10/11/16 07:10:27
発信箱:国を超える力=福岡賢正(西部報道部)
日韓併合に伴う一体化政策で朝鮮半島出身の男性と結婚した日本人女性の多くが、戦後、
夫に連れ添って海峡を越えた。待っていたのは、植民地支配への恨みを一身に浴びせられるようないじめ。
その苦悩に耐えて生きた在韓日本人妻たちとその相互扶助組織「芙蓉会」のことをつづった
「韓国の桜」(梓書院)という本が出た。
著者の後藤文利さん(72)は元テレビマン。28年前に彼女たちをドキュメンタリーで取り上げて以来、
ずっと支援を続けてきた。それゆえ福岡で先月あった出版祝いには、芙蓉会の国田房子会長(95)と
遠藤ノブ副会長(86)も釜山から駆けつけた。
大半の会員が夫やその家族から虐げられてきた中で、国田さんは夫、遠藤さんは義母から愛され、
大切にされた。特に12年前に病没した国田さんの夫、朴起龍さんは、会員のために奔走する妻を
全力で支えた。反日デモが「日本人を追い出せ」と自宅に迫った時も、彼はその前に立ちはだかって
一歩も引かず、妻を守り抜いたという。
「ほれ直したでしょ」と問うと、国田さんは照れ隠しに大笑いしながら言った。
「韓国の男が日本から連れてきた女性に苦労させてるのが、気の毒でたまらんからって、
主人は会員みんなにこれ食べなさい、これ持っていきなさいってね。あんまり優し過ぎて、私嫌いだった。
あはははは」
四国で生まれた釜山の貧しい韓国人女性(85)が、芙蓉会の例会に顔を出し始めて20年になる。
会員たちはそれをいつも温かく迎えてきた。国田さんと後藤さんは一昨年、
「死ぬ前に一度生まれ故郷に」と願うその女性の手を引いて四国を回っている。
国や民族を超え、人を人として尊重できる人がいる。その優しさに支えられた人がまた、
苦しむ人に手を差し伸べる。対立はそうやって融和に変わる。
毎日新聞 2010年11月16日 0時14分
URLリンク(mainichi.jp)