10/09/24 07:20:47
第三国定住―難民が暮らしたい国に
ミャンマー(ビルマ)から国境を越えタイの難民キャンプで暮らしてきたカレン族の5家族27人が28日、来日する。
「人生をやり直したい」と。
日本政府が初めて試みる難民の「第三国定住」第1陣だ。紛争や迫害のため自国から周辺国に逃れ出た人々に、
定住先として移り住んでもらう。3年間で90人まで増やす計画だ。
世界には1500万人もの難民がいる。平和を享受する国が彼らを保護することは、人道的な責務だ。
だが日本に自力できて難民と認定される人は、年間数十人にとどまってきた。
今回の受け入れは「難民鎖国」に風穴を開けることになるだろうか。
5組の家族は最初の6カ月、東京都内のアパートを提供され、研修センターに通って日本語や習慣を学び、
職業紹介も受けられるという。
だが日本に初めて住む一家には、半年程度の研修では不十分だろう。言葉がおぼつかないと就ける仕事は限られる。
在日ミャンマー人社会の助けがあるとしても、自立の道は険しい。
年数百人単位で第三国定住を受け入れる欧州諸国は、自治体が積極的にかかわり、地域での定住を支援する。
年数万人と規模の大きい米国では研修は1カ月だが、資金力のあるNGOが難民コミュニティーを支える。
日本でも自治体やNGO、企業、教育機関が連携し、難民の暮らしを息長く見守り、一人ひとりの能力を開花させる
「人づくり」の視点での支援態勢を築くべきだ。それが整わないままでは、27人の希望は、すぐに失望に変わるだろう。
政府はアフガニスタン難民など海外での難民支援には年100億円以上を拠出する。
その数%分でも、国内の難民支援に振り向けてはどうか。
そもそも、日本へやってきて庇護(ひご)を求める人たちに対しても、政府は冷たい。
難民認定に時間がかかり、その間の生活支援が乏しい。近年は収容施設に入れられる例が増え、
認定申請者の間で動揺も広がっている。
苦労ばかりで、幸せをつかめる確証がない日本は、難民キャンプでは人気のある行き先ではない。
一方で、毎週数百人ものミャンマー難民が成田空港を乗り継ぎで通過し、北米の定住先に向かう。
難民の「ジャパン・パッシング」は、アジアの先進国としてあまりに不名誉ではないか。
民主党政権の中に、難民受け入れに取り組む司令塔が必要だ。関係省庁は責任を押しつけ合っている。
現状では体面上、第三国定住の実績をつくりたかっただけに見える。
少子化が進む日本は、外からどんな人たちを受け入れ、彼らが暮らしやすい環境をどう整えるか。
問題はつまるところ、開かれた社会をめざす国家戦略の不在に、つきあたるのだ。
朝日新聞 2010年9月24日(金)付
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