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○ドル枯渇、韓国は本当に大丈夫か 編集委員 滝田洋一
新興国が火砕流のような資金流出と通貨安に見舞われている。
資金繰り難に陥った欧州などの金融機関が、投融資の回収に走っているからだ。
ちょっと前まで資金流入と通貨高に悩まされていたのが、ウソのようである。
ブラジル、ポーランド、インドネシア、そして韓国が9月下旬になって、相次いで自国通貨買い・ドル売りの介入に踏み切った。
韓国はこれまでウォン安の容認で輸出を後押ししている印象が強かった。
その韓国までがウォン買い介入に乗り出したのが目を引く。
23日のソウル外国為替市場で、午前9時の取引開始直後から韓国当局はウォン買い介入に出た。
1ドル=1195ウォンで寄り付いたウォン相場は、介入を受けてわずか1分で1150ウォンまで急反発したものの、市場のドル買い圧力は強い。
介入額はこの日だけで40億~50億ドルと、ソウル市場の取引高の半分にのぼったもよう、と韓国紙『朝鮮日報』は伝える。
市場では「韓国政府は1ドル=1200ウォンを防衛ラインにしている」と読んでいるという。
資本流出→ウォン安→一段の資本流出という悪循環を断とうと必死なのだ。
韓国の企画財政部は同日午前、大手輸出企業の財務担当役員を政府総合庁舎に集めた。
大手企業が輸出代金として得たドルを抱え込まず、市場に放出することを促した。
ドル調達に困った銀行や中堅・中小企業が資金を手当てできるようにするための苦肉の策である。
■アジア通貨危機、リーマン・ショックのトラウマ
韓国は国際通貨基金(IMF)管理に陥った1997年のアジア通貨危機ばかりでなく、
2008年のリーマン・ショック後にも、ドル資金の不足に直面した。ドル枯渇は韓国にとってのトラウマなのである。
ドルが手に入らないなら、円やスイスフランで資金を調達するほかない。政府が音頭を
取ったこともあって、鉄鋼大手のポスコはさっそく円建て外債の発行の検討に入り、同社幹部が近く来日するという。
韓国の外貨準備は今年8月末時点で3122億ドル。07年当時に比べて500億ドル増えた。
短期対外債務の1497億ドルの2倍にのぼっている。だから大丈夫。韓国当局はそう言ってきた。
だが、いざ資金流出が始まれば浮足立った空気が広まる。
それもそのはず。リーマン・ショック後の米金融緩和局面で、ドル建ての貸し出しが
急拡大してきたことを、企業経営者や金融関係者はよく知っているからだ。
貸し出しや債券投資などによるドル建ての与信額は、韓国では11年1~3月期までの2年間に35%も増加した。
ドル建ての与信残高は1100億ドルと、韓国の全与信額の10%にのぼる。
そのドル資金が取れなくなる事態は、悪夢以外の何ものでもない。
■新興国で急増していたドル建て与信
韓国ばかりでない。過去2年間のドル建て与信残高の増加率は、各国で次のようになっている。
中国=112%、インドネシア=69%、香港=62%、インド=38%、ブラジル=33%。
米金融緩和の追い風を受け11年1~3月期までの2年間に、米国外でのドル建て
投融資は1.1兆ドルも増加した。米国外におけるドル建ての与信残高は今や5.8兆ドルと、
米国を除く全世界の国内総生産(GDP)の12%にも達する。
グローバルな金融不安と景気後退懸念が広まり、これらの貸し出しや債券投資の巻き戻しが起きている。
欧州危機が米欧の金融機関を与信回収に走らせ、新興国のドル不足を巻き起こす。
今回の欧州危機が世界的な信用収縮の引き金を引きつつあることに、目を凝らすべきだ。
□ソース:日経新聞 2011/9/29 7:00
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