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産経抄 3月21日
明治の終わりごろ、透視の超能力をもつと称する人物が全国に続々と現れ、
大騒ぎになった。いわゆる「千里眼事件」だ。その背景には、1888年の電
磁波、95年のX線、96年の放射能、98年のラジウムなど、目に見えぬ光
線の相次ぐ発見があった。
▼千里眼にも新しい発見を期待して、高名な学者も真偽をめぐる論争に参
加した。当時と比べて、メディアが著しく発達した現代社会でも、「事実とう
わさの境目が曖昧(あいまい)」だと、評論家の松山巖さんは指摘する(『う
わさの遠近法』青土社)。
▼今、境目が曖昧な最たる例は、放射能をめぐる事実とうわさである。東
日本大震災で被災した福島第1原発の復旧に、ようやく道筋が見え始めた。
現場では東京電力の関係者や自衛隊員、警察官、消防士らによる、被曝
(ひばく)覚悟の作業が続いてきた。
▼一方、首都圏の住民には、今のところ放射能の心配をする必要はない
はずだ。それなのに関西方面に向かう東海道新幹線は、家族連れによる
「疎開列車」の様相を呈している。あろうことか、福島県からの避難住民の
宿泊を拒否する施設まで出始めた。
▼そんな中、福島産の牛乳や茨城産のホウレンソウから、規制値を超える
放射性物質が検出された、との政府発表があった。といっても専門家によ
れば、1年間とり続けても、ほとんど健康に影響のない値にすぎない。消費
者の過剰な反応は、被災した農家をさらに風評被害という苦境に追い込む
結果となる。
▼恐怖を必要以上にあおるような一部の報道や、ネット上のデマと事実を
峻別(しゅんべつ)する目を国民全体で共有したい。そのためには、「東日
本がつぶれる」といった首相の不用意な発言が漏れるようなことがあって
はならない。