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産経抄 10月14日
700メートル近くの地下深くから、カプセルが引き上げられる。作業員が元気な姿を現
すたびに大きな歓声が上がった。チリ北部のサンホセ鉱山を舞台にした69日ぶりの
救出劇は、チリのみならず、世界中が注視している。
▼33人の生存が確認されて以来、さまざまな人々が、作業員や家族を励ましてきた。
そのなかには、1972年、南米アンデス山中で起きた航空機墜落事故から、生還した
ウルグアイ人のグループも含まれている。
▼チリに向かっていた、大学のラグビー選手ら45人を乗せた飛行機が山に激突、機
体は真っ二つになり、32人が生き残った。その後、飢えや寒さ、雪崩によって仲間が
次々に力尽きるなか、遭難から72日後に16人が生還する。
▼死者の肉を食べた事実を含めて、奇跡の生還劇は世界に衝撃を与えた。16人に
は取材が殺到し、過酷な体験は映画にもなった。昨年刊行された『アンデスの奇蹟』
(海津正彦訳、山と渓谷社)では、生存者の一人、ナンド・パラードさんが体験を語っ
ている。
▼パラードさんによれば、生命のほかに2つの「贈り物」があったという。「活発に意識
を高めて生きる能力と、人生の一瞬一瞬を心穏やかに、感謝の念をもって味わう能力」
だ。16人の多くは、医師や建築家、会社経営者など社会的に成功し、年に1度は、家
族とともに集合するそうだ。
▼やはり自殺者の増加が問題になっている南米諸国で、生きることをテーマに講演を
続けるメンバーもいる。今回の救出劇もまた、映画化が予定されており、作業員が同
じように取材攻勢にさらされるのは、避けられない。体験をどのように今後の人生に
生かすのか。“先輩”のアドバイスは、ますます重要になる。