銀魂の男女カプについて10at CSALOON
銀魂の男女カプについて10 - 暇つぶし2ch757:マロン名無しさん
12/05/08 02:14:32.30
>>756
月詠おばちゃん涙目顔真っ赤w

758:マロン名無しさん
12/05/08 02:14:40.21
ヅラたんは今頃銀さんと
チョメチョメチョメにゃんにゃんにゃん

759:マロン名無しさん
12/05/08 02:16:21.14
白無垢を着て銀時と結婚するんだ
と内心ウキウキドキドキしてる幸せそうなヅラたんを
控え室でドロドロになるまで集団レイープするなんて
白夜叉に惨殺されてもいいくらい興奮するシチュだ


760:マロン名無しさん
12/05/08 02:16:44.56
やっとこさ袴履いた銀さんが現れると、汚れて破れた
白無垢の下で精液まみれのヅラたんがポツンと放置されてるよ
ヅラたんは涙の筋が顔に沢山ついてて放心状態だよ

761:マロン名無しさん
12/05/08 02:17:24.59
放心した白無垢ヅラたんと白夜叉モードで本気でキレる袴銀さんが見れるなら
死んでもかまわん

762:マロン名無しさん
12/05/08 02:17:39.73
汚された花嫁を抱き抱えて白夜叉の顔になった銀さん

763:マロン名無しさん
12/05/08 02:17:58.68
犯されて無惨な白無垢ヅラたんの足を広げて、
ヅラたんが怯えた顔でよせ銀時見るなって抗うけど
いいからジッとしとけとか言いながら菊穴に指を入れて、
沢山出されたザーメンかき出してやる袴銀さん

764:マロン名無しさん
12/05/08 02:18:25.11
綺麗な黒髪のヅラたんに白無垢はとても似合ってて
なのにヅラたんはぐしょぐしょに泣いてて銀さんの顔も悲しそうで
なんだか胸が痛む切ないシーン

765:マロン名無しさん
12/05/08 02:18:59.84
「白無垢を汚したら銀時に怒られる」
そう泣きながら変態達にやられてたヅラたん

766:マロン名無しさん
12/05/08 02:19:31.20
>>765
ヅラたんはホント銀さんが自分に惚れてるってこと分かってないよな

銀時が選んでくれた白無垢だから、
汚したら嫌がるし怒られるって思ってるっぽいけど
銀さんが一番汚されたくないのは魂の片割れであるヅラたんなのにな

767:マロン名無しさん
12/05/08 02:20:04.83
昨日のレイーポが堪えたのか、破れた白無垢をぼーっとうつろに眺めてるヅラたん
なんか花嫁どころか未亡人の匂いがするよ

768:マロン名無しさん
12/05/08 02:20:35.76
「抵抗したら銀さんが大変なことになる」とハッタリかませば
銀さんのこと大好きなヅラたんはすぐにおとなしくなるよ
自分が我慢すれば銀時は助かるんだと本気で信じちゃうよ
銀さんはヅラたんのそういうところを心配してるのにな

769:マロン名無しさん
12/05/08 02:20:45.00
高杉おばちゃんに言い返すとか高杉おばちゃんって認めたようなもんw

770:マロン名無しさん
12/05/08 02:22:01.86
>>769
月詠腐おばちゃん飴ちゃんすっげー顔真っ赤だぞw

771:マロン名無しさん
12/05/08 02:22:33.39
銀さんは普段は鬼畜だからヅラたんが頑張って買った車を乗り回すが、
いざという時は自分犠牲にしてでもヅラたん助けるからおk

772:マロン名無しさん
12/05/08 02:22:52.46
泣き虫なヅラにゃんこそまさにギャップ萌え☆

773:マロン名無しさん
12/05/08 02:23:13.89
ヅラたんの髪が嬲られたくらいで後先考えずに似蔵に斬りかかってたしね
銀さん相当ヅラたんに対する独占欲高いよ
ヅラたんの肛門は自分のものだと思ってるよ

774:マロン名無しさん
12/05/08 02:23:39.52
>>773
銀さん、あの髪がヅラたんのだって確実な証拠ないのに斬り掛かっちゃったんだよな

775:マロン名無しさん
12/05/08 02:24:07.97
>>774
確証とかなくても分かったんだよ銀さんだもの
ヅラたんのものなら陰毛の一本まで判別できそうだ

776:マロン名無しさん
12/05/08 02:24:51.79
銀さんはヅラたんの髪鷲掴みしてバックで犯すのが趣味だから、
遠目に見てもヅラたんの髪だとすぐ分かるんだよ

777:マロン名無しさん
12/05/08 02:25:15.77
一昨日抱いた時はたしかに陰毛生えてたのに、
今日脱がせてみたらそこがツルンツルンになってて銀さんはキレるよ
ヅラたんは自分で剃ったって言い張るけど嘘下手だからすぐバレる

778:マロン名無しさん
12/05/08 02:25:43.98
>>774
銀さんあの時ツレがヤられたって聞いてイライラしてたからな
仕方ないよ

779:マロン名無しさん
12/05/08 02:26:15.00
>>778
銀さんはあの髪が本当にヅラたんのものかなんて事より
似蔵がヅラたんの事を「本当に男か」とか「まるで女」とか言ったからブチ切れたよ
自分以外にヅラたんをそういう目で見てる男がいることが許せなかったんだよ

780:マロン名無しさん
12/05/08 10:00:01.29
誘導

【アニメ2期】銀魂の男女カプを語ろう3
スレリンク(anichara板)

781:マロン名無しさん
12/05/09 05:06:16.51
荒らしが酷くて破棄したスレをなんでまだ使ってたんだ

782:マロン名無しさん
12/05/09 16:01:34.34
「あーあー、いけません。また落ちてしまわれたようですねぇ」
 無感情気味の声音に、部下たちが肩越しに振り向いた。
 彼の部下たちに囲まれうつむいたままの人間だけが、何の反応も示さない。
「どうしやすか武市さん」
 問いに、能面のような顔のまま、武市は応じる。
「しかたありません。水でもかけて起してください」
「おい、持ってこい」
 指示通り、手桶に汲まれた水がすぐに運び込まれた。
 水は勢いよく気絶したその人物にぶちまけられた。
「……っ」
 わずかばかりのうめき声が漏れ聞こえた。
 武市の部下の一人が、水の滴る長い黒髪をひっつかんで上を向かせた。
「う、ぐ……ッ」
 武市は猿轡をはめられた彼の前にひざまずき、顔を近づけた。
「お目覚めですかねぇ、桂さん」
「……」
 濡れてなお艶ややかさを増したようにも見える黒髪の間から秀麗な顔がのぞく。苦しげに細められた眼は、それでも真正面の敵へ意志を持って向けられていた。
「お休みになられたいなら……たった一度だけ頷いていただければ、それで結構なのですが」
「……」
 頭が小さく横に振られた。
 武市は立ち上がり、部下に告げた。
「続けてください」
「へい」
 彼らからゆっくりと離れ、武市は言う。
「高杉さんの言う通り……簡単には、堕ちてくれませんねえ」
 まだまだかかりそうだと、彼はどこか愉しげにため息をついた。


 結局、外が明るくなってもそれは続けられることになった。

783:マロン名無しさん
12/05/09 16:02:52.08
桂小太郎は塀からとび移った屋根の上で立ち上がり、そこから館を見下ろした。
 外装がもろかったのかさびれた風体をさらすその館は、今も明かりがほとんど灯っておらず、幽霊屋敷と評判の館だった。もともとは天人の持ち物だったが、今は地主が変わって知られていない商人の持ち家となっている。
 しかしその商人が河上万斉とつながりがある可能性が高いという情報が届いた。
 仲間たちとともに動乱以降は常に情報を集めていたが、鬼兵隊の動きはなかなかつかめない。情報がやや不確かだっために可能性は低かったが、
この館で鬼兵隊の情報が何か探れることを期待してやって来たのである。 
「高杉め……いったいどこに隠れている。それに……」
 何をたくらんでいるのだ。
 月明かりの夜に浮かび上がる館を見下ろし、桂はつぶやいた。


 屋敷の中に入り込むのは簡単だった。外に見張りがいなかったからといって中にいないとも限らなかったが、警戒しながら忍び込んだものの、人の気配が感じられなかった。
階下にはいるかもしれないが、最上階の天井裏に潜んでいる以上、よほど油断しない限り見つかる可能性は低い。
 最上階の部屋を見て回り、一番端の部屋を調べ終えたが、なんの変哲もない少し傷んだだけの屋敷だった。人がいて使っている様子はあったが、ただそれだけである。
 とりあえず怪しい部屋か地下室のようなものがないか探してみようと、桂は階下へのルートを考え始めた。
 すると、階段のほうから誰かが上がってくる足音が聞こえた。しかも一人ではなく、複数である。
 耳を澄ませた彼のもとに、やがて話し声が届いてきた。
「―?」
「……ぃゃ、……は、まだできておらん」
「では、河上殿にはなんとお伝えすれば」
(河上……やはり河上万斉か……?)
 さらに話を聞こうとしたが、声と足音は廊下の反対側へと離れていった。
 彼はそれを追って天井裏を進んだ。
 が、階段付近の天井まで来たところで、再び足音を聞いた。
「む……」
 ちょうどいいところに下を覗き込める隙間を見つけた桂は、そこから廊下を見下ろしてみた。
うってつけなことに、その隙間は階段がちょうど見えるようになっている。
 ぎしぎしと階段を軋ませながら、一人の男が上ってくる。

784:マロン名無しさん
12/05/09 16:04:08.19
 ヘッドホンにサングラス、逆立った髪。そして背中には三味線を背負っている。
(河上、万斉……まさか本人がいるとはな)
 桂にしてみても、まさか視認できようとは思わなかった相手である。通じている商人とやらから河上万斉の名を聞くことができれば、それだけでここが鬼兵隊の息がかった拠点の一つだと判明するはずだったのだ。
 彼とのつながりを確認できた以上、ここにいるのは危険だと判断し、桂はすぐに撤退することを決めた。
 その瞬間。
「!!」
 奴の足音が消えた、そう理解した瞬間、桂は後ろに大きく飛びのいていた。
 一瞬前まで彼が体重をかけていた梁が、周囲の天井板ごと吹き飛んでいく。
「なるほど……さすがは逃げの小太郎。よくぞかわしたでござる」
 パラパラと破片が廊下に舞い落ちるが、万斉はすでにそこにいない。桂と目線を同じくする位置に立ち、彼に刃を向けている。
 梁の上で互いに対峙したまま、つぶやく。
「……気づいていたのか」
「ここ数週間、確実に聞いたことのないリズムが聞こえた。それも天井裏から」
 万斉は隙なく桂を見据えながら言葉をつづけた。
「こんな夜中に人様の屋敷に侵入するとはなかなか無礼な客でござる。だが、ぬしが大人しくしているのであれば、手厚くもてなしてもよい」
「あいにく予定があってな!」
 言うなり桂は素早く取り出した拳ほどの球を万斉に向かって投げつける。万斉はそれをあっさりと切り割ったが、球体はぼわんという間抜けな音をたてて煙を広げた。
 人が来る可能性があったが、桂は廊下へと飛び降りた。案の定、先ほど会話していた二人が音を聞きつけてやってくる。その頭上を越えて二人をかわし、着地するや廊下を一気に駆ける。
 だが、次の瞬間、右手首に違和感を覚えた。
「……!?」
 右腕が伸びきるまでひっぱられ、桂は足を止めた。ビンッと空気を震わす音。
「糸……!」
 三味線の弦。
 左手で腰の刀を逆手に抜き、素早く糸を断ち切る。
 桂が顔を廊下に戻すと、万斉はすでに床を蹴っていた。迫る刃を、真っ向から受けてたつ。
 白刃がきらめき、甲高い金属音が響き渡った。
「なかなか、心地よい曲だ。人を酔わせ、躍らせる曲でござる」

785:マロン名無しさん
12/05/09 16:05:05.20
品定めをするような視線をサングラスの奥に感じた。何かを見透かされたかのような、嫌な気持ちを振り切るように相手の刀をはじく。
 するどい切っ先をかわし、受け流し、そして攻め合う。
「さすが天下の桂小太郎……以前見受けた時から、是非に一度死合うてみたかった!」
「人斬り河上万斉……お前も噂にたがわぬ腕だ!」
 ひと際大きな音を奏で、刃が互いをはじきあう。二人は同時に一歩退きあった。少しあがった息を意識する。
 相手の腕は悪くなかった。悔しいが、高杉の人を見る眼、人を見抜く眼は確かなものがあった。少し銀時を思わせる大振りな剣筋と身軽な足裁き。体格に恵まれ一撃の重さも申し分ない。
 対して自分の剣は軽かった。その分速さは勝っているものの、まとわりついてくる鋼の弦を断ち切ることに費やされる。技術でしのぐも限界がある。
 いくら目の前の男と互角に戦えようと、もうしばらくすれば、おそらく階下から騒ぎを聞きつけて応援がやってくるはず。
(その前に、なんとかこの場を)
 そう思った桂が軸足を移動させた瞬間だった。
 響き渡る銃声。
「くっ!」
 とっさに左に飛び退き、さらに打ち込まれる銃弾をかわす。
「ほんとに素早いッスね。でも一発かすったッス」
 万斉の後ろから銃を構えた露出の高い女が現れた。鋭い視線で桂をにらみながら、ゆっくりと歩いてくる。
「逃げ切れないっスよ、その足じゃ」
 彼女の言うとおり、彼は右足から出血していた。銃弾は足をかすめただけだが、かわした姿勢、半ばしゃがみこんだままいきなり走りだせるような傷ではなかった。
「ふむ。このような幕切れとは思わなかったでござるな……」
 少し咎めるように万斉が隣に並んだまた子につぶやいた。
「うるさいっス。大体、どでかい音たてすぎなんスよ。近所迷惑もいいとこっス」
「銃声のほうがよほど近所迷惑でござる。しかも品がない」
「年中ヘッドフォン外さないあんたに品とか言われたくないっス! さっさとそいつとっ捕まえるっスよ!!」
 向き直ったまた子の目の前で、桂は半身をずらし隠しながら取り出していた爆弾を、やや壁寄りに放った。
「なっ……」
「ちっ」

786:マロン名無しさん
12/05/09 16:05:54.00
ズガァァン!
 爆発で吹き飛んだ壁の穴に桂は飛び込んだ。規模も予想通りの爆発だったため、次の行動に移るのは敵よりも速い。だが、銃弾は桂の右足をかすめ、軽くえぐっていた。痛みが強く、素早い動きは制限される。
「……っ、この、逃がさないっス!!」
 たちこめる煙の中で拳銃が火花を散らしたが、危ういところでかわした桂は、古めかしい机の反対側に隠れながら窓ガラスに柄の底を叩きつけた。また子の乱射も手伝い、窓は完全に割れる。
 転がるように飛び出て、さらに屋根の傾きに任せて落下。わずかなとっかかりに左手を掛け、そのままぶら下がる。
 ここは三階。遙か下に庭が見えた。少しくらりとする。
 懐から取り出した小さな爆弾を三つ、彼は飛び出てきた部屋に向かって投げ込んだ。
 軽快に大砲でも連射されたような音が鳴り響き、同時に人々の悲鳴だか怒号だかが聞こえた。つかんでいる屋根のでっぱりが揺れ、それに耐えてから桂は反動を一回つけて二階の部屋に飛び込んだ。
 ガラスの破砕音がひびく。だが、彼は一度横に転がって体勢を立て直すと、すぐさま窓の外に向かった。
 直観的に考えたことは、来島はともかく、河上はそう簡単にやられはしないだろうということだった。
 予感は的中した。
 桂の爆弾のような轟音より一瞬早く、二階の部屋の天井に切れ目が走る。
 退きながら桂はつぶやいた。
「ふん……床を切り飛ばしたか。大工が泣くぞ」
「ぬしのせいでござるがな」
「イッテー……急に足場切り崩すとか、なにしやがるんスか……!」
 天井と一緒に飛び降りてきたのは万斉。そして落っこちてきたのが全身埃まみれのまた子だった。反応は遅れたようだが、大した深手を負わせられなかったらしい。
 問題の男は健在。追いかけっこはまだ終わらない。


787:マロン名無しさん
12/05/09 16:06:00.06
 舌打ちしながら桂は踏み込みざまの一撃を刃で弾き返し、飛び退るや窓に足をかけ脱出する。そろそろ本格的にまずかった。着地が予想以上に響いて顔をしかめる。
 すいと空気に何かが閃いた。
「残念ながら、そろそろフィナーレでござるよ」
 言葉が降って来るのと、首にかけられた弦が上へ引かれるのは同時だった。
「か……はッ!」
「その怪我さえなかったら、弦が巻きついた瞬間に気づいたかもしれないでござるな」
 首をつられるように締めあげられ、彼の息が詰まる。弦をつかむが、ゆるむ気配はない。
「首を狩るわけではないが、その意識、刈り取らせていただくでござる」
 万斉の声が遠くなり、視界が揺れる。そしてぼんやりと焦点を失っていく。
 やがて全身から力が抜け、桂はその場に崩れ落ちた。

788:マロン名無しさん
12/05/09 16:08:55.37
万事屋銀ちゃん。スナックお登勢の二階に掲げられた看板の文句である。
 その万事屋のソファに、何かを耐えるような顔をした黒服の男が一人、座っていた。
「ちょっとォ、大串くーん、君高給取りでしょー。なんで菓子折りの一つも持ってこないわけ」
「舐めてんじゃねーぞ、酢昆布箱で持って来いや!」
「ちょ、神楽ちゃん、普通菓子折りに酢昆布はないからね。……土方さん、すいません」
 社長椅子にふんぞり返ったままの万事屋の主と、正面のソファに座っている団子頭の少女に代わって、新八は鬼の副長土方に頭をさげる。相手は見るからにイライラとした調子で、新八を見上げた。
「茶はいい。灰皿ねえか」
「うちは子供いるから禁煙なんですー。ついでにマヨも禁止な」
 新八が応えるより先に、すかさず銀時から言葉が飛んだ。万事屋に灰皿が備えられていないのは事実だったが、喫煙者もいないのでわざわざ金をだして買うほどの必要性も余裕もないという、
それだけのことだった。気ィ遣いの新八は、お登勢さんあたりから不要な灰皿を一つ譲ってもらうべきかなあ、などと算段を始めながら、如才ない笑顔を土方に向けた。
「それで土方さん、銀さんに何か用事があるからいらっしゃったんですよね? 僕らがいるとつごうが悪いなら、外しましょうか?」
「いや、そういうわけでもねえんだが……」
「おいおい、ぱっつぁんよぉ、菓子も依頼も持って来ねえような奴は追い出しときゃいーんだよ」
「そうアル。酢昆布一年分持って出直して来いアル!」
「あんたらちょっと黙っててくれる!? 話進まないでしょうがぁぁあああ!!!」
 突っ込みを入れながらも、銀さん機嫌悪いなあと頭の片隅で思う。いつもならもっとおちょくるような感じで土方さんに絡んでいるのだが。これはさっさと用件を聞いて帰ってもらったほうがいい。
 土方は銀時を瞳孔が開ききった眼で睨みつけた後、口を開いた。
「先日、伊東の件では世話になったからな。その後をちょっと教えてやろうと思ってきただけだ」
「何アルカ。けっきょくニートになったアルか、トッシー」
「ちっげーよ! あのヘッドフォン野郎をたぐってったところ、郊外の武家屋敷に出入りしてたみてえでな。先日橋田屋が手放した物件だが」
「……ふーん」

789:マロン名無しさん
12/05/09 16:28:34.09
「市中での目撃情報はねえが、身辺気をつけろ。万事屋ぁ、手前あいつとやりあったんだろ?」
「どうだったかな」
「銀ちゃん、股間にバイクで突っ込まれてたネ」
「ちょ、神楽ちゃん思い出させないでくれる」
 嫌そうに顔をしかめる銀時に、土方は溜飲をさげたらしい。機嫌よさそうに笑って立ち上がる。
「ま、あんときの恨み晴らすのもいいだろうよ。俺は知ったことじゃねえ」
「おいおい、いーのかお巡りさん。暴力沙汰推奨して。危険人物から僕ら守るのがお仕事デショ?」
「悪いがあいつがやらかしてくれた始末が手間でな、なかなか手が回らねえ。まったく、近頃桂がおとなしくしてくれてるのだけが幸いだ。ちょっと前は、連日のように歌舞伎町界隈で目撃情報があったんだが、ぱたりとやみやがった。なあ、万事屋。桂も何か企んでやがるのかね」
「……知るわけねーだろ」
 俺に聞くな、と言い捨て銀時は社長椅子をくるりと回す。土方はふん、と鼻を鳴らす。
「まあ、いい。邪魔したな」
 慌てて新八は頭をさげたが、銀時は背を向けたままだった。引き戸が閉まる音だけがガラガラと響く。外階段を降りていく音がやんで、それでもしばらくしてから新八は口を開いた。
「……びっくりしましたね」
 桂の名前がでた瞬間、動揺を見せたのは新八だけだった。幸い土方は食い入るように銀時の反応をみつめていたのだが。
 外をぼんやり眺めていた銀時が、気だるげに立ち上がる。
「ぱっつぁんよぉ、今日からちょっとお前の家に神楽泊めてやってくれる」
「いいですけど……銀さん一人で大丈夫ですか?」
「どうせ何もねーよ。いちいちあいつ大げさなんだよ。でも、ま、いちおうな」
 神楽女の子だし? と続けながら玄関へ歩いて行く。
「銀さん、どこ行くんですか?」
「その辺出掛けてくる。明るいうち帰れよ」
 即答だった。振り返ると、ごそごそブーツを履いている背中が見える。
「私がいないからって、夜遊びしてくんじゃねーぞ!」
 神楽の言葉を受けながら、やる気なさげに銀時は片手をあげてみせた。


790:マロン名無しさん
12/05/09 16:29:20.37
いやいや、違うからねこれ。そういうんじゃないから。ただの散歩だから本当。
 江戸の郊外、橋田屋が手放したという屋敷。正門にはいかず、銀時はぐるりと塀を回りこむ。
 も、本当違うから。べつに気にしてないし。だってあのマヨラーの情報だし。
 スタンッと軽快な音をたてながら塀の上に昇り、さっさと庭に降り立つ。
 いやだってね、たしかにあいつ万事屋に顔見せてないけどね。だからってまさか。
 漆喰の壁を、よじ登る。そういや前にもこんなことあったな。あの変態くの一に関わったときだっけ。
 あっさりと三階にたどりついて、窓の格子を外して中に滑り込む。廊下に降り立ち正面に目を向け―銀時はちょっと絶句した。
 廊下の突き当たりは、爆弾でも投げ込まれたかのように床と壁に大穴が空いていた。いや、正確には壁の穴だけが爆風に吹き飛ばされたようで、床は直線で切り取られたかのように綺麗な切り口がのぞいている。
 ま、いずれにせよ。


791:マロン名無しさん
12/05/09 16:29:25.48
 ぷらぷらと木刀に手をやりながら、穴に近づいていく。
「風通しのよさそうなお宅だなあ、おい」
「まったくでござる」
 抜き打ちざま水平に背後へ一撃。相手は間合いの外から声をかけたらしく、手応えはなかった。
「これは驚いた。大物が次々とかかるとは。久しぶりでござるな、白夜叉」
「人と話すときはヘッドフォンとりなさいって、何回言わす気ですかコノヤロー」
「テンポが速い……今日はずいぶんと苛立っているようでござるな」
 無言で踏み込み、下段を払う。相手はそれを避けて跳びあがり、銀時の頭上を越えて背後へ着地する。その軌跡を追うように銀色のきらめき。認識より早く、力任せに引きちぎる。
「二度も三度も同じ手にかかるか」
 振り返りざま上段蹴りを放つ。相手は上体をそらして避けるが、ブーツの踵がヘッドフォンに引っかかった。転がり落ちたヘッドフォンを、相手は片手でキャッチする。
「ようやくとりやがったな。何聞いてっか知らねえけどなあ、礼儀ってもんを」
「そんなに聞きたくば、聞くがいい白夜叉」
 ヘッドフォンを銀時の足元へ放る。構わず踏み込もうとして、全身の筋肉が硬直した。
『……うぁっ……ぁ、ぁ……』
『あなたといえども、薬の力には勝てませんか』
 ぐちゅりと卑猥な水音と、すすり泣きのような息遣い。なんだこれは。
『ひっ……も、無理……』
『大丈夫ですよ、今までその身体で何人も満足させてきたでしょうに』
 血の気が引いて、視界が白くなる。この、声。嘘だろ。
「桂……」
「正解でござる」
 我に返るのが一瞬遅れた。声は真後ろから聞こえた。
 最後に聞こえたうめき声は、はたしてどこから漏れたものか。

792:マロン名無しさん
12/05/09 16:30:13.15
頭がガンガンする。激しく嫌な夢を見た。
 頭を振って眼を開け、それが夢でなかったことを悟る。
「ヅラ……?」
 視線の正面、鎖で両手を拘束され吊り上げられている桂が、壁にもたれるようにして座り込んでいる。いつもきっちりと着込まれている着衣は大きく乱され、
のぞく鎖骨や首元には赤い痕や傷がのぞいていた。ほつれた黒髪がふちどる顔は青白く、いつにもまして不健康に見える。眼はぐったりと閉じられていて、身じろぎ一つしない。
「おい、ヅラ! しっかりしろ!」
 ガチャンと金属音。背が壁から離れない。
 銀時の両手は頭上に鉄の輪でしっかりと壁に縫いとめられていた。鍵穴があるようなので、針金の一本さえあればなんとかなりそうだったが、あいにくそんなものはない。
足も据わった状態で床に留められていた。
 ぞくりと嫌な気配が背中を駆け上がる。桂は身じろぎ一つしない。戦場で味わった、あの冷たい感触を思い出す。
「くっそ……ヅラ! 聞こえてんなら眼ぇ開けやがれ! 寝てんじゃねえぞ!」
「そう騒いでやるなよ」
 声は別の方向から聞こえた。そちらに顔だけ向ける。じゃり、と草履の音。
「寝かせてやれ。三日三晩野郎共のお相手してたんだ。いくらタフなそいつだって、なぁ」
 クク、と低く笑って煙管を加える。銀時は相手を睨みつけた。
「高杉……!」
 部屋の入り口、壁にもたれて口角を歪める高杉は、相変わらず派手な着流しをだらしなくまとい鍔なしの刀を無造作に腰にさしていた。緑の隻眼を楽しげに細める。
「久しぶりじゃねぇか、銀時。俺ぁもう二度と会うまいと思ってたんだがなぁ」
「どういうことだよ、これは」
 相手の言葉をさえぎって、視線を一度桂へ向けた。身体は動かせないが、察しのいいこの男ならばわかるはずだ。
 カン、と腕組みした拍子に煙管が壁にぶつかって、音が響いた。低い笑いが漏れる。

793:マロン名無しさん
12/05/09 16:31:39.36
「見てたんだよ、仕舞いまでな。武市が狂乱の貴公子にふさわしい宴を用意したとか言ってたからな。俺がいねぇと失礼だろうよ」
 くつくつと昏い笑いを漏らす相手に殴りかからなかったのは、壁に手首を縫いとめる鉄輪だけが理由だった。血管が浮き出るほどの力でもっても、ガチャッと金属音を奏でるだけで終わる。
 桂のことを考える。この男が見ている前で行われたこと。桂は高杉に、一瞬でも助けを求めただろうか。それとも、高杉自ら手を下しただろうか。
 思考をさえぎったのは、壁に煙管を打ちつけるカンという音だった。灰を落として、高杉は銀時の正面まで歩いてくると、視線をあわせるようにしゃがみこんだ。顎をつかんで持ち上げられる。
 どこかねっとりとした絡みつくような視線が銀時に向けられた。
「銀時ィ、せっかくだから教えてやろうか。そいつが小便垂らしてよがったとこ全部。それとも今から目の前で見せてやろうか? 意識なくってもなぁ、人間の身体はそれなりに具合がい―」
 大した音もしなかったが、高杉を黙らせることはできた。にやりと笑ってやる。頬からたれる吐きかけられた唾に高杉は一瞬隻眼を歪め、立ち上がるや鈍い音と震動を響かせた。
「かは……ッ」
 腹に叩き込まれた草履がにじられて、残った空気まで吐かせられるようだった。不摂生なナリして、なかなかに強烈な蹴り。そこまで鈍ってはいないらしい。
「ったく、桂ぁ捨てて戦争逃げ出したお前が、何をそんなに怒ってやがる」
 相手がふんと鼻を鳴らす。
「武市に言っといてやるよ。今度の宴には手前も呼んでやれってなァ」
 呼吸をしようとするが、うまく酸素がとりこめない。特等席用意しといてやるぜとつけ加えて、高杉は苛立たしげに桂を見遣る。意識がないのを確認するや舌打ちして、さっさと踵を返した。
 あの重心の低い床を舐めるような足音が消える頃になって、銀時はようやく呼吸できるようになる。息をついた。

794:マロン名無しさん
12/05/09 16:32:41.78
 高杉は去ったのは、あれで満足したからでは決してない。銀時を殴ったところで本質的に大した痛手を与えられるわけではないことが、よくわかっているというだけの話だ。桂に意識がなかったのが幸い。そういう弱所を見抜く眼は、相変わらずだ。
 高杉が去ってしまえば、そこにはコンクリート打ちっぱなしの壁と意識のない桂が残されただけだった。視線をそらそうにも、どうしても吸い寄せられる。吸い寄せられたら、桂が何をされたか思わずにはいられない。
 いっそ高杉と会話をしていたほうがまだ楽だったような気がしてくる。
「桂ぁ……」
 搾り出した声は、予想以上に弱々しかった。自嘲気味の笑いが漏れる。
「聞いてくれよ。あいつ……思いっきり蹴ってきやがった。もう絶対痣になったね、これ。もうちょい下とか顔に手ぇだされなかったのが奇跡だよ」
 桂はぴくりとも動かない。生きているはずだ。高杉が桂を殺すはずがない。
 殺すはずがないと、それだけは信じる。
「お前さ、紅桜のときなんで一人で乗り込んだりしたの。あいつかつての仲間にこんなひどいことできる子なんだよ。お前も今回でいい加減懲りたでしょ。……もうあいつに近づかないでくれよ」
 もう二度と。頼むから。こんなこと言わせないでくれよ。
「反省してよ、ちゃんと。お前は、あいつが自分に手を出すわけがないって信じてるかもしんないけど、幻想だからねそれ。お前の得意な妄想だからね」
 あいつが桂に向ける感情は。
 ため息交じりに、言葉を吐き出す。
「なあ、ヅラァ。ちゃんと聞いてっかぁ?」
「……ヅラじゃない」
 ぴくっと指先が動いて、ほつれた黒髪が揺れた。ゆっくりとその白すぎる面を上げる。
 銀時は言葉を忘れて、その光景に見入った。
「桂だ」
 声は細くかすれていたが、それは間違いなく自分が聞きたかったものだった。黒目がちの琥珀の瞳は、しっかりした意志を宿している。


795:マロン名無しさん
12/05/09 16:33:09.25
「ヅラぁ……」
「……ん? 銀時? お前、ここで何をして……ここは……」
 言いかけて、桂はようやく現状認識したごとく口をつぐんだ。ひどく傷ついたように視線を床に向ける。いたたまれなくなって、銀時も視線をそらした。壁を見ながら続ける。
「ヅラ。その、なんだ……身体、大丈夫?」
「手の感覚がないが……大事ない。足の傷も、どうやら……ふさがったようだ」
 軽く咳きこんでから、まだかすれ気味の声で返答してきた。
 まあそりゃ頭上に吊るし上げられてりゃなあ……って、傷?
 桂を見ると、しまったというように顔をそらせていた。気丈に見えて動揺しているのかもしれない。面にでない奴だから。
「傷って何。どっか怪我してんの」
「動くには問題ない」
「いいから銀さんに見せてみなさい。化膿してたらどうすんの?」
 こいつのふさがった、は流血していないていどの意味しかない。だいたい、鬼兵隊の連中がご丁寧に捕虜の手当てをしてくれているとも思えない。
「……今、貴様に見せたところで、どうにもならん」
「何、見せられない理由でもあんの?」
 ひく、と一瞬桂の顔が引きつる。
「そういう……わけでは……」
 その理由に思い当たって銀時が顔をしかめた瞬間、扉がノックされる音が響いた。お互い弾かれたようにそちらを見る。
「……桂さん、失礼しますよ。お食事をお持ちしました」


796:マロン名無しさん
12/05/09 16:35:03.26
「……桂さん、失礼しますよ。お食事をお持ちしました」
 桂の表情が強張り、身体が眼に見えて緊張する。
 入ってきたのは、地味な色合いの袴姿をした能面みたいな顔の男だった。桂もたいがい無表情だが、さらに輪をかけて表情が読めない。
 言葉通り器の乗った盆を手に、部屋を横切る。刀をさしてはいたがどうにも腰が定まらない。手錬れというわけではなさそうだった。桂があそこまで警戒するほどの相手だとは思いがたい。
 能面男は銀時を綺麗に無視すると、桂の前にしゃがみこんで盆を置いた。粥に味噌汁、酒のつまみでも拝借してきたのか焼き鳥の盛り合わせまで乗っている。……肉だ。肉がある。
 肉? え、なに、本物の鳥肉ですよねそれ。 見たのも一週間ぶりくらいなんですけど!
 銀時の眼が焼き鳥の皿に釘付けになっている間に、男はいっそ恭しいような手つきで桂の剥きだしの腕を撫で、押し戴くようにして小さな顎を持ち上げる。
「お食事の時間ですよ桂さん。さぁ、口を開けてください。私がアーンしてさしあげます」
「……いらん」
 桂が小さく身をよじると、男はあっさり解放した。名残を惜しむように着崩れた袷から覗く胸に手を這わす。
 桂の身体が、一瞬大きく揺らいだのを銀時は見た。
「そんなことおっしゃらないで。食べないと身が持ちませんよ」
「おい、そいつはいらねえって言ってんだろうが。だったら俺にくれよ」
 たまらず声をかけると、ようやく男はふり向いた。まるで銀時がいるのに今気づいたとでもいうようだ。びっくりしたような眼がそう思わせるのか。
「俺ぁ腹減ってんだよ。何せこのホテルはろくなメシがでねえもんでなあ。いらねえんならよこせや」
「……これは桂さんのために用意させたものですから。三日三晩、飲まず食わずで男の精を受け止め続けて、ついには嘔吐してしまわれましてね。
このままでは身体が持ちません。せっかく用意させていただいた宴ですから、春雨に引き渡すその日までは接待を受けていただきませんと」
 そこまで言って、ああと能面男はつぶやいた。得心がいったとでもいうように、ぽんと手を合わせる。
「そういえばお腹にまだたっぷり入っているのでしたね。私としたことが忘れていました。それではお食事が入るわけがありません」
 桂の瞳が揺らいだ。ガチャンと両手を戒める鎖が音をたてる。

797:マロン名無しさん
12/05/09 16:37:04.77
「まず、出さないといけませんねぇ」
「なっ、やめ……っ!」
 初めて桂が悲鳴をあげた。それどころか今までに見たことがないほど怯えた表情をしている。男が桂の両足を大きく割り開かせたが、男の身体に邪魔をされ、銀時には露わになった桂の白い足しか見えない。
「やっ、嫌、だぁ! 放せ!」
「そのままにしていたら、お腹を壊しますからねぇ……我慢してください」
「おい、てめぇっ!」
「あーあー、そう暴れないでください、腸の粘膜は弱いんですよ? あまり動かれると中に傷がついてしまうかもしれませんよ」
 足袋をつけたままの足を丁寧に持ち上げ、ふくらはぎに舌を這わす。桂の足がびくりと跳ねた。
 拘束具は外れない。なまめかしい白い足がむなしく宙をかく。
「くそ、おいてめぇ、やめろ!」
「ああ、お薬残ってらっしゃるんですね。大丈夫、すぐ楽に」
「あっ、くぅ……う、ああっ!」
 跳ね上がった足が粥の椀をひっくりかえす。どろりと床に広がるそれが、別のものを想起させて銀時は眼をそらした。事実をおぼろげに理解していることと、現実に見せ付けられることでは、精神的なダメージが違いすぎる。
 食器のひっくり返る音が収まると、銀時の性能のいい耳にはぐぷぐぷという何か垂れ流されるような音が届いた。床の粥はひっくり返した衝撃でか、泡立っていた。
「ずいぶんいっぱい飲んでいらしたんですね。かきだしてもかきだしても、まだ」
「ひぅ、いっ……あっ、やだそこ……」
「ここですか?」
「あああっ!」
 びくんと足が痙攣して、今度は焼き鳥の皿を蹴っ飛ばす。勢い余って銀時の頭上に叩きつけられた。ガチャンと皿が割れて、破片が自分の頭に降ってくる。ぼとぼとと焼き鳥も。あー、もったいね。
「ああ、ここも、ですか。指だけでイケてしまいそうですねぇ」
「あっ、もう……やめ、だめ、こんな……や」
 ガチャガチャと天井から吊るされた鎖が揺れながら音をたてる。涙目の桂と視線がからんだ。
 焼き鳥のタレのせいでヌルヌルする。くっそ、どうせなら塩もってこいっつんだよ!
 桂の足が男の腰に差した刀を鋭く蹴った。男は腰のものが消えたことにも気づかず、桂を凝視している。銀時は宙を舞う刀を睨んだ。
 ぱたた、と滴り落ちる音。桂の足が力が抜けたように沈む。

798:マロン名無しさん
12/05/09 16:38:37.46
「……おやおや。本当に指だけで」
 自由になった片手から、焼き鳥の串を放り出した。代わりにすっ飛んできた刀の柄をつかむ。鞘に噛み付き、引き出した。口から鞘を落とす間も惜しく、残りの鉄輪を切り飛ばす。
「―おい、変態」
「先輩だから。変態じゃないから―ん?」
「すぐにその手を放せっつってんだよ!」
 振り返った相手に横様に振るった柄を叩き込む。相手は面白いくらい吹っ飛んで壁に激突し、動かなくなった。
 肩で息をつく桂が、やや上気した顔をあげる。
「……遅い」
 顔をそらしかけ、どうにか苦笑らしいものを作りながら銀時は応えた。
「そういうこと言う? 銀さんあのヌルヌルした串でピッキング頑張ったのに」
「貴様なら、みたらし団子の串でもできるであろうが」
 言いながら桂が閉じた、その足の内股に流れるものを見てしまい、銀時は一瞬顔をしかめた。床に流れているのは視界にちらりと映っただけでも相当な量だった。
 勝手に、自分の腕に力が入った。
 内心舌打ちしながら、銀時は渦巻く思いを吹っ切るように刀を振るった。鋭い刃が鎖を断ち割り、桂の両手を開放する。
「動けるか?」
 自分の声がいつも通りであることに、思わず安堵してしまう。
「……腕が痺れているようだ。刀は持てんな」
 桂は座り込んだまま手をさすった。手首のあたりは紫色に変色している。感覚がないであろう手をぎこちなく動かして、大きく乱れた着衣を直しはじめた。
「なぁヅラ」
 しばらくその様子をちらちらと眺めていたが、銀時はぼそりと言った。
「ヅラじゃない、桂だ。……なんだ」
 桂の返答はそっけない。だが、なにか躊躇っているような音色を含んでいた。
「……なんでもねぇ」
 イロイロと……本当のところを言えば、聞きたいことは山のようにあったのだが。
 桂がため息をついた。
「なら聞くな」
 何も、と口にしていない言葉まで、桂が続けたように思ったのは気のせいだろうか。
 慌てて銀時は本題を切り出すことにした。
「…とりあえずこれからどーするよ。おめーがそんなじゃ逃げ出そうにも」
「報復する」
 返答はあまりにも簡潔だった。
 しかも即答。

799:マロン名無しさん
12/05/09 16:39:00.03
「……は? 悪い、銀さんよく聞こえなかったわ。も一回お願い」
 困惑というより、混乱しながら聞き返す。やはり即答気味に返事があった。
「報復する……それから逃げる」
 眉をひそめた銀時に、桂は真剣な表情を向けている。どこか力のこもった、眼差しだった。
「奴らもまさか、この状態から俺たちが反撃に出るとは思うまい。がむしゃらに逃走するより、おそらくは可能性があるだろう」
 なんだかんだ言いつつ、報復しないと気が済まないと言いたげではあったが。
 とりあえずは理性的な返答に、ほっとしながら銀時は思わずにやりと笑う。
「……んーじゃ専門家の意見に従いますか。まずどうすんの?」


800:マロン名無しさん
12/05/09 16:42:14.07
高杉見ていたのは、本当に始めから終わりまで、狂宴のすべてだった。
 だからこの男は眠っていない。宴の主賓だった桂よりも眠っていない。武市ですら休憩を取っていたのに、彼は休憩のためにその場を離れることもなかった。数度だけ部屋を離れた。だがそれも、短い間だけだったらしい。
 何やってるんだか、この男は。
「いずれにせよ、よくもあのようなものを延々見ていられたものだ」
 内心ため息をつきつつ、河上万斉はいつもどおりの声音で淡々と話す。
「あんなものは、宴という名のただの拷問でござろう」
 だが、わずかに嫌悪のようなものがにじんだ口調である。ただ苦痛を与え続ける拷問とは違い、ああいった行為は、実益はともかくとしても、実を言えば万斉の趣味ではなかった。
 高杉はキセルを揺らした。
「くっくっ……お前だって聞いてたじゃねぇか。それで銀時のやつを捕まえたんだったか」
 三味線の音が響く。
 自分の趣味にされてはたまらない。そもそも、あれは心地の良いリズムなどとは程遠い。あえて言うなら、不協和音をわざと好んで失敗したかのような。
 そもそも、ああいったことで人間が芸術的な音楽を奏でるとは思い難いが。
「いずれにせよ、仲間思いの男にはいい餌でござった」
「仲間思い」
 その言葉が可笑しかったのか、高杉は口元をさらにゆがめた。
「……その段階じゃあなくなっちまってたようだ」
「ほう」
 感心したようではなく、確認するような返答を返す。万斉もそのあたりのことはうすうす察していた。だがそうでなくとも、仲間のあえぎ声など聞かされては誰だって固まるだろう。だが動揺が激しくなければ、ああも簡単に白夜叉をとらえることはできなかったはずである。
 高杉が続ける。


801:マロン名無しさん
12/05/09 16:42:22.02
「ヅラもヅラで……ふん、あいつらの頭ン中まで平和になっちまったということだろう」
 平和ボケを表現するにはあまりにも彼の表情は荒んだものがにじみ出ていた。
 徹夜続きという理由だけではないだろうことは、万斉も察している。だが、彼は素直に言った。
「面白くなさそうに見えるが」
「ああ、つまらねぇな」
 万斉が顔を上げると、思っていた以上に素直な首肯が目の前の男から返ってきた。
 高杉は嗤いながら万斉を見据える。
「だが……」
 狂気の宿った瞳が、妖しく揺れた。
「その分壊しがいがあるじゃねぇか」

802:マロン名無しさん
12/05/09 16:42:51.69
仮眠を済ませたまた子は、不機嫌なまま自室を出た。
(あの変態のせいで……ったく、思い出しただけでも腹ぁ立つっス!)
『もうすこしあなたはお肌のお手入れをした方がいいですよ』
 何も晋助様の前で言わなくてもいいだろうが!
 様子を見に行って失敗した。実際は変態のやってることを見てしまったことが一番衝撃的だったのだが、武市の言葉ですべて吹き飛んだ。
「よ、よりにもよって晋助様の前で男の捕虜にも勝てないとかっ、うあー、もう、む・か・つ・くうぅぅぅぅ!!」
 思い出そうとしなくても、あの能面が脳裏によぎった瞬間、好き勝手なことを言っていくのだ。
『夜更かしは女性のお肌に天敵ですよ……そろそろ気にした方がいい年頃じゃないですかねぇ』
『髪もそーとー傷んでますよねぇ。ちゃんとお手入れした方がいいんじゃないですか』
『こちらのかたの方がよほど手触りのいい肌をしていらっしゃいますよ。まずいですよ』
 おかげで逃げるようにその場を離れ、自室で鏡を前にしばらくよくわからない奮闘をしてしまった。
 というか、あとで気づいたのだが。
「触ったこともねーくせに、何言ってんだァァァ! 武市変態がアアアアア!」
 叫びながら思う。
 もうこれからは絶対に先輩などと呼ぶまい。変態、そう変態でいい。ていうか変態。結局変態。
 大体野郎をいじくりまわして悦に浸ってるとかマジキモいんですけど。なんか変な薬使ってたみたいだし。相手が多少、その、きれいな肌とかきれいな肌とかきれいな肌とか、関係ないし。
 やっぱりムカつくぅぅぅぅぅぅ!!
 通路で無意味に彼女が激昂していると、後ろの方から恐る恐るといった雰囲気で声が掛けられた。
「あ、あのぅ……」
「ああ!? なんスか!?」
 また子が女性にあるまじき表情で振り向くと、背の低い男がぺこぺこしながら口を開いた。
「来島さん、すみません。武市先生はどちらにいらっしゃいますかね」
 ……彼女の口元がゆがんで、次の瞬間。

803:マロン名無しさん
12/05/09 16:43:21.68
「なんであの変態のことを私が知ってなきゃいけねーっスか、コラぁ!?」
「ひいいいいいいい!!?」
 拳銃を突きつけられて壁際に押し寄せられた男を見下ろしながら、また子は大声で嘆息した。
「で、武市変態に何か用でもあるんスか」
「は、はいその、例の薬の件で……で、ですが約束のお時間になってもいらっしゃらないのでっ」
 長々と溜息を吐きだし、また子は拳銃をしまいこんだ。腰に手を当てながらしばらく考え、結論を導く。
「たぶん、あれじゃねぇスか? 捕虜の野郎をえらく気に入ってたみたいだし……おぇ~。様子でも見に行ってるんじゃ……」
「あ、そうか。武市さんが朝食を持っていくとか何とかって、だれか言ってやした……でも、それにしてはちょいと遅いようで。いったい何をしてらっしゃるのか……」
 また妙な楽しみでもしているのではないかと、思わずまた子は口元をゆがめた。ありうる。だって朝とか夜とか気にしないでいろいろやっていたらしいし。おかげで機嫌のよい配下が自慢げに話をしていたのを聞いてしまい、思わず撃ち殺したくなったものだ。
 あの変態こそ、能力がなければ撃ち殺してやりたいのだが、それは我慢しておかないと晋助様のためにならない……そう、我慢することが大事だ。いつまでもつかわからないが。
 が、ふと思い当たる。
「……まさか?」
 思わずまた子は顔をあげた。
 そういえば、万斉がまた一人捕まえたはずだった。
 先の捕虜の仲間で、たしか紅桜の一件で目にした、白髪の男。晋助様のかつての同志とかいう。
 晋助様の元同志。紅桜の一件で、完全に敵対したという男。あの紅桜と似蔵をねじ伏せた男が、捕まっている。
 え、いやそれどうなんスか。武市変態が一人でのこのこ行ってたりしたら。いやいやまさか。
 ……もしかして。
「あー……捕虜の場所はどこだったっスか」
「あ、ええとこっちです」
 さすがに彼女の表情から何かまずいと察したらしい男は、その部屋の場所へと向かった。
 案内役の男を追いかけ、また子はほどなく捕虜たちがいる部屋にたどりついた。
 カギのかかっていない扉を開けて中をのぞくと、思わず笑みがこぼれた。
「た、武市先生!?」
 手下の男が騒ぐが、また子は気にせず中に進み、見渡した。


804:マロン名無しさん
12/05/09 16:43:52.57
「あーあ……見事に逃がしたみたいっスね」
 室内はなかなか面白い惨状だったが、武市がぶちのめされ、羽織を脱がされて痙攣しながら倒れ伏している姿は、また子の気分をそれなりにすっきりさせてくれた。
 予想通り、一人で来ていたらしい。だがこの様子だと、数人の配下を連れてきていても同じ結果になっていたようにも思える。
 だがいずれにせよ。
「ざまぁみろ変態」
 口元が勝手にほころび、思わずつぶやいている。
「き、来島さんそれどころじゃっ」
「あ、そっスね。忘れるとこだったっス」
 むしろ放置しておきたい気持ちでいっぱいだったが、とりあえずその兵士は武市を気遣って揺り動かしたりしている。自分はとりあえず他の者たちに連絡して、
武市をやってくれた恩人を捕まえるとしよう。こういうときの指示は武市がうまいのだが、気絶してしまってるわけだし、しかたがない。
 また子は部屋を出ると、近くにいた部下たちに指示を出し始めた。


805:マロン名無しさん
12/05/09 16:44:13.28
 また子の武市発見からしばらくさかのぼる。
「こんなヤローの羽織なんかどうすんだ。おめ、着んの?」
 桂の指示で武市から乱暴に羽織をはぎとった銀時は、何となく顔をしかめながら桂に尋ねた。
「参謀の羽織だ…目立つ囮にはなるだろう」
 奴らの仲間の幹部がきているものだから、と言いたいらしい。
「……着替えなくていいのか」
 汚れてあちこちにいろいろな染みがつき、ほつれたり破れたりすらしている彼の着物を指さす。片袖は、すぐにでも落ちそうにすらなっている。見た目だけなら着物という形をぎりぎりでとどめているぼろ雑巾でしかない。
「……だからといって、その男の物を身につける気にはなれん」
 まぁ、そりゃそうだろう。
 俺だって嫌だ。
「じゃあ、ほら」
 銀時は素早く自分の着物を脱いで放り投げてやった。
 受け取った桂が、きょとんとした顔で彼を見つめる。
「汚くねーよ……たぶん。ちゃーんと俺それ洗濯してっからね?」
 何か一瞬迷ったようだったが、結局彼はうなずいた。
「借り受ける。すまんな」
 口元だけの僅かな微笑に、銀時は思わず頭をかきながらそっぽを向いた。言い訳気味につぶやく。
「クリーニングして返せよ」
 後ろから、どこかたどたどしい衣擦れの音が聞こえてきた。手のことを思い出し、手伝ってやった方が良かったかとも思ったが、おそらくそれは逆効果だとすぐに気付いた。
 見られたくはないだろう。
 ごまかし気味に変態能面男の刀を握って軽く振り、重さなどの感覚を確かめる。
 持ち主本人の腕には見合わぬ業もののようだった。無駄に金だけかけているところがなおさら憎い。テロリストは儲かるのだろうかと、違う方向で考えつつ、口を開く。
「拝借するぜ。返さねーけど」
 突っ伏している変態男に呟いきかけても、細かく痙攣しているだけでほかの動きも反応もない。
 どうせならもう10発くらいぶっ飛ばす機会を得られないか、あるいは今、地獄の底に送ってやれないかなどと考えていると、桂が声をあげた。


806:マロン名無しさん
12/05/09 16:44:41.83
「待たせた。行こう」
「へいへい―っておい?」
 振り向くと、桂は一歩前に出ただけで膝を折ってしまった。思わず銀時は手を差し伸べる。
「……くっ」
 銀時の手を取りながら震える足に力を入れ、なんとか立ち上がろうとするが、そのまま尻もちをついてしまう。本人が一番驚いたような顔をしている。
 手足に力が入らないようだった。銀時の腕をつかむ彼の手は、あまりにもか弱かった。
「おいおい……マジですか」
「いや、大丈夫だ……なん、と、かっ」
 無謀な努力を繰り返しているようにしか見えなくなった。
 銀時は嘆息すると、ひょいと桂を肩に担ぎあげた。当然抗議の声が背中から聞こえてくるが、一切無視する。
「おらいくぞ、足手まとい。案内しやがれ」
「……足手まといじゃない、桂だ」
「いやそういう意味じゃねぇよ」
 不機嫌そうな彼の言葉に、思わず銀時は笑っていた。
 廊下には人の気配がなかったが、二人づれでしかも一人は行動が難しい状態にある。反撃するにしても、暫定的に身を隠す場所が必要だった。
 もぞもぞと入り込んだところは、四つん這いでどうにか歩ける程度の広さだった。さすがに桂の動きは遅めだったが、立ち上がらなければ進めるようだった。
 しばらく進み、奥まで入り込んでから止まる。
「地下の通風孔ってねぇ……こんなところじゃ、すぐ見つかっちまうんじゃねーか?」
「うむ……だからわざと屋敷の外にこの羽織の切れ端だけ落としておく。さすれば奴らの注意をひき……半数は、外に捜索に、……っ」
 言葉を濁し、桂がかぶりを振った。驚いてみると、ふるえる手で自分の頭を押さえている。
「おい、どした?」
「少し……目眩が。いや、大丈夫だ」
 もう一度頭を振り、桂は少しだけ表情を歪めながら銀時を見た。
「とりあげられた俺の爆弾は、おそらく武器庫があれば、そこに……」
「……そもそも武器庫にいけちまったらお前の爆弾なくっても平気じゃねぇか?」
「確かにそうだ。だが、特別製の炸裂弾が一つ、残って……」
 語尾を詰まらせ、桂は眉間にしわを寄せながら頭を押さえた。
 肩が震えているのがわかる。

807:マロン名無しさん
12/05/09 16:44:58.93
さすがに気になった銀時が手をのばして額やのど元に手を当てると、彼は小さく身じろぎした。だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「……てめー熱あんぞ」
 思っていたよりも深刻な症状だった。かなり熱い。さきほどからかぶりを振っていたのは、熱でぼんやりしてしまうからだろう。
 こんな状態で行動するのはやはり無茶だ。
 だが、今から逃亡するには遅いかもしれない。そろそろ気絶したあの変態が発見されてもおかしくないころだと銀時は踏んでいた。そして実際にそれは間違っていなかった。
「この程度、問題ない。それより、はやく……しないと」
 桂も時間がないことはわかっているのだろう焦っているようだった。
 だが、息遣いまでだんだんと荒くなっていく様子がひどく痛々しい。
 ため息をひとつ。
「じゃ、元気な銀さんがちょっくら行ってくっから。おめーはここで待ってなさい」
 茶色い羽織を手に取り、銀時は桂に言った。
「……すまない、銀時」
 足手まといだとわかっているのだろう。横壁にもたれるように沈みながら、桂が唇をゆがめた。
「任せたぞ」
「おう」
 背を向けて前に進み出すと、呟くようなか細い声が掛けられた。
「何かあったら……俺のことはいい、お前だけでも逃げろ」
 銀時は思わず身体を止め、振り向いて笑った。
「……ったりめーだ、そんときゃ好きにすらぁ。恨むなよ」


808:マロン名無しさん
12/05/09 16:49:27.48
「奴らが逃げたか」
 万斉の進言で休んでいた高杉は、武市が気絶しているのを発見されてからやや時間がたった頃に起こされた。寝起きが不機嫌そうだというわけではなく、
年中緊張感を漂わせている高杉の前で、部下の男はかなり緊張気味の声で報告を続けた。
「はい。どうやら武市さんと争ったようで、今介抱されていますが、武市さんはまだ意識が戻らないようです」
 高杉の口元が可笑しそうに捻じ曲がった。
「あの状態からから逃げるたァな……相変わらずじゃねーか、奴ら」
「逃げてからまだ間もないということです。武市さんの羽織が現場から消えており、代わりに桂の着物が落ちていたとか。その羽織の切れ端が塀の手前で見つかったということで、
来島さんが館の外で捜索班を指揮しています。白夜叉はともかく、桂はまともに動けませんし、じきに捕縛できるかと」
「……」
 高杉は無言のまま立ち上がった。思わず身じろぎした配下の男などまったく気にせず、口を開く。
「館の中ぁ、今何人残ってる」
「へ、へい。河上様と医療班、内部捜索に数十名を残し、あとは奴らを追っています」
「内部は万斉が探させているか」
 配下の者がうなずくと、高杉は枕元に置いてあった刀に手を伸ばした。
「また子たちを呼び戻せ」
「えっ?」
 男が驚くと同時に、地鳴りのような音が響き、二人のいる部屋が軽く揺れた。
 高杉が、どこか楽しそうにすら見える表情で笑う。
「やりやがったな……」


809:マロン名無しさん
12/05/09 16:49:34.11
 バタバタと廊下が慌ただしくなった。そしてまた地響きと、揺れがやってくる。
 高杉は揺れに構わず立ち上がった。
 武器庫にしまってあるものでもつかっているのだろう。さすがにこの館に大砲などはなかったが、多少の戦闘用の武器はどの拠点にもしまいこまれている。
爆薬、手榴弾などは、当たり前のように置いてあるはずだった。
「万斉の奴は中ぁ捜索してるんだったな」
「はっ、最初に地下を探すと言っておられましたが」
「……てめーは今すぐ中にいる奴らに退却命令出せ。どうせこんなちいせぇ屋敷、奴らにすぐぶっ壊されちまう」
「は、はいッ!」
 男があわてたように出ていくと、再び館が揺れた。刀を腰にさし、彼はキセルを拾い上げた。
 ただ逃げるような奴らじゃないことは、百も承知している。
 高杉はゆったりとした足取りで部屋を出た。

810:マロン名無しさん
12/05/09 16:51:11.61
万斉は半ばがれきに埋もれた廊下からちょうど脱出するところだった。一緒に地下に降りていた捜索隊のことは考えていない。全員がほぼ単独行動で捜索していたからである。
実のところ、彼らを捜索するのに分散する意味はない。足手まといがいたとしても、自分以外の者では各個撃破されるに決まっているのだ。だがあえて危険を承知で分散したのは、
その中には春雨から派遣されていた、功を焦る天人も数人いたせいだった。あまりにごねてくるので、万斉はその段階で彼らに見切りをつけていた。
 そして彼は手始めに奴らが狙う可能性の高い武器庫に向かった。扉がぶち壊されていた段階で舌打ちし、中を覗いてため息をついた。小さな火力兵器がなくなり、
残された武器大型の銃器類が痛々しい刀傷で壊されていた。
 おそらく、地下に潜んで期を窺っているだろうと予想された。自分たちは上に向かいながら一気に地下にやってきた者たちを処理してしまうつもりだとしたら。
「これは相当まずいでござるな」
 つぶやいて彼が武器庫を出た時に、それがはじまった。
 爆発音が地面を揺るがす。直撃や爆風は食らわなかったものの、爆発の煙が万斉のもとまで届いてきた。
 がれきに埋められる前に脱出しなくてはなるまい。
 素早く判断した万斉はすぐさま行動に移し、地下から地上一階へと移った。その間にも、数回ほど爆発が起こった。
 一階でこの騒ぎをやられたら、火の手が上がる可能性もある。おそらくこの拠点はもう使い物にならなくなるだろう。
「ふむ。あやつらに関わるとろくなことがない……」
「そりゃこっちのセリフだ」
 後ろから掛けられた気の抜けた声に、彼は振り向かず右に跳躍した。
 彼のいた場所を、轟音と高速物体が駆け抜け、真正面の壁を爆発させた。
 向き直れば、二階へ続く階段の手すりに足を掛けた男が肩に巨大な筒を背負いながら笑っている。
「ちィ、外したか!」

811:マロン名無しさん
12/05/09 16:53:20.84
「そんなものを人に向けて撃つとは、礼儀がなっていないでござるよ」
 万斉は刀を抜いた。
 白髪の男も、それに応じて砲を捨て、刀を抜く。万斉はそれに見覚えがあった。
「おぬしは盗人でござったか」
 言いながら飛び込みあい、刃が数度噛みあった。金属音が心地の良いリズムを刻む。
「ああ? これはおめー、拝借しただけだ!」
 男の表情は、真撰組を追い詰めた時よりもぎらついていた。そして怒りをわかりやすいほど出していたが、前のような焦りはない。
 これは手ごわいと、万斉は銀時の激しい剣さばきを受けながら思った。剣筋に迷いがない。
「てめぇらぶった切ったらもういらねぇからよォ! あの変態に返しといてくれや!」
「借りたものは自分で返すでござる!」
 はじき合いながら叫ぶその男の表情は、修羅のごとく。
 手数こそ多くはないが、一撃一撃がとにかく重く、そして鋭い。以前酔っ払いの鼻歌などと評した男の音色はどこへやらだった。
「桂はどうした!」
「あいつなら一人でさっさと逃げちまったぜ!」
 下から跳ね上げてくる斬撃を身をひねってかわす。その反動で横なぎの一線を鋭く放ったが、銀時はあっさりと受け止めて見せた。
「見え透いた嘘を。あの状態では一人で逃げられるはずもあるまい!」
「その辺の野郎とは違うんだよ。腐っても逃げの小太郎ってやつだ!」
 刃を交えながらにらみ合う。
 この男の笑みは、高杉とは違う。人を小馬鹿にして煙に巻く。そのくせどこかぎらつくような強さを秘めている。
 ムラっ気が強いのは高杉と同じか。おそらくそんなことを口にしたらどちらの男も否定してくるのだろうが。
 とりあえず勢いに乗っているこの男を倒すのは骨が折れそうだと感じた。
 さらに踏み込まれた一撃をはじき、万斉は間合いをとるために一度大きく退く。
 銀時が、いやな笑みを浮かべたのはその瞬間だった。


812:マロン名無しさん
12/05/09 16:53:37.43
「そこ気ぃつけろォ」
「!」
 爆発。
「大当たりだぜ」
 万斉は床を踏んだ瞬間違和感を感じてさらに跳んだが、当然よけきれるものではなかった。結果、吹き飛ばされて壁に叩きつけられるまで、彼はほとんど何もできなかった。
 実際、直撃しなかっただけでもよかったと言える。
(地雷……とは!)
 受け身すら取れず叩きつけられた衝撃が彼の全身を打ちすえる。やがて壁に寄り掛かる形でずり落ちながら、彼は床に刀を取り落とした。
 背中で破損している三味線も、ダメージ緩和どころか増加させてくれた。今度からこいつを背負って切り合うのは、時と場所を考えるべきかもしれないと反省する。
 そもそも地雷原のあるところで戦うことがあれば、の話であるが……
「借りは返したぜコノヤロー」
 どこか愉しげな声が、かすんだ視界の中に映る影から届く。
 捕まえられた恨みにしては、ちと厳しくはござらんか……?
 思わず聞き返そうとした彼に、白夜叉は背を向けたようだった。そこまでが彼の記憶となった。
 さすがの万斉も、捕まえられた恨みではなく、白夜叉にバイクで突っ込まれた時の恨みを返されたということまでは気づかなかった。


813:マロン名無しさん
12/05/09 17:03:10.61
「お前なんであんなのに捕まっちゃったの? 大したことなかったんですけど」
 銀時はバズーカを拾い上げると、その近くでテーブルを倒して陰に座り込んでいる男に言った。
「……お前とて、地雷に頼らず勝てたのか?」
 一度だけ気絶している万斉を見やり、どこかくたびれたような顔つきで桂が応じた。
「当然でしょ。まぁあれだ、時間がかかっちゃ困るから、てっとり早い方が良かっただけで」
 自分も万斉に捕まったとか、その辺は内緒にしておこうと思った。
 銀時が手を伸ばすと、桂がそれを取ってゆっくりと立ち上がった。桂が与えられたのは本当に少しだけの休憩だったが、立ち上がって歩きまわれる程度には回復していた。戻った時には完全に気を失うように眠っていたので心配したが、起き出してすぐに銀時と動き始めたのだ。
 相変わらず見た目に反してかなり頑丈な男だと銀時は内心、妙に感心している。
 もちろん無理をしている可能性が高いのでその辺は常に気遣わなくてはいけないところだったが。
「外に捜索に行った者たちも、そのうち戻ってくるだろう」
「そうだな。その前に……」
 銀時はバズーカを構えた。天井に向けて。
「取り返しのつかねーことしてやらなきゃなァ!」
 叫びながら引き金を引く。
 轟音が鳴り響き、反動で銀時が軽く後退した。
 それを見ながら、桂が両手にもった物体をやや遠くに放り投げる。
 一瞬後、爆発。
「ようやくテロリストの本領発揮ってか!?」
「ふん、そう言うな」
 いろいろと手早く放り投げながら、桂は顔をしかめていた。一番負担のないやり方でも、腕を振るうだけで痛むのだろう。右手首は骨にひびくらいは入っているのではないかと思われるほど腫れていた。
 爆音があちこちで鳴り響く。
 その中で弾切れした砲を投げ捨て、銀時は快活に笑った。
「退路、ほんとに真正面でいいのかよ!」
「どうせ派手に壊していくだけだ。かまうまい」
 正々堂々帰らせてもらおう、と桂が言いかけたところだった。
「見つけたぞ! 奴らだ!」

814:マロン名無しさん
12/05/09 17:04:08.05
人間というにはあまりにも異形の奴らが現れて叫ぶ。玄関に向かう廊下の真正面だった。あちこちで壁がぶち抜かれ、がれきの多い足場に苦心しながら近づいこようとしていた。
 一階の大広間ならまだ囲むなりできるだろうが、この状況ではこちらに分がある。
「後ろからも来たか」
 桂のつぶやきに、銀時は肩越しに振り向いた。数はそう多くないが、天人と人間とが雄たけびをあげながら群れをなしてこちらにやってくる。
「そっち任せた」
「そちらは頼む」
 声が重なり、二人は同時に動き出した。
 桂はややかがみながら前に進み、手榴弾のピンを歯で引っこ抜いて鋭く投げた。左投げの連投だったが、勢いよく投げだされた手榴弾は押し寄せてくる敵の真ん前に落ちた。威勢のいい爆発で、一気に片が付いていく。
「だりゃああぁぁぁ!!」
 一方で刀を構えて突っ込んでいく銀時は、接敵すると同時に的に体当たりをぶちかまし、一気に数人をはじいた。驚いてたたらをふんだ男に刃を浴びせ、自分は血を浴びる。白目をむいた男の後ろで斬りかかろうとしていた天人を切りはらう。
 面倒くせぇな。
 そう思った瞬間、桂から預かった手榴弾を取り出した。一斉にひるむ奴らに口角をつりあげながらピンを引き抜く。
 爆発で吹き飛ばされてきた男を蹴り飛ばし、煙に白髪をなびかせながら後ろを一度だけ振り向いた。
 桂の黒髪が爆風になびいている。向こうの方が景気良く爆発しているのは、刀を扱えない桂にほぼ全火力を預けているからだった。
 そして彼が怪我をしていても、こちらが有利だといえるのは銀時の剣技技量云々からではない。ここが敵の拠点である以上、奴らはこういった爆発物の類を使おうとはしない。それも桂が口にしていたことだった。
最も、彼の場合は自分の住みかだろうと自爆気味だろうと気にしないでかますのだが。
 爆風が収まり、それでも混乱している様子の敵に向かって銀時は再び飛び出した。
 後方の敵が沈黙したらしく、銀時が敵の残党をを処理し終わる頃には桂が彼の方に近づいてきた。
「まだか銀時!」
「てめー、楽な方請け負ったくせに……!」
 苦笑いを浮かべ、彼は一気に敵を沈黙させにかかった。上段から、下段から。足を払って。型どおりの戦いなど自分も敵もしやしない。ただそのまま突っ走るだけ。

815:マロン名無しさん
12/05/09 17:04:58.35
ようやく最後の一人が黙ったところで、銀時は足を止めた。
 桂がその横に並ぶ。走ることはできないようだが、壁に手をついて素早く移動してきたらしい。
「これで終わりとは思えんな……」
「とりあえず最後の一発は外に出てからな」
 銀時は桂が持ち込んだ高性能炸裂弾とやらの威力を信じて疑わなかった。本人いわく、芸術的にすべてを無に帰すとか、かなり恐ろしい代物らしい。狂乱の貴公子というより、
こいつは凶弾の爆撃機じゃないのか。歩く凶器だか武器庫だ。
 銀時が無言でしゃがむと、桂がその背に乗って体重をかけてくる。
 なんだかこの移動スタイル微妙じゃね? なんかちょっとなんつの、なにかがこう嫌なんだけど。
 最初はそう思ったものの、桂も顔をしかめつつそれしかないということで、おんぶスタイルで話はまとまった。が、お互いに動きが意外に取りやすく、
戦いやすいという発見があったので結局二人とも何も言わなくなった。担がれている時より行動しやすいと言った背中の桂は、発見した敵に妙な棒を投げて吹き飛ばしまくる活躍ぶりを見せた。その際、お菓子の匂いがしたのは気のせいだと思うのだが。
「とにかくいこう」
「あいよ」
 銀時が走り出すと、あちこちで時限式の小さな爆弾が館を揺るがし始めた。基本は地下に仕掛けておいたもので、上の階にほとんど被害は出ていないだろう。
「だがそのうち火災が発生する」
「あ、やっぱり? 景気よくやっちゃったからなー」
「その前に崩れ落ちる可能性はあるが、土台を壊したわけではないのでな……ともかく、すぐにここを出なくては」
 銀時たちは廊下を駆け抜け、一階のホールに続く大扉の前までやってきた。


816:マロン名無しさん
12/05/09 17:05:31.21
「ここでいいんだな?」
「ああ」
 武器庫にあった館の見取り図を頭に入れていた桂が後ろでうなずく気配がする。
 銀時はすぐさま扉を蹴り飛ばした。扉は面白いほど吹っ飛んでいった。階段わきの扉だったらしく、ホールに明かりが灯っているものの入口を含めほとんど向こうの様子が見えない。だからといって慎重になっても仕方がないことはわかっていた。
 敵が待ち受けている可能性も頭に入れつつ、二人はホールに飛び込んだ。
 直後。
「存外、遅かったじゃねぇか」
 ぶっきらぼうな声が二人にかけられる。
「ちぃと待たされたぜ」
 空気が一変した。
 自分たちのまとう空気も一変する。
「おいでなすったか……」
 銀時はつぶやいた。
 不敵な笑みのラスボスが荘厳なシャンデリアの下、フロア中央に悠然と立っている。

817:マロン名無しさん
12/05/09 17:06:28.41
 右手でゆっくりと腰の刀を抜いた高杉は、やや不機嫌そうな顔つきに見えた。
 あいつ寝起きかよ、と銀時がつぶやくと、まぁなという返事が返ってきた。
「……どんだけいい耳してやがんだ」
「銀時、降ろせ」
 背中の桂が身じろぎする。彼は言われたとおり手を離した。
 いつも以上の緊張感を持った表情で、桂は彼の隣に立った。ちらりと見やれば、心なしか表情がかたい。だか言葉は落ち着いていた。
「借りは返させてもらうぞ、高杉」
 魔王は、鼻で笑う。
「なら大人しく捕まってくれねーか? 春雨にもいい加減、しびれ切らされそうなんでな」
「お前の首でも差し出せばよかろう。そのにやついた面構え、いい飾りになりそうではないか」
 あからさまな挑発に乗っている隣の男は、どうやらかなりキレているらしい。
 そこに色々な理由を見出しそうになり、銀時は考えるのをやめた。怒りを覚えているのは自分も一緒なのだ。
 そうだった。そう思った瞬間、いつの間にか腰の刃を抜き放っている自分にようやく気付く。
「余計なことをごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!」
 叫びながら飛びかかり、数十歩はあった距離をあっという間に詰める。
 刃が高杉に振り下ろされる。これは思っていたよりもいい気晴らしになりそうだった。
「おめーに貸しを作った覚えはねーんだがなァ、銀時!」
 刃を受け止めながら、黒い獣は笑みを濃くする。
「なに忘れてんだよてめぇ……俺の腹ぁよくも蹴ってくれたじゃねーか! あれから痛くてしゃーねぇんだよ!」
 はじき合う金属音が数回。向かい合う二人の表情は、歪んだ笑み。
「銀時! そいつの相手は……っ」
「うるせぇヅラぁ! てめーは黙って他の奴の相手でもしてやがれ!」
 銀時が叫ぶと同時に、武装集団が上の階から階段で下りてきた。
 いつの間にいたのかはわからないが、まさか本当に来るとは実は思っていなかった。
「ちっ」
 桂の舌打ちをよそに、銀時は攻撃をかわしながら高杉に集中しなおした。
 見た目以上にこいつは洗練された動きをする。斬撃は相変わらずの素早さで、銀時の腕をもってしても舌を巻きそうになる。

818:マロン名無しさん
12/05/09 17:07:12.50
「腕のほうはてめぇの脳ミソと違って衰えちゃいねーようだな……!」
「ああ!? んだてめぇ、どういう意味だそりゃ!?」
 相変わらずムカつく男だというところも変わっていないようだった。
 後方で爆音が聞こえてきたが、もう銀時は気にしない。
 火力を与えられた桂は、対多勢において刃を持った自身を軽く凌駕する。真選組との日々の闘争の賜物とでも言うべきか。
 そして実のところ、銀時に気にかけている余裕はなかった。
「だ……ッらぁ!!」
 気合いをこめて刃をはじき返すが、高杉はそこから自分の本領を発揮する。はじかれた勢いを受けず、流れに乗るように回転しながら刃を翻してくる。桂と銀時の間をとったような、華麗で勢いのある斬撃だった。
 避けきれず、胸元が軽く切り裂かれるがそれも一瞬のこと。無理やり耐えて銀時は踏み込んだ。そのまま蹴りを繰り出す。
 刃を戻せない高杉が上に跳んでかわす。かわしたその男に向かって一閃。
 刀で受け止めた高杉だったが、勢いを殺せずはじかれたように退く。
 銀時の追撃は終わらない。態勢を崩した男に向かって駆け、切り結ぶ。
 高杉の左肩から鮮血が飛んだ。が、それも浅い。さらに二人の手数が多少の傷など気にせず増えていく。
 不意に高杉が逆手に持ち替え、瞬間、刃が鋭く煌めいた。
「くッ!?」
 避けようとしていた刃が速すぎて、思わず前に出していた刀のにぎり、左手を切られた。
 これも浅い。しかし銀時は左手から刀を放した。力を込めると痛みが集中力を上回ってしまうと判断した。出血だけが景気よいのだから困ったものだ。
 高杉も一度かすめた頭の怪我を気にしているようだった。頭から血が流れ、包帯を少し赤く染めている。右の視界がなくなってしまっては、彼は戦えなくなる。
 かすり傷くらいはいくつも負わせ合っている。結局、ハンデはどちらにもついていない。
 同時に退き合い、間合いの外からにらみ合う。
「相変わらずいやな奴だぜてめーは」
「やりにくい野郎だな、ほんと」


819:マロン名無しさん
12/05/09 17:07:37.25
どちらともなく口を開いた結果、声がかさなった。
 景気のいい爆発音と悲鳴が鳴り響く中で、二人は笑った。
 笑い合いながら距離をじりじりとつめる。
「河上万斉!」
 二人の邪魔をしたのは、桂の叫び声だった。
 見れば、崩れた階段の方で広がる惨状の中、二人の男が立ち残っている。
 傷だらけで血まみれのヘッドホン男が、桂につながる弦を手にしながら地面に血を吐きつけたところだった。あんな状態でもヘッドホンをしているのが意味不明な男である。
 桂自身は無事な左腕に弦をからめられて顔をしかめていた。
 桂も万斉も、お互い立っているのが精いっぱいなのだろうが、意地でも敵を潰すという雰囲気に満ち溢れていた。
「どこいってた万斉。お前が一番の遅刻だ」
「室内で地雷を踏むとは思わなくてな。これでも最速で戻ってきたでござるが」
 その様子じゃ本当に踏んだらしいな、と高杉が笑う。
 これで全員役者がそろったというところか。銀時はため息をついた。不安が募るが、仕方がない。
「ヅラぁ、そいつは任せたぜ」
「ヅラじゃない……桂だ」
「万斉、代わってやろうか?」
「そう願いたいところだが、晋助に譲るでござる」
 軽口気味の高杉に向かって、銀時は再び切りかかった。
「ヅラの恨みでも晴らすか、銀時ィ!」
「てめーの借りを返し終わってから考えらァ!」
 動揺する間も惜しい。とにかくこの男を切り伏せてやりたかった。でなければあいつの助けにも回れまい。
 その視界の隅で、桂が動くのが見えた。


820:マロン名無しさん
12/05/09 17:12:03.26
桂は武器庫にあった小刀を対万斉用に持ち出している。しびれた腕でどうにか弦を切り外し、桂は即座に自由になった左手を振るった。
 小型の炸裂弾。威力は低いが、目くらましにもなる。直撃すれば腕くらい軽く吹き飛ばす。万斉も自分のアジトにある武器くらい把握しているのだろう、目にした瞬間行動した。
だがあのキレのよい動きとはほど遠い。銀時に提案し、爆弾で吹き飛ばしておいて正解だった。人斬りが刀を使えない状況というだけでもよろこばしい。どのみち、接近戦は自分には不可能なのだから。
 お互い、痛みわけともいえるこの状態ならまだ互角だろう。だがあのときと同じく、すぐにでも援軍がくる可能性はある。
 どのみち長期戦は身体がもたない。敵も似たようなものだろうが、それに過剰な期待をかけることはできない。
 きしむ身体にむち打ってかわしながら、桂は万斉の弦を棒状のものに巻き付けた。
「くらえ」
 小刀の柄ではじくように返す。万斉めがけて飛んでいくそれは、彼の弦さばきで遠くにはじかれた。だがそれは囮だ。
 弦を封じた瞬間、桂は渾身の力で爆薬を投じた。大きさがまばらで小さいものを二十ほど。必然的にかわさざるを得なくなった万斉の着地点に時間差でもう一つ。
 これが精一杯だった。
 その精一杯を万斉はかわせなかった。
 爆発。
 いったいいつから自分は爆弾使いになったのだろうなと、桂は自嘲するような笑みを浮かべた。
 だが、笑みはすぐに消えた。
 爆煙の中からこちらに向かって地を這うように光が走る。動体視力がよくても、かわせなければ意味がない。横に動いたものの、それは動きを変えて桂を追いかけてくる。
「簡単に、やられるわけにもゆかぬ」
 万斉の声が聞こえたと同時、足にからみついた弦が桂を転ばせた。
「ぐあッ」
 したたかに打ち付けた身体が痛みを一斉に訴えた。転ばせてくれた男が、ゆっくりと歩いてくる。身体を引きずるようにしながら。さすがにこの男といえど無事とはいかなかったのだ。
 大した男だと、感心したくなる。だからといって素直にやられるわけにいかないのはこちらも同様。
 桂は一つの球体を取り出し、万斉の前に掲げた。足を止めたその男に向かって、笑う。
「……では、共に逝くのは、どうだ?」


821:マロン名無しさん
12/05/09 17:12:41.86
今までで一番大きな閃光、ついで爆発音が頭まで響き、すぐさま煙で視界が埋め尽くされた。
 銀時は驚いて桂たちが争っていた方を向いた。高杉とは距離をおいていたのでひとまず存在を無視してもいい。
「まさか……」
 今のが桂の言っていた高性能爆弾というやつなのか。煙が立ちこめ、何も見えない。
 高杉が動く足音が聞こえ、思わず構えたが足音は別の方向に向かっていた。
 どこへいったかと訝しんだのも一瞬だった。思わず叫ぶ。
「逃げろ! 高杉がいったぞ!」
 叫びながらとにかく近づこうとした彼の方に何かが転がってくる。それがピンの抜かれた手榴弾だと気づく前に、銀時の身体は動いていた。
 大きく後退して危ういところをかわす。突風でさらに数歩さがった。
 おかげで視界がよくなった。先の爆発の煙が薄れ、収まっていく。あちこちで火の手が上がっているのがわかった。そして、彼がまっすぐ見ている先、真っ正面に人がいた。
 いつの間にか距離がだいぶ離れている。銀時のすぐ後方には、玄関の大扉があった。広間の中央、天井からぶらさがったシャンデリアが今にも落ちそうに揺れている。
 その下に、三人がいた。
「どうする銀時」
 魔王が言う。足下に倒れているのはしとめられてしまった魔王の配下。そしてその腕の中には。
「う……ぐ」
 首を魔王の左腕で固められた長髪の姫君が苦しげにうめく。
 自分が勇者のような気すらしてくる。それにしては姫君の扱いが乱暴すぎるようだが。
 煙が完全に落ち着いてきたところで、ようやく銀時は気づいた。先ほどの爆発はただの目くらましだったということに。だから揺れがこなかったのだ。そしていち早く気づいた高杉に先手を打たれた。
 舌打ちする。

822:マロン名無しさん
12/05/09 17:12:47.86
「お前だけ逃げるっつー手もあるぜ。てめーのすぐ後ろが出口だ。俺もこいつを抱えていちゃ止められねぇからな」
 歯がみする。そんなまねが、できるものか。おいて逃げることなど絶対にできない。もう二度と。
 どうすれば切り抜けられるかを必死に模索する銀時の前で姫君はうなるように声を上げた。
「いけ……銀、時」
 かぶりをふった彼に、桂は不吉な笑顔で言葉を続ける。
「どうせ、俺、は……助からん」
 その言葉に高杉と銀時が驚愕に目を見開き、同時に桂が右裾から何かを自分たちの足下に放った。
「てめぇ!?」
「よせ、桂ァァァ!!」
 二人の叫び声は次の瞬間、爆発の轟音の中にかき消されていた。

823:マロン名無しさん
12/05/09 17:13:31.36
気づけば銀時は叩きつけられた扉ごと庭まで吹き飛ばされていた。
 爆発は、先ほどの目くらましの比ではなかった。距離のあった彼でさえこの衝撃。痛みに顔をしかめながら目を開けていくと、煙の向こうに館のシルエットが映った。
 崩れてはいない。おそらく大広間の中で爆発しただけだろう。あのシャンデリアは粉々になっただろうか。破片がいくつか自分の近くに落ちているらしかった。火災の明かりでガラスが反射している。
 ふざけんじゃねーぞ、桂。
 お前をこんなところで死なせてたまるか。
 銀時は立ち上がった。杖代わりにしたくとも、持っていた刀はどこかに消えていた。
 かまわず、爆発炎上した館の前で足を引きずりながら銀時は前に進む。爆風で吹き飛ばされたダメージも濃い。だが身体はまだ動く。手も足も。自分の意思一つでどうにでもなる。
 煙が立ち上っているが、それでも炎があちこちで上がっているために視界は悪くない。だがその火災と煙のせいで進みにくいことこの上なかった。むせるような熱気と煙に咳き込みそうになる。
「くそ……」
 館は今にも崩れそうな雰囲気だった。うまく中に入れても二人揃ってお陀仏させられそうだった。
 だからといって引き返せるわけが……
 銀時は、目を見開いた。
 炎の向こうに、人影を見た。
 見間違いかと思い、瞼をこする。頭から垂れてきた血が邪魔だった。
 それは間違いなく人影で、こちらに歩いてくる。敵か味方かも判別できなかったが、銀時はそれにあわせて前に出ようとした。
 だが。
「……!」
 言葉を飲み込んで足を止めた彼の前まで、人影はやってきた。
 僅か数歩の位置で足を止め、その男は担いでいたものを銀時の方に放った。
「うお……っ」
 慌てて放られた人間を抱きとめる。それは貸しておいた着物がひどく汚れて、前に見た時よりもさらに怪我を負っている桂だったが、気を失っているだけで息はある。
 その様子を全く確認せず、桂を救い出した男は門の方へ歩き出した。
 銀時のすぐ横を、やや重い足取りですれ違う。
「おい……」
 が、男は足を止めない。構わずにまっすぐ進む。その歩調は遅く、どこか頼りない。
 銀時は叫んだ。
「待て、高杉!」

824:マロン名無しさん
12/05/09 17:13:58.20
背を向けたままの高杉が、ようやく足を止める。そしてどこから取り出したのか、あの状況で破損もしていないらしいキセルをふかした。
 そして振り向いた。ほこりまみれで傷だらけの、そしてつまらなそうな表情で、呟くように言う。
「うるせぇなぁ……」
「なんでこいつを助けた」
 単刀直入に問うが、彼は鼻で笑った。
「……さぁな」
 塀の外側から何か叫ぶような声が聞こえてきた。野次馬たちが騒ぎを聞きつけたのだろうか。すぐにでも逃げ出さないと、警察がやってきてしまう。その前に捜索に出ていた鬼兵隊が駆け付けるだろう。
 だが、まだ動けなかった。
 この男と対峙している間は、動けない。
 だが、ぶった切ってやりたくとも、刀がない上に桂を抱えている。
 高杉はキセルを指で軽く揺らしながら口を開いた。
「気まぐれだ」
「……気まぐれだぁ?」
「こんなところでこんな最期じゃつまらねぇだろ、お互いよォ……」
 いろいろな含みを込めた物言いで高杉は嗤った。相変わらずひどく癪に障る表情で、こいつは笑う。
「それにてめぇらは春雨に狙われてる。もう、長くねーよ」
「知るか。そう簡単にやられやしねぇよ」
「だといいがな……」
 憐れみなど感じさせない表情と声音だった。むしろ何かを愉しんでいるようにも見える。
 何か、というのはこの状況すべてかもしれない。
 唐突に、男は口を開いた。
「せいぜい今のうちに思い出作りでもしておけよ」
「なんだ、そりゃ」
 何言ってやがるこいつ……いや、言葉通りの意味か。どうせこいつは察してやがるわけだし。

825:マロン名無しさん
12/05/09 17:14:18.74
やけくそ気味に、銀時は口元をゆがめた。
「てめぇがわざわざそんなことを言うためにヅラぁ助けるなんざ思いもしなかったぜ」
「安心しろ」
 一気にその声音が冷えた。
 一刀両断に切り込むような鋭さを持って、その男は銀時をにらんでいる。
「次に会った時は、俺も気まぐれは起こさねぇ」
 睨みながら嗤っている。
「全力でてめーらを切りにいく」
「……そうかい」
 もはや彼の眼差しには純粋な敵意しか存在していなかった。口もとの歪みは、狂気に染まっていた。
 そのまま無言でにらみ合い、やがて高杉は銀時に再び背を向けた。
「……」
 銀時の目の前で彼の紫色の衣装に、血が黒く染み広がっていった。ずたぼろの衣装の上、色が色だけにひどい怪我を背に負っているのだとその時まで気づかなかった。
 あの怪我でこいつをここまで担いできたってのか?
 だが負傷などみじんも感じさせない声がとどく。
「じゃあな、銀時」
 隻眼の男は、最後にその一言だけを残して消えた。

826:マロン名無しさん
12/05/09 17:20:55.42
なぁ、ヅラぁ。

 からかうような声が聞こえた。
 ヅラじゃない、といつものように答えると、そいつは笑った。
 どこかひねくれていて、だが真っ直ぐな眼をして、楽しそうに笑っていた。
 
 意識の混濁から現実に帰れば、同じ男の、さげすむよう憐れむような視線が待っていた。
 やがて、体中が痛みを訴えてくるのがわかった。彼はわずかに身じろぎしたが、戒めが緩むこともない。吊り下げられた腕の感覚が鈍く、しびれているようだった。
 あの変態男の言っていた薬とやらの効果が切れたのだろう。ややはっきりしてきた意識の中で、自分の向かいの壁に背を預けた男が何か言っているのがわかる。
 気づけば、自分とその男しか、この場にはいなくなっていた。
 そういえばこの男は、さきほど何か他の奴らに言っていたような。
「てめぇら、俺が呼ぶまで部屋ぁ出てろ」
 ああ、だからここにいるのは二人だけなのだ。
 何のためだ。
 お前も奴らと同じように、下種な真似でもするのか?
 やぶにらみの視線だけで彼が問うと、高杉は一瞬目を細め、鼻で笑った。
「ズレてやがんな、相変わらず」
 こちらが何を言わずとも、察しがいいのも、相変わらずだった。
 ちょうどいい、こちらは喉がひどく傷んで声が出せないのだから。
「いい月が昇ってるぜ。宴にゃ似つかわしい」
 そんなことを話すために、部下を払ったのか?
 高杉はわかっているだろうに、それに答えない。
「……あんときも、こんな夜だったなァ」
 いつのことだ。
 身体の痛みに、イライラしていることを自覚する。大体、この男の前で奴の部下にえらい目にあわされたのだ。身体が自由なら意地でもつかみかかって首を絞めるなり唾を吐きかけるなりしてやるのだが。
「あの戦争中に、宴開いたろ。言い出したのは辰馬の奴だった」
 思い出した。
 桂は唇を噛んだ。
 あの時のことを、この男は言いたいのだ。
 身体に負った傷が、急に痛みを増したように思えてくる。


827:マロン名無しさん
12/05/09 17:21:21.36
「ずいぶん酔っちまって、その場の勢いで俺ァお前を襲っちまった」
 そうだったな。それ以来、貴様のことが余計嫌いになったのだが。
 そんな桂の表情を見て高杉は、可笑しそうに笑っている。
「……ありゃあ手ひどく振られたよなぁ。お前が酒に強かったせいで、痛い目にあわされた」
 別に酒に強かったわけではない。貴様らが勢いで俺の分まで飲んでしまっただけだろうが。だが、貴様がそんなことをまだ覚えていたとはな。
 忌々しい記憶だったが、よくよく思い出せば高杉が何からしくないことを口にしていたような……
 不意に頭痛が襲い掛かり、桂はうめき声をあげた。
 今のこの状態は、考え事をしただけでも負荷がかかるようだ。
「まぁ、今更てめーが誰に手ごめられようと、どうだっていいんだが」
 いつの間にか高杉の声は、ひどく癇に障るものになっている。ひどい頭痛の中で桂は再び視線で問う。
 貴様、何が言いたい。
 高杉は見下ろすように首を傾けた。
「……あいつに知らせてやったらおもしれーだろーな」
 あいつ?
「わかってんだろ、ヅラぁ」
 ……貴様。
「んな顔するなよ……お前があいつのことをどう思ってるか、わかっちまうぜ」
 貴様に何がわかる。
「わかるさ……実際、ずっと前からそうだったんじゃねーか?」
 ……。
「ふん……いい顔しやがる」
 どうして貴様は、こんな男になってしまったのだ。
 妙な間があった。
 高杉がキセルをくわえて離すまでの間だが、彼の雰囲気がどこか変わっている。
「何でだろーな……」
 それが何なのか考える余裕はなかった。ひどく頭が痛み、視界がかすむ。頭痛と身体がきしむ痛みで意識を失わずに済んでいるにすぎない。だがそれも長くは持たないだろう。
 何かまだ、高杉は口を開いているようだったが、耳に入らない。
 言いたいことがあるならはっきり言え。貴様のせいで聞き取ってやれないではないか。いや、聞かなければいいのか。貴様の言葉など、どうせもうお前とは敵対したのだから……


828:マロン名無しさん
12/05/09 17:21:49.43
気づけば、夢の中に落ちていた。夢だと自覚する夢は久しぶりじゃないだろうか。
 どこか幼さの残る彼から、はっきりとした声が聞こえてくる。
 高杉は怒りを乗せた顔で、突き放すような口調で、桂とまっすぐ向かいあいながら言うのだ。
 わかってねぇのは、てめーの方だろ。
 ……。
 拒絶したのはそっちだ。
 ……。
 勝手なことを今更言ってんじゃねぇよ。
 それは本心なのか、貴様の。そうだとしたら、俺は。
 だが、声が出せない。
 たとえ弁解しようとしたくても。せめて何かを言ってやりたいと思っても。
 黙って向かい合っていると、高杉の姿がかき消えた。
 どこからか、寂しそうな三味線の音、弦をはじく音色が聞こえてくる。哀しい旋律が、自分の中に染みいってくる。


829:マロン名無しさん
12/05/09 17:22:13.70
次に意識が戻ってくると、十名前後の男たちが戻ってきていた。高杉は、また前の位置にいる。薄ら笑いを浮かべて、彼を見ている。
 すべて夢だったか。
 そうだな。お前が俺に情けをかけるとは思えない。
 お前はそういう男なのだ。
 楽しいか、高杉。
 答えろ。
「どうだっていいんだよ、んなこたぁ」
 キセルをふかせて高杉がニヤリと口角をさらに吊り上げた。
「どうだっていいんだよ……」
 その言葉を皮切りに、再び抑え込まれて床に倒れこんだ。体中が抗議の悲鳴をあげて痛み出す。
 彼の眼は語っている。
 ―てめーらのことなんざ知ったこっちゃねーよ。
 もう興味はねーし、必要がなけりゃこっちから手ェ出す気にもならねぇ。
 そっちも充分勝手じゃねーか。そんな奴らにいちいち文句をつけられる理由はねーんだよ―
 ああ。
 何が本当で、何が偽りなのか、わからなくなってきた。
 そしてすぐに、理性が押しやられる。片隅に押しやられた理性の中で、桂は思う。
 自分の意思ではないとわかっていても。
 やはりこれは、厳しい現実だ……


830:マロン名無しさん
12/05/09 17:27:18.85
「おーい……だいじょぶかー」
 覗き込む銀時の口から出たのは気のない言葉だったが、桂のまぶたが動く。
「もしもーし」
 怪我の少なかった肩のあたりに触れて軽く揺さぶってやると、うっすらと目が開いていった。
「おお、目を覚ましたアル!」
 隣の神楽がしゃがみ込んで覗きながら笑う。桂の視線が二人を行き来した。
「だーから大丈夫だっつったろ。とりあえず水持って来い」
「わかったアル!」
 神楽が素早く移動すると、しばらくぼんやりしていた桂が目を見開いた。
 その勢いのまま身体を起こそうと動きかけ、止まる。
「う……ッ!」
「やると思った。とりあえずまだ横になっとけ」
 銀時の言葉に、彼は素直に従った。
「……俺は、どうしてここに」
「俺が連れてきたから」
「いや、そうではなくて」
「生きてたから拾ってきてやったんだよ。何? なんか文句ある?」
 半眼ですこし怒ったように言ってやると、彼は瞬きした。
「……いや、ない」
 神楽がお盆を手に戻ってきた。盆の上には縦長のコップに入った水が用意されている。
「ヅラぁ、お水アルよ! ちゃんと飲まないとだめネ」
「ああ、すまぬなリーダー」
 桂は軽く笑うとゆっくりと身体を起こした。途中でなんどか顔をしかめたのは、やはり身体のあちこちが痛んだからだろう。どうにか上半身を起こした桂に、神楽はコップを手渡した。
 やや窺うような視線で彼女は水を飲む桂を見つめる。彼は飲み終えると首をかしげて神楽に口を開こうとした。
 が、神楽が神妙な顔つきで先に言った。
「お前今うなされてたアル。大丈夫か」
 桂は一瞬妙な間を見せたが、すぐにうなずいた。
「……心配をかけたようだ。だが、おそらく寝ている間に少し傷が痛んだのだろう。大丈夫だ」
「そうアルか」
 ちょっとだけ安心したような控え目な笑みを神楽が浮かべる。そして彼女は「じゃあまたテレビ見てるヨ」とその場を離れた。


831:マロン名無しさん
12/05/09 17:31:27.08
「銀時……」
「あん?」
 桂の声は、さきほどの神楽の微笑に負けず劣らず控え目な声音だった。
「リーダーに、俺のことは」
「……ボコボコにされたとしか言ってねぇよ。紅桜の一件の時も、お前が捕まってるかもしれねーと分かったとたん真っ先にあいつらのところに飛び込んで行った奴だぜ。純粋に心配してくれてんだよ。ありがたく思え」
 そう言ってから失敗したと銀時は思った。自分はこいつがどんな目にあったか大体察してると再確認させたようなものである。なんでもっとこう、頭が働かないのかと思わず自分を責める。
「……そうか」
 沈んだ声音に、銀時は内心うめいた。
「ただいまー」
 その時、新八が大きな声を上げながら帰宅を告げた。玄関の閉まる音がして、ややあってからひょっこりと二人のいる部屋に入ってくる。
「おぅ、お帰り」
「あ、桂さん目を覚ましたんですね。今ちょうどエリザベスに連絡をつけてきたんですよ」
 新八はエリザベスとのやりとりを手短に桂に伝えた。要約すると、鬼兵隊捜索のため警察が各所で網を張っているために桂にはしばらく万屋で療養してほしいということ、その間万屋に護衛を頼みたいということだった。
「というわけなので、ゆっくりしていってください。エリザベスたちと連絡を取りたいときは、僕に言ってくれればいいですよ」
「そうか……ではすまぬが世話になる」
「その代わり報酬はお願いしますよ。いやーもう渡りに船です。これでここの家賃を久しぶりに溜めずに済みそうですね、銀さん」
 新八が屈託なく笑う。こういうときのこいつの明るさは救いだな、などと銀時はぼんやり考えた。
 ……俺は何してんだろ。
 神楽が隣室に引っ込み、テレビを見ている音がする。新八は立ち上がって部屋を出て行った。おそらく神楽とテレビでも見始めるだろうか。
 そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴らされた。


832:マロン名無しさん
12/05/09 17:31:47.74
「はーい、今行きますよー」
 玄関の方に新八が返事を返しながら走っていく。
 数秒後。
「ひ、土方さんんん!?」
「げ」
 銀時は思わず半眼で壁の向こうから聞こえた新八の叫び声にうめいた。
「あんだよ、何をそんなに驚いてやがる。俺が来ちゃ悪いってのか?」
 玄関口から届くまぎれもない土方の声に銀時は「悪いよ、ヤなタイミングだよ」とつぶやいた。
新八が「いや、まさかそんな……」と応える声が聞こえてきた。そして神楽もそっちに行ったらしい。さっきよりも軽いドタバタという音がした。
「あー! 何しに来たアルか!? ここに来るときは酢昆布一年分持って来いって言ったアル!」
 よし、いいぞ神楽! そのまま追い出せ!
 ところが、土方の落ち着いた声。
「あぁ、少ねーが、とりあえずこんだけ買ってきたぜ」
「新八、何してるネ!? お客様を早くお通しするアル! さっさと粗茶出すアル!」
 何やってんですか神楽ちゃん! おめ、まさか、土産に目がくらんでこっちに桂がいるってこと忘れてんじゃねーの!?
 がさがさとビニールをあさる音が聞こえ、「んじゃ上がらしてもらうわ」という土方の声と足音が聞こえてくる。
 こうなりゃおめーが頼りだ新八! なんとかしやがれ!
 心の中で銀時が叫びまくる。
 後から振り返ってみれば、このとき彼は、自分が出て行って土方を押しとどめることを思いつけないほど焦っていた。
「……出て行かなくてはなるまい」
 その声に銀時が振り向くと、桂が身体を起こして顔をしかめていた。布団に倒れ伏すほどまだ傷が痛む上、寝込んでいたこの男に奴らから逃げられる体力があるわけもない。
「いや、こっちの部屋までははいってこねーよ。いいから横になっとけ」
「だめだ、お前たちにもう迷惑をかけるわけにはいかない」
「二日もまともに目ぇ覚ませなかった奴が、何言ってやがる。第一今逃げたらすぐバレちまうだろ」
 押しとどめるように手を伸ばして両肩をつかむと、桂の身体が一瞬震えて銀時の腕を凝視する。
「……っ!」
 何か思い出したのか、その瞳に恐怖の色が映ったように見えた。

833:マロン名無しさん
12/05/09 17:33:27.29
思わず手を離し、言い繕う。
「わっ、悪ぃ。……怪我ァ痛んだか」
「……いや、大事ない」
 非常に気まずい空気が流れた。
 が、実際それどころではなかった。
「おい、白髪頭はいねーのか?」
 土方の声は、隣の部屋から聞こえた。
 え、新八くん何してんの? 止めてくれたんじゃないの!?
「え、ええ。それがちょっと……」
「銀ひゃんに用アルか?」
 神楽が明らかに口にものを含んだ状態でしゃべっている。
 物を食べながらしゃべるんじゃありません! てかそれどころじゃねーし! なんとかそいつを追い出せっつーんだよ!
「銀ひゃんならほっひで―」
「だめだよ神楽ちゃんん!!」
 新八が神楽のくちを押さえたらしい。もごもごというこえが聞こえてきた。気づけば桂から異様な緊張感がただよってきている。
 いやそりゃ敵対勢力だし自分を追ってる男だもんね? わかる、わかるよヅラ。
 でも今そんな気配出してたら逆にバレちゃうからね?
「なんだ、何かあったのか?」
 どこかまだ気安さを感じる土方の声音だが、さすがに何かをいぶかしむ感情も含まれていた。
「い、今銀さん寝てるんです……そ、そっとしておいてもらえませんか?」
 新八の声は、若干たどたどしい。だがいいこと言った。それで押し通してくれ。
 そう思ったが。
「どういうこった」
 ああああ。やっぱり疑ってかかってきたよ多串君。おっかげでヅラがなんかじりじり動き始めちゃったんですけど! え、こいつ爆弾とかもう持ってないよね。
 焦る銀時をよそに、新八がゆっくりとあとを続けた。
「……すみません、その……」
「銀ちゃん、大怪我して今も寝込んでるアルよ」
 神楽があっさりと嘘をついた。
「なにぃ?」
「だからしばらくそっとしておいてほしいネ。話あるなら、私たちが聞くアル」
「いや、大怪我って、何があったんだよ?」
「神楽ちゃん!」

834:マロン名無しさん
12/05/09 17:34:00.37
咎めるような新八だが、神楽は気にした様子もない。
「なんか、二日前に爆発事件に巻き込まれて、ドジ踏んだって言ってたアル。……でも、詳しいこと何も私たちに話してくれないアル」
「神楽ちゃん……」
「新八、こういうときはウソついてもしかたないネ。ちゃんと本当のことを言えば、トッシーもわかってくれるヨ」
 神楽が言っている内容は、実際のところ本当半分嘘半分である。あとは桂についてまったく口にしないだけであるが。
 新八と神楽に対し、銀時は高杉がらみの詳しい話を一切していなかった。ただ桂が捕らえられていたこと、それをどうにか助けてきたこと、おかげで散々な目にあったことだけ伝えてある。
 高杉とは二人とも面識があったが、奴らについての言及はしてこなかった。一人で巻き込まれるから怪我なんかするんだと、逆に説教をくらっただけで。
 誰かがため息をついたような音が聞こえた。おそらく土方だろう。
「前に来た時に言った屋敷が爆発騒ぎを起こしちまってな。鬼兵隊がらみらしいとようやく調べがついたんで、何か知ってるかと思ったんだが、案の定か……」
 まさかそのままこちらに乗り込んでは来やがらねーだろうな。妙に手に汗握る展開じゃねーか。
 向こうの部屋でも、新八たちが緊張しているような気配が伝わってくる。
「……んで、今はまだ寝込んでるって?」
「あ、はい……」
 再び、ため息の声が聞こえた。
「まぁいいか」
「え?」
「そっちで寝てる男に、あとで伝えといてくれ。『今度詳しい話を聞かせろ』ってよ」
「土方さん」
「どうせ今更焦ったところで鬼兵隊はしっぽも見せやしねー。万屋がある程度回復したら参考程度に聞きに来るからよ……見舞いの品でも持ってな」
 何か察してくれたらしい。おそらく、新八や神楽にも詳しいことを話していないということで。
 あの動乱で、土方も仲間と敵対するはめになった。割り切っているように見えて、いろいろ思うところがあったのかもしれない。
(まぁ、こっちはもう仲間云々の関係は一切ねーんだけどな、あの野郎とは)
 するとすぐに廊下のきしむ足音が聞こえてきた。
 とにもかくにも、土方が遠ざかったことに感謝する。
 壁の向こうはいつのまにか、こちらと完全に隔てられたように明るい雰囲気になっていた。


835:マロン名無しさん
12/05/09 17:35:13.66
「見舞いに、こないだ新発売された新味覚のマヨネーズを……」
「それキモいアル。ぜったい銀ちゃんと喧嘩になるヨ」
「いや、こんどのはすげーんだよ。カロリー少なめで……ほらCMやってる」
 ぶつん、とテレビが切られたらしい音がした。神楽だろう。万事屋のチャンネル選択権は基本的に神楽のものだ。
「あれ、神楽ちゃんどこいくの?」
「せっかくいい天気だから定春の散歩いくアル。定春~散歩いくヨ~!」
 元気のいい返事が聞こえ、どてどてという音が遠ざかっていく。
「おら、ダメガネ。おめーもさっさと来いヨ」
「ちょっと待って。銀さんに書き置き残して行かないと」
 何やら紙に書き付けるような音が聞こえてくる。ついでやや遠くの方から土方の声が聞こえた。
「なんだお前ら、あいつを放っといていいのか?」
「いいアル。どうせ放置しても動けないから何もできないし、ジャンプ買ってきて恩を売る方がいいネ」
「そうそう、大丈夫ですよ。どーせ寝てればいいだけなんですから。……よし、じゃあ行こっか、神楽ちゃん」
 何やら気を使い始めたようにも感じられる二人の言動に、銀時は少し妙な気がしたものの、とりあえず感謝だけはした。
 そのあとも何やら話し声が聞こえたが、それも遠ざかり、玄関を閉める音が聞こえた。
 彼らの部屋以外、人の気配が完全になくなった。
 それに安心したとたん、身体の力が抜けていった。寝床の桂も、さすがに表情は晴れないものの、緊張は解いている。
「あーよかった。また騒ぎになるとこだった」
 思わずへらへらと笑った彼に、桂が拳を握り締めて口を開いた。
「……すまんな、銀時」
「へ? 何が」
 唐突な言葉に銀時が戸惑う。
「考えてみれば、お前は奴らともうまくやっていたのだった」
「え、いや別にそういうわけじゃ」
 腐れ縁というか、たまに依頼してくるとかつっかかってくるだけどいうか。
「俺のせいでお前を巻き込んだ上に、こんなことになるとは……」
「え」
 いやそれ違うから。別にお前のせいじゃねーし。
 ……あれ? でも元を正せば大串君からそういう話を聞いてちょっと行ってみようって思ったんだっけ? だからといってヅラのせいってわけじゃ。
「あー、それ違うから。別にあいつらとは」
「……」

836:マロン名無しさん
12/05/09 17:36:02.37
 銀時の言葉を聞いているのかいないのか、思った以上に深刻な表情で桂がうつむいている。
そもそも桂は、真撰組との関係を危惧してこんなことに、と口にしたわけではないだろう。銀時が怪我を負ったことや、自分をかくまっていることなども含めたすべてが気にかかっているのだ。
 まずい。
 これじゃ土方が来訪してるときとかの方がましだったんじゃないだろうか。
 ……あれ、これはデジャヴか?
 考えてもみれば、二人きりの状況はあの部屋でつながれていた時と大して変わらない。心情的には何一つ解決せず、わだかまりが残ったまま。気まずさが胃を締め付けてくる気がする。
 その時の状況を思い出したせいで、いつの間にか銀時は逆に緊張し始めていた。
『見てたんだよ、仕舞いまで全部』
 高杉は、嗤ってそう口にした。
 何を。
 何をされた。
 それも、あいつの前で。
 銀時はうつむき加減の彼を見つめながらかけるべき言葉を探した。彼の落ち込み方が尋常でないのは、よほど精神的に苦しめられたからではないのだろうか。薄ら寒くなるような、
吐き気のするようなことを、あいつらに。
思い出したくはなかったが、断片的に聞いた言葉だけでも想像を絶していた。
 狂乱の宴だと? ふざけるな。酒をかっくらって歌って踊ってどんちゃん騒ぎをするのが宴なんだよ。あー。やっぱりあの能面の変態は叩っ切っちまえばよかった。大体、三日三晩だって? がんばりすぎだろう、いくら何でも無理だ。嘘だろ、それは。
 だが、彼の消耗具合からすると考えられないことではなかった。戒められていた手足の傷もひどかった。よほど長い間戒められていなければ、あんなことにはなるまいとわかる。
 わかってしまうのも、嫌だった。
「……気にするこたぁねーよ」
 それは自分に言い聞かせたい言葉だった。
 桂が顔をあげて銀時を見る。表情こそいつも通りだが、どこか背筋に妙なものを走らせる、不安そうなまなざしだった。
 ……そんな目で見るなよ。
「偶然が重なって奴らに捕まっちまっただけだしよ。おめーが先に捕まってるなんて思ってもみなかったし」
「……そうか」
 その声も暗い。


837:マロン名無しさん
12/05/09 17:36:39.00
そして再びうつむく。普段の桂を知っているだけに、この状態はあまりにもらしくなさ過ぎた。
 いつもなら茶化して口論に持ち込めるかもしれないが、今回ばかりは無理だった。神妙すぎるこの男の姿が、ひどく痛々しくい。
 それに桂が深夜に何度もうめき声をあげていたことを、銀時は知っている。おそらく悪夢を見ていたのだろう。金縛りにあったように震えていたかと思えば歯を食いしばって何かに耐えようとしていることもあった。大声で叫び出すこともあった。
 どうすればいい。
 なんて言ってやればいい。かけるべき言葉が見つからない。自分の中でもやもやしたものが渦巻いて、うまく対応しきれない。
 桂も何も言わず、ひたすら自分の手もとを見下ろしている。無言の圧力。が、おそらく桂も何かを悩んでいるのだろう。でなければこんなにも重苦しい雰囲気にはなるまい。
 沈黙は五分間ほど続いた。
 その場の雰囲気に耐えかねて彼は立ち上がった。桂がそれに合わせて顔を上げる。
 それを見下ろしながら笑いかけ、銀時は口を開いた。
「俺腹減ったから飯食ってくるわ。お前はまた休んどけ。大串くんも、今日はもうぜってー来ねぇからよ」
 それだけ口にするので限界だった。気づけば顔をそむけるように彼に背中を向けている。情けないと自覚しつつ、銀時はその場を離れようと動きかけた。
 だが、身体が止まった。
 驚いて振り向くと、桂が銀時の寝巻きの裾をつかんでいた。
 泣き出しそうな顔で。
「え?」
「あ……」
 しかし彼はすぐさま我に返り、あわてて顔をそむけて手を離した。
「いや、すまん。なんでも、ない……」
 言葉の内容とは裏腹に、彼のそむけた横顔や言葉が震えていた。いつもは無表情気味の顔も、ほとんど取り繕えていない。
 何より、さっき一瞬だけ見せた表情はひどく印象的だった。あれが本当にこいつの表情で、しかも自分に向けられたものなのかと戸惑うほどに。
 まるで、銀時にすがりたいと言わんばかりの表情で……


838:マロン名無しさん
12/05/09 17:36:56.94
銀時が思いを巡らせていると、寝床の男はようやく彼の方を向いた。また、平静を装ったらしい。
「お前の言葉に甘えさせてもらおう」
 は? どの言葉だって?
 俺、お前を甘やかすようなことを言ったか?
「……どうした?」
 平気そうな顔をしやがって。あんな顔を見せたくせに、何をいまさら取り繕ってやがる。
「腹が減ったのだろう、俺のことは気にせずとも大丈夫だ」
 そうやって無理をするんだよな、てめぇは。
 そう、そういうやつだ。こいつはいつも顔に出さない。だが、出さないようにしている時もある。
 わかってんだよ、くそ真面目な馬鹿が。
「……? 銀時?」
 無言でただじっと見下ろす彼を疑問に思ったらしい。桂が首をかしげながらつぶやくように尋ねた。
「どうしたのだ。傷が痛みでもしたか」


839:マロン名無しさん
12/05/09 17:43:20.18
気がつけば、目の前に顔がある。触れるか触れないか、そんな距離に。

 驚いて自分を見つめ返す相手の瞳に、どこか怒ったような自分が映っていた。
 怒っているとも。
 今までにないほど、この相手に怒りを感じている。
「……ん……とき……?」
 唇を震わせ、かすれたような言葉が彼の耳に届く。逆に、まだ澄ました面構えを取り繕おうとしているこいつが、憎たらしく思えてきた。
 左腕で抱き寄せた身体の外で、彼の腕をはずそうと申し訳程度に桂の右手が添えられている。思わず引き離そうと伸ばしてきた左腕は、銀時の右手にからめとられた。
 桂の身体は震えている。それでも表情は驚愕の領域を抜けない。瞳の色に不安と恐怖が宿っても、表情が崩れない。ギリギリのところで何かを保っている。
 それがお前の強さだとでも言うのか。
 見せちまえよ、あいつの前で散々さらしたんだろう。
 弱いお前をさらしたんだろう? 変な薬を使われたんだか知らないが、あの野郎はお前が乱れる姿を知り尽くしたんだろ。この男のあえぐ姿はどれだけなまめかしいか。
泣き叫ぶ姿がどれほど哀れか。人斬りのヘッドホンから聞こえた声は、哀願する声だった。そんな声で、お前は、あの男にもすがったんじゃないのか? あの男に犯されながら、泣いたんじゃないのか。
 ああ畜生。どうして俺はあの男をぶった斬ってやれなかったんだ。
 今更ながら悔やむ。薄汚い嫉妬だろうともうしったことか。
 だから、曝してくれ。いや、曝せ。
 今ここで。
「お前、いったいあいつらに何されたの」
「……っ」
 目の前の表情が変わる。
 思わず桂の瞳に映る自分が笑った。さすがに、これはお前でもかわしきれない攻撃らしいな。
 まさか聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「な……なん……っ?」
 おびえた眼差しが逆に嗜虐心をもろに煽ってくる。困惑を隠せずに狼狽する姿が弱々しく、しおらしい。
 ああ、わかった気がする。わかっちゃいけないんだろうが、お前が三日三晩も可愛がられた理由がわかるように思う。
「それ……は、ん……」


840:マロン名無しさん
12/05/09 17:43:46.81
顔をそらされた。だが、即座に桂の左手をつかんでいる右手の人差し指だけで顔を真正面に向けさせてやる。
 そんなことをされると思わなかったに違いない。あっさりと首が向き直り、どこかおびえたような顔が彼と向き合う。
「な、話してみ? そしたらよ、けっこう、楽になると思うぜ」
 嘘がするりと口をついて出ていった。楽になる? 誰が楽になるって?
 泥沼にどちらもはまりこむだけじゃないのか。
 だが。
「嫌だ……」
 思わず銀時が驚くほど素直な言葉が返ってきた。桂の身体が震えている。先ほどより、震えは激しくなってきた。
 だがそれだけで許してやれるほど、甘くない。彼の理性はその感情に、はるか及ばない。
「話してくれよ……なぁ」
 追い詰めるように彼は言う。心の中では笑っているかもしれないが、表情はもうなくなっていた。
 いつのまにか桂と同じように表面を取り繕い始めたのか……
「待て、銀時。それは、お、お前が聞くようなことではない……!」
 桂が慌てて顔を背け直した。今度は銀時も止めなかった。そのままで許してやった。
 そして、まったくもって彼の言うとおりだった。むしろ銀時の立場は目をつむってやらなければならないものである。わかっていても聞かない、そんな優しさを示すべきなのに。
「お前に、き、聞かせても……嫌な話になるだけだ……」
 もっとはっきり言えばいい。自分がやつらにされた最大級の屈辱を思い出して誰かに伝えることなどできないと。自分が男たちに輪姦された話など、このんでする奴はいないからな。
 中途半端な言い訳だな、と銀時は思う。中途半端に俺に対しての義理を感じさせるから。
「聞かせてくれよ……」
「な、なん、……?」
 だから付け込まれるんだっつーの。
「んなもんよぉ……」
 体重をかけるように、彼はすぐさま桂を押し倒した。


841:マロン名無しさん
12/05/09 17:43:58.30
キチガイが暴れてると聞いてwww

842:マロン名無しさん
12/05/09 17:44:17.19
「俺が知りたいからに決まってんだろ……!」
「う、ぁ……っ!」
 傷が痛んだのだろう。苦しげに顔をゆがめて桂が叫んだ。
 苦痛にゆがむ顔すら憎いほど愛おしい。
 まずいな、と思う。自制がもうきかない。このまま、したいようにしてしまおうかとも考えてしまう。だが高杉の奴に何をされたのか、あの変態に何をされたのかわからないままでは、意味がない。
 耳元に唇を近づけ、銀時はゆっくりと嬲るように囁く。
「なぁ、何されたのほんと」
「や、やめ、……俺は、俺はっ!」
 桂から理性がはぎとられていくのがよくわかる。もう言葉が言葉になっていない。それじゃわからない。理性をなくしても、説明はしてもらはないと。
 両手を押さえたまま、唇を耳元から下に移し、首筋に口づける。
「なっ……あ!?」
 桂が動こうと、逃れようとするが、銀時が半ば身体ごと乗っているためにほとんど意味をなさない。
 唇を這わせながら彼は質問を続ける。
「最初から変な薬使われたの? それで、それからどうされたの?」
「ぎ、ぎんっ……っ」
「話してくれよ……なぁ……?」
「う……く」
 手のひらを鎖骨の辺りにあてがい、そのまま着物の中にゆっくりと這わせると、喉元をのけぞらせ、桂が眼尻に涙を浮かべた。まるで彼はこらえるような表情で、顔をそらす。
包帯の巻かれていない部分は、白いなめらかな肌がさらされていた。思わず撫でていくと予想以上に触れ心地がよかった。本当にこいつが自分と同じ男とは思えない。指を這わせ続けると、苦しげなうめき声が押し殺すように彼の唇からもれた。
 ああ、そうか。こんなこともされたんだな。
 少しだけ、罪悪感がわき起こった。
 荒い呼吸に変わった彼の様子を見ていると、行為を続けたい自分の他にちゃんと慰めたいと思う自分がいることに気づく。後者が頭の中でつぶやく。
『こんなことやってたら、お前もあいつらと同じじゃねぇか』
「どうし、て……、こん、な」
 震える桂のことばが、頭の中の罪悪感と一緒に自分を責める。
 ああそうだな畜生。そうなんだよな。
 だから逆に、奴らに何をされたのか知りたいとすら思っちまった。
『もうやめろよ。取り返しがつかなくなっちまう前に』
 その通りだな。ここまでして、ようやくそう思った。

843:マロン名無しさん
12/05/09 17:45:00.39
>>841
小説読んでいって^^

844:マロン名無しさん
12/05/09 17:45:10.04
やめてくれと、はっきり口にすることがなぜかできなかった。
 彼の脳裏には昔拒んだ男の顔がちらついていた。
 だが、今の銀時とあいつの違いは、怒気をはらんだ表情くらいだろうか。
 すがるような目をしている。そのくせ、どこかで俺を突き放している。それを理解していない。
 俺に何を求めるのだ、お前は。何も与えてなどやれないのに。
 何も、今の俺には何も……
 だが気づけば、自分を抑え込んでいるのは、知らない顔だった。
 そして抑え込んでいる人間は、一人ではなかった。
「な……っ」
 声をあげようとしたとたん口をふさがれた。何か詰め込まれたのだと気づいた時には、体中に奇妙な感覚がある。はいずりまわる、腕が見える。太い腕が、節くれだった大きな手が、指が彼の身体を蹂躙する。
「ぁ……ぐ」
 おぞけが走ると共に、鋭敏になった感覚が脳髄をしびれさせる。感情で怒っても嘆いても憤ろうとも、感覚だけはまるで異なったものを伝えてしまう。
 飲まされた奇妙な薬のせいだとわかっていても、こらえきれない。屈辱で覆い尽くされ、感情が焼かれていく。
「いい様だ……」
 キセルをふかした男が、彼をあざ笑う。
 いつから、そこに。
 見るな。見るな。見るな。
 俺を見るな。
「ん……ぅ、ぁ……っ」
 身体中がきしむ。全身の感覚がおかしくなっている。べたべたとした手のひらで愛撫されて、気持ちが悪いのに頭の中が違う感覚を伝えてくる。
 ちがう、そうじゃない、そうじゃないんだ。
 身体の中に何かがいる。うごめく。何かを吐き出す。
 それは何度も繰り返された行為にすぎない。
 気持ちが悪い。
 気持ちが悪い。
 だが、かき乱される感覚が、自分の体に強制的な絶頂を命じる。
 気持ちが悪い。
 やめろ、はなせ、いやだ。
 あいつが、あの男が見ているのに。


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