアルか? 残念ネ……じゃ、今度は新八のアホヅラ模様出すアル」
「いや、それこそ無理だろ」
冷静に突っ込みつつも、新八は苦笑する。
妙に穏やかな気分だった。
回ってしまえば万華鏡の中にある飾りが場所を変え、彩りを変え、その模様は確実に形を変える。一度変わってしまった万華鏡の模様は奇跡でもなければ全く同じ模様にはならないだろう。似たような模様は望めたとしても、何かが違いどこかが違う。
一度変わってしまったら、同じ形には二度と戻らない。
だからこそ、その模様はそれぞれが美しい。
そして美しい一瞬が連なって回り続けるのだ。
その輝きで見る者を魅了し続けながら、決して止まることなく、形を変えていくつもの模様を描きながら。
月明かりの下で、神楽の手の中で。
その小さな万華鏡はとめどなく回り続けた。
887:マロン名無しさん
12/05/09 19:18:23.12
アンタは今すぐ貼りつけてる文章を親御さんの前で音読してきなさい
888:マロン名無しさん
12/05/09 19:26:47.75
>>887
月詠腐婆
美しい銀桂小説に嫉妬きめえ
889:マロン名無しさん
12/05/09 19:56:18.80
こんなとこに貼っても誰も読んでくれないよ
890:マロン名無しさん
12/05/09 20:03:29.19
キチガイには日本語通じないから放置しといた方がいい。
こういう荒らしは放置されるってことが一番ダメージくらうから。
顔真っ赤にして画面の向こうでは半ベソ書い荒らしてるっつーのがこれまでのコイツの行動パターンからして手に取るようにわかる。
891:マロン名無しさん
12/05/09 20:31:22.90
放置できてないじゃんw
892:マロン名無しさん
12/05/09 20:34:22.66
しりとりでもする?
893:マロン名無しさん
12/05/09 20:34:30.33
>>889
だからバレスレに貼った^^
月詠腐ババア嫉妬ざまあ
894:マロン名無しさん
12/05/09 20:34:48.97
月詠腐キチガイには日本語通じないから放置しといた方がいい。
こういう荒らしは放置されるってことが一番ダメージくらうから。
顔真っ赤にして画面の向こうでは半ベソ書い荒らしてるっつーのがこれまでのコイツの行動パターンからして手に取るようにわかる。
895:マロン名無しさん
12/05/09 20:35:04.27
月詠腐放置できてないじゃんw
896:マロン名無しさん
12/05/09 20:44:57.33
質問してもいいかな?
あの、あなたは去年の3月11日もこんな事をしてたんですか?できたんですか?
897:マロン名無しさん
12/05/09 21:16:15.61
去年の3月11は逆裁にはまってた気がする
898:マロン名無しさん
12/05/09 21:22:47.97
答えてくれてありがと
でも悲しいし辛いわ
何で世の中理不尽なんだろう
899:マロン名無しさん
12/05/09 21:24:54.42
なんか近江屋みたいな口調だな
つか間違いなく女
900:マロン名無しさん
12/05/09 21:58:30.59
さらさら さらさら
背中を向ける桂の中途半端な長さの髪の毛が、風に嬲られて流れている。
なんで風で舞う髪がこんな規則的に流れるんだ。まるで風に梳られている
ように見える。
自分の好き勝手な方向に動くものとは違い、髪の毛までお行儀いいのか
こいつは。
何となくむかついて、さらさら流れる髪を引っ張ってやった。
ずっと銀時を空気みたいに放置して、何やら書き物をしていた桂が眉間に
皺を寄せて振り向く。
「なんだ貴様は。邪魔をするなら帰れ」
「いや、統率のとれたヅラだなあと思って」
「ヅラじゃない」
桂は仏頂面で銀時の手を邪険に振り払った。
「銀さんいい子で待ってるんだけど、客ほっぽりだして、いつまでたっても茶
菓子のひとつも出てきやしねーし」
「誰が待っていろといった。勝手に上がりこんだくせに」
「追い出さなかったんだから、まんざらでもないだろ」
「面倒だからだ。大体、俺は万屋に行くときはちゃんと手土産を持参している
ぞ。手ぶらで押しかけておいて図々しい」
「いやほら、それはあれだから。銀さん自体が手土産みたいなもんだから」
901:マロン名無しさん
12/05/09 21:58:50.87
「こんな死んだ魚の目の男などいらん。天パがうつるわ」
「お前自分がキューティクルだと思って調子にのってるだろ。パーマの失敗で髪質変わっちまえ」
「パーマ以前にお前の存在が何かの失敗だ」
既に書き物の続きは諦めたらしく、桂は銀時に向き直るといつものように終わりのない応酬をする。
人のコンプレックスを小馬鹿にした態度が憎らしい。
何かしら失敗をあげつらってやろうとまじまじと見る。
しかし。
(神様とかいるんなら、こいつは絶対贔屓して作ったよな)
至近距離で睨み合う桂の顔は、飽きるほど見慣れた銀時にとっても十分きれいだと思えるもので。
「・・・お前はあれだ、ダイエットのやりすぎて骨皮になってるじゃねえか。ス○オがトリビアの影ナレ
やってるのにあやかろうと・・・」
ついまじまじと見とれてしまったのをごまかすために、目をそらしてたまたま目線の先にあった桂の
手首を取った。途端にぎょっとする。
「お前・・・また痩せてないか?」
もともと桂は華奢な男ではあったが、それはきちんと筋肉がついた伸びやかな細さだった。
今つかんでいる手首は、かつて記憶にあるものより一回り細い。
「・・・気のせいだ」
桂は銀時の視線から逃れるように視線を落とし、つかまれていた手首をすっと抜く。
それを追いかけて、銀時は今度はしっかりと桂の手首を掴まえ直した。
902:マロン名無しさん
12/05/09 21:59:24.27
「銀時、離せ」
「何があった」
「何もない」
視線を逸らしたまま、桂は短く言い捨て、銀時の手を振りとこうとするが、力は銀時のほうが上だ。
「・・・・高杉か」
「!」
「やっぱりそうか」
反射的に顔を上げてしまった桂は、鎌をかけられてたのだと知り、銀時の手から逃れようと更に暴れた。
身をよじって離れようとするのを許さず、銀時は細い体に圧し掛かる。
「何された?」
「銀時!重い!のけ!」
無駄だとわかっていても諦めきれないのだろう、桂はなおも銀時をはね退けようともがいた。
しかし、両腕をまとめて掴まれて畳に縫いとめられ、腰の上に乗られた状態では徒労に終わる。
「何されたか言えよ」
「・・・・・・」
力で敵わないならせめて口だけでも割るものか、とでも思っているのだろう。
桂は固く口を引き結んでそっぽを向いた。
そんなことをすれば、却って相手はどれほどの隠し事なのか気になるということなどわかっていない。
「・・ま、いいや。体に訊くし」
桂が非難の眼差しを向けるより速く、銀時の手がきっちりと合わされていた桂の着物の袷を一気に割った。
903:マロン名無しさん
12/05/09 22:01:23.51
>月詠腐ババア嫉妬ざまあ
え?自分月詠むしろ嫌いだけど
バレスレに貼るのは勝手にすれば
このスレはもう使いものにならないな・・・
904:マロン名無しさん
12/05/09 22:01:30.16
「へぇ・・・こりゃまた随分ご無体されたようで」
羞恥に震える桂をねじ伏せながら、銀時は白い肌に残された痕跡を揶揄した。
執拗に付けられた赤い鬱血や歯型まで残る噛み傷。
そして変色して紫と黄色のにじんだ模様になっている暴行の痕。
おそらく、合意ではないのだろう。
この乱暴の証拠を見るまでもなく、数ヶ月前決定的な決裂をした高杉を、頭の固い桂が
諾々と受け入れるのは考えにくい。
もともと桂は高杉には甘いところがあるが、それで信念を曲げるような男ではない。
「無理やりレイプされて、ショックで飯も喉を通らなくなったわけ?
信頼してた男に何度も裏切られちゃ、食欲の薄いお前にはきつかったのか?」
「・・もういいだろう、離せ」
裏切り、という言葉だけでも今も重いのだろう。桂は沈痛な表情になって目を伏せた。
鈍すぎる、そして甘すぎる男だ。
それがあそこまで高杉を暴走させ、またあまたの人を惹きつけ、銀時をここまでやきもきさせる。
本人だけが、それを知らない。
「・・・まだだ」
桂がいぶかしげな表情で顔を上げた。
「ちゃんと全身確かめてやる」
さっき文句もつけられずきれいだと思った桂の顔が、悲しげに歪んだ。
905:マロン名無しさん
12/05/09 22:01:59.78
あきらめたように抵抗をやめた桂の手首を、それでも念のため解いた半幅帯で縛りあげた。
羞恥のためか、時々震える体を舐めるようにじっくり確かめ、傷つけられた場所をあげつらう。
そのたびに桂は苦しい顔をして、否定するように首を振った。
上から華奢な桂の体の線に沿って手を下ろし、長い足を胸に付くまで持ち上げたときは、
固く閉じていた目を開き、小さな声で許しを乞いた。
普段にはない弱弱しさは、逆に男の嗜虐心をそそる。
桂はまったく無自覚だろうが、それが却ってたちが悪い。
白く細く伸びた足を撫で、太ももから浮かぶ青い血管を指でなぞり、足の付け根を覗き込んだ。
「やっぱ突っ込まれたのか。まだ裂けてる」
「銀時、もう・・・やめてくれ」
震える声を無視し、固く窄まった穴を指でさぐる。触れると怯えるようにきゅっと縮んだ。
もともとの色の白さもあってか色素も沈着していない、薄赤い桂の秘部は痛々しく幾筋か裂傷が走っている。
先にここを侵略した男がつけたものだろう。
「かーいそうにな」
「うっ」
そこに無理に指を突き入れると、桂が呻いた。
裂けた傷口が傷むのか、排泄器官に押し入られる圧迫のためか、またはその両方か。
906:マロン名無しさん
12/05/09 22:02:28.02
「痛いか?」
わざわざ桂の顔を覗き込んで聞く。
銀時を見返した黒い瞳は空ろで、目じりが潤んでいた。
「お前、わざとじゃないのはわかってるけど、わからないのもいい加減性質が悪ィな。
色っぽい顔しやがって」
「・・何を言っている」
「自分がどう見られてるか、自覚してなかったのか?
高杉なんて隠してもいなかったぜ。
気が付いてないのはお前だけだ」
「・・・お前は」
「あ?」
「お前は、なんなんだ・・・。こんなこと、どうして・・・」
括られた腕で顔を覆い、桂はすすり泣いた。
「・・だから、気が付かないのお前だけだって。
あんだけ必死こいてお前を探し回ってさ、重症負ってむきになって、かっこ悪いったらねえよ。
なのに当人は全然警戒心もねえし。あげく、余所の男に突っ込まれるし」
「なにを・・言ってるのかわからん・・・ッ」
「俺はもう言わねーぞ。ヒントは十分あげましたー。後は自分で考えろ」
腰を引き上げるようにして、高く上げさせた。
引きずられ畳を滑る桂が制止の声を上げたが無視し、銀時は桂の秘穴に舌を差し入れた。
907:マロン名無しさん
12/05/09 22:03:18.13
「ひっ」
生温かくやわらかくぬめる未知のものに、恥ずかしい場所を舐められて、桂は悲鳴を上げた。
しかし銀時は頓着することなく、指を使って穴を押し広げ、奥に舌を入れてくる。
背筋が泡立つような感触に、桂はびくびくと震えた。
抱え上げられた足をじたばたさせ、銀時の舌をそこから外そうともがくが、
腰をもう一方の手でがっちりと捕まえられて足が動くだけだ。
「銀時ッ、気持ち悪い・・・いやだ!」
「そのうちによくなるって、多分」
「多分ってなんだ!いいから、もうやめ・・ッ」
たっぷりと唾液で塗らされたそこに、銀時は性器を模して指を突き入れた。
桂の息がつまる。
尚も嫌だというのを押さえつけ、挿入する指を増やした。
「いたっ・・」
「あ、裂けちまったな。まあ仕方ないか、ケガ直ってなかったもんね」
「わかっているならやめ・・・っ」
「いやいやいやもう無理だから。男と車は急には止まらないから」
体内に入れられた指を、穴を広げるように開かれ、桂は圧迫感に喘いだ。
まだ日が残るため部屋は明るく、目前に晒された桂の中は、赤く色づいてゆっくりうねっている。
(ここに入れたら、すげーキモチイイだろうな・・・)
まとわりつく感触を想像しながらも、桂を苛む手を休めることなく、目的のために秘部をこね回す。
指が3本入るようになったところで、銀時は自分のパンツの前を寛げた。
銀時の性器は、桂の悶える様と、時折漏らす呻きともつかない喘ぎ声といった媚態で、
もうしまっておけないくらいになっていた。
908:マロン名無しさん
12/05/09 22:03:35.70
思いついて桂の性器を見ると、経験の薄さを示すようにまだきれいな色をしているそれが、
少しだが勃ち上がってきていた。
「へえ、お前気持ちよくなってきたの」
「そんなわけあるか!・・・ヒッ」
泣き声で叫ぶ桂の、揺れる性器をいきなり握りこむ。
「ちゃんと感じてんじゃん。嘘はよくないよ、小太郎君」
「離せ馬鹿・・・ッ、あ、ああっ」
桂がつかまれた手を外そうと縛られた手で抵抗するのを、半勃ちの性器を擦り上げてやる。
もともと性に対してさほど免疫のない桂は、他人の手の感触に過剰なほど反応した。
白い顎をのけぞらせ、髪を振り乱す。
敏感な反応が楽しくなり、銀時は更に乱暴に桂の性器を擦り、先端に爪を立てた。
「いや・・ああああッ」
途端、桂の性器が震え、あっけなく精を漏らす。
腰を抱え上げられた体勢だったため、自分の精液をまともに顔にかける状況になった。
「おー、セルフ顔射かヅラ。エロいな」
乱暴にイかされた桂は、状況は把握できないのか、荒い息を吐きながら呆然と銀時を見ている。
白い精に汚されながらも無防備な表情は銀時の欲をそそった。
「気持ちよかっただろ?今度はこっちを気持ちよくしてくれ、な」
放心状態の桂の返事を待たず、銀時は先ほど解した桂の秘部に張り詰めた自身の性器を宛がった。
かつて乱暴された記憶があるだけに、桂の体は反射的に固まる。
その細い腰を抱え、銀時は体重をかけてその体に圧し掛かった。
909:マロン名無しさん
12/05/09 22:04:10.78
「銀時、頼む、やめてくれ・・・っ!」
「きっついけどまーなんとかなるだろ。出るとこなら入るはずだ物理的に。根拠はねーけど」
「ふざけるな、やめ、――――――ッ!!」
根拠のない言葉をつぶやき、固く窄まった穴を無理に押し広げて侵入してきた銀時に、
桂は声にならない悲鳴をあげて仰け反った。
がくんと脚が引きつり、ひゅっ、と息の抜ける音がする。
貫かれた衝撃で息も絶え絶えな桂の中はひどく狭く、押し入った銀時も先端を固く
食い締められているようで動かしづらい。
もともと傷ついていた秘部は、裂けてはいないがひび割れて血が滲んでいた。
「おい、ヅラ、もうちっと緩めろ。動かせねえじゃねえか」
「あ・・・あぅ、嫌、もう・・・抜いて、いたい・・・・」
半ば恐慌状態の桂は、銀時の勝手な言い分など理解していない。
焦点の合わない目で、ゆるゆると頭を振りながら、やめてくれと繰り返すばかりだ。
哀れを誘う状況だが、銀時はむしろその稚さに自身の欲望がより滾るのを感じた。
「悪いな、ヅラ」
「え・・・?」
突然の謝罪が飲み込めない桂が、銀時を見上げる。
長いまつげについた小さな涙の粒が、表情と相俟って幼い子供のようだ。
それを泣かせることに暗い喜びを感じながら、銀時は押しつぶすように押し付けていた腰を外し、
あぐらをかく姿勢になった。
まだ桂の中をろくに味わっていない銀時の性器は、黒く張り詰めて先端から汁を零している。
銀時は乱暴に両手で桂の細い腰をがっちり掴むと、体ごと自分の起立した性器に叩きつけた。
910:マロン名無しさん
12/05/09 22:04:31.14
「ひああああっ」
銀時の腰に跨らされた状態で、乱暴に竿の半ばまでを挿入され、桂は髪を振り乱して悲鳴を上げた。痛みに震える体を抱きしめ、銀時は桂の尻を鷲?んで広げさせ、更に奥まで挿入した。そのまま、桂ごと揺さぶる。
「あっ、痛ッ・・・うぐっ」
ズンズンと衝撃が腰から背骨を通って脳にまで響いているようで、深く貫かれるごとに桂は声をあげた。
好き勝手に揺さぶられながら、狭い内部を銀時が遡ってくるのを感じ、何とも云い難い震えに襲われる。
「あ、だいぶよくなってきた。お前の中、きゅうきゅう搾ってきてきもちいい・・」
銀時は桂を突き上げながら、揺れる髪を掻き分け肩口に顔を埋めた。
汗とほのかな香のような香りがする。
桂に香を焚き染めるような趣味はなかったから、これは桂の匂いなんだろうか。
「いい匂い・・・」
肩口から項まで舐め上げると、桂の肩がびくっと震えた。
「そろそろ本格的に動くぞ」
「ちょ、待て貴様ッ!・・・アアッ」
桂の返答はもとより聞く気などない銀時は、桂の尻を掴んだまま桂の内部を性器で探り始めた。
向かい合って密着した状態で揺さぶられているせいで、桂の性器も銀時の腹に擦られて
またゆるく立ち上がり始めている。
痛みに慣れてきた体は、内臓を擦られる刺激を次第に快楽と捕らえてきていた。
入り口に近い腹側の粘膜を擦られると、銀時の腰をまたいで伸ばされた白い脚ががくがくと暴れる。
銀時の下生えが穴の淵にふれるほど根元まで押し込められて、桂は途切れ途切れに喘ぎを漏らす。
「あっ・・・・だめだ、こんなッ」
銀時と、とても人に言えないような場所で交わっているという事実。
それは不思議なことに不快ではなかった。
そのことがより桂に羞恥を覚えさせる。
体の力が抜け、この行為に次第に快感を感じだした桂を、銀時は更に結合部からいやらしい液が
飛び散るほど乱暴に貫き始めた。
911:マロン名無しさん
12/05/09 22:04:54.63
「はあうっ、んうっ、アッ・・・はっ」
「ヅラ、中で出すから」
「はッ、ば、馬鹿やめろ!」
縛られた腕で銀時の首を輪で通すようにしてしがみついていた桂が、不穏な言葉に目を向く。
銀時は白い首筋に噛み付くように口付けると、腰を限界まで突き上げた。
銀時よりはるかに軽い体は、おもちゃのように揺さぶられて銀時を最奥まで受け入れた。
「あひっ・・・・くッ、あああああっ!」
瀕死の鳥のようにびくびくとのけぞりながら、桂が達する。
銀時を根元までくわえ込んだ秘所が痙攣し、絞り上げるように締め付けた。
「ヅラ、お前、すげ・・・ッ」
銀時も胴振るいし、言葉どおり桂の中に放つ。
体の中いっぱいに熱いものを注がれる感触に桂は息を詰めて耐えた。
いつも体温も低く殆ど汗をかかない桂の体は、情交のせいでしっとりと汗ばみ、青白い肌は薄く色づいている。
荒い息を吐きながら、銀時は汗を舐めとるように桂の首を舐め上げた。
絶頂の間際に噛んだ首筋は歯型がついて薄く血が滲んでいる。肉食獣の捕食を思い出し、銀時は薄く笑った。
(ま、食っちゃったし)
その血も舐め、銀時は呼吸の収まらない桂に深く口付けた。
苦しいのだろう、首をねじって逃げようとするのを押さえつけ、舌を吸い上げる。
桂の唾液はなぜか甘い気がした。
「・・・はっ、ぎんとき、もうはなれろっ」
抗議の声で見下ろせば、まだ二人は交わったままだった。
絶頂を迎えたあとの秘部に、未だ固いままの銀時が嵌っているのが苦しいのだろう。
「へーへー」
「・・・アッ」
素直に聞いたふりをして、桂の中から一気に引き抜く。
排泄感に桂はまた小さく喘ぎを漏らした。
その力が抜けて閉じられない足の狭間から、銀時が吐き出したものがとろりと腿を伝う。
広げられていたせいで、急には閉じられない穴が、桂が息をつくたびに銀時の残滓をこぼした。
あまりに卑猥な光景を見やり、銀時はたちの悪い笑みを浮かべる。
「でも銀さんまだまだ元気だし、せっかくだから最後まで面倒みてくんない?」
912:マロン名無しさん
12/05/09 22:05:15.21
「・・・・・は?」
やっと去っていった凶器に安堵していた桂が、ぽかんと見あげる。
それに笑ってみせ、銀時は濡れそぼる桂の秘所に、再度自身を押し込んだ。
「ふうぅッ!・・・・な、なにをっ」
「いやー、久しぶりだし、しかも生だし、お前エロいし、ついつい盛り上がっちゃってなあ。
とても一回じゃおさまんないみたいでさー」
「貴様の下半身事情など知らん!いい加減抜いて・・・はうっ」
口封じとばかりに、銀時が激しく突き上げてくる。
呼吸さえままならず、口を閉じられない桂は銀時の思うまま声を上げさせられた。
過ぎた行為に、桂の意識は途中から途切れ途切れになり、白く霞んできた。
飛びかけた意識の中、ぼんやりと、前に去っていった男の面影を思い出す。
あの時の高杉は、自分で壊したのに、まるで置いていかれた子供のような目をしていた。
(違う・・・ひとり取り残されていたのは、俺か)
桂はゆっくりと目を閉じ、そのまま失神するように眠りについた。
寝息を立てだした桂の顔は、ぐったりと疲弊していた。
押しとめられない欲望を好き勝手にぶつけた自覚はある。
銀時は、中途半端な長さの桂の髪を掬い、砂を手から零すように流す。
さらさら さらさら
やわらかく艶やかな手触りは気持ちよく、しなやかに指に沿うが、絡みつきもせずねじっても癖もつかない。
手を離したとたんさらりと、何事もなかったように元に戻る。
持ち主に似て薄情な髪だ。
桂が銀時に対して示す全幅の信頼。それが殆ど恋に近いものであることを銀時は知っている。
本人にはその自覚がないことも。知っていて、最後まで拒絶できないのを見越してそれに付け込んだのだから。
しかし、おそらく高杉に対しても最後は受け入れたのではないか、と銀時は思っている。
桂は恋愛の概念を理解できていないところがある。
「ひでえ男だな」
お前も俺も。
美しく流れる髪の毛を、飽きずに梳きながら銀時は一人呟いた。
外はすっかり日が落ち、春はまだ遠い。しかし、日は次第に長くなっているのだ、そうと気が付かなくても。
時を止めることはできない。そうして日々は変わっていくのだろう。
913:マロン名無しさん
12/05/09 22:19:06.13
呪われればいいのに
914:マロン名無しさん
12/05/09 22:28:47.26
銀魂一ブ サ イ ク バ バ ア 月詠wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
URLリンク(uproda.2ch-library.com)
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915:マロン名無しさん
12/05/09 22:33:00.56
お姉ちゃん
916:マロン名無しさん
12/05/09 22:34:36.35
うわ、マジか
917:マロン名無しさん
12/05/10 14:00:54.11
さっちゃんと近藤、良キャラなんだけどやっぱりストーカーは嫌だな
至る所に現れて、プライバシー覗きまくって、いくらやめてって言っても話は通じない
本人は自分の行動は正しい間違ってないって思い込んでる
マンガの世界だからまあ別にいいけどね
ずっと他人から観察されてるのって怖くない?
918:マロン名無しさん
12/05/10 14:39:17.24
ストーカー云々はぶっちゃけ話を作るための漫画的な都合だしリアリティ無いからあんまり
どっちかっつーとさっちゃんへの暴力の方が嫌
919:マロン名無しさん
12/05/10 16:23:30.40
>>918
2人ともストーカーしてる割に結構大事なこと知らなかったりするよね
近藤さんは六股編でのこと知らないし
さっちゃんは師匠編での乳揉みを九ちゃんから聞いてた
まぁご都合展開だと思うけど
920:919
12/05/10 16:24:29.57
書き忘れ
さっちゃんへの暴力が嫌ってのは超同意
921:マロン名無しさん
12/05/10 16:42:51.78 0GfQc6l0
>>920
確かにさすがに女を殴るなよって思う…
922:マロン名無しさん
12/05/10 17:44:26.67
さっちゃんMだから暴力もokって事なんだろうけど・・・なんか違うんだよな
トラックで轢いたり
ギャグと言えばそれまでだけど
923:マロン名無しさん
12/05/10 17:58:43.37 0GfQc6l0
いくらMでも女の子だしあそこまで酷い扱い受けたら傷つくでしょ
メギネさんの回とか見てられなかった
924:マロン名無しさん
12/05/10 18:55:24.33
さっちゃんのストーキングについてはまだ仕方ない部分もあるかもな
忍者の習性と実行できちゃうスキルもある訳だし
そもそも銀時自身がフルオープン気味な生活してるから覗かれてもさしてダメージないし
何より見た目は可愛い。
だが近藤、てめえはだめだ
やめてって言ってるじゃないですか、に対してははは僕は諦めませんよ、は質が悪いだろ
つうか赤の他人に家に勝手に上がり込まれてお茶出しされたり食卓に混じりこまれたりしても悲鳴上げないお妙は本当に強い娘だな
公私混同しまくりで仕事仲間にも迷惑かけて
純愛…?
925:マロン名無しさん
12/05/10 18:57:17.70
ここは荒らしが自演用に立てたスレ
誘導
【アニメ2期】銀魂の男女カプを語ろう3
スレリンク(anichara板)
926:マロン名無しさん
12/05/10 18:58:35.99
仕方ないか?
さっちゃんにしても近藤にしてもストーキングはキモい
ま、所詮ギャグ漫画だけど←暴力もストーカーも結局これで片付く話
927:マロン名無しさん
12/05/10 19:00:35.22
誘導されても続けるやつは自演
928:マロン名無しさん
12/05/10 21:36:57.60
舌打ちしながら桂は踏み込みざまの一撃を刃で弾き返し、飛び退るや窓に足をかけ脱出する。そろそろ本格的にまずかった。着地が予想以上に響いて顔をしかめる。
すいと空気に何かが閃いた。
「残念ながら、そろそろフィナーレでござるよ」
言葉が降って来るのと、首にかけられた弦が上へ引かれるのは同時だった。
「か……はッ!」
「その怪我さえなかったら、弦が巻きついた瞬間に気づいたかもしれないでござるな」
首をつられるように締めあげられ、彼の息が詰まる。弦をつかむが、ゆるむ気配はない。
「首を狩るわけではないが、その意識、刈り取らせていただくでござる」
万斉の声が遠くなり、視界が揺れる。そしてぼんやりと焦点を失っていく。
やがて全身から力が抜け、桂はその場に崩れ落ちた。
929:マロン名無しさん
12/05/10 21:44:24.16
はいアウト
930:マロン名無しさん
12/05/11 04:33:23.33
だからもともと自演と荒らしが酷くて破棄したスレだろって
ほっとけ
931:「よねー!?♪」はキチガイ!
12/05/14 19:03:10.30
「よねー!?♪」は他の板の特定スレでも迷惑を被っている荒らしなので構わないように。
◆「語尾伸ばしキチガイ」こと通称「よねー!?♪」(>>477)とは?
主にオカルト板、宗教板、癒し板等オカルト宗教絡みスレに生息するキチガイ電波。(忍法帳確認荒らしらしい)
【特徴】
・名前欄が名前欄に!ninjaで出てくる「忍法帳レベル」表示。(じゃないこともあるようだが、大概それ。)
・よねーと語尾を伸ばして(してない場合もあるようだが)最後に「!?♪」を付ける文体が特徴。
(付けないことも。他は、ですよ、したよ、しろよ、ですの、じゃん、~るよ、~だよ。という表現を多用)
・上記を満たしてなくとも、書き込み内容は毎回支離滅裂で意味不明なのですぐに分かります。
・死後、アセンション、スピリチュアル等その手の特定用語をスレタイ検索して来ているのか、
生息板以外の関係テーマのスレに神出鬼没。
・書き込み内容にアニメ、漫画、ゲームの漫画作品名やキャラ名が出てくる為か
アニメ、漫画、ゲーム好きらしく特定のアニメ、漫画、ゲーム関係スレにも居着いているようです。
(漫画サロン、レトロゲー板、キングダムハーツ、ナムコクロスカプコン、テイルズ関係、
シャイニングシリーズ、スパロボ・無限のフロンティア、BLEACH、エヴァンゲリオン、
遊戯王、デジモン、スタートレック等)
頭のちょっとおかしい人なので完全無視、水遁するなりしましょう。
932:マロン名無しさん
12/05/15 22:45:05.88
銀さんと神楽にはいつも癒される
933:マロン名無しさん
12/05/16 00:19:34.80
鼻くそねじくりつつ頭ぽんぽんとか萌えるな
934:マロン名無しさん
12/05/16 13:15:13.58
今、一番声がでかいのって沖神派かな?
あとは銀月と銀神が多いっぽい気がする
935:マロン名無しさん
12/05/16 15:15:34.57
声がでかいって?
サイトが多いとかそう言う意味なのかな?