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結婚式をあげて深夜に戻つてきた、そしてテレビ装置をなにげなく気にとめた、
スウィッチをいれる、画像があらわれる。
そして三十分後、ぼくは新婦をほうっておいて、感動のあまりに涙を流していた。
それは東山千栄子氏の主演する北鮮送還のものがたりだった、
ある日ふいに老いた美しい朝鮮の婦人が白い朝鮮服にみをかためてしまう、
そして息子の家族に自分だけ朝鮮にかえることを申し出る……。
このときぼくは、ああ、なんと酷い話だ、と思ったり、
自分には帰るべき朝鮮がない、なぜなら日本人だから、というような
とりとめないことを考えるうちに感情の平衡をうしなったのであった。
(「わがテレビ体験」大江健三郎、『群像』昭和36年3月号)