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韓国・釜山国際映画祭を、10月に取材した。05年に初めて訪ねてから4回目だ。「アジアのハブ(拠点)」を自任する釜山は、
「映画によるアジア一体化」という大構想を掲げている。大言壮語と思っていたが、来るたびに少しずつ態勢が整っていく。
◇日韓連携で独自の感性発信を
今回は、映画祭専用施設「映画の殿堂」が完成、本拠地を確保していた。釜山の勢いを感じながら、日韓映画界が関係を
密にして世界に作品を送り出せれば、難航中の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に先駆けて映画がアジアを一つにするかも
……と思えてきた。
◇専用施設を建て各種支援も充実
第1回釜山国際映画祭の開催は、96年。年々規模を拡大し、今回は上映作品307本、入場者数約19万7000人。
「アジア映画の発信地となる」「新人の発掘、育成」という目標をブレずに掲げたことが、成功の大きな要因だろう。アジアと自国の
作品や才能を丹念に紹介し、アジア映画のショーケースとして世界の注目を集める。
(中略)
次に目指すのは、アジアの複数の国の出資で製作された、多国籍映画のヒットである。そのために税制優遇措置など手厚い
支援策を用意し、仲立ち役を買って出る。これまでも映画祭を通じて人脈を築き人材を育ててきた。
欧州では支援基金「ユーリマージュ」もあり、合作は当たり前だ。釜山FCのオ・ソックン委員長は、そのアジア版を思い描いている
という。「ハリウッド、欧州と並んで、アジアは世界映画界の極になれる」と話す。
釜山に比べて、日本の映画界の反応はもう一つ鈍い。日本でも、特に独立系の製作者が、海外進出を模索してきた。しかし
個別の挑戦が主で、全体として後押しする雰囲気ではなかった。映画の市場が小さい韓国が国外に活路を求めざるを得ないのに
対し、そこそこ自足できる日本では切迫感がない。日韓に比べ、他のアジア諸国の映画環境整備はまだまだだ。
◇国際合作増やし共に未来描こう
日韓など、これまでの合作が、興行的に期待はずれだったことも足かせだ。ここ10年で30作以上がさまざまな国際合作を試みた
ものの、ヒットは少ない。釜山に先行してアジア代表を目指した「東京国際映画祭」も、アジアと欧米の間で進路が定まらぬうちに、
国際的な影響力では釜山に水をあけられた感がある。
ただ、だからといって、釜山の構想を絵空事と片付けるのは惜しい。
国境を超えて人材とアイデア、資金の交流が進めば、ハリウッドとも欧州とも違う、アジアの感性を磨いた映画ができそうだ。大きな
視野を持った人材も育つ。配給網を自国の外に拡大することで、一国だけでは製作が困難な作品に資金が集まり、上映機会も
増えて資金回収しやすくなる。海外から撮影隊が来ればロケ地は経済的に潤うし、撮影地が名所になれば観光客も増える。
ひいては国と国との相互理解が進み、経済的、政治的な垣根も低くなる--。釜山から見える映画によるアジア一体化構想の
青写真だ。
オ委員長は「中心となるのは韓国と日本」と期待する。日本もようやく、文化庁が「国際共同製作映画支援事業」を始めた。
日本と海外の資本で製作される作品が対象で、本年度は5作品に合計約1億7600万円を支援する。ドラマでも放送中の
「僕とスターの99日」など日韓スターが共演している。釜山映画祭のイ・ジョングァン委員長は「かつて韓国は日本文化に憧れ、
日本では韓流ブームが起きた。芸術、文化の面で相互理解は進んでいる」と話す。機は熟してきたのではないか。
TPPは利害が複雑にからんでいるが、映画によるアジア一体化なら経済面でも芸術面でも、そして観客にとっても損はない。
合作支援強化など、釜山の構想に精いっぱい加勢したらどうだろう。アジアの未来を一緒に描くのも、映画的なロマンではないか。
ソース(毎日新聞) URLリンク(mainichi.jp)