10/11/10 08:09:17
米国主導で貿易自由化を進める環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加をめぐる論議が高まり、菅政権は
農業改革に重い腰を上げたようにみえる。農業問題は政治的に焦点が当たりやすいが、日本が克服すべき課題は
それだけではない。
政府は外国人労働者の受け入れ問題や、貿易の妨げとなる可能性がある国内規制の改革でも、国家戦略づくり
を急がなくてはならない。菅直人首相は「平成の開国」を目指すと言明した。その決意を忘れず、首相自身が先頭に
立って、改革の実行に指導力を発揮すべきだ。
政府が9日に閣議決定した包括的経済連携に関する基本方針は、必要な国内対策として、農業以外に
「人の移動」と「規制制度改革」を挙げた。看護師や介護士の受け入れ、製品の基準認証制度の見直しなどは、
2国間の自由貿易協定(FTA)交渉で相手国から要望が強い分野だ。
これまで日本は、各国との交渉を小手先の対応で切り抜けてきた。インドネシアとフィリピンとの協定では、看護師と
介護士の受け入れ人数に枠を設けたが、資格や雇用制度には手をつけなかった。外国人にとり日本語による国家試験
の壁は高く、看護師試験の合格者は3人、合格率は1%にとどまっている。
このほかインドは医師、歯科医、会計士、建築士など専門性が高い人材の受け入れを要望している。韓国は
今後の交渉で、自動車整備士、放送通信技師などの国家資格の相互認証を目指す構えだとされる。
規制改革では、欧州連合(EU)が自動車の安全技術や木材などの認証基準の緩和を要求。米国からは、
郵政改革の見直しや米国産牛肉の輸入条件の緩和を求める声が上がっている。TPP交渉への参加条件として、
米国がこうした個別の要求を出してくる可能性も指摘されている。
いずれも国内雇用などに影響する半面、日本社会に貢献する人材の受け入れや規制改革は国内の競争を促して
生産性を高め、長期的に日本の経済基盤を強くする。交渉のたびに少しずつ譲歩するパッチワーク的な対応はもう限界
と考えるべきだ。
経済連携の基本方針は、国家戦略担当相の下で人の移動について検討し、来年6月までに基本的な方針をつくる
と定めた。規制改革については、行政刷新会議の下で来年3月までに具体的方針を決定する。
これまでのように、貿易交渉の妥結を優先する発想で、これらの方針を検討し、問題を先送りにしてはならない。
未来の日本の国の姿を描く覚悟で議論を深めるべきだ。
ソース(日本経済新聞)
URLリンク(www.nikkei.com)