10/08/19 08:19:37 bgEyFEte0
「ほめ殺し」という言葉がある。ほめることで、かえって相手をだめにしてしまう。「広辞苑」には、
「贔屓(ひいき)が役者を誉(ほ)め殺しにする」との用例が載っている。
▼ここ数日新聞で、「円高」の見出しを目にするたびに、この言葉を思い浮かべる。円高とは、ド
ルやユーロといった他の主要通貨に比べて円が評価される、つまりほめられていることになる。
本来なら喜ぶべきかもしれないが、輸出企業には大打撃だ。
▼たとえばトヨタ自動車の場合、対ドルで1円の円高に振れると、年間で300億円の減益にな
るという。輸入品が安くなるといっても、もともとデフレで物価が下がっているから、消費意欲を刺
激する効果も小さい。ほめられているうちに、日本経済はどんどんだめになっていく。
▼そもそも、巨額の財政赤字にあえぐ日本の円が、なぜ買われるのか。経済の専門家の説明
を聞いても、よくわからない。政府の対応も不可解だ。菅直人首相は日銀総裁と来週に会談する
方向で調整に入ったという。ずいぶんのんびりした話ではないか。
▼ほめ殺しは昔からある言葉だが、マスコミでよく使われるようになったのは、平成4年からだ。
竹下登元首相に対して右翼が、「お金もうけの上手な竹下さん」などと攻撃した手口を、「サンデー
毎日」が名付けた。その年の日本新語・流行語大賞の新語部門金賞にも選ばれている。
▼この場合、ほめているようで、実は相手を非難するという意味になる。今回の円高を招いた市
場の「ほめ殺し」は、2番目の方かもしれない。つまり、市場は円を評価しているようで、実は円高に
なすすべを持たない政府の無能を見越している。とすれば、事態はますます深刻だ。