10/12/18 11:32:41
[新防衛計画大綱]軍拡競争を煽らないで
政府は今後10年間の防衛力整備の指針となる新たな「防衛計画の大綱」を閣議決定した。
大国化する中国、北朝鮮を念頭に「動的防衛力」という新しい概念を掲げ、国境を接する南西
諸島の防衛強化を打ち出したのが特徴である。
動的防衛力とは何か。テロや離島侵攻を想定し機動力や即応性を重視して部隊を運用する
考え方である。1976年の初の大綱以来、過去3回までは、脅威に必要最小限の自衛力を
均衡して保有する「基盤的防衛力構想」を踏襲していた。専守防衛から戦う自衛隊への政策
の転換である。
大綱では、またも沖縄に負担が押し付けられそうである。防衛省は北海道から南西諸島方面
に最大2000人を移し、最西端の与那国島には約100人の陸自「沿岸監視部隊」を配備する
計画である。
いったい何のために。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件が念頭にあるのなら、海上保安庁の
警備を強化すればいいのではないか。軍事的な緊張感を煽(あお)るだけではないのか。なし
崩し的転換は危うい。陸自第一混成団はすでに第15旅団に格上げされている。海自は潜水
艦を16隻から22隻に、空自は那覇基地の戦闘機を約20機から約30機に増強する。
沖縄本島の面積の約20%は米軍基地が占めているというのに、今度は離島に自衛隊部隊
が配置される。沖縄中が米軍と自衛隊の軍事の島になる。政府がお題目のように唱える負担
軽減はどこにいってしまったのか。
戦後日本の「平和国家」の国是の一つともいえる「武器輸出三原則」緩和の明記は社民党の
反対で見送られたが、将来的に輸出解禁に道を開く表現を潜り込ませている。
軍事組織は、軍産複合体と絡み合いながら自らの生き残りを図る属性を持つ。脅威をつくり
出し、煽り、自らの存在意義を高めるというのが常套(じょうとう)手段である。
自国の安全を高めるためといって軍備増強を図る。同じように相手も軍備増強で応じる。互い
の不信感の中で、終わりのない軍拡競争の連鎖に巻き込まれる。安全のためだったはずが、
逆に軍事的緊張感を高める結果となる。安全保障のジレンマである。
ほんの1年ちょっと前まで「この地域の安全保障上のリスクを減らし、経済的なダイナミズムを
共有しあう」(鳩山由紀夫前首相の国連総会演説)といっていた民主党の東アジア共同体構想
とも矛盾するのではないか。
中国にもくぎを刺しておきたい。「ポスト胡錦濤」の最高指導者に内定している習近平国家副
主席は「中国は決して覇権を求めない」と表明している。だが、領土や海洋権益の拡大を狙っ
ていると疑わせる動きが活発で、近隣諸国の「中国脅威論」を生んでいるのも事実である。
空母建造を進めているとも報道されており、この地域の不安定を高める大きな要因になって
いることを忘れないでもらいたい。
大綱は、中国や北朝鮮をこの地域の不安定要因として挙げているが、日本が周辺諸国の緊
張を高める国として警戒されることを懸念する。
▽ソース: 沖縄タイムス(2010年12月18日 08時55分)
URLリンク(www.okinawatimes.co.jp)