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【産経抄】9月20日
小さな通信販売会社に、海老名という中年男が入社した。言葉遣いにうるさい
海老名は、とりわけ「ら抜き言葉」に我慢がならない。敬語を正しく使えず、
ことわざも誤って覚えている若い社員たちは、海老名に反発して、大騒動になる。
▼劇作家の永井愛さんが、平成9年に発表した『ら抜きの殺意』は、こんな設定だ。
10年以上たって、ら抜き言葉はますます定着している。日曜日にも少し触れた
文化庁の調査によれば、「来れる」「出れる」を使う人が、それぞれ43・2%、
44・0%に達したという。
▼ら抜き言葉は、原稿では使わないようにしている。といっても、偉そうなことは
言えない。告白すれば、「雨模様」を「小雨が降ったりやんだりしている様子」だと、
思いこんでいた。
▼調査結果のなかで興味をひかれたのが、男女の言葉遣いに違いがなくなっている
風潮についての考えだ。「やむを得ない」と「ない方がいい」を合わせると、60%
近くになる。
▼そういえば、小津安二郎監督の映画のなかで、女優たちが使っていた美しい
「女言葉」を、耳にすることがなくなって久しい。今の若者が聞いたら感想は、
「すごっ」だろうか。若い女性に使ってみたらと勧めても、「うるさっ」と
煙たがられるのがおちだろう。
▼『ら抜きの殺意』で、社長夫人が、言葉に男女の別があるのは文明国のなかで
日本だけ、と講釈する場面がある。たとえば映画『カサブランカ』の字幕では、
ボガートの「愛してるぜ」のセリフに、バーグマンが「ええ、私もよ」と応じた
ように訳されているが、実は「ああ、俺もだぜ」と言っているのだと。そんな字幕や
吹き替えが、現れる日も近いのかもしれない。