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産経抄 6月20日
「餅はサイコーのご馳走だった」。『仮面ライダー』など数多くの人気漫画
を世に送った石ノ森章太郎が、『日本の食生活全集 宮城』(農山漁村文
化協会)の月報に書いていた。
▼子供時代は麦ご飯やカボチャ雑炊が常食だったから、祝い事や来客
が待ち遠しかった。その日は、アンコ餅から始まり、豆餅やキナコ餅、草
餅と続きお雑煮で締める、餅のフルコースが振る舞われる。といっても、
食材の乏しい土地柄というわけではない。
▼先週の文化欄の記事によれば、東日本大震災で大きな被害を受けた
石巻市では、観光の目玉だった「石ノ森萬画館」も臨時休館に追い込ま
れた。石ノ森の故郷石森(いしのもり)町(現登米市)は、その石巻市か
ら車で約1時間内陸部に入ったところにある。
▼ペンネームの由来であり、さらにデビュー30周年を機に、「石森」から
読み方に忠実な「石ノ森」に変えたエピソードは有名だ。ササニシキの産
地で、気仙沼など大きな漁港からも近い。本来は山海の珍味に恵まれて
いるはずだった。
▼石ノ森によれば、少年時代を送った戦後の混乱期、「米は国家の統制
によって全部供出、野菜、魚貝類は財政維持のために県外へ“輸出”」を
余儀なくされたからだという。食べ物だけではない。エネルギー、人材…、
何と多くのものを、東北地方に頼ってきたことか。
▼三陸海岸は、今カツオのシーズンを迎えようとしている。地震と津波に
よって壊滅的な打撃を受けた各地の漁港には、民間企業が製氷や冷蔵
施設などを無償提供するプロジェクトも始まっている。豊漁に沸く光景は、
何より復興への原動力となる。県外への“輸出”だけでなく、地元の被災
者に、「海の恵み」を存分に味わってほしい。