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『とある魔術の禁書目録』 鎌地和馬
私はこの本にあまりにもすばらしい叙述トリックがあることを知っている
その感動を伝えるためには多分のネタバレを含むため出来うるならば小説を読んだ後にこの書き込みを見ていただきたい
まず私は開幕の10ページも読まぬうちに困惑の海に落とされていた
そこには「レールガンとリニアモーターカーの原理が同じ」「雷は光速で落ちる」「音速の3倍で打ち出されたコインは50メートルも飛ばずに蒸発する」など私が知る物理法則の数々と明らかに異なる現実があったのだ
私は戸惑いとともに読み進めついに「完全記憶能力を持つ人間は一年で脳の容量を15%も使い、あっさりと死んでしまう」という記述によってようやく作者の意図が理解できた
すなわちこの「とある魔術の禁書目録」の世界では現実とは何もかもが違います。ご了承を、という作者からのメッセージであったのだ
私は俄然やる気を出して読み勧めた。作者がどのような解決策をもって現実ではありえないこの問題という壁を越え、あるいは打ち破るのか。そこに全ての期待をかけた
そして物語は佳境へ。その時、思いもよらぬ方法で作者はこの問題に解決策を示したのだ!
それは「実は脳の記憶はきちんと現実にしたがっており、完全記憶能力を持っていても問題はない。実は魔術のせいであった」という結論であった
これには見事一本取られたと言わざるを得ない。あそこまで現実とは違う、と言うことを主張する伏線は全て無駄であったなど誰が予想できようか
よもや一年かけて思い出を作り、それでも諦めまいとしていた魔術師が最も肝心な脳の仕組みを一切調べず、脳の開発などと言う安全と言われても不安が残る実験に参加している上条がその脳にまったく関心を示していなかったとは!
見事に私はこの叙述トリックに嵌ってしまった。そしてそのトリックを理解してしまった以上、最初に読んだときの思いは二度と戻ってこないことを寂しく思う。私はこの本を二度と開くことはないだろう