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【産経抄】9月7日
たばこの似合う人と似合わない人がいる。作家の北杜夫さん(83)は、間違いなく前者だっ
た。昔の新聞のインタビュー記事を見ると、ほとんどの写真で、口にくわえるか片手にはさんで
いる。なにしろ、小学校4年生のとき従兄(いとこ)にそそのかされて吸ったゴールデンバットに
始まって、たばこにまつわるエピソードには事欠かない。
▼父の歌人、斎藤茂吉も若いころは、「尻から煙がでるほど」のヘビースモーカーだったそう
だ。もっとも肺病を患ってから禁煙し、弟子や子供たちにも禁じた。旧制高校時代の北さんは、
近所の林まで出かけて隠れて吸っていたという。
▼自身のたばこ遍歴を語った「煙草物語」によると、1日に70本も吸っていた北さんも体を壊
してからは、食後の一服さえままならなくなった。夫人とお嬢さんの嫌煙運動が急激に高まった
からだ。そういえば、最近の北さんの写真には、たばこが写っていない。
▼世の嫌煙運動に抗してきた愛煙家の多くも、来月1日からの大幅値上げには、白旗を揚
げざるを得ないようだ。4月の値上げ発表以降、禁煙治療を希望する患者が急増し、禁煙補
助商品の売れ行きも好調だという。
▼北さんがもっと若かったら、こんな風潮を笑いのめしたユーモア小説を書いたはずだ。ある
いは、「マンボウマブゼ共和国」の再興を図ったかもしれない。何度目かの躁(そう)状態だった
昭和50年代、日本から独立を宣言してつくった、国民3人の国だ。国旗やお札とともに、オリ
ジナルラベルのたばこまで用意した。
▼「北杜夫曰(いわ)く 健康の為(ため)、もっとタバコを愉(たの)しく喫(す)いましょう」と箱
に印刷してある。値段も当然抑えただろうから、今なら入国希望者が続出するだろうに。