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ある朝の海辺でのことである。少女は、童話を創っていた。それは鉄筋とまた鉄筋から
成る童話であった。海辺には巨大なオブジェが広がっていた。私には分からぬ建築学の知
識を以て、少女は童話の足と胴体を創っていた。
私が再び少女を見た時、彼女はちょうど腹の部分を創っていた。童話が食べた物を消化
するのが、腹の部分の役割である。私は声を掛けて、訊いた。童話創りの調子はどうだい、と。
「順調よ」と、少女は答えた。
「けれど、鉄筋が足りないの。もっとたくさん持ってきてちょうだい」
仰せのままに。私はトラックで鉄筋屋に出向いて、鉄筋を何百本も買って戻ってきた。
一緒に居た芸術家のトキコさんが言った。
「あの童話は順調よ。でも、順調すぎると、大抵良くないことが起こるものよ」
私には何のことだか分からなかった。ともかく私は、少女に鉄筋を引き渡した。少女は
オブジェの最上部に立ち、童話の首を創っていた。あとは、口を創るだけだった。
鉄筋で出来た童話は、巨大な生き物のようだった。そしてそれは、何も問題がなさそう
に思えた。太陽は天頂に登り、波は寄せては返し、童話は完成しようとしていた。
「百枚を超えたわ」トキコさんが言った。
「これはもう童話では無いわ。規定をオーバーしてしまったもの」
「それは―どうにかならないんですか」私は訊ねた。
あの子が推敲を望むなら、改稿を受け入れるなら、とトキコさんは答えた。