10/07/29 19:04:51
移民研究の分野には、「移民に対して偏見や悪感情が高揚するのはどういう場合か」という問題設定があります。
ある国では移民が歓待されているのに対して、別の国では犯罪者同様に忌み嫌われている。その差はどこにある
のか、ということですね。
いろいろな仮説が提唱され、様々な国で検証が行われていますが、多くの国の調査で統計的に有意な説明力を
安定して示す仮説がいくつかあります。その一つは、「移民はこの国の役に立つ」と信じている人ほど移民に悪感情
を持たない、というもの。逆にいえば、「移民はこの国の厄介者だ」と信じている人ほど移民の排斥に賛成する、
という仮説です。
リベラルなスタンスからは、「人のことをまるでモノのように《役に立つ》などと、いったい何さまなのだ」という倫理的
反発を覚える方もいらっしゃるでしょう。しかし、例えば、こちら(不景気だからこその移民政策のススメ - My Life
After MIT Sloan)のコメント欄をお読みいただくだけで、この仮説がどのような人々を説明しようとしているのか、
お分かりいただけると思います。
この仮説については、後日いくつかの文献を詳しく紹介する予定ですが、直接的には今回のテーマではありません。
今回とりあげるのは朝鮮学校です。
朝鮮学校といえば、チョゴリ切り裂き事件に象徴されるように、時として憎悪の対象となってきました。暴力を振る
わないまでも、「独裁者崇拝を教える異常な学校」という認識を持つ人は少なくないようです。そうやって、朝鮮学校
を「この国の厄介者だ」と思っている人々が少なからずいるかぎり、朝鮮学校が偏見や憎悪の対象から外れること
は期待しにくいでしょう。しかし、今後とも在日コリアンが日本に定住していく以上、それは誰にとっても不幸なこと
だといえます。
つまり、今回のテーマは、朝鮮学校が《日本の役に立っている》理由を整理してみよう、ということです。題して、
「朝鮮学校が日本に存在する5つのメリット」。読者の皆さんは、この思考実験を経ることで、無償化排除問題など
について意見がよりポジティブな方向に変わるかどうかをそれぞれ自己検証してみてください。
なお、この記事ではあえてマジョリティ視線に立って、パーソンズのAGIL図式を手掛かりに話を進めていきます。
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まずは「適応(Adaptation)」から。これは、システムの外部に働きかけて必要な資源を調達するサブシステムのこと
で、国家レベルでいえば経済にあたります。日本経済に朝鮮学校が寄与していることは何か?
【メリットその1 韓国・朝鮮語話者の大量供給】
朝鮮学校は韓国・朝鮮語話者を継続的に輩出しています。2000年からの韓流を支えたドラマや雑誌の翻訳は、そのほとんどが朝鮮学校出身者の手によるものです。韓流による経済効果は、朝鮮学校が支えたといっても過言ではありません。
【メリットその2 誕生圏経済のリクルート源】
これは朝鮮学校というより在日コリアン全体にいえることですが、1980年代に入るまでは非常に厳しい就職差別
があったため、学歴にかかわらず一般企業に勤めることは非常に困難でした。その結果、在日コリアンは自ら起業
するケースが多かった。
統計の取り方(「自営」の定義)によりますが、なんと在日コリアン男性の5割から6割が自営業主です。この比率
は日本人男性の2倍以上。いかに自営業に追い込まれてきたかわかりますね。
しかし、裏を返せば、自営業のノウハウと知識と人脈を持ち、ベンチャー起業のリスクを果敢にとりにいける人材を、
朝鮮学校は大量供給しているともいえます。国家の庇護に頼らない自由で不羈の企業人を朝鮮学校は輩出して
きたというわけです。
日本にもグローバリズムが浸透しつつある中で、在日コリアンは貴重な生存戦略のモデルを提供してくれるかもしれ
ませんよ。
>>2-5あたりへ続く
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