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【産経抄】9月29日
昭和63(1988)年に芸能界入りした香川照之さんの初仕事は、クイズ番組の出演
だった。東大文学部卒という学歴がものをいったとみえる。昨今のクイズ番組やバラエテ
ィー番組でも、高学歴のタレントは引っ張りだこだ。
▼もっともそこに、姿を見ることはない。45歳の男盛りを迎えている香川さんは、映
画、テレビの数々の話題作で難役をこなし、今や日本を代表する俳優の一人である。その
香川さんが来年、歌舞伎の名跡(みょうせき)のひとつ、市川中車(ちゅうしゃ)を襲名
し、長男(7)とともに初舞台を踏むとは。おとといの記者会見には、本当に驚いた。
▼三代目市川猿之助(えんのすけ)さんと女優の浜木綿子(はま・ゆうこ)さんとの間
に生まれた香川さんは、両親の離婚により浜さんに引き取られ、歌舞伎とは無縁の生活を
送った。ところが、長く脳梗塞を患っている猿之助さんと、今春から同居しているという。
▼「長男が誕生し、この船に乗らなくてはいけないと思った」。香川さんは会見で、決
意の理由をこのように語った。生物学から見れば、人間の体は遺伝子を未来に運ぶ船にす
ぎないそうだ。香川さんが船で運ぼうとしているのは、一体何だろう。
▼美術史学者の高階秀爾(たかしな・しゅうじ)さんによれば、歌舞伎の名跡を継ぐこ
とは、「長い歴史に支えられた役割を新たに受け入れること」を意味する。「役者の名前
はその個性とつねに一体である」西欧の演劇との大きな違いだ(『本の遠近法』新書館)。
▼香川さんは今後、四代目市川猿之助を襲名する、いとこの市川亀治郎(かめじろう)
さんから、「役割」の重さを学ぶことになる。同時に映像の仕事では、香川照之の名前と
一体となった、個性と芸を磨き上げるという。ますます目の離せない役者になりそうだ。