11/02/21 15:05:05.67 1dwuqh8X
丹根 一夫
医歯薬学総合研究科 展開医科学専攻 顎口腔頚部医科学講座 歯科矯正学 教授
口腔あるいは歯の機能については皆様よくご存知と思います。医食同源のごとく、楽しく味わいながら食することが健康長寿を達成する最良の秘訣と言えます。
また、中枢で最も重要な大脳における口腔関連領域は極めて広く、口腔を起点とする刺激が中枢の機能を保持する上で不可欠と思われます。
本稿では、食に関係する咀嚼とその根本にある歯の役割に着目した一連の研究を紹介いたします。
アルツハイマー病は、中枢神経系におけるアミロイドベータ(Aβ)蛋白の沈着とこれによる神経細胞の喪失により発症します。
この異常蛋白はミクログリアなどの生理活性物質の貪食機能あるいは分解機能により排除されることも知られており、本実験に供した大理石骨病(op/op)マウスでもミクログリア数の減少が確認されています。
正常マウスと先天的に歯が萌出しないop/opマウスについて、中枢神経系の大脳皮質、海馬、視床などにおけるAβ蛋白の沈着と海馬周辺の錐体細胞数などの神経病理学的変化を調べました。
その結果、op/opマウスでは、特に大脳皮質においてAβ蛋白の沈着による老人斑が多数検出されたのに対して、正常マウスでは全く認められませんでした。
また、記憶・学習機能を司る海馬周辺の錐体細胞数が、op/opマウスでは有意に少ないことが明らかとなりました。
同様の結果は異なる硬さの餌を与えた正常マウスでも確認され、固形餌群と比べ粉末餌群ではop/opマウスの所見がより顕著に認められました。
さらに、360日齢の正常マウスを使ったモーリス水迷路実験の結果、ゴール到達時間が粉末餌群で長くなり、実験2、3日目では有意の差が明らかとなりました。
これらの結果は、常に食物をよく噛んでいる動物と比べて、先天的に歯の生えないop/opマウスや恒常的に軟性食を摂取してきたマウスでは
咀嚼による中枢への刺激が恒常的に減少し、中枢神経系の各部位におけるAβ蛋白の沈着や、記憶・学習機能を制御する海馬神経細胞数の減少が惹起されることを実証する世界初の発見と言えます。