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産経抄 6月18日
もしドラッカーが生きていたら、さぞ喜んだことだろう。弱小野球部の女
子マネジャーが、彼の著書「マネジメント」を参考にして甲子園出場を
勝ち取った、という小説が大ヒットし、アニメや映画にまでなったのだ
から。
▼現代経営学の父と呼ばれたドラッカーを一見、何の関わりもない女
子高生と野球に結びつけた原作者の目の付けどころに感心するが、
野球とドラッカーは意外とよくあう。メジャーリーグでも活躍した元オリ
ックスの長谷川滋利氏も愛読者だし、「マネジメント」を体現したような
人物もいる。
▼うまくいっている組織には、人付き合いが悪く気難しいわがままな
ボスが必ずいる、とドラッカーは書いている。一流の仕事を部下に要
求し、自らにも要求する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを
考えないボスこそがマネジャーとしてふさわしい、と。
▼この条件に当てはまるのが、中日の落合博満監督だ。昔から変わ
り者で、監督就任後は番記者とろくに口もきかない。人気も今ひとつ
だが、在任7年で4度も日本シリーズに駒を進めた。セーブのプロ野
球新記録をつくった岩瀬仁紀投手へのコメントもふるっている。
▼「どれだけ投げても大ブーイングされたことを糧にしてきた。みんな
を見返してやりたいってことなんだと思う」。部下の心情に仮託した
「オレ流」の心の叫びを聞いた気がする。
▼首相官邸にも気難しくわがままなボスがいる。国民の大ブーイング
を糧に見返してやろうという意欲満々である。ただし、落合監督にあ
って彼にないものがある。ドラッカーが、不可欠な資質としてあげた
「真摯(しんし)さ」である。「ペテン師」はマネジャーにも首相にもなっ
てはいけない。