11/10/04 05:37:50.21 vJizOZas
†尋問男の就業日課†
オフィスには、いつも柑橘類の香りがほのかに充ちていて、秋が深まり肌寒くなった室内に今も僅かな夏の気配を漂わせている。
とかく、就業時間の午後6時過ぎともなると各社員のデスクは相応に乱れており、乱雑に置かれたファイルやら資料もそのままに各自足早に帰宅してゆく。
ところが、オフィスの入り口から一番奥の窓側にある彼のデスクは、小綺麗というよりも、むしろ殺風景という言い方が似つかわしいほど、こじんまりと整頓されていた。
彼は自前のノートパソコンのウィンドウを開くと、仕事には使用する事のないファイルを開く。
そして、馴染みの掲示板サイトの名前が記された項目をクリックした。
「なぁ、帰り飲んで行かへん?部長もお前待っとるで」
帰りがけの同僚が彼に声をかけた。給料日前の金曜日は課の面子全員で繁華街に飲みに回るのが恒例となっているが、彼が出席する事は殆どない。
「悪いけど今日もパス」
「え~、またかよ。みんなお前の付き合いの悪さに辟易しとるで?たまには愛想良いとこ見せんと。ごっつハンサムだから、来ればモテるでホンマ。勿体無いわ」
「興味無いんだよ、俺」
温くなった珈琲を飲み干し、同僚に軽く手を振ると彼は再びサイトに目を向けた。
彼は、その掲示板で「尋問男」と呼ばれている。
九条氷雨と書かれた投稿者のレスを見て、彼はくすりと笑った。
「可愛い子には不自由してないからな、俺」