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5月23日
昭和30年代、子供たちの作文や日記をもとにした映画が何本か作られヒットした。
貧乏でも、鉄くず拾いなどをしながら健気(けなげ)に生き、病気で死んだ「ふうちゃん」を
中心に描いた『つづり方兄妹』もその一つだ。同世代で似たような境遇の小学生たちの涙を誘った。
▼その中で、芸術的にも高い評価を得たのが昭和34年、今村昌平監督の『にあんちゃん』だった。
佐賀県の炭鉱町に住む10歳の少女の日記の映画化である。両親を亡くした4人の兄妹が、
不況で炭鉱が閉山される中、やはり健気に生きていく。20年代から30年代の空気を伝える作品だった。
▼この映画で4人兄妹の長男、喜一役を演じ、ブルーリボン主演男優賞を得たのが一昨日亡くなった
長門裕之さんである。当時まだ20代で、最年少の主演男優賞だったという。これを機に、
長門さんは「演技派」俳優として道をたどっていくことになる。
▼映画の中の喜一は栄養失調になった妹や弟のために、長崎に出稼ぎに行ったり
パチンコ店などで働いたりする。ちょっとひょうきんなところもあるが、文字通り泥臭い青年だった。
だが演じる長門さんの方は、喜一たちとは対極的境遇にあった。
▼何しろ祖父は日本映画の草分け的存在だった牧野省三で、叔父は天才的映画監督といわれたマキノ雅弘、
父親は俳優、沢村国太郎である。典型的な芸能一家に育った。本性的には明るくて垢(あか)抜けした
キャラクターの持ち主だったに違いない。
▼だが『にあんちゃん』では、そのキャラが時代の重苦しさを中和し救っていた気がする。
演技派たる所以(ゆえん)だ。大震災以来沈んだような日本の社会に必要なのも、
長門さんみたいな明るい演技力を持った指導者かもしれない。