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産経抄 11月28日
悪漢に捕まった仲間の悲鳴が聞こえる。どんなひどい拷問にかけられ
ているのかと思いきや、悪漢は、仲間の目の前で黒板を爪でひっかい
ていた。「キィー」。手足を縛られているので、不快な音に耳をふさぐこ
とができない。昔見た、コメディー映画の一シーンだ。
▼苦痛といえば電車のなかで、携帯音楽プレーヤーのヘッドホンやイ
ヤホンから漏れる、シャカシャカという音にも閉口する。全国72の鉄
道会社が加盟する日本民営鉄道協会が、毎年発表している、迷惑行
為に関するアンケートを見ると、同じ悩みを訴える人が少なくないようだ。
▼ここ数年、「騒々しい会話」や「携帯電話の着信音と通話」などととも
に、常にランキングの上位を占めている。携帯音楽プレーヤーの急速
な普及に、マナーが追いついていないのだろう。ただ最近、気になる記
事を見つけた。
▼携帯音楽プレーヤーを大音量で長時間聞き続けると、聴覚に異常を
きたす恐れがあるという。専門家によれば、耳の奥にある音を認識す
る細胞が損なわれると、再生することはない。「ヘッドホン難聴」と呼ば
れているそうだ。
▼事実なら大問題だ。知らないうちに、聴覚の異常を補おうとして音量
をさらに上げ、周囲の乗客にますます迷惑をかける。こんな悪循環は、
想像したくもない。心当たりのある人は、自分の健康のために、即刻
音量を落とすか、新聞か本を読もう。
▼かつて、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、「一匹の蟋蟀(こおろぎ)
の鳴き声を聞いただけで、心の中にありったけの優しく繊細な空想を
あふれさせることができる」日本人を称(たた)えた(『虫の音楽家』ち
くま文庫)。そんな耳の文化が、失われつつあるのかもしれない。