11/07/18 00:19:31.46
どろぼう保安隊
「さあ、さっぱりわからんなあ。とにかく、がんばって歩こう。日本へ帰るんだ」
靖子も道子も信子も、三人にとって日本は、まだ行ったことのない母なる国である。どんな土地だろうか。
早く行ってみたい。そんな想(おも)いを抱いて、歩く歩く、ただ南を目ざして歩くのだ。
その行く手をはばむのが、保安隊(警察)である。
それがニセモノで、検査と称して、めぼしい金品を、とりあげた。
「道子、お金、とられないように、ちゃあんと、隠しておくんだよ。こうして……」
靖子姉さんが、お金の隠し場所を教えてくれた。
「えーと、ここと、ここ……」
道子は、モンペの腰にわざとツギをあてて、そこに金をぬいこんでおいた。
ニセ保安隊は、テントへ一家族ずついれて、取り調べをする。
「ニホンジン ダイジナモノ クニカラ モチダシタラ イケナイ。モッテイルモノ ゼンブダセ。カクシタラ
カエサナイ」
たどたどしい日本語で、こう言う。
保安隊と名のって、泥棒をはたらいているわけである。
道子の番になった。頬(ほお)にヒゲをはやした、見るからに人相の悪い男が、彼女をにらみつけながら、
「カネ カクシテ モッテイルダロ ハヤクダスノダ」
と言う。道子は、
「い、いえ、もってません」
と、いったが、ウソをついているものだから、顔から血の気がサーッとひいて、おまけにヒザがブルブル
ふるえた。
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