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【産経抄】9月5日 2010.9.5 02:50
中小企業の町、東大阪市でモノづくり復権を訴え続けている青木豊彦さんから興味深い話を
聞いたことがある。伝統技術を引き継ぐ若い人が少なくなったことに関してだった。人間は
12歳から15歳ぐらいで最も手の感性が豊かになるという。
▼だから中学を出てすぐ教えてもらえば、砂が水を吸い込むように習得できた。「ところが今は、
その時期にみんな勉強ばかりして大学にいくのですから…」。自ら世界に誇る技術を持つ
航空機部品メーカーを経営する青木さんの嘆きは尽きなかった。
▼モノづくりだけではない。能、狂言、歌舞伎などの芸能や囲碁、将棋、それに相撲に
至るまで日本の伝統技能の世界は、なるべく小さいときから修業した方がいいとされてきた。
一般教養はその中で自然に身につくから大学の卒業証書など、むしろ邪魔物扱いだった。
▼ところがその中の囲碁、将棋に相次いで大学卒と現役大学生のタイトル獲得者が出た。
囲碁の坂井秀至(ひでゆき)新碁聖(37)と将棋の広瀬章人(あきひと)新王位(23)である。
広瀬さんはプロ入りと同時に早大に入ったが、坂井さんは京大医学部を卒業した医者の
資格を持つ棋士だ。
▼子供時代は、全国の少年少女名人戦で小学6年から中学3年まで4連覇するなど
「強豪」で知られた。いったんは医師を志したが、28歳で「血がわき立つような勝負がしたい」と
プロ入りした。そしてやや遅咲きながら、10年目にして頂点に立った。
▼医学部はおろか大学卒業者で七大タイトル(名人、十段、碁聖など)を獲得したのは
初めてという。坂井さんの類(たぐ)いまれな才能と努力による特異な例と思いたい。
伝統の世界が「大学卒でも」通用するように変質したとは考えたくないからである。